第1章 空を飛ぶ人たち 第4話
目を閉じるとエアは、明日のことを考えた。
明日は、なんとか夕暮れ前にノルマを終わらせて、パンと牛乳を買って空を見よう。今晩は雨が降りそうだが、明日には晴れるだろう。
エアは、雨上がりの空がとくに好きだった。空気が澄んで、空の存在感が強くなるからだ。秋も深まってきたから、真昼なのにどこか寂しげな、黄色がかった光をこのガラクタの上に降らせるだろう。
…そうすると奇跡が起きるのだ。
あれは、他の人々から見ると、ただの薄暗い金属のような見た目らしい。ただし錆びないから、変色したり、まだらな模様になったりはしない。
親方「あとから誰かが投棄した金属製のものは錆びるが、ずっと昔から放置されているマテリアルってやつは、全く錆びねえ」と親方は言っていた。
そんな有用な資源であるマテリアルとゴミの区別の仕方を親方から教わっていたとき、エアは自分の特別な力に気がついてしまった。
親方「お前ら、どっちがマテリアルだかわかるか?」
首をかしげた少年たちがわからねえ、と唸っているとき、エアは迷わず指をさした。
エアは自分の不思議な力のことを、幼い頃から自覚していた。
遠くの音が聞こえる以外にも、集中すれば人よりも素早く動くことができたり、短時間の睡眠を数回しかとらなくとも疲れることなく。
小さい頃のエアは、それが自分が特別な能力だとは思わなかった。少しだけ周りの子供より目や耳がよくて、少しだけすばしっこくて、あまり寝なくても元気だ。でもそれだけだ。そんなふうに思っていた。目の前で2つの金属片を見せられるまでは。
エア「これか…?」
親方に言われて指さしたエアは顔をあげると、周りの少年たちのギョッとした顔が目に入った。
(え…どうしてわからないんだ?!)
親方はちらりとエアのほうを見ると「何でわかった?」と鋭く聞き返した。
エア「な、なんとなく」
エアは思わず嘘をついた。
エアははじめて、周りの少年たちが、そして親方も、誰一人としてエアが見ているものを見ていないと気がついた。
エアにとっては区別などするまでもなく、片方が光っていた。
それは緑がかった青い光で、周りからぽうっと浮かび上がっている。
思わず指さしたくなるような光だった。
次の日は雨だった。エアは予定通りノルマを終わらせて、空を眺めようとしたそのときだった。
曇っていた空が嘘のように晴れ渡り、エアは心を踊らせた。
(来る…!)
エアはガラクタの上をうまく飛び跳ねながら、付近で一番小高い丘の頂上を目指した。
そして、奇跡は起きた。
夕暮れの光がこの瓦礫の山に差し込む、ある時間帯だけ、資源の光が強くなり、遠くからも見えるようになった。
それはまるで、風に揺られる光の花畑のようだった。ときどき光が点滅し、自らの存在を教えていた。
エアは放心したように光に見入っていた。
(今なら1ヶ月分の仕事ができそうだ)
そう思いながらも、エアはそこから動かなかった。あまりに多い収穫は怪しまれるからだ。エアはこの能力のことは絶対に人に知られないようにしようと心にかたく誓っていた。
不思議な能力を持っていた兄が、大人になる前に連れていかれたから…。
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