第1章 空を飛ぶ人たち 第2話
エアはたいてい、一人で行動する。
だからエアの動向を気にする者はいない。
しかし今は、少し離れた場所からエアを眺めている少年たちがいた。
「いた!あいつだ」
小柄な少年は、かすれた声でそう言って指をさし、もう一人の少年を見た。もう一人は中ぐらいの背で、腕を組んで口をへの字に曲げている。
小柄な少年「さぼってやがる」
二人とも痩せっぽっちで、服や肌が汚れで黒ずんでいる。エアと同じゴミ漁りの少年だった。
小柄な少年「親方にチクろうぜ」
少女は、風の音に混じった少年たちの声に気づき、声をしたほうにちらと目を向け、虫ほどの大きさに見える少年たちを識別した。そしてエアはすぐに動き出す。軽やかに瓦礫の上を飛び、気がつけばいなくなっていた。少年たちは舌打ちする。
もう一人の少年「だな、今から行くか」
小柄な少年「今から?!俺まだノルマ終わってねえよ」
少年たちがやがて、両腕にどっさりと資源らしきものを拾ってようやくキャラバンのアジトに帰ると、エアはすでにアジトに戻っていた。エアが持ってきた品を、親方が検品している。
親方は大男だから、少年少女たちはかなり首を持ち上げて見上げなければ、目をあわせられない。 最も、誰も目など合わせたくはないのだが…。
親方「いいだろう。今日は上がれ」
エアに手渡されたのは、小さな紙が2枚。配給所で食べ物や衣服、雑貨をもらうための「引換券」だ。エアはそれを手にして、眉をひそめた。
エア「…あれ、結構いい値すると思うんだけど」
親方「口ごたえか?」
親方はエアに向かって前屈みになった。それは熊が小動物を襲っているかのように見えて、遠くから眺める少年たちは縮み上がった。
エアはそれでもめげずに、机の上に置かれた小さな盾のような物をもう一度取って回転させ、
エア「こんなのめったにない形状だし…ほら、ここ、宝石がついてる」
と言って、きらりと光るものを親方に向ける。
だが親方は聞く気すらないようだ。
親方「だから多めに渡しただろう」
エア「でもこれは」
言い終わらないうちにエアは顔を親方に殴られ、地面に吹き飛ばされていた。
親方「ふん。俺様がモノの良し悪しもわからねえと思ってやがったのか?…てめえを試したんだよ」
エアは痛そうに頬をさすって半身を起こした。
親方「わからなければ券は没収だったぞ。よかったな」
親方は座っているエアの肩をぽんと叩いた。結局、追加の引換券はもらえず、エアはその場を去るしかなかった。
キャラバンのアジトの入り口には、さきほど遠くからエアを見ていた二人の少年がいた。少年たちはエアのほうをじろじろと見ていたが、エアはまっすぐに歩いて出ていく。
親方「何してんだ坊主ども」
大声で呼ばれて少年たちは歩き出す。
いつものように戦利品を渡して、引換券を1枚もらった。
二人で1枚だ。
小柄な少年「こ、これだけ?」
親方「何だと?」
親方が恐ろしくて何かを言うのは諦めかけていた小柄な少年は、思わず口を開いた。
小柄な少年「あの、あいつ…さっきのあいつ、券を2枚もらった女、瓦礫の上で寝てました…けど」
それを聞いて、さきほどのエアが持ってきた盾を見ていた親方が、振り返った。
親方「あぁ?」
突然の親方の大声に、少年たちは萎縮してもう声がでない。
親方「これがお前らの今日のブツか?」
少年たちが出してきたものを、ジロリと見る親方。
もう一人の少年「は、はい…」
親方はそれを聞くや否や、右手でがっしりと首元をつかんだ。続いて空いた左手でもう一人の少年をつかむ。次の瞬間、二人の少年は床に吹っ飛んでいた。
親方「クソほどにもならねえ」
小柄な少年「あの…」
親方は眉をひそめる。少年たちは何とか立ち上がって尻を抑えながらあとずさりする。
小柄な少年「あの女は…」
そう言った瞬間、親方はふたたび少年たちの目の前にいて、二人は地面にたたきつけられていた。
親方「ぶつぶつ言うならあいつと同じ働きをしろ」
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