間奏(2)
「ちなみに、君は魔物と人間について、どう思う?」
話の途中、ふと問われた。聞いた話を書き留めながら答えた。
「どのようなお答えをお求めなのか、計りかねますが。何にせよ、ヘルメスは、自分の意見を持ちません。記録に偏りが含まれてはなりませんので」
「俺が問いかけたのは、君だ」
「……」
「ヘルメスというのは、君個人の名ではないだろう」
あっさりと言い当てられた。
さだめられた人の話を、必要とされるまで、書斎に保存する。その職務内容を聞いて、複数人いて然るべきだと、気づく人は気づく。故に、言い当てられたことに驚きはなかったが、その何気なさが油断ならない。
話が止まったことで、筆も止まった。カラノは口を開かない。応答するしかなかった。
「確かに、ヘルメスは私個人の名ではありません。ですが、ヘルメスを除いたところで、私という個人は存在しません。ヘルメスになった時点で、私は個人ではなくなりました」
「だが、ヘルメスになるより前の記憶は、今もあるはずだ」
妙に確信的な言葉だった。
もしかすると、カラノはもう、気づいているのかも知れない。
「……自分という個人であればなおさら、その問いにはお答えできません」
仕方なく、そう告げた。
そもそも、自分がこの場所に派遣されたこと自体に、大ヘルメスによる作為を感じる。いくらかであれば、ヘルメスという決まりから外れても、構わないだろう。
カラノは微笑んだ。
「……再開しよう」
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