45,5話 神殺しの血筋



 まだ神々と呼ばれる存在がいなかった古き時代。

 不死の力を持つ神無戯かんなぎ家と、分家の式守しきもり家があったです。


 この両家は人々の営みを記憶する者として、歴史の片隅で吐息をひそめるように穏やかな生を送ってたです。

 そんな連綿れんせんと続く不変と調和が崩れ、激動の波が産声を上げたのは、神無戯家の中でも特に異彩を放つ1人の男児が誕生した時です。

 の男児は他者の力を吸収し、さらにそれらを他者に分け与える異能に開花したです。

 


 不死という決して朽ちない特性に加えて、男児は無限の可能性を示す。そして次々と彼は新たな生物を創造していったです。



 まさに創造主……彼から、数多の神と崇められる存在が創られたです。



 神無き時代の頂点にして原点。

 たわむれに神を御創おつくりなさり、また無くすも自由————それが神無戯かんなぎです。



 だけれど次第に神の中から自身の強大な力に驕り、神無戯や人々に欲望をぶつけ、その牙を突き立てる者が現れたです。ボクたち式守家は元々、本家の神無戯家を守護する役割を担っていたです。必然的に神無戯を狙う神をほひる流れとなり、『神殺しの血族』と畏怖される時代がきたです。


 式守家には他にも人々が遺した叡智や術式を保管し、守り抜く使命も帯びていたです。

 力におごる神々は、人々からそれら叡智を奪い風化させたです。そして自らの力が絶対であると誇示し、人々を信仰の名の下に従えるようになったです。


 いつくしみ、守り抜くべきだった神や人を、自らの手で殺める運命さだめはひどく心を削られたです。

 でも僕たちは……罪の意識を背負い、失った仲間たちを思い、決して止められない永遠の闘争に身を沈めていったです。


 寿命の尽きないこの身体は一種の呪いにも近いです。

 悲しい別れの連続に、耐えて耐えて耐えて、頑張ってきた、です。

 自分のせいで寝食を共にした仲間たちを失う辛さは————何事にも代えがたい絶望です。


 それでも志半こころざしなかばで滅んでいった仲間の想い成就するため、必死にやってきたです。



 そうして幾星霜……徐々に神々の力は増し、神無戯の血筋は緩やかな滅びの道を進んでいったです。

 唯一の神無戯家直系のお世継ぎも、神々の陰謀によって【狂い神】として封印されてしまったです。

 


 少しずつ蓄積していった絶望が、私の心を蝕むのは容易かったです。

 だからアリシャとマリシャ、サオリの3人が死んでしまった時に何かがプツンと切れてしまったです。こと切れてしまったです。


 もう、もう、仲間を死なせてしまうだけの僕は必要ないのでは?

 いつもあと一歩、及ばない僕はいらないのでは?

 存在する意味なんてないのでは?


 そう思ったら、この不死なる身が滅びても良い気がしたです。

 そんな風に死を願った刹那————



「俺は、君に生きててほしいよ」



 死を望む僕に、ユウマ様が真っすぐな言葉を贈ってくれた。



「すくなくとも、今の俺には君が必要だ」


 あともう少しだけ————

 僕を必要としてくれるユウマ様が————


 ゆーまがいるなら、あと少しだけ一緒にいようって思えたです。



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