45話 巨星喰らい
『やばいww おっさんに変身とか笑うwww』
『シバイターとガチで戦ってて草』
『おっさん同士の熱い戦い(笑)』
『おっさんがおっさんを圧倒してるwwwww』
『VIP:タイムリミットは3分である。それまでにシバイターを倒すのである』
『ウル〇ラマンかよ』
『VIP:おっさんがんばれえええ!』
『VIP:◆おっさんは私が
リスナーのコメントは大盛り上がりだが、実際マジの殺し合いに発展してしまった俺からすると一瞬も気が抜けない。
確実にシバイターを無力化するために全身全霊で立ち向かわなければ、やられるのはこっちだ。
おっさん時は全ステータス2倍の恩恵を活かし、今まで
「————【
触れた者にランダムで4種~7種の状態異常を引き起こす近接攻撃が、シバイターの優勢を崩す。
俺のボディタッチに侵された竜の頭は瞬く間に紫に変色し、さらに狂おしく吠え猛る。まるでシバイターの制御下から離れ、痛みから逃れるようにのたうち回った。
「
シバイターから生えた竜の頭のうち一つは完全に石化を果たし、さらにその浸食がシバイター本体に伸びようとする。しかし元々着脱可能な仕様なのか、彼は躊躇なく竜の頭を全て切り捨てた。
「————【
「加齢臭————【腐敗王のオーラ】」
シバイターの足が恐竜の脚を遥かに凌駕するサイズに膨れ上がり、その野太い足で俺を踏み潰さんと足踏みを始めた。まるで巨大な鉄柱の雨が降り注ぐかの如く、地獄のお天気だ。
だけどそんな驚異も俺を包む腐敗色のオーラに触れれば、グズグズボロボロと崩れ出す。
奴の足が俺の纏ったオーラに触れれば、すぐさまその耐久度を失って柔く腐ってゆく。
「おいおい、まじか————【
シバイターは上空でこちらを見下ろしながら右手を開く。五本の指が大蛇のように肥大化し、目にも止まらぬ速さで俺の頭部めがけて鋭く伸びる。
剛槍のごとく五匹の竜が襲い掛かるが、これを正面で受けきるのがおっさん流だ。
「————【
顔面を5秒間だけ
ただ問題点としては顔面で相手の攻撃を受けるわけで、かなり恐怖感を煽られる。
ガキリッゴチャリッと衝撃音が弾けるたびに冷や汗をかく。
「たかだか登録者6万人弱の新参者が、ここまで俺の攻撃を防ぎきるなんてすごいでちゅね~」
シバイターは腐り切ったはずの巨大な両足を脱皮するかのように切り捨て、宙を舞いながら五体満足の無傷で俺を睥睨している。
シバイターの余裕を崩すまでは叶わなかったが、彼は即座に回避行動がとれない空中にいる。この機を逃すなんてありえない。
「できればこの技だけは使いたくなかったけど————」
俺は苦渋の決断を下す。
「————
頭皮に生えた毛根が鳴いている、泣いている、哭いている、亡いている————
俺の分身たちが、今、決死の覚悟と共に! その身を犠牲にして、シバイターを追い詰める。
黒い桜の花びらが舞い散れば、あらゆる角度からあらゆる敵を殲滅する。俺の髪の毛の一本一本が強靭な刃となり、宵の闇に呑まれるが如く相手は切り刻まれる。
そう、これこそが全方位を包囲する必殺の領域攻撃。
「
黒色に刻まれる寸前でシバイターの全身が輝いたかと思えば、けたたましい衝突音が鳴り響く。それは俺の分身である無数の髪の毛たちと、シバイターの肉体がぶつかり合う狂騒曲であるのは言わずもがな。
押し切れ、押し切れ、そう全力で我が
頭皮にあった我が分身の全てを使い切ってもなお、泰然とした様子でシバイターは俺を見下ろしていた。
「そ、そんなぁ……」
「ん? んんー? これだったら普通に殴った方が強くないでちゅかー?」
「まじか。それはまじで凹む」
「まあ、全身変容はMP消費が高いからよくやったと褒めてやるぞ。でも新参者に言い忘れてたわ~。最後の以外はぜーんぶ!
風通しがよくなった頭皮の代償はまるで得られなかったのだ。
「なあ、新参者。どうせ今も配信してるんだろ? だから新参者に花をもたせてあげました~ってやつだよ。はーい! みんな見てますかああああ? シバイタ~でーっす! ここからが本番、腕によりをかけて竜種以外の上位種族でも相手してやるぞ~!」
……これが古参YouTuber。
生死のやり取りをしている最中であっても自分の名を売り、リスナーを意識しながらパフォーマンスを欠かさないとかまさにプロの在り方だった。
しかもしっかり自分のキャラクターを活かしながらリスナーたちのヘイトを集めていくのも忘れていない。
「お前は下、俺は上。当たり前のことが理解できたか? 新参者」
シバイターは自らが格上だと誇示するかのように上階へと着地し、俺を見下ろす。
「じゃあ初手は天使から、【
シバイターが唐突に涙を流す。
頬に伝う粒が顎から流れ落ちたとき、淡い煌めきと共に弾け飛ぶ。
キラキラと散布された水滴の一つ一つが瞬時に形を変え、命を奪う無数の剣となって空を覆うように展開される。
「————
そして、軽い口調で豪雨を発生させたのだ。それはまるで神の気まぐれがもたらした災害とでも言うかのように、遥かな高みから放たれた。
降り注ぐは、雨粒の代わりに人間を容易に串刺しできるほどの長大な剣。白く光輝く長剣が蒼い空から迫る様は、流星雨にも似た景色だった。
これはもう避けようがない。
『腐敗王のオーラ』のリキャストはまだ1分半も残っているし、その他の技も再度使用できるまでに時間がかかる。つまり、完全に手詰まりだ。
例え俺に【朽ちぬ肉体】という回復特化の権能があっても、それだってさっきの一噛みで33のダメージを受けた。今回の攻撃はそれ以上のダメージを、絶えず浴びせるほどの規模だろう。
例えビルを遮蔽物にして身を隠そうとも————
ビルごと
絶望一色に染まった空を見上げ、俺は覚悟を決める。
せめて気絶しているであろうフローティアさんだけでもどうにかしたくて彼女を探す。だが今までの戦闘がもたらした数々の破壊が、彼女を見つけるのを困難にしていた。
どこに——、どこだ——あ、もうダメだ————
そう諦めかけた時、俺の頭上で聞き慣れた声が剣より早くおちる。
「ゆーまは他の女を探すより、ぼくを呼べばいいです」
「ロザリア!?」
純白の剣雨が迫るなか、他の何よりも輝く銀髪をなびかせた少女が無表情で顕現した。ちょっと現実味のない光景に混乱しそうになるが、まぎれもなくロザリアが俺の窮地を悟って助けにきてくれたのだ。
彼女はカードを一枚ピッとかざし、高らかに宣言する。
「魔法カード発動! 【原初魔法:
両手を広げたロザリアの全身が光に包まれる。
彼女はそのまま俺の目の前に降り立ち、そっと囁いた。
「ぼくの後ろに隠れるです」
「ああ……ああ!」
ロザリアが発動した能力が何かはわからない。けれど、誰よりも頼もしい彼女がそう言い切るのだから、俺は躊躇なくロザリアの背に身を隠す。
小さな体躯の彼女が作る影もまた小さかったけれど、俺一人が縮こまれば収まるスペースはあった。小さな希望、だけどとてつもなく大きな希望に縋り、全力で身体を丸める。
それから数え切れないほどの剣が落ち、その多くがロザリアに衝突した。だが、彼女と剣の間を見えない何かが阻んでいるようで、そのことごとくが弾かれてゆく。
ロザリアは無傷、だけれどその周囲はそうはいかない。
ビルが倒壊し始めた。
「ゆーま……はぐ、です」
ロザリアは崩れゆくビルを察知して、両手を広げるポーズから俺を優しく抱き込む姿勢に変える。
時間にして数十秒ほどだろうか。
耳をつんざく破壊音がひっきりなしに続き、一つでも当たってしまえば容易に命を奪われる剣撃の中にいると想像以上に死の恐怖を感じる。
ビルの崩落に巻き込まれ、視界はグチャグチャで何が起きているのかも把握できない。それでも俺を抱くロザリアのぬくもりがあるから、なんとか平常心を貫けた。
この無表情ばかりが顔に張り付けられた小さな少女が、その身を盾にしてまで俺を庇ってくれている。死が迫る闇の中であっても、彼女の銀髪だけはくっきりと輝いているのだ。
「ゆーま、もう大丈夫です」
どうやら雨は止んだようだ。
◇
【
【HP47 MP90 力15
【
【総合戦闘力:登録者数336万人と同等】
【権能】
【『炎上者Lv10』……自分への敵意や憎悪をコントロールして様々な効果を発動する】
【『大物喰らいLv8』……『炎上者』の上位
【???Lv10】——【???Lv7】
【???Lv10】——【???Lv3】
【???Lv8】
【???Lv5】
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