37話 緑の古都
「おかえり、ゆーま」
再び【
「何秒ぐらい、いなくなってた?」
「3分ぐらいです」
「そうか……」
前回は4時間、今回は3分……どうにもバラつきがあるのはどうしてだろうか?
「分体と交信、です……アヴァヴァヴァヴァヴァアアアアアヴァヴァヴァ」
恒例のアヘ顔タイムが更新され、それを異様な目で見てくるアキレリア人たちに俺は作り笑いを浮かべる。
「ユウマとマポトは、この数分どこに消えていたんだ?」
みんなの疑問を代表するようにフローティアさんが問いかけてくるが、まさか未来にいたなんて言えるはずもない。しかし、YouTuberとして先達を行くマポトさんはまごつく俺なんかと違い、慣れた様子でフローティアさんに向き直る。
「【
「異世界転移者や時空転移者のことか?」
「ああ、そうともいうな。俺たちは定期的に元の時間……世界に戻らなくちゃいけないタイミングがある。今回はそれだ」
「噂には聞いていたが……そうか、ユウマもマポトも
「ま、正確には違うが今はどうでもいいことだ」
この話は終わりだと、フッと笑いながらスマートに場をおさめるマポトさんかっけえ。
それから黒水晶の草々に覆われた大地を横断して数時間が過ぎ、日が傾きかけた頃には目標地点だった
そこは朽ちた文明跡が散りばめられた場所だった。
「なんだよ……この数々の四角い巨大な塔は……」
「ガラスの窓が規則正しく揃っていてすごいぞ」
アキレリアの仲間たちが驚嘆する中、俺とマポトさんがもらす感想は違った。
「なんか雰囲気があるな、ユウマ」
「うわ、あそこのビルなんて
立ち並ぶ巨大な建造物を夕焼けが静かに照らす。
沈みゆく五つの太陽が廃墟へ紅色を差し、芸術的なまでに美しい。
至るところに緑が茂り、木の幹が広がり、大都市と植物の融合が織りなす光景。まるで俺たちの文明もいつかは終わりを迎えるような気がして、言い知れぬ寂寥感みたいなものが胸の奥にこみあげてくる。
「やはり、これらは
不意にそんな台詞を吐いたのはフローティアさんだ。
それから他の
「かつて栄えた在りし日の帝国の影、それらがいかに偉大であったのかを私たちに教えてくれる」
「【塔剣】に勝るとも劣らない。これほどまでに巨大な【
「四角い建物に無数のガラス窓を備え付ける……時には丸みの帯びた建物や、歪な形の建物まで多種多様ですな。しかもその全てが、現存する塔より造りが細かいのは一目見れば明らかだ」
「今の人類が持つ建築技術では再現するのは到底不可能だろう」
「作られてから千年以上が経過しているためか、植物たちの侵食が深くまで進行しているので本来の姿を見ることは叶わないのが残念だ」
どうしてか、
しかも彼女たちは千年以上も前に造られたと言ってるあたり、かつての【
「今夜はここで野営をする。各自、準備と警戒を怠るな」
フローティアさんの号令のもと、俺たちはビルの一つに陣取り夜を明かすことにする。
今回の
◇
神々が支配する世界、【
ここでは人間にとって多くの脅威があふれんばかりに生息している。
例えばモンスターと呼ばれる異形だ。
「ゆーま、知っておいてほしいです。モンスターは神々が生んでいると」
「人間の味方のはずの神様が?」
「神にも色々な思惑の神がいるです」
明くる朝、俺はロザリアからこっそりと講義を受けていた。
ロザリアが他のアキレリア人に配慮したのも頷けて、英雄神を信奉する彼らからすれば神々がモンスターを生んでいるだなんて発言は、許されない類の話題なのだろう。
「どうしてモンスターを生む神がいるの?」
「人間にとって脅威があれば、人間は神に頼るです」
「なるほど……」
「僕もアキレリア人に同じようなことをしてるです」
「同じ?」
「語らず、学ばす、です」
ふむ。
なにかロザリアは思惑があって、今は行動してると?
「具体的には?」
「ぼくはこの地を知ってるです。でも、敢えて語らず彼女たちに体験させている、です」
「それはどうして?」
「これから住む場所です。だから実施研修です」
なるほど。
アキレリア人にとってこの地域一帯が新しい住処になるとロザリアは予測して、口で語るよりも自分たちで身を以て知ってほしいと。
そもそも急にロザリアのような得体のしれない小娘がこの地について詳しく説明したところで、アキレリアの人々が素直に聞き入れそうもない。それは英雄神アキレリアが没した話題を振った時もそうだったけど……揉める可能性があるのなら、こうやって実施研修についていく方が効率がいいと判断したのかもしれない。
「でもそれは色々と危険なんじゃ? げんに魔物だって出たわけだし」
「僕が命を賭して安全
簡単に自分の命を賭けると言ってしまうロザリアが少しだけ心配になる。それにダジャレを言って周りを凍てつかせてしまうコミュ力も。
「この先に強力な
「
「星が残した遺産と呼ばれてるです。でも遥か昔、人が神に頼らなかった時代の遺産です」
「人間が作った危険な物?」
「はい、です。『物語を
「……本?」
「その本が綴る物語は、生物の終焉、です」
「なにその本。怖すぎ」
ブルッと身震いする俺とは反比例してロザリアは淡々と語るのみだった。
「フローティアはずっと気を張ってるです。上手に言うです」
「ん? ロザリアが自分で言うのじゃダメなのか?」
俺が問いかけるとロザリアは微動だにしない表情のまま首を傾げ、わざとらしく指を唇に当てた。
「面倒なことは頼れる男に丸投げしちゃえ、です。可愛い女子の特権です?」
「……そんなこと、どこで覚えてくるんだ?」
無表情だったはずのロザリアの顔にほんの少し温かみが灯る。
そして冷たい雪原に春の雪解けが訪れたかのように、ぽっかりと空いた天井からこぼれ落ちる朝焼けの光がキラキラとロザリアを照らす。
「アリシャとマリア、サオリが言ってた、です」
ロザリアは静かな笑みでそう答える。
なるほど————
亡きハラハラ三銃士の教えなら仕方ないか。
その内容には疑問を抱いてしまうものの、ロザリアが彼女たちとの思い出をすごく大切にしているので、否定するのは野暮だろう。
「そういうことならどんと任せてくれ」
景気よく俺が胸を叩くと、不意に近くで何かの気配を感じる。
野営地から付かず離れずの位置、崩れた【
「2人とも朝は早いのだな」
予想は的中し、フローティアさんだった。
彼女は【
「喋り声が聞こえると思ったら……ユウマ、こんな所だと何かあったら危険だろう」
正論でしかないので反論の余地はない。
「すみません」
「まぁいい。ちょっとよさげな雰囲気の場所だし、ここで一息つきたくなるのも頷ける」
そう言ってフローティアさんはスタスタと歩き、近くで根を張っている樹木に触れる。
「この木はユウマの筋肉のごとく立派だな」
見上げながらそう語るフローティアさんは昨日から続く厳しい顔ではなく、ほんの少し緊張のほぐれたものになっていた。
当然だけど崩れて横たわった【
「まるで逆境でも力強く生きて乗り越えろと言わんばかりに
古代帝国の名残と植物の共存、そこに陽光が降り注ぐこの空間はうすく煌めいている。埃か塵か、大気中に舞う何かが光に反射して舞う様は、胸に何かしらの感情を残す。
「それで? 2人はここで何を?」
「あっ、えーっとあー……その、筋肉が妙なざわめきを感じて?」
「ふむ? この場に何かあると?」
「いえ、なんていうかこの先にものすごい危険が潜んでいると言いますか。できれば様子見だけして、一旦は【剣の盤城アキレリス】に引き返したほうがいいかなって」
「ふむ。ユウマの筋肉がピクピクとそう
それから数時間後、俺たちはロザリアが言っていた意味を理解する。
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