30話 獣王の盟友


「これより、探索クエストの試験を実施する!」


 フローティアさんの号令を受け、冒険者たちがザワザワと色めき立つ。

俺たちは【剣の盤城アキレリス】の外周部分の城壁へと集められた。ここからだと、剣都をぐるりと円形に囲む【空の王冠】がより綺麗に見えて圧巻の景色だ。


「本来であれば冒険者ランクD以上の者のみ、参加資格を出したいところだが……圧倒的な筋肉不足により、今回は実施で試験を行う!」


「ユウマ。俺は冒険者ランクBだが、お前はまだGランクだろう? 無理はするなよ」


「はい、ありがとうございます。マポトさん」


 俺は冒険者ギルドに所属したばかりだから、最低ランクのGだ。

 でも今回は人手不足も相まって参加資格を大幅に下げたそうで、その代わりの試験らしい。

 この世界の情勢を知るためにも、父や母を探すためにも、この辺の環境は把握しておきたい。正直、ロザリアの翼で空を駆け巡った方が早いとも思ったが、この世界は何があるかわからない。

 それこそ単独での飛行中に大型の龍なんかに襲われたら怖すぎる。だったら最初は冒険者として徒党を組みながら、周辺探索のクエストを受けるのも良いと思った。


 何より路銀がない現状、俺はクエストを受ける他ないのだが……。



「試験内容はいたってシンプル! 制限時間いっぱい、わらわが生み出した【氷剛石のアイスモンド自動人形・ゴーレム】に全力で攻撃し、実力を披露してほしい!」


 青空の下、フローティアさんはキラッキラッの笑みで以て宣言する。なぜか俺の方をガン見しながら、さも俺の必殺技を期待しているといった眼差しで。

 そんな彼女の熱い視線に気付かぬはずのない冒険者たちが、はやし立ててくる。


「英雄さんには期待してるぜー?」

「冒険者になりたてだが、そんなの筋肉がありゃどうとでもなる!」

「フローティア様のお眼鏡に叶う筋肉か」

「しっかり参考にさせてもらうぜ!」


 うおおおおおおおん……このプレッシャーはきつすぎる。

 しかも【氷剛石のアイスモンド自動人形・ゴーレム】は見るからに丈夫そうで、身長4メートルに届きそうなほどの巨躯だ。

 俺があんなのに攻撃して、果たして無事でいられるだろうか?



「ユウマ、お前は所詮・・5万人ぽっち・・・・・・の登録者しかいないんだ。そう気負うな」


 隣にいたマポトさんは俺が強張るのを察知してくれたのか、すかさずフォローを入れてくれる。


「お前に、い、いくらすごい人脈があったとしても5万人ぽっちのステータスじゃ大したことはできない。対して俺は80万人の登録者がいる。お前に試験が突破できなくても、探索クエストの方は俺に任せておきな」


 俺の緊張を和らげるために、優しい発言をしてくれるマポトさんはやはり大物だ。

 そうして始まった試験は様々な勉強になった。

 まずアキレリアの冒険者のほとんどが素手や剣などで戦うスタイルが多いとわかった。自らの拳に炎をまとわせて【氷剛石のアイスモンド自動人形・ゴーレム】を殴ってみたり、光った剛剣で叩き割ろうとしたり、とにかくパワーオブパワーな印象だ。


 正直、あれほどの猛者たちが攻撃してビクともしない【氷剛石のアイスモンド自動人形・ゴーレム】の頑強さにも驚きだし、あんなのをシレっと作ってしまうフローティアさんには感服した。



「丈夫だ……すごい」


「こいつはほぼ動かせないから、完全に壁役に徹するしかできないんだけどな。不甲斐ない代物だ」


 フローティアさんはそう言うけど、仲間を守るための権能スキルは素晴らしいと思う。



「いざという時に守ってもらえそうなので、一緒に行動をする者にとっては頼もしいですよ」


「ユウマは優しいな」


 こうして次々と冒険者たちが己の全力をぶつけてゆき、ついにマポトさんの出番が回ってきた。


「動かないまとにただ攻撃を当てるだけの試験か。いかにも脳筋なアキレリア人が考えつくような内容だな」


 彼は自信満々そうに何かを呟きながら【氷剛石のアイスモンド自動人形・ゴーレム】の前に立つ。その覇気は本物で、俺も見習いたいと少し憧れてしまう。

 なにせ今まで【氷剛石のアイスモンド自動人形・ゴーレム】に大きな損傷を与えられた冒険者は1人もいない。

 一番の喝采が上がったのはゴーレムの頭部にヒビを入れたCランク冒険者のオルロフさんというベテラン冒険者のみだ。


 そんな中、マポトさんは微笑すらたたえがら試験に挑むのだから男として憧れないはずがない。

 ちなみにゴーレムが傷を負うたびにフローティアさんは新しく作り直していて、今回も例にもれず新品同様のゴーレムが相手だ。



「まずは軽い準備運動でも見せるか。そんな大したものでもないが————」


 マポトさんは目にも止まらぬ速さでゴーレムを殴打し始め、それは疾風迅雷と呼ぶべき豪速だった。それだけで彼の身体能力の高さを窺いしれる。

 無論、【氷剛石のアイスモンド自動人形・ゴーレム】を削るまではいかないにしても、フローティアさんのお付きっぽいマッチョメンズと同様のパワーを誇っている。


 間違いなく、今まで試験を受けてきた冒険者の中でトップレベルの筋力があると思う。スピードは俺より遥かに上、筋肉は3分の2を下回るあたりだろう。



「そろそろか————来い! 【鋼と牙の猛虎スティール・ティガー】!」


 マポトさんが天に向かって叫ぶと、何もない宙空からズシリと質量のあるメタリックな巨大虎が顕現した。これには俺も驚きだけど、周囲の冒険者たちはちょっと違ったようだ。


「マポトの召喚術はいつ見てもすげえよな」

「触媒も必要としないし、ほぼ無詠唱であれってやばいよなあ」

「筋肉も申し分ないし、それでいて召喚術ができるハイブリット」

「冒険者として有望株だよなあ」


 マポトさんの戦闘スタイルは召喚士が本命なのか。

 スピードも高く筋力もそこそこあって、さらに召喚術を扱えるなんて凄すぎる……さすがマポトさん。



「召喚術としてなら、ユウマだって負けてないぞ? なにせ精霊を召喚できるからな!」


 ええええ、やめてくださいよフローティアさんんん。

 実はロザリアは精霊とかじゃなくて、ただ俺の影の中に入っているだけで……。

 なんて今更、言えるわけもなく。そうこうしているうちにマポトさんはメタルタイガーを3頭も使役して、【氷剛石のアイスモンド自動人形・ゴーレム】を傷つけていく。

 これまで無傷を誇っていたゴーレムも所々がひび割れ始め、このまま猛攻を続ければ砕けるだろうと悟ったフローティアさんが『そこまで!』と静止の号令を出す。



「マポトすごいぞ!」


「さすが【獣王の盟友マポト】!」


 声援を浴びながら、クールな表情で俺の方へと戻ってくるマポトさんはかっこよかった。



「マポトさん、かっこいいです」


「それほどでもないさ。ユウマ、お前は俺の次だからやり辛いかもしれないけど、しょぼい結果になっても落ち込むんじゃないぞ? 俺がすごいだけで、お前や他の冒険者は凡俗だから仕方ないんだ」


「はい! 俺、がんばります!」


 マポトさんの言葉で緊張が解けた俺に、いよいよ試験の順番が回ってくる。



「新人冒険者ユウマ!」


 フローティアさんに大声で呼ばれ、俺は一歩一歩【氷剛石のアイスモンド自動人形・ゴーレム】へと近づいていく。


 ————さあ、全力を出し切ろうか。



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