12話 無自覚にアンチ殺し


「また異世界、というか過去世界に来たぞ。リスナーのみんな見えてるかー?」


『1コメ~!』

『おっさんの配信が始まったぞー!』

『きたああああ』

『◆私、ツブヤイッターで告知してきます!《240円》◆』

『今日も芽瑠ちゃんは実況しないの?』

『今日も残虐ファイトを見せてくれる可能性無限大である』

『このゲームなんていうん?』


過去に眠る地角クロノ・アーセ】についた途端、リスナーたちのコメントが視界をよぎる。

 権能スキル背信者はいしんしゃ】が発動しているようだ。

 どうでもいいけど【背信者】って本来、神に背く者って意味だよな? この配信自体が神に対する反逆行為とかじゃなければいいんだけど。

 そんな不安を抱きつつ、改めて周囲を見回せば以前と同じ場所に自分が存在していると把握する。



「ゆーま、60秒ぶりです」


「あ、あぁ……ロザリアさん。それは俺がここから姿を消して、再び現れるまで60秒しか経ってないって意味?」

「はい、です」

 

 なるほど、現実世界に戻っても【過去に眠る地角クロノ・アーセ】ではほとんど時間が進んでないのか。


「ゆーま、すこし失礼するです」

「ん?」


 銀髪幼女は無表情で俺にちょこちょこと近づき、なぜか右手を地面につける。

 正確には俺の影に触れたのだ。


「【我が心臓の追憶リターン・オブ・ハーツ】……ぁぁあああああアアアヴァヴァヴァヴァッヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴァヴィヴィヴァッ……」


 すると彼女は激しく痙攣し始め、壊れたロボットみたいに不気味な奇声を上げた。



『おうw 狂気的な光景だなww』

『速報:仲間のスキルはアヘ顔』

『幼女がしちゃダメな顔してるぞwww』


『ロザリアたん可愛い』

『そのままダブルピースしてほしいのである』


 リスナーのコメントには同意しかねる。

 リアルに目の前で美幼女が急変して白目剥き出すとかちょっとホラーだし、身体に異変があったのかと心配になる。

 そんな俺の気持ちを払拭するようにロザリアはすぐ真顔に切り替わる。


「ヴヴッ、分体との記憶共有、おぉワリ終わりオワリです」

「そ、そうか……」


 その豹変ぶりは傍から見ていてちょっと怖いし、淡々とダジャレをかましてくるのも怖い。


「それで、ゆーまはこれから何をするです?」


 俺は一度、思考を整理するために深く息を吐く。そして、目の前の天空に浮かぶ山脈を眺め、次に大地に突き立つ剣型の巨大都市を見下ろす。

 この広大な世界で俺は何をしたいのか?


「うーん……みんな、何をすればいいと思う? あ、それとダイヤさん銭チャありがとうございます」


 何気に初の銭チャでうれしい。

 俺がリスナーに問いかけると爆速でコメントが大量に流れだす。


『何してもいいのか!』

『このゲームめちゃくちゃ自由度たかいな。オープンワールドRPGなの?』

『NPCの台詞や機能も興味深いのである。おっさんの音声認識で反応してる可能性無限大である』


『◆ゲームからログアウト=現代に戻るって設定も面白いです《360円》◆』

『やっぱやる事と言えばロザリアちゃんとレベル上げだろ!』

『バトルだバトル!』


『◆フィールド探索などはいかがでしょうか?《500円》◆』

『この辺を散策して採集だな』

『貴重なアイテムとか落ちてっかもよ』


『あそこに見える剣の街に行ってみるとかは?』

『あー装備を買ったり、NPCから情報を集めるのはRPGの王道だよね』

『にわかへ忠告である。前回の配信でロザリオたんはあの街の人達とは関わりたくないと発言している。好感度システムがある可能性を無限大に考慮し、彼女とのデートイベントを実現させるために却下である』


『その前におっさんが空飛べないと剣の街に行けなくね?』

『落下死でゲームオーバーなのがオチだなw』



 俺はコメントを眺めながら自分の思考を徐々にまとめていく。

 当たり前だが、まずはこの世界での生存が第一優先事項だろう。なにせここでの死は現実での死に直結するのだから。

 次に自分の根源である両親の探索と、その安全確保だ。

 この時代の両親が死んでしまえば芽瑠めるや俺の存在ごと抹消されてしまう。それは何としても避けたい。

 一番優先度が低いのはヒカリンとの合流だろう。


 さて、自分一人で行きつく結論には限界がある。俺は自分自身の判断能力をそこまで信用してないので、リスナーの意見を参考に今後の身の振り方を一個一個決めた方がいいだろう。


「まずはこの世界での生存を第一優先にしたいんだけど……」


『じゃあレベル上げが最優先じゃないか?』

『おっさんのレベルじゃ即死しそうだよなww』


『◆おっさんは吸収能力を持っているので大丈夫ではないでしょうか?《1000円》◆』

『ステータスや能力の把握が最優先じゃね?』

『ヒカリンと合流すれば安全性も無限大である。ただ、ヒカリンが完全に味方になるって保証があればの話である』


 なるほど。

 どれも尤もな意見ばかりで非常に助かる。



「みんな、ありがとう。あとは両親も探したいんだ」


『おっ、RPGの王道じゃん!』

『自らの出生の謎を解き明かす旅か! いいな!』

『◆ご両親についてはノーヒントですか?《1500円》◆』

『ロザリアたんが知ってる可能性、これ無限大である』


 言われてみればロザリアは初対面の時から俺のことを知ってる節があった。その辺も含めて彼女に聞いてみよう。


「ロザリアって俺の両親……【過去に眠る地角クロノ・アーセ】での両親がどこにいるとか知ってたりする?」


「はい、です。ご両親は・・・・【空賊国家ウラノス】にいるです」


「ちょっと物騒な国名だな……もっと詳しく教えてもらえないか?」


母君は・・・【夜国ツクヨミ】に、父君は・・・点々とされている方ですが【白竜王国オーディン】のどこかにいるです。どちらもここから遥か遠くの地です」


「う、うん? 三ヵ国にいるかもって話か? じゃあ鍛錬しながらその三国を目指したいと思ってるんだけど、ロザリアはそれでいいかな?」


「ん。ゆーまがそう言うなら承知です」


「それとヒカリンとも合流できればいいんだけどなあ……」


「ヒカリンが受けたのは強制転移魔法です。彼女がどこに飛ばされたのかわからないので【未来ある地球クロノ・アース】に戻った時に尋ねてみるです?」


「【未来ある地球クロノアース】……なるほど、現代か」


 広大なこの世界からヒカリンを探し当てるより、未来に戻ってから彼女がどこにいるのかピンポイントで聞いた方が早いだろう。そもそもヒカリンは俺たちの居場所を知ってるわけだから、下手にここから動かない方が合流できるのでは?

 むーん。


「ゆーまは先程から誰とお話してるです?」


「え? あぁ、えっと、友達……かな?」



『◆おっさんが私たちを友達と言ってくれたのが嬉しいです《5000円》◆』

『微妙に照れるなww』



「精霊さん、ですか? ゆーまにそんな権能スキルがあったなんて初耳です」


「や、精霊とかじゃなくて……リスナーって言って、えっと……」


 無機質な顔のまま小首を傾げる銀髪幼女にどう答えたものか迷う。


『うおおおおロザリアちゃんかわええ!』

『剣の街に行くのはダメだ! ロザリアちゃんの好感度さげんなよ!』

『デートイベントを我々に見せるのである』



「リスナー? あっ、YouTuboです?」


『うおおおおロザリアちゃん理解力はや!』

『ロザリアちゃんは天才である』

『◆悔しいです。どうしておっさんの傍にいるのが私じゃなくて、ロザリアちゃんなのでしょう《10000円》◆』


 一部、闇を感じるコメントを頂いたがそこはスルーしてひとまずこの辺の散策しよう。

 できれば自分の権能スキルを使役する練習なんかもできたらいいな。

 そんな風に思い、自分の権能スキルを確認してみたら前回とは違う項目が現れていた。


権能スキル『アンチ殺し』……『傲慢ごうまんな陽キャの心』を折ったので権能スキルポイント1取得】

【好きな権能のレベルアップが可能】


「え、俺って誰かの心をいつ折ったんだ?」


 誰とも戦わずしてレベルアップなんてお得だな!



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