6話 終わりの始まりを告げる少女



「ずるけユーマwwwwお前バズってんじゃんww」


 いつもの放課後だったら話しかけてくる人なんていないのに、今日はホームルームが終った瞬間に声をかけてくれたクラスメイトがいた。

 黒井くんだ。


「え?」


 一瞬、黒井くんに『おっさんと妹』チャンネルがバレたのかと思ったけど、彼がスマホで見せてきたのはThikTakチックタックのショート動画だった。



「これでおっさんも晴れて人気物だなwwwアップしてやった俺に感謝しろよw」


 ケラケラと笑いながら見せてきた動画は……俺の後ろ姿だった。

 席に座っている俺の頭頂部ハゲを捉えつつ、軽快でリズミカルな音楽が鳴っている。次第にカメラワークは俺の顔面へとシフトし、さらにそこから吉良くんが爽やかな笑顔とともに『消しゴム落としてるぞ』、と落とし物を渡してくれる。

ショート動画のタイトルは『うちのクラスにガチのおじさんがいる』。

 コメントは俺に対する嘲笑の嵐と、吉良くんを称えるもので溢れかえっている。



『俺がこんなんだったら死んでるわ』

『不登校確定案件』

『ガチの高校生、だよね? 若年性脱毛症とか?』

『顔はブサイクってほどでもないけど……これはちょっとキモいがすぎる』


『消しゴム拾った人イケメン』

『わたしも拾われたい』

『こんなキモい奴にも優しいとかイケメンは最強やな』


『この人、キラ君じゃん! YouTuboで動画だしてるよ』

『キラくんのチックタックの動画もかっこいいよ!』

『キラ君は配信や動画でも優しそうだったけど、リアルも完璧なんだね』


 いつの間にか盗撮されていたようで、なんと再生数は30万超えだった。


「あ、それな。俺も見た。ずる剥けユーマもチックトッカーデビューおめでとう!」


「ま、計画通りだな・・・・・・。おっさんの動画で俺のチャンネル登録者が6000人も増えたわ。ありがとな、黒井」


 俺たちの話を耳にした佐部津くんと吉良くんが、ケラケラと笑いながらその動画を何度も再生してゆく。

 そして吉良くんの発言から、この動画は計画的に狙って盗撮されたものだと把握した。吉良くんは自分が好印象に映る演出を仕掛け、人を集めるために俺をネタとして利用したのだ。

 しかも悔しいのは俺が二カ月半かけて2000人集めたのに対し、吉良くんはたった1本の動画で6000人も集めた点だ。



「ほら、おっさんの出演料だ。1000円やる。黒井くろいには1万な」

 

 無造作に吉良くんが机の上に1000札を置く。

 俺の尊厳とプライバシーの価値はたったの1000円だけだ、と。


 そう言われたような気がした。いや、だけど……高校生にとって1000円は大きい金額だから、これぐらいの屈辱は……許そう。



「2人とも、ありがとう……ハゲも長所になるってわかったよ」


 下げたくない頭を下げてお礼を言う。


「いやいや、吉良くんが長所にしてやってる・・・・・・だけだからー」

「あんま調子にのんなよ」


「あははは、ごめんごめん。冗談だからさ」


「おもしろくねーから」


 心を虚無にし、無理やり笑顔をつくる。

 こうしていれば少なくとも形だけは友達。クラスメイトでいられる。そんな思いで、彼らがつくった『面白い事で爆笑する輪』からそっと抜ける。


 足早に、無言で、一歩一歩進み、自分に言い聞かせる。

 校舎2階の渡り廊下に伸びる影が俺だとしたら、さしずめ茜色に輝く夕日が吉良くんたちだ。仕方ない、我慢するしかない、あんな侮辱は許せばいいんだ。



「おじさん?」


 ふと、聞き覚えのある声が俺の足を止める。

 声の方へと振り向けば、氷の彫像のような無表情のお隣さんが立っていた。いや、電柱から伸びる電線の上を曲芸師のように平然と制服姿で歩いている。


「え?」


 危ないだとか、非現実的だとか、衝撃的すぎるとか、色々と頭に浮かびあがる言葉は無数にあったけど————

 あまりにもその不思議な光景がなぜか彼女にはしっくり来ていて二の句が告げられない。



「どこ見てるのですか?」


「あれ? えっ? さっきそこの電線に……」


 次に彼女の姿を視認したのは俺がいる渡り廊下の中腹だった。


 

「おじさんとこうやって顔を合せるのは久しぶりです」


「ああ……同じ学校なのにな」


 色々と言いたい事はあったが、いつも通り彼女のペースに流されてしまい口を閉ざす。

 彼女はすぐ傍で立っているだけなのに物凄く絵になっていた。その黒髪は優しい風になでられ、淡い夕焼けが主演女優を引き立てさせる照明のごとく煌めいている。

 遠くから流れてくる吹奏楽部の音ですら彼女を美しく魅せるBGMに聞こえ、まるで絵画や異世界から抜け出てきみたいな美麗さを持っていた。


 改めて彼女が美少女だと、認識せざるを得ない。

 住む世界が違う。

 そもそも未だに彼女が何クラスなのか、名前すらも知らない。というか学校で会ったのはコレが初めてだ。


 そんなお隣さんが、学校で俺なんかに話しかけるのは天変地異が起きたに等しい出来事なのかもしれない。

 その証拠に周囲を歩く生徒たちが、奇異の眼差しを俺たちに向けてくる。


 俺は煩わしさを早く払拭したくて、用件を聞こうと決心した。



「ぼっちちゃん、何か用?」


「トラップカード発動、【告知】。テスト期間が終わったと伝えにきました」


「テスト期間……?」

 

 学校のテスト期間なんてのは始まってすらいない。あと二週間後に期末テスト週間になるから、彼女は一体なんのテスト期間の話をしているのだろうか?

 いまいち彼女が言ってる内容が理解できないのは俺がハゲだからか?

 頭の毛もなければ、頭の知能指数もないと?



「テスト期間って何のテスト? ぼっちちゃん、もうちょっとわかりやすく言ってほしい」


「おじさんのYouTubo適性試験、ゲーム配信者としてのテスト期間です」


 なるほど。

 俺にYouTuboをやらせてみたり、その伸び率やらを観察したのを総称して『テスト期間』だったわけか。

 まあ薄々気付いてはいたけど、この娘は新人ユーチューバーの育成でもしていたのかもしれない。奇特なご趣味をお持ちだな。



「ずる剥けユーマと話してるあの子、可愛いな」


「おい、今おっさんがあの子を【ぼっちちゃん】って言ったよな?」


「ぼっちちゃん……?」


「え!? みるちゃん!?」


「もしかして、あの子VTuberの【ゆめみるぼっち】の中身? いや、でも……」


「たしかに声が似てた……?」


「本物か? だったら中の人も可愛すぎだろ」


「どうしておっさんなんかと話してんだ?」


 なにやら外野がヒソヒソと煩わしいので、要件が済んだのなら手短に解散してほしい。



「テスト期間が終わりましたのでアイテムカード発動、【弱者へのほどこし】。私はあなたにプレゼントを渡す」


「いや、弱者への施しって……ぼっちちゃん言い方ひどすぎ。これで照れの一つでも表情に出てるなら、照れ隠しなんだって思えたけど————え? この紙袋は……バラカのグラス!?」


 なんとお隣さんは俺に高価なグラスをプレゼントしようとしていた。


「いや、こんな……急になんで? その、俺は例の録音データさえ消してくれればいいいから、こんな高価な物は受け取れないって」


「この三カ月、おじさんが頑張ったからです。僕からのささやかな気持ちです」

 

 そう言ってきた彼女の顔は、ほんの少しだけ陰りを帯びていた。滅多に動かない彼女の表情筋が、わずかに落胆の色をにじませているのに俺は驚く。

 彼女の反応を見るに、俺はご期待に沿えなかったようだ。

 それでも俺の努力を祝福してプレゼントなんて用意してるのだから、お隣さんは親切な人だ。わざわざ俺がグラス収集をしているとリサーチしているあたり、彼女の人柄の良さが窺え——


あれ、俺ってグラス収集が趣味だってお隣さんに言ったことあったか?



「あ、開けてもいいか?」

 

 なにか変な物とか入っていたらやばい。特に盗聴器とか。

 恋子こいこの時もそうだったが、女子は油断できない。


「ここで? はい、べつに構いませんが」


 本来であればプレゼントされた物をその場で確認するなんて失礼な行為だが、背に腹は代えられない。彼女は録音データで俺を脅した前科があり、警戒するのは当たり前だ。


「おわ……透明度がものすごく高い……厳かなカットに美しいデザイン、そこにキラキラと反射する陽光……まるで夕焼けそのものを飲み込む至高のハーモニー……」


「喜んでもらえたのなら何よりです。お試しでミネラルウォーターでも入れてみますか?」


「ああ! 気が利くな! ありがとう!」


 彼女が鞄から新品のペットポドルを取り出し、手際よく俺に渡してくれる。俺はもらったばかりのグラスに水を入れ、その美しさに酔いしれる。



「ああ……なんて美しいんだ。グラスごしに輝く水、そして空に浮かぶ緑の山々が見え——」


 ん?

 なんかグラスの中身に変な景色が映ってるぞ?



「おい、なんだよこの水……変なものでも入れたの?」


「何がです?」


「変な景色みたいのが映ってるぞ……すごく綺麗だけどさ……これは空? に浮かぶ輪っか状の山? よくわからないけど、風景みたいのが……」


「何も見えませんが……輪っか状の山脈……? それって【空の王冠】? うそ、ありえない……たった2000人で? 早すぎです」


「空の王冠? なにそれ」


 彫刻のように綺麗な彼女の顔は、一瞬にして驚愕の表情に変わった。そこから俺の右手を急に掴んだと思えば、人気のいない屋上階段まで強引にダッシュ。

 お隣さんの奇行は今日に始まったことではないが、これは今までのものよりちょっと酷い。


 それからお隣さんは自分の右手を軽く抑え、表情が曇った。滅多に動かない彼女の顔がコロコロと変わるのは新鮮だけど、こちらは疑問がつのるばかりだ。


「えっと、何がどうしたんだ?」


 するとお隣さんは四角いカードケースのような物を素早く取り出し、組まれたデッキカードの一枚一枚を高速で確認しだす。

 学校にまでカードを持ち歩いてるとか、やっぱりトレーディングカードゲーム好きだったのか。



「まさかログイン制限が解除、された? グラスが【失楽園の鍵ログイン・キー】? それとも水そのものが……?」


「何をそんなに慌ててるんだ?」


「飲んでください」


「え?」


「この水を飲んでください」


「いやいや……」


「でないと、あの音声データをばらまきますよ?」


「え!?」


「時間が、ないです。飲んでください!」


 俺が動揺している間に半ば無理やりにグラスを奪われ、謎の風景が浮かぶ液体を口に押し込まれた。



「なにするんッッごぽッぷばはッ!?」


「魔法カード発動!【失楽園へログインの招待状ゲート】」


 は!?

 人の口にコップ押し付けておいて、君はなにカードをビシッと構えてるんですか!?

 なにこれ、なんなの!?


 それから数瞬、お隣さんが俺に水を飲ませるという訳の分からない構図が続く。その後、訝しむように俺を見つめたお隣さんだったが、次に飲み切れなかったグラスの水を垂らし始めた。


「けほっ、けほっ……」


 混乱極まる事態に動揺しまくりだった俺は、彼女がこぼした水の行方を見て更に驚愕に呑まれてしまう。



「え、なんだよ、それ……」


 空中に落とされたはずの液体は途中で四散し、空間そのものにヒビを広げていた。そこからホロホロとグラスが砕け散るように空間は割れ続け、輝く破片となってその先にある世界・・を映しだしていた。

 それは先程————グラスの中で見た不思議な光景と同じだった。



人生うんめいを諦めるか、自ら切り開くか、おじさんの好きにすればいいです」



 そう言ってお隣さんは右手に持ったカードを発光させたかと思えば、忽然とその姿を消してしまった。


 やばい。

 何もかも突然すぎて全く思考が追い付いていない。

 だけど目の前に広がる光景は間違いないなく現実で、トラックに轢かれそこねた時と非常に酷似していた。


 俺の全身が、何かがヤバイと警鐘を鳴らしている。それでも、その先を見てみたくて、ひび割れた空間に誘われるように俺の足は自然と進んでしまった。



「ここは、なんだ……?」


 世界が割れた先には、信じられない風景が広がっていた。

 ここは確かに学校の屋上階段だったはず。それがどうしてこんな、俺は空の上にいる?


 いや、正確には緑の茂った傾斜のきつい……小山……いや、山脈? 

 その山脈は輪を描くように大空に浮かんでおり、俺はその中腹あたりに転がっていた。それはまるで巨大な山の外縁だけを残し、真ん中をぽっかりとくりぬかれてしまったかのような……まさに山脈によって作られた王冠そのものだ。



「これが……お隣さんが言ってた【空の王冠】?」


 そう、確かに王冠のような形状をしている。

 だけど理解がまるで追い付かない。


 いやいやいやいや、なにこれ!?

 やばい薬でも飲んで幻覚を見せられてる!? もしかしてあの、水が!?


 しかし、草の匂いが、頬を打つ風の強さが、何より草の上に寝っ転がっている触覚が、この瞬間をリアルだと猛烈にアピールしてくる。


 この感覚はどこかで身に覚えが————

 そう、VRゲーム『アーセ』をプレイした時と酷似している————



『おっさんがこの時間に配信始めるとか珍しいな』

『◆今日はどんなゲーム配信をされるのですか?◆』

『見たことないフィールド、一人称視点のゲームであるか』


 は!?!?

 視界の隅に小さくコメントが流れ出し、俺の混乱は極致へと至る。



「え、待って。この光景、視界……が配信されてるの?」


『おっさんが動揺してるww』

『なんだなんだ、機材トラブルかー?』

『◆あら、誤爆配信でしょうか?◆』

『キャプチャーを切らねば、無限に配信画面が流れ続けるのである』


 待て待て待て、本気で理解不能なんだけど!

 そんな俺の動揺は、更なる通知の嵐により一層深まってしまう。


【ユウマ】

【HP7/7 MP4/4 力3 色力いりょく18 防御3 素早さ4】

【割り振り可能なポイント0,2 = 信者数/登録者数2012人】


権能スキル 『背信者はいしんしゃ』Lv1 『おっさん』Lv3】



 視界に浮かんだ羅列する情報はまるでゲームのステータスそのものだ。

 ログインがどうのってお隣さんも言ってたし、これはゲームなのか?


 いや、そもそもこのステータス画面にはやはり見覚えがある。


「これは確か【アーセ】での俺のステータス?」


 チュートリアルの神々からステータス補正を受ける前の数値と同じように思える。


『なにこれ、おっさんのキャラステータス?』

『てか、メルちゃんは実況しないの? おっさんのソロ?』



「いや、俺もわけわからなくて……急にここに移動したっていうか……」


『なになに、ロールプレイ実況か?』

『異世界に転移したていでの実況? 新しいなww』

『◆すてきな演技力です◆』


「いやいや! なんだよこれ!? マジでヤバイやつだって!」


 後ろを振り向いて確認するも、屋上階段に繋がるはずのひび割れた空間はとっくに閉じ切っていた。


『おっさんの迫真演技wwww』

『ガチで焦ってるやんwww』

『この高グラフィック、新作のVRゲームであるか?』


 強風が少ない髪を撫でたり、この傾斜を転がり落ちたら確実に死ねる高さだとか、雄大すぎる大空とか、確かに【アーセ】で味わったリアリティ感が半端ない。

 マジで訳がわからなすぎる。


 しかも、なんだあれ?


 

「なんか……蛇みたいのが空を飛んでる……?」


『お、モンスターか? チュートリアル戦闘の始まりだ』

『◆どんどんこちらに向かってます◆』


『でかくね?』

『うわー初見殺しやん!』

『負け確イベントである可能性、大である!』


 リスナーの指摘通り、山脈を優に超える高度からゆるやかに下降する巨大蛇が疾駆していた。それはみるみる間にこちらに近づき、その全容を把握した俺は絶望一色に染まった。

 綺麗な海色の鱗をびっしりとまとい、野太い双角は御神木のように泰然としている。家一軒を容易にかみ砕けそうな規模のあごが、俺の方を向いてる時点でもうやばい。


「りゅ、龍うううう!? いやいやいやいや!? あれはやばすぎいいいい!」


 全長がビルと同等サイズの龍が猛スピードでこちらに迫っていた。


 

『おっさんおわたwww』

『◆あれは無理ゲーです◆』


『おい! 龍の右上見てみろ!』


『誰かが飛んで来るのである』

『弾丸かよ』


 迫りくる龍の体躯を茫然自失で眺めていた俺は、リスナーの指摘を受けて右上に視線を向ける。

 確かに少女が空を切って、龍めがけ突進していた。



「——【女王の格付けディスカウント】——あんたは【1点】」



 突如ドゴッと鈍い破裂音が響き、同時に龍の頭部は何かに弾かれた。

 あの重量の生物の進行方向を変える圧倒的衝撃に驚愕したが、それを実行した人物が誰なのかを把握して開いた口が塞がらなくなった。



「ちょっと、なんで【空の王冠】に人がいるのよ! あんた誰!?」


 太陽のように輝く金髪をツインテールで結び、制服姿で宙を舞っていたのは超有名な美少女。

 YouTubo界の女王と言われ、今やそのチャンネル登録者は1500万人を超える女子高生YouTuber、ヒカリンその人だった。



「うわっ、あれくらってピンピンしてるとか……レイの言う通りってわけね」


 空を滑空するヒカリンめがけて龍は即座に反撃の意思を見せる。その光景は羽虫を喰らおうとする大蛇そのもので、俺は彼女が無残な姿になってしまうのを連想してしまう。

 しかし彼女は電流みたいな光を全身にまとわせ、高速で宙を舞って龍の猛攻を避け続ける。


天挺てんていの構え——遠雷をたっとび、暗雲の始祖たる栄冠えいかん其方そなた此方こなた彼方かなたに授けん」


 今度はファンタジー脳を刺激するような台詞を口早に紡ぎだすヒカリン。もう本当に何が起きてて、どうすればいいのか不明である。

 しかも、急速に辺りが暗くなっていくので不安も募る。



あたわぬ者に黙約の絶塔を討ち建てん——」


 だけども次の瞬間、彼女が何をしたかったのかは簡単に理解させられた。



「【百雷びゃくらい塔の光臨こうりん】」


 それは神が降臨したと見まがう程に眩しかった。

 いつの間にか上空には暗雲が立ち込めており、世界を覆う黒い闇から幾筋もの光が走る。まるで何十匹もの龍が天空を這いずりまわるように稲妻が踊り、それらは集束していった。そして、一つの円柱となって龍へ垂直に降り注いだ。

いや、あれは落ちたのだ。


 轟音が鳴り響き、数瞬後には立っていられない程の余波が俺を巻き込む。ヒカリンが生み出した光の柱へあらゆる物が引き込まれるように、俺の身体もふわりと宙に浮かび上がる。



「うわっ、へっ!?」


 初めての感覚にパニックになりそう。


「光るところに、あたしりってね」


 さらにヒカリンはミサイルのごとき豪速で俺のすぐ傍に着弾。風圧と衝撃で吹き飛ばされそうになるが、寸でのところで彼女に手を掴まれる。

 傾斜が激しい立地状、空中に身を投げ出された俺は彼女と手を結び——

雷撃の嵐と、青空が入り混じる至近距離で目と目が合う。



『ヒカリンであるな』

『やっぱりヒカリンだよな!?』

『登場キャラがユーチューバーのゲーム!?』


『ファンタジー世界をユーチューバーと駆け抜けろってか』

『俺もやりてええ!』

『◆とってもおもしろそうです!◆』



 コメントは大盛り上がりだが、俺は完全にタマヒュン状態だ。

 そんな恐慌状態も一瞬で、彼女の力強い引き戻しによって地面へ着地させてもらう。その後、ヒカリンは動画でお馴染みのポーズで名乗りだす。


「ぷんぷん、ハローユーチューボ! どうも、ヒカリンです」


 ニカッと笑い、左手でイェッサーの仕草をするヒカリン。

 美少女力が眩し過ぎて直視できない。



「えっと、ガチのヒカリン……?」


「その反応、私を知ってるってことは同じユーチューバーね」


 YouTuberなら、誰もが自分ヒカリンを知ってて当たり前。

 暗にそう言った彼女は、女王にふさわしい不敵な笑みを浮かべていた。







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