第15話:アナ・デ・トライザクト

ってことで仏像仮面ブッダーが姫の要望に応えるべく我が家にやってきた。

転送って便利・・・呼んだらすぐ来れるんだから。


「姫、コスプレーヤーになるつもりござるか?」


「今回だけね、基本はゴスロリだから」


「さっそくでござるが・・・姫にぴったりの衣装を持参したでござる」

ってことことで姫は仏像仮面が持ってきたコスプレ一式、ウィグや衣装を

身につけた。


なんと・・・なんとそれは、「ブルーヘブン・ファンタジー」と同じ

ネットゲーム「クレセントムーン・シンフォニー」のキャラ

《アナ・デ・トライザクト》だった・・・」


アナに変身した姫は、惚れ直すくらい俺のハートを穴だらけにした。

コスプレって、あなどってはいけない・・・それだけで好きになって

しまうから・・・。


これなら、今の姫なら雪白に勝てる気がした。

もともと姫は身長もあるし9頭身だから、こういうコスプレをすると

めちゃ際立つ。

まるでゲームの中から出てきたみたいだった。


俺は姫を連れてコスプレイベントの会場に出かけた。

姫がアナにコスプレしたまま出かけたので電車の中でも、どこでも姫は

注目の的だった。

勝手に写メ撮る奴がいたり、コスプレになんか興味なさそうなサラリーマン

のおっちゃんとかもジロジロ、姫を視姦してるし・・・。


注目されてるのは俺じゃないのは分かってるけど、そんなに人に見られた

ことがないから、どうも居心地が悪いったら。

俺は知らん顔して姫の手を離さいないように握っていた。

また腕が外れたりしないか心配しながら・・・。


電車を降りてタクシーを捕まえて、会場に着くと、すでに大勢のオタクと

カメコが来ていた。

コスプレしてる男子や女子もいて、コスプレ好きにはよだれものだった

だろう。


「たくさん人来てるね」


「この人たちみんなコスプレオタクだぜ・・・すごい熱量だよな」


俺はほんとは雪白のセルジュに扮した、コスプレが見たかったんだ・・・

でも姫のアナ・デ・トライザクトを見たら、そんなことどうでもいいやって

気持ちになっていた。


たしかに雪白のセルジュは群を抜いている。

でも、でも姫のアナを見たら、他のコスプレーヤーのことは一気に興味が

失せた。

で俺は、先に会場に来てるだろうヨコチを探した。

待ち合わせの場所まで行くと、ヨコチは雪白のセルジュのところで写真を

撮っていた。

さすがに雪白は人気があるようで、たくさんオタクとカメコが集まっていた。


俺は雪白に夢中になってるヨコチに声をかけた。

ヨコチは俺の方を見て、「おっ」って言ったあと、二度見して固まった。


アナ・デ・トライザクトにコスプレした姫を見たからだ。

ヨコチの時間がそこで止まっていた。


「ヨコチ・・・おい、ヨコチ・・・」


俺の声は聞こえてなかったみたいだ。

もちろんヨコチは姫に魅入られていたのだ。


「ヨコチ・・・・ヨ・コ・チ〜」


ようやく我に返ったヨコチ・・・姫をぐるっと回ってアナを穴があくほど

見た。

まるで品定めするように・・・。


「ヨコチ・・・近いってば・・・ナグるよ・・・」


うっとうしそうに姫がそう言った。


「姫ちゃん?・・・まじで?」

「いや〜参ったな・・・いや〜、言葉がでないわ・・・いや〜

まじでか・・・アナ・デ・トライザクトってか?」


「もう一回、付き合ってって告ってもいいかな?・・・」


「ヨコチ・・・また姫にビンタ食らうぞ」


「いい、入院してもいいわ・・・姫ちゃんにビンタ食らうなら、俺は本望」


「完全に姫にいかれてるな・・・」


「何度、告っても無駄だからね・・・私にはツッキーしかいないんだから」


「あ〜その言葉は、死刑宣告されてるようだ・・・」


ヨコチは頭を抱えて嘆いていた。


(姫は俺の彼女・・・ヘタレのおまえになんか渡すかよ)


そんな珍劇をやってたら姫のコスプレを見つけたオタクやカメコが次々

寄ってきた。

そりゃそうだろう・・・姫は際立っていたからな。

大変な騒ぎになった。


姫の周りは人だかりになって、どんどん囲まれていった。

俺は蚊帳の外・・・ただ見てるしかなかった。

ここは姫には触れないほうが無難・・・俺が姫と関わりがある男だと

思われたら、なんかマズい気がした。


その間に俺は雪白の生セルジュを見ておこうと思ったら、雪白のほうから

俺のところにやって来た。


うん、雪白のセルジュも、思った以上だ。

揺れ動く男心・・・雪白のセルジュ・フォン・ヴァルデックもいいな〜・・・

鼻の下が伸びる。


「迦具夜さん・・・あのコスプレ、妹さん?」


「あ、そうだけど・・・」


「ふ〜ん・・・すごい人気ね」


「いや〜俺は雪白さんを見に来たかったんだけど、妹が私も行くって

いうから」


「連れてきたら、こんなことになっちゃって・・・」


「あの子・・・私のファン、全部持っていくんじゃないの・・・そんな

勢いだけど・・・」


「にわかコスなんだ・・・今回だけのね」


「ふん」


完全に雪白の嫉妬から出た「ふん」だった。

素人がって言ってるような冷たい目だった。


それで俺の気持ちは一気に冷めた。


姫が前に「そりゃね、見た目って大事だと思うけど、問題は中身でしょ?」

って俺に言った言葉。


今はそれが、よく分かる気がする。

雪白は見た目はいいけど、中身が問題な女なんだ・・・。

早めに雪白の性根が見えてよかったと思った・・・いつまでもよその女に

うつつを抜かしてたら姫に悪いもんな。


姫を連れてイベントに行くってのに最初はちょっと抵抗があったけど、

今回のイベントに来て雪白のことが少しでも知れて正解だったかもしれない。


でも、でも姫一人、こんな大勢の大衆の中にさらしておくなんて、俺は

とっても危険を感じた。


みんなの姫を見る目が異常なんだもん。

絶対危ないと思った。

姫を見ると、手なんか降って、カメコにポーズなんかとっていた。


「まじでか・・・その気になってるよ」

「ゴスロリやめてコスプレにハマるんじゃないのか?」


そしたら俺の肩を叩く奴がいた。

ヨコチだと思って、振り向いたら・・・・仏像仮面ブッダーだった。


「来てたのかよ・・・」

「ああ・・・そのまま仏像仮面ブッダーでコスプレ大会に参加できるな」


「大盛況でござるな・・・南無阿弥陀仏・・・」


「それ言われると、引導を渡された気分だわ」


つづく。

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