第12話 なんとあの貞淑なパトリシアが……
ロザリー的に『可愛いリスさん作戦』はなかなか良かったのではないかと、手応えを感じていた。若い男性はなんだかんだいって、メルヘン系女子に弱い――それはロザリーが経験から学んだことである。(※あくまでもロザリー調べ)
そんな訳で勝ち誇った気持ちで泉のほうを見遣ったロザリーは、予想外の光景を目の当たりにすることになる。
見たものがあまりに衝撃すぎたため、肝の据わっているはずの彼女が、顎が外れるかというくらい、カクンと大きく口を開けてしまった。
「あ……え……あ……?」
言葉にならない。
というのも、なんとあの貞淑なパトリシアが、尻を天高く突き出し、四つん這いの姿勢を取っていたからだ。膝を突いたままで尻だけピンと立て、肩、頭部は低く下げている。どうやらパトリシアは体が柔らかいらしく、背中が弓型にしなっていて、てっぺんに当たる腰部分にかけての曲線は、芸術的なほどに滑らかだった。
ロザリーたちはパトリシアから少し離れた後方に位置しているのだが、若干斜め横にズレた所にいたため、突き立ったお尻の向こう側(彼女の反った背や、艶やかなまとめ髪)も、ほんの少しだけ見ることができた。けれどやはり見えるのはほんの少しであり、見えすぎはしない。絶妙な加減である。
――なんというか、まるで盛りのついた猫が、お尻をくねらせ、地面に首筋をこすりつけているようだわ、とロザリーは考えていた。
もちろん彼女は裸であのポーズを取っているわけではないから、見せてはいけないものは何も見えてはいないし、破廉恥ではないと言われれば、それはそうなのかもしれないが……いや、でも……?
普段大人しくしていて、感情をほとんど表に出さない彼女が、あのようなアグレッシブなポーズを取ると、えもいわれぬエロチシズムを感じさせるのは確かである。
……ねぇだけどやっぱり、服を着ていても、だめなものは、だめよね? ロザリーは瞬きを繰り返し、次第にきつく顔を顰めていった。そうよ、あんなポーズ、ありえない!
慌てて横を見ると、アレック殿下もマックスも、口をあんぐりと開けている。数秒前の自分を見るようだとロザリーは思った。――彼らが自分と違う点は、その佇まいに、切羽詰まった何かがあるところだ。
彼らの頬は上気しているし、瞳に熱がこもっている。二人がパトリシアに対し、強い性的関心を抱いていることは、こうなってはもう疑いようもない。
けれどまぁ、それはそうなのかもしれなかった。だってロザリー自身は異性愛者で、パトリシアに対して性的関心がないにも関わらず、あの四つん這いにはドキリとさせられ、鼓動が速まったくらいなのだから。
尻を立てるポーズそのものがこれほど皆を煽っているのか……とよくよく考えてみて、それだけではないのかもしれないということに気づいた。もちろんポーズ自体もアレな訳だが、『それをあの普段無口なパトリシアがしている!』というのが、より興奮度を高めているような気もする。
そしてパトリシアはこちらに尻を向けているので、彼女の顔が見えないというのも、男たちの気を惹いている原因かもしれなかった。――どんな顔であれをしているんだ、俺だけに見せてみろ、とでも男性陣は考えていそうだ。
……では逆に顔が見えていたら良かったのか? しかし、それはそれでまた問題がありそう。
顔を見ることができていたなら、欲望に拍車がかかり、とんでもないことになりそうだった。ということはつまり、隠されていて良かったということになるのだろうか?
今の彼らの様子を見るに、もしも『パトリシアのあのポーズを、あと十分じっくり見せてやるから、代わりに拳で思い切り殴らせろ』と屈強な男に言われたとしても、さして躊躇うこともなく、二つ返事で了承しそうである。
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