第五話 超絶美幼女ドリーマーRIAMUちゃん
今夜の空は、星と月よりも雲の方が多くの領域を持っていた。ただでさえ人工の明かりがない丘を進む道は、天の光さえ途切れがちとなると、足元を見ることすらおぼつかない。しかしそれは普通の人に限った話。タケボディ製の高性能ボディであるRIAMUちゃんの目は、当然のように夜の闇を容易く見通す。ただそれでも昼のように見えているわけではなく、足取りは小走りにとどまった。と言っても、クリフトという錘を背負っていながら、成人男性の本気の走りよりはよほど早いのだが。
そんな一行を見守るのは、草木に空、動物に虫たちだけ、ではなかった。今宵に限っては。空を見よ。雲の作る闇に紛れ、蝙蝠が飛んでいる。まるで彼らを見張っているように、一匹の蝙蝠がずっと彼らの上を飛んでいる。否、それは蝙蝠ではない。確かに蝙蝠のような翼で空を羽ばたいているが、その身体は人間の美女のそれだった。
「一体全体、いつまで走るつもりなのかのう」
蝙蝠女が独り言をつぶやいた。しかしそれは誰の耳にも入らない。如何に高性能ボディといえども、自分で走り音を立てながら、蝙蝠女がただの蝙蝠に見えるほどずっと上空での呟きを、聞き取れるほどではない。
「夜通し走るつもりとは思いたくないがの、っと。やっと休みかぇ」
彼女の願いが通じたわけではないだろうが、ピンク髪の幼女は足を止めた。
「くふふ、さあさあ野営の準備をするのじゃ。魔導に巨雄に最硬が勝てなんだ、正々堂々戦ってどうにかなる相手ではなかろう。じゃが、一日中ずっと気を張っておれる人など存在せぬ。あやつが眠ったその時、妾の勝ちじゃ」
勇者の首飾りを手にし、大願成就の最大功労者となった自分を想像し、意識が幼女から離れた妖姫。
「さてはて、どれくらい……ってなんじゃあ!?」
妖姫の意識が現実に戻ってきた時、目立つ幼女のピンク髪はそこにはなく、その代わりに一瞬前までは存在していなかったはずの家が、丘に建っていた。
「ふー、ふー、落ち着くのじゃ。これは魔導の報告にもあったはずじゃ」
驚愕からの興奮で、顔が真っ赤になった妖姫だったが、深呼吸をして何とか落ち着いた。
「くふふ、何も問題なかろう。あやつらはもう妾の掌の上じゃ」
普段通りの余裕に溢れた表情を取り戻した妖姫だったが、その独り言は自分に言い聞かせているようにも聞こえた。
草木も眠る丑三つ時、という表現はこの世界にはないだろうが、妖姫は確実に標的が寝静まる深夜まで待ち、満を持して丘に建てられた家の近くに、音もたてず降り立った。そして静かに、しかし優雅に家のドアの前へと進み、手で印を結び、呪文を唱えた。
「……精神魔法、ディープスリープ。これで朝までぐっすりよ」
妖姫が魔法を発動すると、妖しげな色をした霧が家を覆う。それを確認すると、彼女は妖艶に笑い、堂々と正面玄関のドアのノブを手に取り、ひねり、電流が流れて悶絶した。
「あびゃびゃびゃびゃびゃびゃ!?」
次の瞬間、足元の床が突然びよーんとバネ仕掛けで跳ね上がり、上空に飛ばされる妖姫。彼女が状況を理解する前に、屋根の一部が持ち上がり、顔を出したガトリング砲から、雨あられのようにペイントボールと鳥もちが叩きつけられる。
「あだだだだだだだ!?……あだっ!?」
カラフルな鳥もちまみれになった妖姫は、遠くの地面に頭から着地した。
「あやつらの寝込みを普通に襲うのは不可能じゃ。故に、信用させて懐に潜り込むんじゃ」
「なるほどですぜ妖姫様」
翌朝、丘の道の先、小さな森を通る道の脇で、妖姫と褐色肌に紫色の髪をポニーテールにした美少女が、作戦会議を行っていた。
「山賊に襲われるているお主を見たあやつらは、お主を助けるじゃろう。そこで王都までの同道を申し出、今晩妾を内側から招き入れるのじゃ。良いの?」
「もちろんですぜ妖姫様。ただ、妖姫様が潜入すればいいんじゃねえんですか?なんでわざわざ俺が美少女に化けてまで?」
「……じゃ」
妖姫は俯き、聞き取れない程小さな声で言った。それを聞き取れず、聞き返す少女。
「はい?」
「変身してもこの色が取れないんじゃ!」
勢いよく上げられた妖姫の怒りに染まった顔は、カラフルに染まってもいた。昨夜ぶつけられたペイントボールは、水で洗って落ちるような生易しい防犯グッズではなかったのだ。
「いいから盗賊を準備せい!」
「へ、へい!」
虎の尾を踏んでしまった少女は、慌てて印を結び、長々と呪文を唱えた。
「……今我の呼び声に応え、冥府の門をくぐり、仮初の肉を纏い、偽りの生を得よ。闇魔法禁忌、サモンスケルトン・オリジナル!」
長い詠唱が終わると、少女の手から禍々しい黒い霧が生まれ、地面に吸い込まれていき、その地面から何体もの白骨化した人の骨が這い出てきた。その人骨達が完全に地面から出ると、今度は土が盛り上がり人骨達を包み込んだ。
「ふむふむ、流石は魔導の配下、素晴らしい魔法じゃのうモート」
「おほめにあずかり光栄ですぜ、それじゃあ調整しやすんで」
しばらくして、人骨を覆った土が剥がれ落ちると、そこには盗賊としか言いようのない野卑な顔つきをした男たちが、無表情で立っていた。妖姫はその完成度に機嫌を直し、作戦の成功を確信し舌で唇を舐めた。
「来やした!」
「よし、作戦開始じゃ!」
双眼鏡を覗きこんでいた美少女、モートの合図で、妖姫は森の茂みに飛び込み、盗賊たちはモートを襲う振りをし始め、モートは襲われる演技を始めた。
「きゃー!たすけてー!だれかー!」
風のような速さで走り、こちらに近づいてきているはずの幼女一行に聞こえるように大きな裏声で悲鳴を上げるモート。ほどなくして、お目当ての幼女がやってきて、止まった。
「ああ旅の人たち!どうか助けて下さい!」
必死な表情を取り繕い、幼女に駆け寄ったモートに対して、我らが美幼女RIAMUちゃんは、背負っていたクリフトを地面に下ろし、いつものおじぎ姿勢を取った。
「美幼女ビーム」
極彩色の非殺傷光線がいつものように放たれ、偽の盗賊たちを瞬きの間に吹き飛ばす。
「あ、ありがとうござい」
「ちぇい!」
そしてそのまま上体を動かし、駆け寄ってきていたモートも光の波に巻き込んだ。
「な、なんでぇえええ!?」
「ちぇすとー!」
更にそれだけでは止まらず、道の脇の茂みにも必殺技をブチ当てた。
「なんでじゃああああ!?」
そこに隠れていた妖姫は当然吹き飛ばされ、空を旅することになった。
「ええい!こうなれば、プランツーじゃ!」
飛ばされながら、蝙蝠の翼を生やし姿勢の制御を行い、妖姫は叫んだ。
時刻は正午くらいだろうか、小さな森を抜け、林と草原の中間のような場所を通る道を、ニャカネ・ンボナンビ・マピンピをかじり、ジューナンマンを見ながら歩いていたリン達は、前方にあるものを見つけ、立ち止まった。
「あれは、村か?こんなところに村があるなんて隊長言ってたか?」
『美幼女メモリーに該当記録は見当たりませんね』
数軒の家屋があるだけの、畑もなく柵で囲われてもいない村を、高性能な視力で確認したリンは、首を傾げ、触手を食べ切ると、全身タイツの男がタコを模した怪人をチョークスリーパーしている立体映像を止めた。
「んん、では最近できたのでしょうか?」
同じく食べ終えたクリフトが、いつもの微笑みを浮かべながら、同じように首を傾げた。
「んなわけ……いや、なくもないか?」
そんなクリフトの発言を、いつものように一笑に付そうとしたリンだったが、ふと今朝から続いた出来事を思い出してやめた。
「朝、起きたら家の警備装置が作動していた。その後、このボディのすげえ視力を知らないで、罠にかけようとしてきた盗賊と女の子となんかカラフルな女の怪しい集団を倒した」
声に出しながら思考を纏めたリンは、結論を口に出した。
「今度は村を作って罠に……いや流石に考えすぎか」
二度あることはなんとやら、疑心暗鬼に陥りかけたリンだったが、口に出していると馬鹿らしくなり、多少の懸念は残ったが考えを改めた。
「どうせ隊長が伝え忘れたとかだろ」
リンは、どちらにしろ着けば分かるだろうと、歩みをやや早めた。
数分後、村の中には十数人の村人に囲まれる幼女と神官の姿があった。リンの顔は、真顔だった。ネット上でミーム化しそうなほど綺麗な真顔だった。それもそのはず、集まっている村人たちが美女しかいないのだ。それも皆、思い思いに着飾ったような格好をしている。リンは最早描写が必要か怪しいほどいつも通り微笑んでいるクリフトの耳元にそっと近づき、小さな声で言った。
「怪しい」
「そうですか?」
何が怪しいのか全くわかっていない様子のクリフトに、リンが続ける。
「まず、家が綺麗すぎる。まるでつい最近急ぎで建てたみたいにな。それに、こんな数軒しか家がないのにこんなに女の人ばっかりいるか普通?」
「神の気まぐれで女性ばかり生まれた、ということも」
「どんな偶然だよ……。二択だとしても十何回連続で同じのを引くなんて、えっと、何万分の一の確率だぞ。それに同じくらいの年の若い女しかいないなんて、宝くじが当たるぞレベルだぞ。そんな偶然を考えるより、誰かが意図的に若くて見た目のいい女を集めたって方が、よっぽど現実味があるだろ」
そうして罠を疑うリンの元に、一人の女性がリン達を囲う輪から離れてやってきた。その女はにこやかに笑っていたが、その笑顔はリンに何か空虚さを感じさせた。
「実は私たち、旅人さんたちとの出会いを祝して、宴を開こうと思うんです」
正体不明の美女が謎の理由で宴に誘う。リンは、一つ深呼吸して気合を入れて笑顔を作った。虎穴に入らずんば虎子を得ず。口は笑っているが、彼の瞳は戦いに向かう者のそれで、絶対に企みを暴いてやる、俺を騙せるなどと思うなよ、と雄弁に伝えていた。
「絶対に企みを暴いてやる、俺を騙せるなどと思うな、って目をしてたんじゃがのう……」
「していやしたねえ……」
美少女と美女、もとい妖姫とモートは、なんとも言えない残念なものを見る目でこの惨事を見ていた。
神官は酒瓶の山に沈み、幼女はランドセルに首を突っ込み、轟沈していた。寝息は豪快に立てているので、生きていることは分かる。
彼らが沈むその周辺もまた、彼らに負けず劣らず酷いことになっていた。コップにグラス、酒瓶に食器が無事か無事でないか問わず散乱し、食品類も同様に。また、何よりも異様なのが、人の骨にしか見えない、というかまさに人骨がそこら中に散らばっているのである。更に少し前まではまるで作り立てのように傷一つなかった民家が、全て倒壊ないし半壊の憂き目にあっている。猟奇的というのか、狂気的というのか、少なくとも正気の宴ではなかったようだ。
「ジュースと騙して魔酒を飲ませた妾が言うのもなんじゃが、酒癖悪すぎじゃろ……」
「ま、いいじゃあないですか妖姫様。ちゃあんと酔っぱらってぐっすりですぜ」
「結果だけみれば、のう。まあよし、取り掛かるとするかのう……」
そう呟き一つ深呼吸をすると、妖姫の表情が変わった。今までの呆れたような顔から、獲物を前にした蛇のような笑みに急変したのだ。
「さてはて、勇者の首飾りをどこに隠しているか、それに妾たちの計画をどこまで掴んでいるか、聞くとするかのう。寝てしまって魅了できんのがちいとばかし面倒じゃが……」
舌なめずりをした四天王は、ゆっくりと頭をランドセルにつっこんだ幼女の元へ向かい、その頭を引きずり出した。途端に広がる酸っぱい匂いと、飛び散る吐しゃ物。
「ばっちいですなぁ」
「ええい水を差すでない!雰囲気を考えよ!」
モートは平謝りし、妖姫は一度睨んでから表情を作り直した。
「……こほん。酔い、騒ぎ、深い眠りについたその柔い柔い剥き出しの心、よぉく覗かせてもらおうかの。闇魔法、マインドリーディング」
妖姫は幼女の額と自分のそれを合わせ、動かなくなった。
軽快で楽し気な音楽が鳴り続けている。そこかしこから子供の笑い声、叫び声、話声、様々な声が響いている。妖姫が目覚めてすぐ、そんな音たちが耳に入ってきた。
「なんじゃ、ここは?」
彼女は目を開き、周囲を注意深く観察した。そこは、極彩色のジェットコースターがピンク髪の幼女を乗せ走り、パステルカラーのコーヒーカップがピンク髪の幼女を乗せ回り、ゆめかわいい配色のメリーゴーランドがピンク髪の幼女を乗せ揺れる、全体的に目がチカチカしそうなカラーリングをした遊園地だった。もちろん、遊園地というものを知らない妖姫に、ここがなんなのか正確なことは、わからない。ただ、一つだけはっきりと分かることがある。
「なんで心の世界に自分が何人もおるんじゃ!?」
とんでも幼女で溢れかえっているということだ。
「それに何故こんなに広いんじゃ?これではどこが記憶の領域かわからんではないか!」
妖姫が叫び、地団駄を踏む。その時、揺れた自分の髪の毛が視界に入った。
「これは、まさか」
妖姫は、頭を振った。ツインテールに結われた髪が揺れる感覚を、頭部に感じる。次に手をみた。美女の姿をしていた時より、明らかに幼い。
「まさか、本当の――」
「お客さん、チケットもってますか?」
妖姫が何か言おうとする直前、突如目の前から声がした。
「ひぃ!?」
そこには、一瞬前までは絶対にいなかったはずの幼女がいた。ピンクのショートボブ、見間違えようがない我らが幼女である。スタッフなのだろうか、それらしい制服を着ている。しかし、服装を除いて、一つ大きく違う点があった。それは赤いランドセルを背負っていないことだ。
「チケットなしの入場、そういうの困るんですよね。異物と断定、排除します!」
突然現れた幼女は混乱する四天王をびしっと指さすと、逆の手の親指と人差し指をはむっと咥えた。そして次の瞬間には甲高い音が辺りに響く。指笛だ。
「なんじゃなんじゃ!?」
妖姫が事態を飲み込む前に、次々と事が進んでいく。指笛が吹き鳴らされると共に、辺りで遊んでいた同じ顔をしたピンク髪の幼女が、鹿せんべいを見た鹿の如くわらわらと集まってきたのだ。
「侵入者ですね!」「やっとRIAMUちゃんたちの出番です!」「ハッキングは許しません!」「ちょっと呼びすぎじゃないですか?」「戦いは数ですよRIAMUちゃん!」「ハッキング受けてショッキングなキング『ファッキ○グ!』」「汚い言葉は幼女らしくないですよ」
集合恐怖症の人が見れば発狂しそうなほど、視界を埋め尽くす勢いで現れた幼女モドキが、各々勝手に喋り始める。つい先ほどまで楽し気な音楽と声に溢れていた遊園地が、酷い喧騒に包まれてしまった。
RIAMUちゃんたちが勝手に騒ぎまくり、一部では喧嘩すら勃発しているこの混乱した状況で、妖姫はむしろ平静を取り戻していた。全くもって何がどうなっているかは分からないが、やるべきことは分かる。撤退だ。
「解除!……解除解除!」
腕を上から下へ振り下ろす。焦るように何度か繰り返すが、何も起こらない。
「知らないのですか?美幼女からは逃げられません」
「な、なんなのじゃいったい!」
「のじゃ?」
四天王の叫びに、全RIAMUちゃんの動きが止まり、視線が彼女に集中する。一体なんだ何かまずいことを言ったかと固唾を飲んだところで、幼女たちが一斉に騒ぎ出した。
「のじゃ!」「のじゃロリ!」「ロリババア!」「のじゃロリババアなのじゃ!」「このご時世に安易なのじゃロリババア、恥ずかしくないんですか?」「個性というのは属性の切り貼りではないんですよ」「流行が遅れまくり、なるほどババア要素ですか」「やーい、お前のかあちゃんのーじゃロリー」「のじゃロリはすでにノージャンルなの、じゃんねんでしたね」「おやじギャグは幼女らしくありませんよRIAMUちゃん」
「……こんガキゃぁ」
妖姫は現状を把握できてはいなかった。何故何人も同じ顔の幼女がいるのか、何故魔法を解除できないのか、何故自分の姿が……何一つわかっていなかった。しかし、やることは決まった。
「寄ってたかって人の喋り方を笑いよってこんのクソガキどもが!四天王の怖さを思い知らせたらあ!」
妖姫が無造作に両腕を振り回す。たったそれだけで、発生した風圧がRIAMUちゃんズを吹き飛ばし、妖姫の周囲にRIAMUちゃん空白地帯を生み出した。
それを成した彼女は少し溜飲が下がったようで、ドヤ顔で腕を組んだ。
「ふん、精神世界で妾に勝てると思わんことじゃな!」
もちろん、現実世界の妖姫にこのような物理的パワーはない。そういうのは別の四天王の担当である。しかしここ精神世界に限って言えば、妖姫は圧倒的な力を振るうことが出来た。
「RIAMUちゃんの性能をなめないで下さい!」「美幼女ぱーんち!」「突撃突撃!」
何人かのRIAMUちゃんが意気揚々と妖姫へ吶喊する。
「理解不能です!」「美幼女ぴーんち!」「撤退撤退!」
だが妖姫に一切の痛痒も与えられず、いとも容易く蹴散らされる。
そして、戦場が硬直した。RIAMUちゃんズは手を出しかねて、四天王はどう調理したものかと余裕気に。
「どうしたのじゃ?こないのかのぅ?」
四天王からの挑発を受け、RIAMUちゃんたちは苦い顔をし、直ぐに頷き合った。
「こうなれば、奥の手です!」
一人がそう叫ぶと、彼女たちは今までよりも大きく妖姫との距離を取った。
何をするつもりかと注意深く観察する妖姫の目の前で、RIAMUちゃんたち三人が一人のRIAMUちゃんを持ち上げた。
「美幼女大砲!」
「なんじゃとぉ!?」
そして、なんと持ち上げたRIAMUちゃんを妖姫に向けて投げつけたのだ。
「ワンフォーオール、オールフォーワン!」「みんなは一人のために、一人はみんなのために!」「肉を切らせて骨を断つのです」「大砲、キャノン、きゃ、きゃ、ダメです思いつきません」「無理におやじギャグを言う必要はありませんよ」
三人分の力が集結したからか、一人一人吶喊した先ほどよりも人間大砲のスピードはかなり速い。意表を突かれ対処が遅れた妖姫は、しかしギリギリで弾を躱した。
「今です、美幼女自爆しなさい!」
「バンザーイ!」
「ぎゃあ!?」
だが一手上回ったのはRIAMUちゃんズだった。砲弾と化した幼女は、どこからか扇子を取り出し突き出しているRIAMUちゃんの命令により、どういう理屈か爆発したのだ。
「さあ、次です!」「バンザーイ!」「今です!」「バンザーイ!」
あまりにも人命を軽視した特攻に、流石の四天王も躱しきることはできない。最初の一発、もしくは一人以外直撃こそしていないが、爆風がじりじりと肌を焼き蝕む。
「命が惜しくないのかえ!?」
「勝利の為に自分一人の命を惜しむ軟弱者はここにはいません。そうですねRIAMUちゃん!」「い、いえRIAMUちゃん自爆は幼女的ではないと思うのですが……」「この敗北主義者を次の砲弾に!」「バンザーイ!」「バンザーイ!」「い、イヤー!?バンザーイ!」
「心はないのかえ!?」
妖姫の訴え何するものぞ、非人道兵器美幼女大砲は休むことなく稼働し続ける。残弾数も、申し分ない。次から次へとどこからともなく幼女は補充されている。気づけばあちらこちらで、次の砲弾に決まったRIAMUちゃんが勇ましく敬礼し、それを何故かもんぺを着たRIAMUちゃんが泣きながら笑って送り出したり、壮行会が行われたりしていた。
「こやつら頭がおかしいのじゃ!ってなにぃ!?」
妖姫が悲鳴のような叫びを上げたその時、何かに躓き転倒してしまった。否、躓いたのではない、彼女は足元を確認してそれに気づいた。彼女の足は、何故かアフロヘア―になったRIAMUちゃんに掴まれていたのだ。
「これがこの美幼女大砲の真の策!美幼女に爆発は効きませんからね!」
一応補足するが顔の良さと爆破耐性に相関はない。ないが、自爆したRIAMUちゃん達が無事だったのは真実である。砲弾として使い捨てられたかに見えた彼女たちは、静かに妖姫の足元へ忍び寄っていたのだ。
「ひぃい!?やめ、離れるんじゃあ!」
精神世界の妖姫は、確かにすさまじい力を持っていた。しかし、アフロヘア―の幼女に体中ひっつかれ団子にされれば、流石に身動きが取れない。
「それでは、処置しましょう」
四天王を抑え込むRIAMUちゃんたちは、彼女の顔を無理やり固定し、前を向かせた。
「な、何をするつもりじゃ!?」
これから何をされるのか、恐ろしい想像に顔を真っ青にした妖姫の眼前に、サングラスをかけ、怪しげなマントを羽織り、糸の先に五円玉を括り付けたものを持ったRIAMUちゃんが人混みをかき分けゆっくりと歩み寄った。
「やめるのじゃ、やめるのじゃ……」
消え入りそうな妖姫の拒絶が、聞き入れられるはずもない。彼女の強制的に開かされた目の前で五円玉が左右にゆっくりと揺れる。
「あなたはだんだん幼女になーる、幼女になーる」
「いやじゃああああああ!!」
偽りの町に、妖姫の悲鳴が虚しく響いた。
ゆらり、と妖姫が顔を上げた。抱えていたピンク色の頭から手が離され、幼女はどすんと硬い地面に落とされた。
「どうです、何かわかりやしたか?」
モートが後ろから尋ねるが、妖姫は答えない。心配になったモートは顔が見えるよう前方に回り込む。すると、妖姫の姿が変わった。今までの男の理想のような美女から、白い髪をツインテールにした十二、三歳の少女になっていた。
「うふふ、うふふふふふふふふふふふふふ」
妖姫は突然笑った。まるで、年相応の子供のようなそれだった。
「だ、大丈夫ですかい妖姫様!」
モートが肩をゆすると、少女はしっかりと彼女のことを見た。
「わたし、ヨーキっていうの?うふふ、変な名前!」
「何を言ってるんですかい妖姫様!?」
モートは混乱した。それはそうだろう、明らかに尋常ではない。彼女はすっかり変わってしまった妖姫の肩を掴んだまま、考え込んでしまった。それがいけなかった。
「よいしょ!」
「うげっ!」
妖姫が唐突に勢いよく立ち上がり、丁度いいところにあったモートの頭に頭突きを食らわせる形になった。そして強い衝撃を与えられた頭部は、ぽろっと落ちた。
「何をしやすんで妖姫様!?」
「とれたー!おもしろーい!」
慌てるモートをよそに、妖姫は何が面白いのか、けらけら笑いながらモートの頭部を持ち上げ、くるくる回り始めた。
「うふふふふー」
「ちょ、妖姫様、やめてくだせえ!まずいですぜ!」
四天王。妖姫オニギリ・ダイスキー。御年百二十歳。人間で言うと、十二歳である。
年相応、というには幼すぎるくらいになってしまった少女は生首の言葉に耳を傾けず、モートの頭部と共にくるくる回ったままどこかへ行ってしまった。
夕暮れの村、正確には少し前まで村だった場所に、幼女の叫び声が響いた。
「なんじゃこりゃあ!?」
目を覚ましたリンの悲鳴である。目が覚めると、お姉さんたちと楽しい宴を開いていたはずの場所が、廃村になっていたのだ。民家は全壊か良くて半壊しており、辺りに人骨が散乱し、首無し死体が転がっているのだ。悲鳴の一つも上げるだろう。
『むむ、RIAMUちゃん一体何を?ハッキング対策が稼働した形跡がありますね』
「そうか、化かされたんだよ!異世界の幽霊に……」
何故か途中から記憶がないリンは、そう結論付けた。寝て起きたら村が廃村に、美女たちが人骨と死体に、なるほど確かに死霊に化かされたようなシチュエーションである。
『なるほど、とても説得力のある説明です』
そして、その結論に反論できるものは、いなかった。
「早くクリフトを起こしてここから離れるぞ!」
直ぐに気持ちよさそうに眠る神官を叩き起こしたリン達は、特に何か調べることもなく、一目散に逃げだした。
今日ここで何があったのか、全てを知るものは誰もいない。夕日が照らす廃村は、ぽつりと取り残された。
異世界、六日目である。
「第一案は、破棄せざるを得ないね」
「はっ、誠に申し訳なく」
「君たちの所為ではないよ」
薄暗い、魔王城謁見の間で、魔王は魔導と話し合っていた。
「完全に穏便に、は出来なくなっちゃったね」
肩のカラスの鳴き声は、楽しげだった。
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