第41話:ミドルシアからの急報
セイリーンはグレイデン王国に静養に来て、五日目の朝を迎えていた。
湖畔の別荘でのんびりと朝食を取っていたセイリーンとディアラドたちだったが、慌ただしい様子で使者がやってきた。
「お食事中、申し訳ございません。ミドルシア王国から急ぎの手紙が来ております。
セイリーン様には公爵家から、ディアラド様にはルシフォス王太子から」
「何……? ルシフォスから?」
セイリーンも使者から差し出された手紙を受け取った。
公爵家の
セイリーンは急いで封を開けた。
「……っ!」
「セイリーン、どうした?」
顔色の変わったセイリーンにディアラドが心配そうに問いかける。
「お父様が急病で、今王城の医師に診てもらっているそうです……。すぐ帰ってほしい、と」
真っ青になったセイリーンにケイトが寄り添う。
「大丈夫ですよ、お嬢様! 王城の医師は優秀ですし、設備や薬も揃っていますから」
「心配だな。ついていってやりたいが、ルシフォスから魔物退治の依頼が来ている……」
「え……?」
ディアラドがルシフォスからの手紙を見せてくれた。
「開拓中の南の街道に魔物が現れたようだ。魔物に不慣れなため、俺に討伐隊の指揮を取ってほしいとのことだ」
「ええっ、ミドルシア王国に魔物が!?」
セイリーンは思わず声を上げた。
(信じられない……ここ百年ほどは目撃もされていないのに!)
「おそらく新しく道を作った場所が魔物の縄張りだったのだろう。この記述によると、シュネー・ヘルデで間違いない。白いウサギのような魔物で目が赤く、尻尾が長い、と書かれている」
「シュネー・ヘルデってあの……!」
「ああ。昨日倒したあの群れをなす魔物だ。人的被害はなく目撃証言のみなので、おそらく
「早めに対処する必要がありますね……」
まだ被害が出ていないと聞いて、セイリーンは胸をなで下ろした。
慣れているディアラドたちは落ち着いてシュネー・ヘルデを倒していたが、ミドルシアの人里が襲われたらパニックになって大惨事になりかねない。
魔物の習性も戦い方も、誰も知らないのだ。
「俺たちに支援を
ディアラドの決断に、キースが目を
「は? おまえが? 他国の魔物掃討なんか王がやる仕事か? 俺が行くよ」
「ぜひ俺に指揮を任せたい、との
「けっ、何様だよ、そのルシフォスって奴! ほんと、嫌な野郎だな」
「まあ、そう言うなキース。王太子に恩を売っておくのも悪くない」
吐き捨てるように言うキースを、ディアラドが
「でも、王剣は公爵家に預けてるだろう? いったん公爵家に取りに戻るか?」
「いや、シュネー・ヘルデの斥候ならば魔物用の弓で片付けられる。それにおまえも来てくれるんだろう?」
「ああ、もちろん」
キースが迷うことなく頷く。
「討伐隊の指揮を取り、シュネー・ヘルデを狩るだけなら、俺とおまえの二人で充分だな」
そう言ったディアラドだったが、キースの不満げな顔に苦笑した。
「念のため、近衛兵も二人同行させよう」
キースが不承不承というように頷く。
「おまえ、もうちょっと王の自覚を持てよ。じゃあ、セイリーン嬢たちを王城へ送り届けたら、俺たちは討伐隊と合流して南の街道に向かう、でいいな」
「ああ」
ディアラドがセイリーンを見た。
「セイリーンとケイトは俺たちがミドルシアの王城まで責任を持って送る。魔道を使うから、昼頃には着けるだろう」
血の気の引いたセイリーンを気遣うように、ディアラドが優しく肩に手を置く。
「心配するな、セイリーン。魔物を退治をしたら、すぐに俺も王城に向かう。もし公爵の容態が
「ありがとうございます……!」
(あんなに元気だった父が病に倒れたとは信じられない……。一刻も早くそばにいって病状を確かめたい)
セイリーンとケイトは身の回りのものをまとめ、馬車に乗り込んだ。
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