第26話:父からの手紙
「シャイアさん、ご馳走様でした。今日はいろいろありがとうございました」
「私こそ、ご一緒できて楽しかったです」
シャイアがにこりと笑ってセイリーンに手を伸ばす。
思ったよりもがっしりしたその手をつかむと、軽々とセイリーンをソファから引き上げてくれた。
毎日、園芸仕事に明け暮れているのがわかる強い力だった。
「お会いできてとても楽しかったです。またぜひいらしてください」
そのとき、侍女が部屋に入ってきた。
「シャイア様、王都からの早馬がこれを」
「ああ。頼まれていたものね。ディアラド様、ミドルシアからの書簡が来ました」
「えっ!」
「ああ、ありがとう。セイリーン、寝所まで送る。手紙はそこで読んだらいい」
「はい!」
セイリーンとケイトが案内された寝所は、花がふんだんに飾られた美しい部屋だった。
ベッドにはグレイデン王国の薄く柔らかい布が使われており、寝心地が良さそうだった。
「セイリーン、公爵からの手紙の内容は俺も知らない。もし差し支えなければ、簡単に内容を教えてほしい。もし要望などが書かれてあるのであれば応えたい」
「わかりました!」
公爵家の封蝋がされている封筒を開けると、二枚便せんが入っていた。
(ああ、お父様の字だ……)
父の直筆の手紙には、心配していたが、セイリーンの手紙を読んでとても安心したこと、ディアラドやグレイデン王国への感謝の気持ちが綴られていた。
そのことを告げると、ディアラドがホッとしたように頬を緩めた。
「それから、たくさんお土産をもらったのでお返しをしたいと――。何か贈ってくださったのですか?」
「ああ。そなたたちがどうやって生活しているか気になっていると思ってな。茶館の日持ちする焼き菓子、それからグレイデン王国の服や雑貨、アクセサリーなども贈っておいた」
「そんなことまでしていただくわけには……!」
「こちらは大事な令嬢をお預かりしているのだ。最大限のことをする。それにどんなものに囲まれて過ごしているのか知ってもらったほうが安心だろう」
(それで実際に食べたり着たりしたものを贈ってくれたんだ……)
驚くほど細やかな気遣いに、ディアラドの本気が伝わってきた。
「で、でもお世話になっているうえにここまでしていただくなんて……」
「セイリーン……俺はこれでも国王だぞ」
「もちろん、ディアラド様はグレイデン王国の王様です!」
「だから、これくらい大したことではないんだ」
「あ……」
過剰な遠慮はディアラドを見くびっていることと同義だ。
「失礼致しました……」
「いや、謝ってほしいわけではない! 気にすることはない、と言っているんだ」
ディアラドが慌てた様子で言ってくる。
「せめて何かお返しをさせてください!」
「いや、そなたたちがグレイデン王国に来てくれてだけで充分だ。そう手紙でお伝えしてくれ」
「そんな……」
「明日、また早馬にて手紙を届ける。そのときは花園の名産品を贈ろう。花酒は喜ばれるだろうか」
「絶対、喜ぶと思います!」
ケイトの気合いが入った言葉にセイリーンは笑ってしまった。
「父は香りのいいお酒が好きなので……」
「そうか! ではまとめて贈ろう」
「お嬢様、私たちが帰る前に全部飲みきらないよう手紙に書いてください」
ケイトがこそっと囁いてくる。
ずいぶん花酒にハマったらしい。
「安心しろ、ケイト。そなたたちが帰るときにもたくさんもたせるから」
「ひっ! すいません、ディアラド様!」
「いや、驚かせたな。狩りをしていたからか、俺は耳がいいんだ。気にしないでくれ。そうか、秘密の会話だったのか」
ディアラドが照れくさそうに言う。
「あ、あのディアラド様……私、友達にもお土産を贈りたいのですが、手紙と一緒に送っていただいてもいいでしょうか?」
「もちろん構わない」
「シャイアさんが見せてくださった花のアクセサリーが素敵で……」
親身になって気遣ってくれた幼馴染みのマリッサとカティアに贈りたかった。
今も心配してくれているだろう二人に、異国で楽しく元気にしていると伝えたい。
「では、明日は湖に向けて少し長旅になる。ゆっくり休んでくれ」
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