第16話:グレイデン王城
「でっか……!!」
城門を見上げたケイトが思わず口を開けたのも無理もない。
空に向かってそびえ立つ王城の門は、これまで見たどの門よりも高く天に届きそうな勢いがあった。
「昔の
実際、ディアラドの言葉を裏付けるように、王都では人々が笑顔で安心して暮らしていた。
「ディアラド様、お帰りなさいませ!」
城内に入ると、ずらりと並んだ使用人や近衛兵たちが笑顔で迎えてくれた。
「セイリーン様、ようこそグレイデン王国へ」
「どうぞおくつろぎください。部屋もご用意してあります」
次々と歓迎の言葉を浴び、セイリーンは驚いた。
「そなたが来ることが決まったので、すぐさま精霊術で知らせを城に送っておいたのだ」
「そうなのですか!」
案内された城はミドルシア王城に劣らない広さと豪奢さを兼ね備えていた。
窓はアーチ型で
幾何学模様の天井装飾はあまりに優美で、セイリーンは思わず足を止めてしまった。
「こ、これがグレイデン王城ですか……ほんと、想像と全然違う。もっと無骨で無機質な、戦闘向きの城かと……」
ケイトが驚愕の視線をあちこちに向ける。
「そうね……。装飾がとても壮麗で落ち着く感じ……」
城の作りや凝った調度品などすべてが珍しく、二人はきょろきょろしながら廊下を進んだ。
「セイリーンの部屋は三階に用意した。ケイトとは続き部屋だ」
「お気遣いありがとうございます」
「部屋の外には常に近衛兵と城侍女を待機させている。それに俺は向かいの部屋にいるから安心しろ」
「え……王の部屋とそんなに近いんですか……?」
「何かあったらすぐに駆けつけられるようにな。本当は同じ部屋がよかったんだが、キースにめちゃめちゃ怒られたから」
「でも王族の方とそんな近くで――」
ケイトが戸惑いを隠せないでいる。
ミドルシアでは王の居住する宮には、王太子の婚約者だったセイリーンすら近づけなかった。
「ミルドシア王国とは風習が違うから、戸惑うかもしれんな。王というのはこちらではそんなに特別な存在ではないんだ。そうだな……皆のまとめ役というか世話役のような立場の人間だ。もちろん、ある程度の上下関係はあるが、不必要にへりくだったりするような存在ではない」
「そ、そうなのですか……?」
小さな集落の
セイリーンは実情をうまく飲み込めなかった。
「そんなに奇妙か?」
ディアラドに顔を覗き込まれ、セイリーンは慌てて首を振った。
「え、いえ、全然! ただ、まだ慣れていなくて……」
「ミドルシア王国とは成り立ちも歴史も全然違うからな。急がなくてもいいが……くつろいでくれると嬉しい」
ディアラドの笑顔に、セイリーンはどきりとした。
時折彼は驚くほど無邪気な笑顔を見せる。
これが本当に『魔獣王』の二つ名を持つ王なのかと疑うほどだ。
「あのう、窓が開かないのですが……」
先に部屋に入っていたケイトが顔を出した。
ディアラドがさっさとセイリーンの部屋に入ると、窓の取っ手に手をかけた。
「窓はこうやって開ける」
ディアラドが取っ手を掴んで捻ると、さっと大きな窓が開いた。
気持ちのいい風がバルコニーから入ってくる。
「あっ、あの、王にそんなことをしていただくなんて……」
ケイトが真っ青になっている。
ミドルシア王国では使用人のすることだ。
「別に窓を開けるくらい誰がやってもいだろう? 古い城だからな、開けづらい窓もある。力仕事は遠慮無く廊下にいる兵でも俺でも呼びつけたらいい」
「は、はい……!」
セイリーンとケイトは顔を合わせた。
旅立ちから驚いてばかりだ。
(私、本当にグレイデン王国に来たんだ……)
改めて異国にいる実感をかみしめたセイリーンはハッとした。
(私……今朝から全然、ルシフォス様や婚約破棄のことを思い出さなかった……)
慌ただしい旅立ちの準備、初めての魔道を使った異国への旅。
賑やかな目抜き通りや、珍しい茶館。
そして王都での歓待、圧倒されるような城――新鮮な出来事ばかりで余計なことを考えている暇がなかった。
(やっぱり思い切って国を出てよかったんだ……)
「お嬢様、見てください。素敵な服がたくさん!」
ディアラドの言葉通り、セイリーンの部屋には必要なものがすべて用意されていた。
衣服、化粧品、アクセサリー、生活用品の数々――どれも初めて見る美しいものばかりだった。
「うわあ……これ、今日モエナさんが着ていた服に似ていますね!」
「ほんと! すごく滑らかで軽い素材なのね。色も淡い青が素敵……」
「締め付けがない服なのですね。体に纏う感じの……。これを着替えてはいかがですか? きっと楽ですよ」
「そ、そうね……」
「着付けを手伝ってもらいましょう」
ケイトが部屋の外にいる城侍女に声をかけた。
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