そう信じて疑わなかった
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王妃、いや、当時はまだ王太子妃だった彼女とは政略結婚で愛などありはしなかった。
王太子妃の妹を望んだはずだったが、彼女には恋焦がれる相手がいたことを理由に断られ続けた。
王家の血筋である公爵家の次期当主。
王太子と公爵家に一家族から姉妹を嫁がせることは、権力バランスを崩すことになるため認められない。
彼女を自分に振り向かせるため、父を
権力バランスを維持させるという大義名分の王命を掲げて。
彼女は身を引かざるを得なかった。
姉は婚前とはいえ未来の王太子妃。
姉妹が王族に嫁ぐなど許されないのだから。
そんな彼女は愚かにも、姉を蹴落とそうと企んだ。
王太子妃の目を盗んで私を誘った。
『罪の共有』
スリルがあるからこそ燃え上がる。
しかし、この国で側妃が持てるのは、『王となり王妃との間に子が成らぬまま5年が経ってから』と決められている。
王太子の立場では、側妃や愛妾を持つこともまだ許されない。
それでも、それに背く行為は私を夢中にさせていた。
しかし、王太子妃の妹は私の楽しみを裏切った。
半年後に「子ができた」と言ったのだ。
それも私の子だという。
王太子妃の子が第一子でなければ混乱が起こる。
出産も兼ねて実家へと帰すこととした。
相手が私であることを固く口止めさせて。
簡単に妊娠した彼女に興味を失った。
当然であろう?
避妊は男のマナーというが、男の望まぬ子を成したなら堕胎すればいいのだ。
特に私は王太子だ。
私からの寵愛を受けたいのなら、『子ができないように薬をのんで予防する』のが当然じゃないか。
…………たとえ、それで二度と子ができなくなろうと、私の寵愛を受けられず捨てられるよりはマシだと思わぬか?
私が彼女に向ける愛情が失ったと気付いたのか。
二度と私の前に戻ってこようとしなかった。
実家では私の名を出さなかったらしい。
「もしひと言でも私の名を出せば、不敬罪で一族もろとも処刑台に送ってやろう」
そう口止めしたことが効いたのだろう。
⁂
公爵の妻となった
動物の出産なら見たことがあるが、子どもなんぞ糞みたいに
公爵は「生まれた子が妻に似ていて見るのもつらい」と帰宅を遅らせ、そのうち王城内にある簡易宿舎で寝泊まりをし始めた。
帰宅が遅れて夜半に使用人たちを働かせることに気が引けるのだという。
それが続けば、帰宅しないことに罪悪感が薄れるようだ。
王妃が何か動きを見せている。
気づけば、自身の妹を公爵家に潜り込ませたようだ。
母親を亡くした公爵の娘の乳母にでも推薦したのだと……そう思っていた。
すでに興味のない相手。
どうしようと、どうなろうと気にならなかった。
しかし、生まれた娘を「公爵との子」だと誤魔化すことで公爵の後妻に入ったのだと知ったのは、王太子の婚約者候補に公爵の娘として名前があがったとき。
どうやら、昔からの望みどおり、公爵家へ嫁ぐことに成功していたようだ。
しかし、彼女の娘では王太子の婚約者候補にはなれない。
2人の母親が姉妹である以上、公爵の実の娘にしなくてはならないだろう。
「候補者の令嬢の親たちに確認を取れ。承認した場合も同意書に候補者とする令嬢の名前は親に書かせよ。姉妹がいる場合、どちらを選ぶのかは親に決めさせるが良い」
「はっ!」
もっともらしい理由をつけて、控えている文官に押印していない
再提出されたリストの名前が半数まで削除されていた。
何より、公爵の娘の名が王妃の姪ではなくなっていたことに安堵した。
「陛下! 大変でございます!」
青ざめた騎士が、開いた扉から中の護衛騎士に伝令を伝える。
伝令を受けた騎士が一瞬で青ざめると声をあげた。
それが、すべての始まりであり、すべての罪が明らかになり…………すべてが終わった。
⁂
客室に寝かされた、まだ幼い
まだ12歳の王太子の婚約者は、生きる苦しさから解放されたのか。
安らかな表情だった。
この場に駆け込んできた少女の父親と兄が、なんともいえない表情を見せていた。
残された日記帳を読み終えて、必死に
すでに、王妃が妹を公爵の後妻として送り込み、女主人として使用人たちに認められていると知ったばかりだ。
「そんなことで、貴様は私の娘を自死に追い込んだというのか」
「こんなつもりではなかったの!」
「じゃあ、どんなつもりだ?」
「…………私が手を下したたわけではないわ」
「言い方を変えよう。貴様が我が娘を追いつめた理由はなんだ」
公爵たちの
王妃は何も言えない。
実際に動いていたのは王妃自身だ。
それが妹の幸せのために動いたことだとしても。
「陛下。息子共々屋敷に帰らせていただきます。……片付くまで、ここで娘を休ませていただけますか? ……必ず、必ず迎えに、きます」
使用人という名の裏切り者を地下牢に送るために動くのであろう。
「……わかった。ゴミはこちらに送るがいい。あとで回収車を向かわせよう」
私に頭を下げて、子息の肩を叩いて帰宅を促す。
子息が胸章をむしり取ると踏みにじった。
「
唾棄して去っていく子息の背に何も言えなかったのは私も同じだ。
王妃のしていることを知っていたのを止めもせず、公爵に帰宅を促すこともせず。
「公爵家の御家騒動に私は関係ない」
…………本当にそうだったのだろうか。
しかし、私はそう信じて疑わなかったのだ。
そして帰りたくないなら、との理由で仕事を押し付けていた。
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