逝くがいい


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地下牢に落とされた王妃は膝までの下着シュミーズ一枚で床に座っていた。

冷たい石畳、天井近くにある明かりとりの嵌め込み窓。

日が陰ると凍えるような寒さ。

据え付けられた木の板に置かれた麻布一枚。

これですら、公爵令嬢として生まれた少女には唯一の温もりだっただろう。

地下牢ここにこの姿で入れられた王妃は、眠る少女を前にして高ぶっていた気持ちが鎮まった。

それと同時に、少女に対して自分がいかにおかしな言動をとってきたのかを思い知らされた。


妹を公爵家に送るにしても、なぜ公爵令嬢を蔑ろにしてもいいと思っていたのか。


「……なぜ?」


そう、もっと大事なことを私は忘れている。

それに思い至ったのは頭が冷えて静かに考えることができたから。


『公爵夫人が娘を産み落として死んだとき、妹にはすでに娘がいた』


どういうこと……?

何かが違う。

何かがおかしい。

私……いつから妹と連絡をとっていたの?

王妃の私が…………王太子妃の私が、妹とはいえ生家の家族と何度も会えるはずがないのに。


王妃はゆっくり記憶を過去へと戻していった。

考える時間はいくらでもあるのだから。





「王妃よ、私に確認したいことがあると申したそうだな」


夫が……陛下がわざわざ地下牢まで足を運んでくれた。

下着姿のままカーテシーで出迎える。


「地下牢でなければ、ゆっくりしていただけますものを」

「このような場所、長居などできるはずがなかろう」

「そうでございましょうか? 『住めば都』とも申しますわ」


柵越しの再会。

たった十数日なのに、何十年も会っていなかったよう。


「ねえ、陛下。公爵家に行った私の妹と姪のことですが」

「…………なんだ?」

「妹は陛下の愛妾だったのですね? そして姪は」


陛下の落とし胤、ですわね?

そう考えれば納得できる。

王太子妃になった私のところへ頻繁に訪れていた妹。

妹とはいえ、家族が週に二度三度と王宮内に入れるはずがない。

しかし、後宮か離宮に部屋を与えられていたなら、それも可能だ。


「王妃よ、それは」


つっくん……


胸を突く痛み。

長い針が胸を抉る。

違う……針ではない。

細剣レイピア


「秘密をその胸に秘めたまま逝くがいい」


無表情の陛下の瞳に赤い筋が走ったのを、頽れる王妃はみた。

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