誰にも気付かれずに土へと還った


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王太子は王籍を剥奪されたのちに寒村に送られた。

それに同行したのは、王太子を叱責もせず、王太子のおこぼれに預かっていた側近たち5人。

そして王太子や側近たちと快楽と享楽にふけっていた令嬢たち。

側近も取り巻きたちも、すべてを剥奪されたのちに同じ寒村へと送られた。


村民は王都みやこを追われた彼らのみ。

自ら開拓しなければ、人並みの生活など望めない。

お情けで作られたはこには、大部屋に長机が2つと人数分の椅子。

いくつもある小部屋にはベッドがひとつあるだけだ。

厨房はなく、かまどと庭に井戸があるのみ。

自分たちを世話をする者は誰もいない。


どのようなことも世話をされてきた彼ら彼女たちにとって、である。

そのため、ここに送られる前に最低限の料理や生活に必要な知識を叩き込まれた。


『働かざる者生きるべからず』


ここではそれが正しいのだ。





元王太子が王妃の子であってもことが、令嬢の残した日記帳により判明している。

逆算によって、王妃の相手は当時友好国であり今は国交を閉ざした隣国の大使と推測された。

しかし、大使の一族は国交を閉ざす前に隣国で起きた暴動クーデターにより滅んでいる。

それを前後して、大使自身は病死している。

そのため、王宮から追放された元王太子にはどこにも行き場がなかった。

廃村の中でも周囲から孤立している場所に頑丈な塀で囲んで、令嬢の自死に関わった仲間たちと押し込まれた。


快楽の結果に子を成しても、怪我や病気を患ったとしても……

医師はなく、自分たちの手で生きていくしかなかった。



「やーだー。まだ生きてるの?」

「まだ生きているのか」


自らの声が幻聴として脳裏に響く。

嘲笑が追い討ちをかける。


それに後悔しても、けっして許されることはない。

相手は二度と会うことが出来ない場所へと去ってしまったのだから。


謝罪の声は…………届かない。

許される未来みちもまた…………閉ざされていた。



国内につくられた追放領域エリア

扉は固く閉ざされて、最後のひとりとなった住人が死んだのちに壁は崩れ去った。

それは今から300年後のこと。

人々の記憶からも記録からも忘れられたその出来事は……誰にも気付かれずに土へと還った。

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