ただ、それだけであった


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王妃の妹とその娘が半死半生で地下牢に投げ込まれた。

死なない程度の傷を負い、処刑のその日まで生かすだけの治療。

拘束された状態で自死する勇気などもたない2人は、痛みをもってその罪を償わせる。

拷問のために潰された手指。

全身に与えられた鞭によるミミズ腫れ。

気絶すれば掛けられる塩水。

憔悴しきった彼女たちからは……悲鳴すらあがらなくなった。

もうけられた処刑の日まであと12年と8ヶ月。





使用人たちは全員がとらえられた。

公爵家の令嬢であり主人あるじの娘を害し続けてきたのだ。

その罪は使用人の家族や身元保証人にまでおよぶ。

誰ひとりとして弁明出来る者はいない。

大なり小なりの罪を犯しているからだ。

証拠は、深い眠りについた令嬢の残した日記帳。


牢に繋がれた囚人たちの前で朗々と読まれる日記の内容罪の証言に、当事者以外の目に涙が浮かぶ。

使用人たちは自身の犯した罪と向き合い、後悔…………することはなかった。

自身の犯した罪の重さを誰ひとりとして理解していないからだ。


執事が、メイドが。

口を揃えて訴える。

執事長が、メイド長が。

そうするように指示した。

自分たちはその指示に従ってきただけだ、と。


そのような理由で逃れられる罪など、この世には存在しない。


公爵令嬢を虐待し自死にまで追い込んだ罪で、執事たちは鉱山の重労働役夫えきふという賦役ぶやくの中でも厳しい罰が与えられた。

一番軽い使用人たちでも、農奴として残りの一生を償いに費やす。


一番軽い理由。

それは、採用されてまだ半年だったからだ。

しかし、令嬢が虐待されていたことを知ってもなお、口をつぐんだ時点で同罪である。





縁座や連座になった者たちもまた、使用人たちと同じ道を辿る。

使用人たちは極寒地や極暑地に送られたが、同罪となった彼らは寒冷地や熱帯地へ送られた。


身元保証人たちは深く後悔する。

自分たちは何を見て何を保証したのかを……

自問する。

家格だけをみて、当人を知っていたのかを……



導かれた結果はただひとつ。

まだ12歳の公爵令嬢が、自ら毒をあおった。

………………そこまで追い詰められていた。

無責任な大人たちと、無関心な大人たちによって。





年端もいかぬ幼な子は厳しく芸を仕込まれ、見せ物小屋サーカスで芸を売っている。

愚かな大人たちの被害者であるものの、幼なさを理由に罪から逃れることは出来ない。

自ら毒をあおった令嬢は、幼な子たちと同じ年齢ですでに虐待されてきたのだから。



そんな酷い環境下でも令嬢が生かされてきたのは、ひとえに当主である公爵の意志が確認出なかったから。

…………ただ、それだけであった。

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