一番の罪人は彼ではない
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馬車に残された日記帳は少女が受け続けた虐待の記録だった。
家では後妻と妹、そして使用人たちに連日暴行を受けてきた日々を思い返して『寮生活は楽しい』と綴っていた。
「後妻? なんのことだ?」
「何を言っているんですか? 母亡き後、王妃様の妹と父上との間の子が住んでいるじゃないですか」
「いや、知らない。私は娘が亡き妻によく似てて、見るのも辛くて……一度も帰っていない」
公爵の言葉に国王、公爵、公爵子息の3人は王妃の姿を見た。
青ざめたその顔はすでに自供しているのと同じだった。
「私は自分が受けてきた教育をしてきただけよ!」
そんなことは理由にならない。
相手はまだ12歳の少女だったのだから。
そして王妃の妹の存在は関係ない。
「お前は公爵家に妹を送ったというのか」
「そうよ! あなたが公爵に自分の
「お前の妹はただの男好きなだけだ」
「違うわ!」
国王と王妃の夫婦喧嘩に公爵はスウッと頭が冷えた。
いや、感情が冷えたといった方がいいだろうか。
「そんなことで、貴様は私の娘を自死に追い込んだというのか」
「こんなつもりではなかったの!」
「じゃあ、どんなつもりだ?」
「…………私が手を下したたわけではないわ」
「言い方を変えよう。貴様が我が娘を追いつめた理由はなんだ」
表情を変える王妃。
公爵は向けていた冷たい視線の温度をさらに下げて、室内の温度をも急激に下げた。
「…………あの女に瓜二つの娘。私が殺してもいい存在。妹を不幸にした原因」
「不幸の原因? それは私のことですか、王妃?」
公爵子息の言葉に王妃が「違うわ!」と叫ぶ。
「違いません。私は公爵家の長子。あなたの仰る不幸が、父に子が誕生したからというのであれば、第二子の妹ではなく第一子の私が原因でしょう?」
子息は父である公爵によく似ている。
見目麗しい子息を、王妃はそばに置こうと思い騎士団から引き抜こうとした。
しかし、断られ続けた。
「私が王妃の専属騎士にならないから。だから妹を死ぬまで追い詰めた」
「違うわ!」
「何が違うのですか? 亡き母に似た妹を鞭で打ち、父が王妃の妹を振ったからとの理由で妹を貶めて、私が王妃の専属騎士にならないから蹴り飛ばし…………父が王妃の妹を抱かない代わりに、妹の身体を従者たちに与えて
子息の泣き声に含まれた後悔。
彼は不敬罪で処刑されることを望んでいる。
しかし一番の罪人は彼ではない。
「陛下。息子共々屋敷に帰らせていただきます。……片付くまで、ここで娘を休ませていただけますか? ……必ず、必ず迎えに、きます」
「……わかった。ゴミはこちらに送るがいい。あとで回収車を向かわせよう」
公爵は無言で頭を下げ、息子の肩を叩く。
子息は胸につけていた騎士団の胸章をむしり取り床に叩きつけると踏みにじる。
その様子を白い顔で見つめる王妃は、自身を唾棄して去っていく子息の背を涙で見送った。
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