13:冒険者協会にて

 退院後は家でゆっくりしたり、協会に何度か呼び出されて聞き取り調査をされたりした。


 特に魔神教関連についてはかなり深く取り調べを受ける事になり、またこのことに関しては無暗な口外はしない事を約束させられた。


 さて、そんなこんなで月曜日。俺は再度冒険者協会に呼び出された。


 この日は休校となっていた学校が再開された日だったが、休みを取ってその呼び出しに答えた。陽菜や要さんもついてきてくれたのは申し訳ないと同時に嬉しい。


 今回は取り調べなどという軽いものではないらしい。何せ、俺だけでなくパーティーメンバー全員が呼び出されたのだ。しかも相手は冒険者協会支部長…面倒事の匂いがプンプンする。


 その上ユーゴさんも呼び出されたらしい。


 冒険者協会支部の拠点は、いつも俺が使っているショッピングモールのすぐ近くに存在する。バスを降りて、ショッピングモールを横切って少し歩けばもう見えてくる。


 ガラス張りのビルだ。中に入ると、黒服を着た男が恭しく腰を曲げた。


「神野様と、そのパーティーメンバーの方々ですね?お待ちしておりました。支部長がお待ちです。どうぞこちらへ」


 と、促されるまま奥へと進み、関係者以外立ち入り禁止の区域へと案内された挙句、エレベーターに乗せられる。


「…鬼月、リリア。緊張してない?」

『ああ、大丈夫ダ』

『大丈夫だよ!』

「陽菜は大丈夫?」

「は、はい…」

「要さんは…まあ大丈夫か」

「ちょっと?」


 要さんに半眼を向けられたが、このくらいの冗談は許してほしい。俺も結構緊張してるんだ。


 だって、俺高校1年生だぞ?こんな高いビルの屋上に、ビップ対応のご案内とか、されるだけで緊張するに決まってる。


「圭太君…緊張しなくて大丈夫ですよ?しっかり背筋を伸ばして、はきはき応えれば、それだけで充分だと思いますので」

「…わ、分かった…」


 あ、これ陽菜には気づかれてたっぽい。思えば陽菜はお嬢様学校の生徒だったな。こういう機会は俺よりもずっと多かっただろうし、心構えもあるのだろう。ちょっと尊敬。


 というか要さんもため息ついてるし、そっちにも気付かれてたか。


『ケイタは顔に出やすいからナ』

『おてて握る?』

「…ありがとうリリア。気持ちだけ受け取っておくよ」


 結局全員にバレてたっぽい。後でポーカーフェイスについて調べよう。俺は心に誓ったのだった。


 そんな感じで多少緊張が解れた所で、エレベーターが最上階へとたどり着いた。


 中に入ると、廊下に出る。左にはガラス張りの会議室、右には普通の会議室がある。そして奥には『支部長室』と書かれた扉があった。


 会議室をスルーして、その扉に案内される。


「鴻(おおとり)支部長、神野様ご一行をご案内いたしました」

「…ご苦労。入ってくれ」


 中に入ると、そこには書類だらけの部屋があった。


 社長机のような場所には、男が後ろを向いて一人座っている。


「よっ」

「ユーゴさん」


 そして、ユーゴさんが俺達を振り返って片手を上げた。俺はソレを見て幾分か気持ちが落ち着く。


 不意に、椅子が回転し、中年の男が顔を見せた。岩の如く厳しそうな顔立ちをしていて、思わず喉を鳴らす。


「…よく来てくれた。神野君とその仲間たち。私の名前は鴻ライツ。このビルの長、支部長だ。今日はよろしく頼む」

「…はい。よろしくお願いします」

「うむ。しかし、本題に入る前に少しいいかな?」

「はい?」


 鴻支部長は立ち上がって、俺達に近づいてきた。そして、すっと膝を突く。


『…私ー?』


 リリアが目を丸くして、俺の手を掴んできた。俺も思わず手を握り返す。


「…あ、あの?」

「…水の精霊様とお見受けいたします。私の本当の名は『オードライツ』。水の精霊様を信仰していた東アスラド王国にて、賢者を務めておりました。私の事は、記憶にございますでしょうか」

『…あー。そう言えばいたかも!』


 リリアが目を輝かせた。


『貴方の声、ずっと届いてたよ!誰よりも優しいオードライツ。お久しぶりだね~』

「ちょっ、り、リリア…!?」


 リリアの細い手が鴻支部長の頭を撫でた。


 次の瞬間だった。


「…ヒンッ…!!!」

「ぎょっ…」


 鴻支部長の岩のような顔が、くしゃっとなって涙を流し始めたのだ。俺は思わずぎょっとして一歩引いてしまった。


「故郷を失い、異世界まで流れ着いて早十数年…!もはや故郷の話を出来る相手など存在せぬ、信じられる神も存在せぬと密かに嘆いておりましたが…まさか水の精霊様とお会いでき、その上過去の私まで存じ上げていただけていたとは…!このオードライツ、もはや涙を止められませぬ…!」


 大の男が涙をボロボロと流して目元を手で押さえる姿を見て、俺は…というか俺だけではない。この場にいる全員が呆気に取られていた。


 急に何だと思ったが、そうか。要さんの推測だと、この人はリリアと同じ世界の出身だ。そして、どういう因果か、リリアのような水の精霊を信仰する地域に住んでいた人らしい。


 そりゃ、このような再会をしてしまうとこうもなるだろう。どのような思いなのかは計り知れない。


 しばらく泣いていた鴻支部長だったが、すぐにタオルを持ってきて鼻を噛んだり涙を拭いたりして数分後。


「…お見苦しいものをお見せして失礼をした。どうか許してほしい」

「い、いや、全然気にしてませんから…」

「ははは、どうやら感動の再会だったみたいだな。良かったな、鴻支部長!」

「ふっ…ユーゴ、お前の神経の図太さには、時折助けられるな」

「正直引いたわ」

「要君、君の正直さには、時折膝を突きそうになる」


 要さんは当たり前のように支部長と顔見知りのようだった。


 鴻支部長は陽菜、それから鬼月にも顔を向けた。


「若いお嬢さん、水の精霊様。大の大人に泣かれて気まずかっただろう。ゴブリンの君も申し訳なかったな」

「い、いえ…」

『元気出してね』

『僕も気にしてないヨ』

「ありがとう…さて、いつまでも立たせたままですまなかった。横の扉から会議室に行けるから、話はそこでするとしよう」




13:冒険者協会にて




 という訳で、俺達は支部長室に直接備え付けられた、専用の会議室へと案内された。高級そうなソファーがある。


 人数が人数だったので、話をしなければいけない俺、そして要さんとリリアが座り、陽菜と鬼月は別の所から持ってきた椅子に座る。ユーゴさんは立ったままでいいと対面する鴻支部長の隣に陣取った。


「さて、今日君たちにわざわざ足を運んでもらったのは、先日神野君が遭遇した人型モンスターについて、私自ら話をしておきたい事があったからだ」

「はい」

「だが、その前にお互いの前提知識のすり合わせと行こう。まず、魔神教に関わったこれまでの経緯を教えてもらえるかな?」


 そう問いかけられて、俺達は互いの目を合わせた。


「…それでは、まず私から。私が中学生の時、姉がダンジョンで失踪しました。モンスターによるものとして扱われましたが、姉のパーティーメンバーだった要さんが、魔神教徒の仕業だと目を付けて、それ以来ずっと証拠を探しています」

「陽菜の言う通りね。私が過去に所属していたパーティー…『火魔女の巨釜』はあの日、魔神教徒の集団と出くわして戦闘。戦闘中にリーダーである橘優月が誘拐されて、そのまま行方不明になった。それ以来ずっと追ってるって訳」

「俺は、夏休みに入った直後あたりに畑にダンジョンができて、そこのダンジョンボスが魔神を信仰する敬虔なる信徒を名乗っていました。そして、そいつの目的はダンジョンの中に封印されていたリリアを殺すことだった。見ての通り、ダンジョンボスは討伐され目論見は阻止、リリアは俺と契約して、イレギュラーとして暮らしています」


 俺達の話を聞いて、支部長は頷いた。


「なるほど…水の精霊様…リリア様を殺めようと。なるほど、目が目的だったか。全く、奴らはとことんこちらの嫌がる事を…」


 支部長はごほん、と咳払いをした。


「では、私からも知っていることを話そう。と言っても、魔神教徒について知っていることは少ない。私が良く知っているのは、奴らのご神体…魔神についてだ」

「…魔神」

「そうだ。リリア様からももう聞いたかもしれないが、リリア様…そして私も、ここではない別の世界…異世界からやってきた異世界人だ。では何故異世界からこちらの世界へ渡る事になったのか、その経緯はもう知っているかね?」

「いえ…」


 確か、リリアは自分を守るために『一族の者』総出で封印を施され、そして気が付いたらここにいた、という話だった筈だ。


「実はね…私達の故郷…私達の世界は、既に破壊されてしまっているのだよ」

「…は、破壊…ですか…?」

『…え…?』


 支部長ののっぴきならない言葉に、俺は思わず喉を鳴らした。そして思わずリリアを見ると、呆然とした表情を浮かべていた。


「文字通りね。叩き割ったガラスのように粉々になって、私達の世界は、世界と世界の間…亜空間を飛び散った。その一部がこの世界に衝突し、根を張り、ダンジョンとなったり、私やリリア様のような異世界人、そして、魔神をもたらした」

「…マジでか…」


 俺は要さんを見た。首を横にぶんぶんと振られる。どうやら初耳だったらしい。


 ユーゴさんは、目を閉じて聞いている為何を考えているかは分からない。


「しかし、世界を破壊する等、そんな大それた事、いくら上位存在であっても不可能だ。だが、私達の世界にはね、世界を破壊するのに丁度いい道具があった。そう、破壊に使われたものは、ダンジョンだったのだ」

「ダンジョンが、世界を破壊したって?本気で言ってるの…?」

「何せほら、ダンジョンは中に入れば見た目以上に巨大な空間が広がっているだろう。つまり、ダンジョンは空間を歪める力を持っているのだ。我々の世界は隅々までダンジョンに浸食され、空間をずたずたに引き裂かれ、その結果破壊されてしまったのだ」


 …たし…かに?


 確かに、ダンジョンは空間を歪め、内部を広げたりする性質を持つ。それが悪用されれば、例えば世界中を、まるでガラスをたたき割って出来た罅のように張り巡らされれば…外にも影響を及ぼして、世界そのものがどうかなってしまう事もあるかもしれない。


 いや、ソレにしたって、衝撃的過ぎる話なんだが…リリアを見ると、俺の手を握って俯いてしまっている。俺はリリアの手を握り返して、何とか話を進めた。


「…じゃ、じゃあリリアの封印がダンジョンに飲み込まれてたのって、ソレが原因で…?」

「その可能性が高いだろう。浸蝕性ダンジョンって言うのもあるからね」

「…そもそも、ダンジョンって何なんですか?」


 俺は手を上げて尋ねた。


「ふむ…我々の世界には、魔神以外にも神々が存在したのだ。ありとあらゆるヒト種を作り出し、天界に住み、人々の営みを見守り、加護を与える存在、善神と呼ばれる存在だ」


 支部長はそう話し始めた。


「話は変わるが、我々の世界には、その地域で語り継がれる伝承を基にしたモンスターがどこからともなく現れ、命あるものを襲うというはた迷惑な現象が存在した。モンスターが原因で国が壊滅することも珍しくなかった。善神はそれを憐れみ、モンスターが出現する原因である根源を無数の穴に集め、封印したのだ。それがダンジョンの原型となった」

「なるほど…?」

「同時に、善神はダンジョンを利用することにした。人々がダンジョンでモンスターを討ち、困難を払い、武勇を轟かせれば、神々がそれに祝福を与えるようになったのだ。ステータスや、どこからともなく出現する宝箱などがそれだ」

「…困難と祝福、ね…」


 どこかで聞いたことのあるような単語がいくつか出てきたな。【塞翁が馬】って、もしかしてその辺のルールに干渉するスキルなのか?


 いや、今はそれは置いておこう。


「なんか、話を聞く限り、悪いもののようには見えないんですが…どうしてそれを魔神が利用出来たんですか?」

「それはね。善神が魔神に敗れ、全滅したからだ」

「全滅?」

「元々善神と魔神は長い間戦争を続けていたのだ。それが、何が起こったのかは知らないが、善神が負け魔神が勝利した。魔神が世界を運営する権利を勝ち取ったのだ」


 支部長は悲しい表情を浮かべた。


「それからはもう、絶望の時代の幕開けだ。無限に広がり続けるダンジョン。氾濫を起こし、国がいくつもモンスターに飲み込まれていく。神々に祈れば魔神の声が響き渡り人々の心と脳を破壊し、いくつも建てられた神殿からは魔神の尖兵が現れ大虐殺を引き起こす。もはや、世界が終わりに向かっているのは明白だった」

「魔神は、どうしてそこまで?何か目的があるんですか?」

「…強いて言うなら、食事か娯楽だろうな」


 支部長の言葉に、俺達は時を止めた。


「…食事?娯楽…?それって、どういう…」

「私も奴らの生態までは知っているわけではないが、尖兵の言葉や魔神教徒の言葉を聞く限りはそうなんじゃないかな、と…まあ、ただの推測だね」

「…じゃ、じゃあ、リリアの目を狙ったのは…?」

「ああ、ソレに関しては、単純に邪魔だったからだろう。リリア様の他にも、勇者の血を引く末裔や、聖女、他に私を含め賢者と呼ばれる者、繁栄した国々など、邪魔になりそうなものは優先的に排除していっていたからな」

「…あまりにも救いが無さすぎる…」


 折角の剣と魔法のファンタジーの世界の話なのに、小説の材料にすらならない一方的な悲劇に気分が重くなる。


「それじゃあ、俺達の世界もいずれはそうなるんですか?」

「そうならないために、私はここで仕事をしているのだ」


 支部長が力強くそう断言した。


「もはや私達のような世界は生まない。徹底的に阻止して魔神共を根絶やしにする。私を含め、この世界にやってきた仲間たちは、その為に冒険者協会を設立し、世界中にネットワークを築いた。全ては、世界の崩壊を食い止めるためだ」


 まさか、冒険者協会にそんな意味があったとは。陽菜も要さんも、黙って聞いている。


「…具体的に、どういう方法で?」

「まず、『ダンジョンの楔』という効果が付いたカースドアイテムの処理だ。ダンジョンとは結局異世界特有のものだから、楔がこの世界に存在しないと強度を保てない。逆に楔があればあるほど高難易度のダンジョンが増える。『ダンジョンの楔』を破壊することは最重要項目だ」


 『ダンジョンの楔』…それって、綾さんにカースドアイテムを鑑定してもらった時の…?記憶に残るくらい不穏なものだったから何かしら意味があるだろうと思っていたが、そんな重要な意味があったとは。


「また、魔神教の殲滅も必要だ。奴らは邪神崇拝者で、魔神をこの世界に顕現させようとしている。魔神が顕現なんてしようものなら、たった一柱であっても数秒でこの地球を破壊できよう。絶対に阻止しなければならない」

「魔神教…」


 要さんが呟いた。陽菜も、表情が強張っている。


「まあ、この二つさえ徹底できれば、恐らく世界の崩壊は食い止められるのだが…ご存じの通り、現在ダンジョンの出現率とダンジョン攻略率は釣り合っている…つまり、ぎりぎりの状態だ」

「そう、ですね。ニュースでもそんな事を言ってました」

「原因はある。そもそも、日本だけに限って言えば、二つの勢力があるのだ。一つは、我々冒険者協会率いる『ダンジョンを放置すると世界が終わるので何とかしたい』派。そしてもう一つは、利益を求める国や大企業などの『そんな事実はないし考え過ぎ。それよりももっと利益を出したいのでダンジョンを増やしたい』派。後者の派閥が、マジックアイテムを違法売買したり、カースドアイテムを所持し続けていたり、研究に使ったり…とにかく、ダンジョンを減らそうとしている我々の努力を邪魔してくるのだ。…全く、困った事だが…」


 そう語る支部長の顔は沈痛なものだった。


「そもそも、今回の崩壊ダンジョン騒ぎも、黒い噂の多い大企業が存在していた地域で起こったものだ。案の定目を付けられた企業では多くの社員が行方不明になっており、内密で研究していたのであろう研究成果も全て消えていた。当然、後ろ暗い事もしていたらしく、報道では隠されているようだが」

「…それだけのために崩壊ダンジョンを出現させたと?」

「他にも、単純に我々への宣戦布告の意味もあったかもしれない。君もユーゴも経験したように、ついでのように多くの魔神教について探っているプロ冒険者達の命が狙われたから。まあ本命から目をそらさせようとしただけかもしれないが」


 そこで話は一旦終わった。


「…さて、つらつらと長く話したが、とにかく私が教えられる事と、立場については以上だ。信じる信じないも君たちに任せよう。そして、ここからが本題なのだが…」


 支部長は小さく咳払いした。


「…まああれだ。冒険のついでに魔神教について、分かったことがあれば教えてほしい。それから、カースドアイテムを見つけたら今後もきちんと冒険者協会に送って処理をしてほしい」

「…って、それだけですか?」


 もっと入り組んだ話が来るかと思っていた俺だったが、結果は拍子抜けだった。それだと、これまでとあまり変わらないだろう。


「冒険者と言うのは自由だからこそ冒険者なのだ。目的があるからと言ってどこそこに所属してほしい、専属の冒険者になってほしいなどと言えば、それはただの私兵と変わらないだろう。それに、不遜にもリリア様を組織に取り込むことなど私にはできない」

「はあ…」

「多くの冒険者もそれで動いてもらっている。…ただ、ちょっとだけ頼みをする時もある。邪魔にならない程度に、迷惑をかけない程度に小さな頼みだが…たまにでいいので聞いてくれると嬉しい…」


 …この人本当に支部長か?


「まあ安心しろよ。無理無茶を頼まれたことはないからな。信頼できると思うぜ。それに、魔神教にはちゃんと近づけるはずだ。どうだ?」

「…どうするの?」


 ユーゴさんにそう言われ、更に要さんからも尋ねられる。


「…陽菜はどうしたい?」


 俺は陽菜に尋ねた。


「…私のお姉ちゃんを奪い去っただけでなく、私の圭太君を傷つけた魔神教は、もはや絶対に許せません…全員、ぶっ殺します…」

「ひ、陽菜?聞いておいてなんだけど、ちょっと怖いぞ…?」

「ふーん、私の、ねえ…」

「要さん、お願いだから茶化さないでくれ…」


 俺は全力で話を次に持って行った。


「鬼月は、俺についてきてくれるか?」

『当然ダ!』


 俺は鬼月と頷き合った。


 で、最後はリリアだ。


「…リリアは、どうだ?その、今の話を聞いて…」


 リリアはうつむいたまま口を開いた。


『…私のいた世界は、もう無いんだね…』

「…はい、その通りでございます、リリア様」

『…でも、私を封印して守ってくれた一族の皆は、私と同じようにこの世界に漂流してるかもしれないよね?』

「もちろん、可能性はありましょう」

『じゃあ、私も、これからと同じように、ケイタと一緒にいる!ケイタを助けて、みんなの事を探すの…!』


 リリアは泣きながらもそう言った。俺は頭を撫でてリリアを抱きしめた。


「よし、なら俺も全力で手伝う」

『…ありがどう…ぐすっ…』

「リリアだけじゃない。俺も奴らに個人的に思う所はあります。この気味の悪い痣についても聞き出したいし、もちろん、陽菜のお姉さんについても、出来ることをしたい」


 俺は周囲にそう言った。鬼月、陽菜、要さん、リリア、それにユーゴさんも笑みを浮かべる。


「という訳で、俺達も協力します。というか、逆に色々情報を貰えるとそっちの方が助かります。鴻支部長、これからよろしくお願いします」

「ありがとう。君ならそう言ってくれると思っていた」


 俺は鴻支部長と握手した。


「よし、ならこれから正真正銘俺の後輩ってことになるな。よろしくな、圭太!」

「はい。ユーゴさんも、よろしくお願いします」

「今聞いた話は諸々、俺も協力させてもらうぜ。まあ、言うてちょっと探って報告するだけだが…お嬢ちゃんたちさえよければ、どうだ?」

「た、助かります!」

「まあ、心強いっちゃ心強いわね」


 そういう訳で、俺は本格的に冒険者協会とコンタクトを取る事になったのだった。


「…さて、では今日はこのくらいにしておこう。そうだ、神野君…早速で悪いのだが、今日か明日中に君に頼みたいことができるかもしれない。まだ未定で悪いが、その時は是非話だけでも聞いてほしい」

「分かりました」


 最後に連絡先の交換をして、俺達は冒険者協会支部の建物からお暇した。


 にしても、その場の勢いで話に乗ってしまった気がする。まあ言葉に嘘はなく、全部本音のつもりなんだが…。


 これからも、俺にできることは何でもやろう。その為にも、そろそろ実行に移すべきだな。


 学校なんて行ってる場合じゃないだろ、もう。

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