21:初心者ダンジョン リザルト
冒険者のステータスは、レベル5からが本番だと言われている。
何故ならレベル5までなら、殆どの人間は一カ月で達成できるからだ。だが、レベル6からは一気に難易度が難しくなってくる。
まず、普通に期間が長い。レベル5まで一カ月で行けるのに、レベル6になるにはさらに一カ月必要となる。更に、レベル7になるまでには二カ月かかり、レベル8へは四カ月かかる事となる。
そして、そこから成長速度はやや上昇しながらも、横ばいになっていく。つまり、半年ごとにレベルが一つ上がる、というような形に落ち着く訳だ。
本番というのは、その成長速度に自分の戦力の上昇が付いて行けるか等の才能や実力的な面、さらに、そんな長い期間、レベルを上げるためにダンジョンに潜って、自分と同等以上のモンスターと戦闘を繰り返すことができるのか、という精神的な所も問われることになるからだ。
折角一カ月も死地に赴いてレベルを上げたのに、役に立たないスキルしか手に入れられずに同期に付いて行けず、結果挫折、という話はよくある事だ。
もちろん今のは平均の話なので上振れや下振れはある。特に上振れの場合は、常識では考えられないレベルで成長する冒険者も中にはいる。ごく少数の冒険者だが、そうした冒険者はほぼ全員がプロ入りしている。
そして、その成長率の差が、冒険者としての才能の有無に繋がるという考えが現在蔓延しているらしい。どうやらそれが陽菜さんが前のパーティーを追放された理由なのだそうだ。
前のパーティーメンバーは、レベル7に到達するのが全員早かった。4月から冒険者を始め、夏休みが始まる7月末にはレベル7まで到達していたらしいので、大体1カ月平均よりも早い。つまり才能があった。
しかし陽菜さんはレベル5のままで成長率が低く、彼女たちに言わせると才能が無かった。
もっと上へ行けると分かった彼女たちは、陽菜さんを足手まといとして扱い、追放し、新たな才能ある仲間を得ようと動いたわけだ。
なるほど、確かに効率的だろう。
しかし、今。そんな足手まといの扱いを受けていた陽菜さんは、あっという間にレベルを一つ上げたのだ。
「という訳で、苦節三カ月…やっと、やっとレベルを一つ上げられましたぁ~…!」
陽菜さんはひんひんと泣きながら感動に打ち震えていた。
「おめでとう、陽菜さん」
「圭太君…ありがとうごじゃいましゅ…」
リュックからティッシュを取り出して渡してあげると、ちーんと鼻をかむ。
さて、陽菜さんのステータスはこのように変化した。
――――――――――――――――――
橘 陽菜
Lv.6
近接:13
遠距離:19
魔法:36
技巧:14
敏捷:9
《スキル》
【火属性魔法Lv3】
【マナリンク】
――――――――――――――――――
「上がり幅が凄まじいな」
特に魔法。ここの数値が跳ね上がった。さっきで十分威力はあったのだが、これからはさらに威力が上乗せされることになる。
しかし、流石に【塞翁が馬】があるからってここまで呆気なくレベルが上がるとは。これまで積み重ねた分が、このタイミングでやっと芽吹いたってだけなのか?
にしては引っかかる部分が多い気がする。気がするだけだけど。
「陽菜さん、レベル5までいくのも時間かかったの?」
「いえ、レベル5までは、みんなと同じ速度でしたよ…?」
ふむ。レベル5と言えば、レベルスキルが一つ増える段階だ。
…いや、まさかな。顔も見た事ない人たちに、あらぬ疑いをかけることもあるまい。
「とにかく、陽菜さんは十分戦力になる事が分かったし、陽菜さんにも俺のスキルは適用されると考えていいん…だよな?」
『流石に偶然とはいいがたいナ。もちろんヒナの努力が実ったというのもあるだろうが、ケイタのスキルが影響を与えた可能性も十分に考えられル』
「ふぁい、絶対圭太君のお陰です。本当にありがとうございました…」
感謝されるなんて慣れてないし、若干むず痒いな。
それに、【塞翁が馬】が発動しているのは知っているのだが、体感ではいつも通りに過ごしているだけ。俺自身は何もしてない気もする。
とはいえここは素直に受け取っておくか。
「どういたしまして…まあ、もう十分だろ。陽菜さんにはこのまま、正式にパーティーに加入してもらいたいなって思う。鬼月はどう?」
『異論はなイ。改めてよろしく、ヒナ』
「はい、私、頑張ります…!」
という訳で、改めて握手をする。
こうして俺と鬼月は、新しい仲間を獲得したのだった。
21:初心者ダンジョン リザルト
さて、ダンジョンに潜っていたので、当然ながら成果はある。どれも見た事の無いアイテムだが、気になるものだけ三人で選別した。
《フォレストウルフのジビエ》
・レア度1
・魔力が僅かに込められている。動体視力を向上させる
《森の恵み》
・レア度1
・魔力が僅かに込められている。毛質を向上、さらに身体を健康化する。
ジビエはどんな味がするのか今から楽しみすぎる。想像するだけで涎が出てくる。何せ見た目だけみてももう美味そうなのだ。赤身と霜降りが程よく入り混じった肉。しっかりとタッパーに詰めてお持ち帰りする。
《森の恵み》は、いうなれば樹液が固まった飴の様なアイテムだった。一度に10粒程度得ることができた。これも需要が高く、非常に高価なものらしい。
…爺ちゃんにやれば、泣いて喜ぶかもしれない。いや、でも毛量じゃなくて毛質だしな…どうなんだろう。
次に武器類だが、弓やナイフと言った俺達は使わないアイテムばかりだったので全て売却することにした。
最後に防具やマジックアイテムだが、こちらはよさそうなものがいくつか手に入った。
《深緑のスカーフ》
・レア度1
・魔力が込められている。気配を遮断する効果を持つ。森の中で使うと効果が向上する
《迷宮鬼灯のランプ》
・レア度1
・魔力が込められている。フィールドを作り出し、中にいる味方全員にドライアドの祝福を授ける
《若枝のタクト》
・レア度1
・魔力が込められている。小鳥の妖精を呼び出し、操る事が出来る
と、マジックアイテムに関しては、かなりいい収穫となった。
見た事の無いアイテムばかりだし、たまには違うダンジョンに潜るのもアリだな。
陽菜さんは数々のアイテムを見て目を輝かせていた。
「凄いです。一週間で一個出るか出ないかが普通なのに、一日でこんなにたくさんのアイテムが出てくるなんて!」
「秘密だよ?」
「はい、三人だけの秘密ですね…!」
嬉しそうに笑う陽菜さん。明るいな、この人。めっちゃいい人だ。
ダンジョンを脱出した後は、折角なので初心者ダンジョンのすぐ近くにある小さめのショッピングセンターに遊びに行くことにした。
とりあえずいらないアイテムを換金してもらって、ウィンドウショッピングを楽しむ。
とはいえ、やはり俺がいつも行っているモールの方が品ぞろえは良い。しかし悪いわけではないし、何よりモールは毎日活気があるが、こちらは打って変わって物静かで大人な雰囲気だった。
たまにはこっちに来てもいいかもな。綾さんの事もあるし、鑑定は出来ないけども。
「鑑定、してもらわなくて良かったんですか?」
「んー…知り合いに鑑定士見習いの人がいて、その人に全部任せてるんだよね」
『アヤは腕のいい鑑定士だゾ』
「女の人なんですか?も、もしかして、恋人…とか!?」
「いや、違うから」
高校生らしい色眼鏡な考えを一蹴する。
その後はしばらく三人でショッピングセンターを回り、食べていなかったお昼ご飯がてら陽菜さんの知っているカフェで一休み。その後本屋に行って目を輝かせる鬼月と歩いて、良い時間になってから帰りのバスに乗った。
婆ちゃんに連絡を入れて、夕ご飯は陽菜さんも一緒に食べることになった。初めてのパーティーでの戦利品だし、一緒に食べたいと陽菜さんから提案してきたのだ。
今日モンスターを倒したのは殆ど陽菜さんだったし、パーティー正式加入のお祝いにもなるしで断る理由は無かった。。
家に帰ると、陽菜さんが腕まくりした。
「連日お世話になるのも気が引けるので、私手伝います」
「あらあら、ではお願いしましょうかね」
「圭太君、鬼月君、楽しみに待っていてくださいね」
そんなやり取りを交わして婆ちゃんと一緒にキッチンへと消えていく陽菜さん。
女子の手料理か。何気に初めてだな。…なんか知らんがそわそわする。なんだこれ。
「…俺らはメンテナンスでもしとくか」
『うん、そうだネ』
野郎二人は倉庫に行って、装備のメンテナンスをして時間を潰したのだった。
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