19:ダンジョン探索十二日目 襲来

 第三拠点を発見し、戦闘を始めて数分が経過した。


 ボスモンスターを倒した後、無傷だった鍛冶小屋から突如として炎が沸き上がった。それはあっという間に収束して一体のモンスターと化す。


『確かファイアガイストダ。コアがどこかにあるはず!』

「もう見つけた」


 中央あたりに一際明るく輝く光の玉を発見し、俺は風刃を飛ばして両断。奇襲の機会をうかがっていたであろうファイアガイストは、空しく霧散して魔石を堕として消えていってしまった。


 宝箱が落ちる。どうやら今ので最後だったらしい。刀を鞘に入れて一息つく。


 俺は思った以上に順調に進んでいることに若干拍子抜けしていた。


 遭遇戦も地図のお陰で事前に先手を取れるし、現れるボスも割とすぐに倒せてしまう。


 ステータスのレベルが5に上がった事による恩恵が予想以上に大きかったのが原因だろう。ステータスの向上に加え【強化】による機動力や火力の上昇が戦力を大幅に上げている。


 地図を少しずつ確認しながら、端から端へ向けて攻略をしているが、既に3分の1を攻略できたと思う。集落の数ははっきりしていない為明確には言えないが、面積だけで言えば間違いはないはず。


 攻略を開始して既に7時間が経過し、現在時刻は16時。もうそんな時間か。集落や採掘坑の他に、点々としたところにある遺跡にもモンスタールームがあったりギミックがあったりして時間を忘れて探索してしまった。


「鬼月、そろそろ帰ろうか」

『ああ、そうだナ』


 鬼月に一声かけて、俺達は一旦撤退することになった。


 しかしダンジョンの外に出るまで、歩いて20分以上かかるようになってしまった。ワープポイントとかあればよかったが、このダンジョンにはそういうのは無いらしい。えっちらおっちら歩いて元来た道を戻っていった。


 ダンジョンの外に出て、俺達は家へと帰ってきた。


 倉庫にまず鬼月のバッグからアイテムを取り出して整理して、その後刀や防具の手入れをしてから家に入る。最近は専ら縁側から入るのが当たり前になってしまっている。何せ倉庫があるのが縁側のある方向なのだ。


 縁側に上がってから引き戸を開ける。


「だから、どこぞの馬の骨なんぞにうちの大事な孫をやれるかって言ってんだ!」

「誰の可愛い孫娘が馬の骨じゃ!うちくらかすぞジジイテメエ!」

「ジジイはお互い様だろうがぶっ飛ばすぞゴラア!」


 俺は中を眺めてからそっと閉め直した。


『喧嘩カ?ゲンゾウが危なイ、加勢に行くゾ、ケイタ』

「…いや待て。相手は件の橘のおじさんだったぞ。これは一体どういう事だ?」

「あら、帰ってきてたんですね、圭太」


 婆ちゃんの声がしたのでそちらを振り向くと、そこには橘のおばちゃん、そして昨日会ったばかりの橘 陽菜がいた。


「お、お邪魔しております…」

「はあ…どうも…」


 なんだか申し訳なさそうだ。俺は混乱する頭を抑えながら婆ちゃんに声をかけた。


「婆ちゃん、橘のおばちゃん。コレ、一体どういう状況?」

「ええ、実は橘さんところのご主人が押し掛けてきたかと思うと、お爺さんと口論になってしまったらしくて」

「お邪魔してますよ、圭太君。そうね、どこから話しましょうかねえ。圭太君は昨日陽菜から色々聞いたみたいだし、もしかしたらもう気づいてるかもしれないけれど」

『ふむ…どうやらタチバナ・ソウイチロウはかなりの頑固者らしいナ』


 鬼月が呆れた顔でそう言った。どうやらもう気づいたらしい。俺だって気づいてる。これが昨日終わったと思っていた話の続きなんだってことを。


「とりあえず、あのバカ共をなだめてきますので、三人はそれまで別の所で待っていてくれますか?もととは言え私が考えなしにおすそ分けした所為でもありますから、何とかして見ますよ」

「あら、それを言うなら私だって、最初は圭太君みたいなしっかり者と陽菜が組むのは良い考えじゃないなんて賛同してしまったもの。考えなしは私の方ですわ」

「ええ、では二人で行きましょう。圭太、陽菜ちゃんのお世話は頼みましたよ」

「陽菜、圭太君にあまりご迷惑をかけないようにね」

「え、うん」

「はい…」


 そう言って、二人で引き戸を開けて中に入っていった。遅れて拳骨の音が聞こえてくる。


「…とりあえず、ここじゃ雑音がうるさいし…倉庫にでも行こうか。クーラーあるから涼しいよ」

「は、はい」

『僕はお茶でも持って来ようカ』


 倉庫はボロいが空調もある。普段爺ちゃんがそこで色々作業してるから、設備は整っているのだ。


 ちなみに倉庫のある中庭だが、そのすぐ横に畑がある。…が、畑と庭の間は大きく盛り上がった畔がある為、ダンジョンは見えないようになっている。





19:ダンジョン探索十二日目 襲来





「本当に、ごめんなさい!」


 倉庫について、橘さんが急に頭を下げてきた。さらさらの黒髪が流れて落ちていく。


「止めたんですけど聞かなくて…家まで押しかけてしまい、なんとお詫び申し上げればいいか…」

「い、いやいやいや、確かにびっくりしたけど、聞いた話橘さんが謝るような事じゃないじゃん。気にしてないですから」

「ですが…」

「というか、俺こそ冒険者の知り合いだとか嘘ついてましたし…すみませんでした」


 口を閉ざす橘さんに、俺の方こそ頭を下げた。


「わ、私こそ自分が冒険者と明かさなかったですから…それこそお互い様です。それに、私は圭太さんが冒険者だと気づいてましたから」

「そうなんですか?」

「はい。握手した時に、独特な剣だこができてましたから。回復薬などで治しながら出来る剣だこは、普通のものとちょっとだけ感触が違うんです」

「…マジか」


 自分の手を見てみると、確かに剣だこができているのが見えた。別に普通の剣だこに見えるが、彼女には別物に見えているのだろう。


「よく知ってましたね、そんな雑学」

「私、冒険者オタクなので…」


 顔を赤くしてうつむく橘さん。暗い顔という訳でもないし、どうやら照れているようだ。


 しかしなるほど。つまり同じ趣味とは冒険者の事だったか。俺の場合は必要に駆られてというのと、お小遣い目当てで始めたので若干それも違うが。


「それにしても、まさかここまでことが大きくなるとは。孫想いの祖父を持つと、お互い苦労しますね」

「助けられることも多いですよ?ふふふっ」


 お、良かった、笑ってもらえた。


 その後、鬼月がお茶を持ってきて、一息つくことができた。落ち着いてきたためか橘さんは自分の事について話し始めた。


「…実は私、冒険者パーティーを追放されたんです」

「追放って、追い出されたってことですか?」

「はい。私が冒険者になったのは、4月の事でした。クラスメートで同じように冒険者を目指している方たちとパーティーを組んで、夏休み前までは一緒に冒険をしていたのです」

「それが、どうして?」

「私が、どうやら足を引っ張っていたようなのです。それで追放すると皆から言われてしまって…」


 橘さんは少し気落ちしたような表情を見せたが、それも一瞬の事だった。


「でも、私はそれでもまだ冒険者を諦めたくない。夢の為に、もっと成長したいんです!だから、私を入れてくれる新しいパーティーを探そうと思ったんです。私は魔法使いなので、パーティーを組まないと碌にダンジョンに行けないので…」


 魔法使いとは長文詠唱だったり起動条件がややこしかったりする代わりに、高威力の魔法を放つことができる冒険者の総称だ。大体の場合敵から攻撃を食らうと起動条件が満たされずキャンセルになってしまうので、近接戦闘や防御関係のステータスが伸びにくく、パーティーでサポートを受ける必要があるという短所を持つ。


 確かに、その状況じゃ慌ててパーティーを探すだろう。俺だって同じ立場ならそうしてたと思う。


「それで、その事をおじさんに話したら、あのように暴走しちゃったと」

「はい…」


 しょんぼりと肩を落とす橘さんだが、あまりにも気の毒だ。俺は言葉を選ぶ。


「俺達は別に気にしてないですよ。それに、以前断ったのだって、鬱陶しいからとかそういう話じゃなくて、こっちに組めない理由があったから断っただけなんですから」

「…そう言っていただけると嬉しいです。あの、私、必ずパーティーを探して、もっと上に行けるよう頑張ります!」

「お互い頑張りましょう」


 どうやら元気になったようだ。橘さんはいそいそと支援デバイスを取り出して俺に上目遣いを向けてきた。


「あ、あの…フレンド登録しませんか?」


 支援デバイスによるフレンド登録か。フレンド登録したら無料で通話出来たりメール機能が使えたりができるようになる、地味にありがたい機能である。


「私、フレンドが前パーティーを組んでいた方たちしかいなかったのですが…それも追放されたので、向こうからブロックされてしまい、今は一人だけなんです…寂しいので、その…」


 ここで断るなんて選択肢は流石にないだろう。俺はデバイスを取り出して頷いた。


「もちろん、いいですよ」

「本当ですか…!それじゃあ、IDを見せていただけますか?こちらから申請を出しますので」


 俺はデバイスを操作して、自分の冒険者プロフィールを表示させて橘さんに見せた。


 プロフィールには俺の名前とレベルが書いてある。名刺の様なものだ。


「…あっ」

「ん、どうかしました?」

「い、いえ、なんでも」


 しばらくすると、フレンド登録の申請が送られてきたので、それを承認する。


 橘陽菜。レベル5か。流石に鬼月よりも上だな。…だが、予想していたよりも低い。まあ、気にする程の事でもないか。


 それにしても、まさか初めてのフレンドがお嬢様学校に通う正真正銘のお嬢様になるとは、予想だにしていなかったな。


「あの、私の事は是非陽菜とお呼びください!それに、敬語も取っていただけると嬉しいです。よろしくお願いします、圭太…君!」

「…了解、陽菜さん。こちらこそよろしく」


 さん呼びから君呼びに変わったが、それに違いはあるのだろうか?まあ嬉しそうにしているからいいか。しかしなんか凄いむず痒い。


『仲良くなれてよかったナ。出会いが出会いだったし、どうなるかハラハラしてたゾ』

「あの、こちらは圭太君の使い魔さん、でいいんですよね?」

『鬼月だ。ケイタに拾われて、それ以来ケイタと二人で冒険者活動をしていル。よろしく、ヒナ』

「わあ、使い魔さんとお話しするの、これが初めてなんです!こちらこそよろしくお願いしますね、鬼月君!」


 嬉しそうに鬼月と握手する陽菜さん。


 と、ここで倉庫の扉が開かれた。


「圭太、陽菜ちゃん。落ち着いたので、もう来ても大丈夫ですよ」

「分かった。今行く」


 さて、本題はここからだな。俺は陽菜さんと鬼月と目を合わせて、立ち上がったのだった。


 部屋まで行くと、爺ちゃんと橘のおじさんが机を挟んで向かい合っていた。しかし顔はそっぽを向いている。


「来たか。圭太、こっちに座りなさい」

「陽菜、こっちに」


 と言われ、俺と陽菜さんもお互い向かい合う状態で座らせられる。


「あらあら、まるでお見合いみたいな立ち位置ですねぇ」

「だ、誰がお見合いだ!まだ孫はどこにもやらんぞ!」

「爺ちゃん、黙って」

「こっちこそ願い下げじゃあ!それに今回は娘とパーティーを組まんかという提案をしに来ただけ!話を飛躍させんでほしいのぅ!」

「お爺様、少し静かにしてください!」


 俺はあきれ顔で、陽菜さんは顔を真っ赤にして訴えた。


 橘のおじさんは、ごほん、と咳を一つして流れを変えた。


「さて、圭太君。急に家に押しかけてしまい失礼したのぅ。しかしどうしても君に聞いてほしい話があってのう」

「…陽菜さんから話しは聞いてますよ。俺とパーティーを組んでほしいってことですよね?」

「話が早いのう!そこの惚けジジイとは大違いじゃあ。やれ孫はやらんどこにもやらんと話が通じなくていかんわい。誰も婿に欲しいとか言っておらんのにのぅ」

「あら、次第にヒートアップして『そこまで言うなら婿に連れて行ってやるけんのぅ!』とか言っていたのはどこの誰だったかしらねえ」

「ぷはー!言われちゃったねえ、大惚けジジイ」

「お爺さん、次喋ったら髪の毛をむしり取りますからね」


 爺ちゃんが黙った。弱点の一つだしね…。


「…しかし、その件に関しては先日にもうお断りを入れていたはずですが…」

「まあ、それもそうなんじゃが、理由一つも無く断りを入れられては、生粋の商人の血が流れるわしにはどうしても納得できんでのう。こうして顔を突き合わせて話をしてみたいと来てしまった次第じゃ」

「なるほど…」


 俺は小さくため息をついた。ここはもう話すしかない。橘のおじちゃんとおばちゃんは俺が小学生の頃からの付き合いだし、信頼できる人だとは分かっている。


「それじゃあ、ここからはこの場にいる全員、他言無用でお願いしたいのですが」

「当然じゃ」

「では話しますが、俺には不幸や困難を呼び込むスキルがあります」


 俺の言葉に、橘のおじさんと陽菜が、少しだけ目を見開いた。


「まだどれだけの範囲で困難を呼び込むのかも分からない。制御できるかどうかも不明。使い魔と一緒に潜るのならまだいいでしょう。本人も望んでくれていますので。…しかしパーティーとなると話が変わってくる。俺のスキルが呼び込んだ困難や不幸の所為で、死なせてしまったりしても、俺には責任の取りようがありません」


 そこまで言い切って、一息ついた。


「…これが俺が断った理由です」

「…いや、まだあるんじゃないか?」


 橘のおじさんが手を上げてそう問いかけてきた。


「…理由としてはこれが全てですよ?」

「いいや、まだ話していない…いや、明かしていないナニカがあるはずじゃ。そもそも、スキルとはメリットありきのもの。デメリットがある事もあるが、その場合はそれ相応のメリットがもたらされるはずじゃ」


 むっ…俺は思わず口を閉ざした。


「わしはな、商売を引退した後もずっと勉強し続けて、知識を常にアップデートしとるんじゃ。今の高校に入れられても、全教科100点取れる自信がある。ダンジョン関連の知識もたんまりと頭に入っとるんじゃあ」


 スキルに関しては俺の方が不勉強だったらしい。スキルはメリットありきの存在…そんなの聞いたことも無かった。確かにそれじゃあ疑問に思ってもおかしくないはずだ。


「なんと、今の学校で全教科100点だと…!?」

「凄まじい知力…私達では到底及びませんね」

「流石は私の旦那…老人界一の賢者…!」


 そして後ろでざわざわとうるさい。老人たちにとって、100点取れるのがそれほど凄い事なのだろうか。まあ、社会人になると学校で学んだ事なんて一瞬で忘れてしまうなんて話は聞いたことあるけど、年齢的にまだ実感したことは無い。


「…騙すつもりはありませんでしたが」

「いやいや、今のは冒険者として当然するべきリスク管理。むしろこちらの方こそ暴くような真似をしてしまい申し訳ない。確かにそのような理由があれば、諦めざるをえんのぅ。押しかけてすまなんだ」


 俺はその言葉を聞いてほっとする。が、橘のおじさんは陽菜さんに目を向けた。


「陽菜よ。そういう訳でわしの話はこれで終わりじゃが、陽菜からは何かあるかのう」

「…」


 おや、陽菜さんの顔色がいつの間にか変わっている。申し訳なさそうな顔から、真剣な顔だ。俺は思わずたたずまいを整えた。


「えっと、陽菜さんからも、何か…?」

「…圭太君。さっきの話を聞いて、改めてお願いします。どうか、私を圭太君のパーティーに入れてください!」


 予想外の言葉だった。俺は思わず鬼月と目を合わせる…が、鬼月はとりあえず陽菜さんの話を聞けという目で陽菜さんを見た。


「えっと、理由を聞いても?」

「…さっき、フレンド登録の時の圭太君の冒険者IDを見た時、私気づいたんです。多分だけど、圭太君は冒険者を初めて、まだ半月も経ってないんじゃないかなって。だって、789000番台のIDは、少なくとも一カ月前後前くらいに冒険者を始めた人たちのIDだから…番号的にそうじゃないかなって!」

「そっ」


 俺は思わず喉を鳴らした。


「…そんな事、どうして知ってんだよ…」

「私、冒険者オタクなので…!」


 陽菜さんはテーブルに手をついて俺を見つめてきた。


「半月でレベル5に至るなんて、凄すぎます…」

「…」

「圭太君…私、追放されたって言いましたよね?実は、レベルが全然上がらないんです」


 悔しそうに、下唇を噛む。


「一カ月でレベル5まで、二カ月でレベル6へ、そして三カ月目でレベル7へ行くのが、冒険者の平均的な成長速度。もちろんレベル7に到達するまでに、およそ50%の冒険者が挫折したり、諦めたりする世界です。でも、元のパーティーでは、皆レベル7に到達していったのに、私は…私だけはずっとレベル5のままでした」

「…それで足手まといだと言われたんだな」

「はい。でも、前のパーティーで足手まといだったからって、早々には諦められません。私は、お姉ちゃんの様なプロの冒険者になりたいんです。プロの冒険者になって、お姉ちゃんを探しに行きたい。それが私の目標…夢なんです!」


 陽菜さんが頭を下げる。


「お願いします、圭太君と一緒なら…私、何か変わるかもしれない!その為ならどんな事でもします!ステータスも開示するし、今持ってるマジックアイテムも全部見せます!どうか、私をパーティーに加えてください!」


 そう言われ、俺は鬼月に視線をやろうとして、すぐに辞めた。そして考える。


 確かに、【塞翁が馬】は彼女の成長率の低さをどうにかできるかもしれない。


 でも、同じくらい危険な目にもたくさん遭う。鬼月はまだ防御型だったからよかった。でも陽菜さんは魔法使いだ。魔法使いのステータスは総じて打たれ弱くなる傾向にある。


「陽菜の姉は…」

「お爺様、少し黙っててください」

「…うむ」


 橘のおじさんが、何かを言いかけたが陽菜さんに遮られて黙りこくった。


 …まあ、身内が冒険者になって、そのまま帰ってこなくなる、なんて話は…聞く話ではある。交通事故よりも少ないが、下回るくらいの数が年に亡くなっている。


 陽菜さんは、それを分かっていて尚冒険者を続けようとしているのだろう。


 あー…これ、俺もう断れねえな。


「…死ぬ確率が上がるけど、それで本当に良い?」

「はい」

「もしかしたら、俺や鬼月だって、君の目の前で死ぬかもしれない。それでも良い?」

「…し、死なせないように、全力を尽くします」

「…分かった。とりあえず一度、一緒にダンジョンに行って、それから考えましょう」


 俺はそう言った。一瞬空気が止まったが、すぐに動き出す。


「本当ですか!?」

「うん。…鬼月はどう?」

『僕は構わなイ。ここまで見た感じ、ヒナは信頼に値する人間だと思ウ』


 鬼月も頷いて、陽菜さんのパーティー加入は満場一致で決定した。


「橘のおじさんやおばちゃん、それに陽菜さんのご両親は良いんですか?」

「ああ、わしらは全員、陽菜が強い覚悟で動くのであれば、どのような結果であれ受け入れるスタンスじゃ。出来ればしっかり実力を見てやって、その上で決めてやってほしいとは思うがのぅ」


 なんというか、橘家って覚悟ガンギマリで怖いな。


 陽菜さんは涙目で笑顔を浮かべた。そして手を差し出してくる。


「あの、お役に立てるよう頑張ります!よろしくお願いします、圭太君」

「よろしく、陽菜さん」

『よろしくナ、ヒナ』


 そういう訳で俺達に、初の冒険者仲間ができたのだった。


 その後、流れのままにうちで橘家の面々が夕ご飯を食べていく事になった。食材アイテムでできた料理の数々にそれはもう目を丸くしていた橘家だったが、酒も入ると緩やかな時間が過ぎるようになっていった。


 俺と鬼月、陽菜さんの若い組は固まって、一緒にご飯を食べて親睦を深めた。


「こうなりゃ本当に許嫁ってことにしてみるかのぅ?」

「待て、確かに陽菜ちゃんは良い子みたいだが、まだ孫をやるには足りん…!」

「だからそういうのはわしが言うセリフじゃろがい」

「爺ちゃん、それ以上変な事言うと食材アイテムもうやらないから」

「お爺様も、恥ずかしいです!それ以上言うならもう口を聞きませんからね!」


 爺ちゃんとおじさんは黙りこくったのだった。


 近接アタッカーの俺に防御に強い鬼月。正直このタッグでも割と手堅い戦力ではあるのだが、俺達二人では到底出せない高火力が魅力な魔法使い、それもレベル5で、俺達よりも経験豊富な冒険者が入ってくれるのであれば、メリットも多い。


 とにかく、一度実力を見せてもらうか。

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