18:ダンジョン探索十二日目 下層突入
鬼月の話を聞くに、下層は広大な一つのマップが広がっているらしい。遺跡が点在する超広大洞窟は、その一部がデーモン種やゴブリンの手により集落と化しており、至る所で粗悪な鍛冶が行われていて非常に空気が汚い。
洞窟はほぼ円形で、手前側に中層への階段がある遺跡があり、中心を挟んで逆側に塔の様な立派な建物がある。その建物がダンジョンボスが破壊しようと企んでいる封印で、ダンジョンボスは中にいる何かを殺そうとしていると。
とりあえずうちの畑のダンジョンで訳の分からん企みをこれ以上進めさせる訳にはいかない。ダンジョンボスの出来るだけ早い討伐が今後の一先ずの俺の目標だ。
作戦としては集落がいくつかあるから、それを順番に潰していき、最深部でボスモンスターと対面すること。ボスモンスターはダンジョンのモンスターを制御するために一か所にとどまり続ける必要がある為、恐らく向こうから襲ってくることは無いだろう。
懸念すべき点はこれからの戦いはほぼ遭遇戦となる事だ。これまでと違って部屋で区切られていたり、曲がり角があったりなどが無い為どこから敵が出てくるかが予想しづらくなる。
ここで有効なのは《魔素払いの結晶》だ。魔素が無い場所を嫌うモンスターはボスモンスターからの強制命令でもない限り結晶や子機に近づくことは無い。魔素の無い範囲を広げていけば、それだけ敵がどこから出てくるかの範囲を狭めることができる。
これまでと同じように徐々に《魔素払いの結晶》の範囲を広げていって少しずつ進むことになるだろう。
次点で有効なのは《ゴブリン族長の戦術地図》だ。下層の面積と比べると範囲は狭く、持ち主を中心に大体半径100m程度と言ったところだが、敵の位置をある程度示してくれたり、どこに何があるかを大雑把だがアイコンで示してくれる。
また、《道標の杖》もこれまでと同じように戦力となってくれるはずだ。
鬼月が地図を見たり杖を見たりと大変になってしまうが、任せることにした。俺は俺で、敵を即座に殲滅して安全地帯を作り出したり、罠に反応する等役割がある。要は斥候や警戒係という事だ。
そういう訳で俺達は準備を済ませる。俺は昨日のうちに研ぎ直していた刀、鬼月は新しく装備できるようになった盾と新装備。それぞれ装備してダンジョンに向かうことにしたのだった。
18:ダンジョン探索十二日目 下層突入
ボス部屋まで戻ってきて、鉄の扉の前で鬼月が道標の杖を地面に立てる。ぼんやりと輝く光の色は黄色。黄色なのは扉にトラップがあるからだろう。恐らく中には危険はない。
「警戒は忘れないようにいこう」
『そうだネ』
鉄の扉を押して、真っ暗な中から無数の手のひらが飛び出して身体を拘束しようとするのを全力で避ける。いつものトラップである。
トラップの効果が消えた後、再度扉を開けて中に進む。そこは縦に長い部屋となっており、階段に続いていた。
いつものフォーメーションで階段を降りる。階段は真っすぐ下へと向かっており、奥には鉄の扉が待ち構えていた。
その鉄の扉は既に開いていた。さらに押し開けて先へと進む。
広大な空間を目の当たりにした。朽ち果てた遺跡に出た。遺跡の天井が砕け落ちているが、洞窟の天蓋部分が遥か遠くにあり、鬼月の言っていた封印された塔がかすかに見える。
「…先へ進もう」
鬼月とアイコンタクトを交わし、ボロボロの遺跡から出る。
鬼月の言っていた通り、洞窟の中ではあるが小高い岩山がいくつか聳え立っていて、それが集落と集落を区切る壁の役割をしているようだ。どうやら洞窟もあるらしい。
道が左右に続いている。恐らくぐるりと外周を回るルートなのだろう。
とりあえず遺跡を出たすぐの所に《魔素払いの結晶》を設置。子機を生成して鬼月のバッグに入れる。
まず右回りから攻略することにした。進んでいると、空から蝙蝠の群れの様なものが襲い掛かってきた。
下級デーモン種のクラウドデーモン。群れに見えるが、一匹しかいない本体が複製を作り出して群れを形作っている存在だ。
そしてその本体は赤い目を持つ複製とは違い、青い目をしている。俺は即座に本体を見つけて刀で両断した。群れは魔素へと還る。
こいつらは超音波攻撃をするから、見つけたら即座に倒さなければ周囲のモンスターを呼び寄せるかもしれない。なおこの情報も鬼月からのものだ。本当、鬼月様様だな。
更に先へ進むと、一つ目の集落を発見した。ボロ小屋がいくつか、そしてボロボロのテントがいくつか。大体数がゴブリンは20体程度、ホブゴブが3体程度、そして見た事の無いモンスターが2体。
更に、近くに採掘坑があった。その採掘坑を中心に作られた集落なのだろう。
ゴブリン達が資材を運んだりしている中、ボロ小屋の中で牛の頭をしたデーモン種が鍛冶をしていた。
木材を縄で縛りつけただけの様な高台には見張りをしている弓ゴブリンがいる。俺はまずソイツを風刃を飛ばして首を落とした。
そして集落に突っ込んで、またしても風刃。鍛冶をしている小屋の炉に風刃を叩き込んで、炎をまき散らさせる。ボロ屋だったそこは瞬く間に炎に包まれる。
『ギギッ!?』
『ギギャー!』
ゴブリン達が気が付くも、俺と鬼月の一秒にも満たない攻撃で数匹が消滅。
物資を運んでいたホブゴブリンがそれらを地面に放り出し、俺に襲い掛かってくるも、あまりにも動きが遅い。一息にすれ違って、その首を一撃のもとに落とした。
『ブルァアアアアア!』
炎に包まれていた小屋から、火の粉を纏って牛頭のモンスター、ミノタウロスが現れる。奴は巨大ハンマーを持って俺に猛烈な勢いで攻撃を仕掛けてくる。避けると直径3mはあるクレーターが出来て、凄まじい破砕音が響き渡った。
更に、燃えた小屋からもう一体ミノタウロスが出てきて、手に持ったボコボコのバケツから、ドロドロになった真っ赤な鉄をぶっかけてきやがった。
「あぶねえ!」
『僕の後ろに!』
横に転がって避けると、隣に鬼月が来る。広場の中央で集まった形だ。見てみると、後ろからホブゴブが新たにやってきているのが見えた。手にはピッケルを持っている。
『【守護方陣】!』
盾を構えて鬼月が魔法を唱える。すると、周囲を取り囲んで攻撃を仕掛けてこようとしていたモンスター達を白い結界が阻んで後ろへと弾き飛ばした。巨躯ゆえに後ろによろめかせただけだったが、それだけあれば十分だった。
俺は足と刀に【強化】を施し、結界から飛び出した。足と刀に、青く光るあみだくじみたいなラインが走る。これが強化だ。
そのまま一瞬でバケツを持ったミノの首を刈り、残った胴体を蹴ってもう一体のミノに真っすぐ跳んで首に刀を突き刺す。そして肩を足場にそのまま刀ごと回転し上空へと斬り上がると、首を飛ばすことに成功した。
更に、【風刃】を放ってそれを足場に跳躍する。足に纏った【強化】の魔力を利用し、風刃を足場にする新技だ。一瞬だけだが、地面にいる時と同じ程度の踏ん張りを利かせることができる。
俺は真っすぐホブゴブへと突っ込み、首を切ったのだった。
「制圧完了…かな?」
『集落はそのようだが…まだあるみたいだゾ』
集落の中心に魔素が集まっていく。いつものアレだ。
現れたのは武装したホブゴブリン、強化種だった。
『グアアアアア!』
手にした槍で攻撃を仕掛けてくる。普通のホブゴブよりも早い…が、【強化】で足を強化した俺の方がまだ早い。ホブゴブの強化種程度なら俺のステータスが上回るようだ。
奴は槍を大きく振るい、近くにあった集落を形成していたボロボロのテントを風圧で吹き飛ばす。俺はソレを跳んで避けて頭を両断した。
ホブゴブが倒れた事で、集落の制圧が終わる。宝箱が現れたのでいつものようにトラップを回避して中身をいただく…のだが。
「ほとんどが魔石鋼だな」
入っていたのは大量の魔石鋼だった。他にもあるけど、魔石鋼の量が今までの宝箱と非じゃない。
『売ったらお金になるし、良いじゃないカ』
「そろそろオーダーメイドもしたいし、集めておくのもいいかもな」
そんな雑談をしながら宝箱の中身をバッグに詰め込み、子機を設置。
更に、集落のすぐ近くにあった採掘坑に入ってみると、ゴブリン達が魔素払いをされたというのに逃げ場がなく苦しそうにしていた。流石にこれ以上苦しませる必要もないだろうという事で、倒していく。
ホブゴブリンも数体いて戦闘になったが、魔素の薄い場所では戦闘力は大幅に下がっているようで、難なく倒すことができた。
が、中を歩いていると唐突に息が出来なくなり、身体に何かが巻き付いてきた。
「っ…!」
俺は【風刃】で巻き付いてきていた半透明の何かを吹き飛ばして刀を抜いて戦闘態勢に入る。
すると、中心に青いガスの玉を淡く光らせる、霧のようなモンスターが現れた。ガス状のデーモン種のモンスター、ポルターガイストである。
当然中心にある玉が核…つまり弱点なのだが、純粋な物理攻撃はすり抜けてしまうという特徴を持つ。
俺は刀を【強化】する。これで魔力が刀に宿る事になる為、核を攻撃すると一気に霧散し、魔石を残して消えてしまった。
採掘坑はそこが一番奥だったので、別の場所を探索していた鬼月と合流して外に出た。
順調順調。やはりレベルが上がった事でできる事がかなり増えてきた。それに、【強化】による火力の上昇は【風刃】より魔力の消費が少ない。コスパが良いのだ。一気に戦いやすくなった。
「よし、次行くか」
この調子でどんどん攻略していこう。俺は鬼月を連れて、次なる集落へと向かったのだった。
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ストックが尽きましたので、明日からは1,2日に一話の不定期投稿となります。これからもよろしくお願いします。
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