16:ダンジョン探索十一日目 リザルト
鞄から《ゴブリン突撃班長の槍》を取り出し、装備を変えた鬼月と共に俺は部屋の中に進入する。
部屋は奥行きもあるし天井も高い。大人数人でようやく囲めそうな太い石の柱で支えられており、それが等間隔で並んでいる。
奴らは扉の前から動いていない。俺達は柱に隠れながらゆっくり近づいていったのだが、後30mという所で突如として、チリンチリンという甲高い音が鳴り響き、足元に魔方陣が現れた。
探知魔法とトラップ!俺はそこから一瞬で飛び退き、前に出て走り出した。背後で爆発が起こるがそれを見もせず左側のホブゴブリンAへと突撃を仕掛ける。
刀で一閃。首を狙った一撃は丸太のような太い腕で阻まれた。暴風と共にもう片方の手で攻撃をしてきたので、腕を蹴ってその場から飛び退き身体を捻ってそれを避ける。
『ブオアアアアア!』
『ハア!』
もう一体のホブゴブリンBが、相方に手を出された怒りからか雄たけびを上げて俺に襲い掛かる。しかし、そこを鬼月の槍が横合いから襲った。咄嗟に腕でガードされるも、鬼月は無理せず槍を引き抜いて盾を構えて距離を取る。
奇襲は失敗した。一体くらい減らせればよかったんだが、四の五の言ってられない。俺はまた刀で連撃を放つ。腕でガードしていると言っても生身に違いは無く、ホブゴブAは腕から魔素を流れ出し苦悶の表情を浮かべる。
『gklだllddkf』
が、ここでまた足元に魔方陣が光った。慌ててそこから飛びのくと、爆音が響き渡る。
だが、跳んだ俺をホブゴブが巨躯を活かして殴りつけてきた。俺は何とかそれを籠手で防ぐ。《蛮族防衛班長の籠手》の効果で、衝撃が魔素に変換されてまき散らされ、著しく緩和される。俺は後方に吹っ飛ばされるだけで済んだ。
後退する形となった俺の横にも、今しがた攻撃を盾で受けて吹き飛ばされた鬼月がいた。仲良く吹っ飛ばされたらしい。いや、仲良くというより、狙ってそうされた?
『だ;klgじぇkぁ』
隙を作ったゴブリンシャーマンが何をしたかというと、むにゃむにゃと呪文を詠唱してホブゴブリンそれぞれの足元に小さな魔方陣を展開、そこから石のこん棒を召喚して自軍を強化しやがった。
鬼に金棒とはまさにこのことだ。ホブゴブBがこん棒を振りかざして走ってきて、俺達に向けて一撃を放ってくる。
『走れ!』
鬼月が前に出て、そのこん棒を真正面から受け止めた。
目を丸くしつつも、俺は鬼月の判断を信じて前に出る。後方で鬼月は一瞬の拮抗を果たした後、力の流れを変えてこん棒の攻撃を反らしていた。
(鬼月すげええええ!)
流石、ステータスに防衛を持つ鬼月。俺には逆立ちしたってできない。俺は前方を見据えてゴブリンシャーマンへと突貫する。
ホブゴブAが前に出て立ちはだかってくるも、スピードは俺の方が上だ。その上手傷を負っていて若干動きが遅い。俺はソイツの足の間をあっという間にすり抜けて、シャーマンの首を狙う。
が、当然のように簡単にはいかない。シャーマンはまたむにゃむにゃと呪文を唱えて、俺の足元に以前見た土魔法を行使する。ブロック状に分かれた石のつぶてが足元からせり上がってくるので、俺は【風刃】を使ってそれを破壊し、更にその攻撃を利用して上昇、上からの奇襲を仕掛けた。
そして、俺はシャーマンの首に切りかかる寸前、水の膜を通ったような不思議な感覚を感じた。
(…は?)
次の瞬間、俺は上空へと舞っていた。いや、具体的に言うなら、突如としてシャーマンの前に現れた青白いゲートの様なものに入った途端、部屋の天井付近にまで転移させられていたのだ。
自分の身体に青い靄の様なものが付いている。これはなんだ?デバフか呪い?っていうか、それ以前にまず地面に落ちるまでに何かしなければ落下死は免れない。そうだ、風刃を使って。
『ケイタ!後ろダ!』
鬼月の悲鳴のような声を聴いて、俺は背後から迫った影にギリギリ反応出来た。籠手を着けた手を前に出して、俺と同じように転移してきていたホブゴブAの攻撃を防いでいたのだ。
空中とは言えまともに食らった怪力とこん棒により生み出される凄まじい衝撃に、俺は籠手による魔素の花火を激しくまき散らし、なすすべなく吹っ飛び石の柱に衝突、轟音を響かせていた。
『gかjだklldddwww』
ドロリ、と熱いものが顔に流れてくる。触ってみると血だった。俺は目の部分だけ血を拭って、周囲の瓦礫を押しのける。
どうやら俺は、石の柱にめり込んでいるらしい。砕かれてくぼみとなったそこに寝転がっていた。敵を見ると、ゴブリンシャーマンが上空に浮かび上がり、こちらを見下ろしていた。
「ヤロウ、痛えじゃねえか…!」
俺は全力でその場から跳んだ。自由落下していたホブゴブAの胸に斬りつけて、そいつを足場にして上空に飛んで逃げたシャーマンにもう一度突貫する。すれ違いざまに一閃を放つも、シャーマンは横にずれて直撃を避けた。肩に切り傷を付けるだけで終わる。
その様子を見て俺は笑う。
「連続で転移できるわけじゃないみたいだな!」
風刃を使って軌道変更。もう一撃を狙う。
だが、奴が頭上に描く魔方陣から生み出された暴風にあおられ、届くことなく地面に落ちた。衝突する寸前、【風刃】を使って何とか落下の衝撃を和らげ事なきを得る。
『ケイタ、平気か!』
「元気も元気だ。鬼月は!?」
『僕はまだいけるが、盾がヤバい!長くは持たないゾ!』
ちっ、つまり戦況は非常に不利ってことか。さてどうしたものか。…って、あれ?青い靄が消えてる?
『グルオオオオォォ!』
思考する時間はあまりない。地面に落下し激しい衝突音を響かせたホブゴブAが、咆哮を上げて俺に突っ込んでくる。
俺はその鈍い動きから放たれるこん棒に、カウンターを合わせて奴の肩を斬りつける。そして怯んだところで首を狙って一撃。
だが、またあの青い膜が足元に現れた。上空に転移させられる。シャーマンがニタニタと笑っているのが見えた。
またあの攻撃か。いやでも、これは逆にチャンスだ!
「鬼月!上へ!」
俺は叫ぶ。そして一瞬、視界がブレて上へと移動する。眼下で同じように転移してきたホブゴブがこん棒を振るい、俺ではないナニカをぶっ叩いて石柱に吹き飛ばした。凄まじい破砕音が響き渡る。
それを、俺は上空から眺めていた。
『だkgじぇあlだヵdkw』
シャーマンが笑う中、空中にいたホブゴブAの頭に槍が突き刺さった。魔素になって消えていく。
『悪いが、その程度の攻撃は効かないナ…!』
石の柱にまたできたくぼみから、鬼月が破壊された盾を投げ捨ててそう呟いた。攻撃を受けたのも、槍を投げたのも鬼月だったのだ。
『えkぁd!?』
「驚いたか?悪いな、驚かせて」
『エエー!?』
「死ね!」
シャーマンがいつの間にか真横にいた俺に、漫画みたいな驚き方をする。俺は遠慮容赦なくシャーマンの首を落としたのだった。
仕掛けを話すと簡単なことだ。転移させられた直後、俺も鬼月を再召喚して呼び出し、鬼月に掴んでもらい上へと投げ飛ばしてもらった。ただそれだけの事だ。
しかし、鬼月が俺の意図を瞬時に理解してくれて助かった。シャトルランの間も暇があれば再召喚の練習をしてたし、それが功を成した結果だろうか。
地面に風刃を使って降り立ち、また鬼月を再召喚する。ハイタッチ。
最後に残ったのは手負いのホブゴブB。勝負が決するのはその数秒後の事だった。
16:ダンジョン探索十一日目 リザルト
魔力も尽きて体力も消耗しまくったし、今日は攻略は辞めてシャトルランにすることにした…のだが、鬼月に反対された。
『死にかけたのだから今日は休むべきダ。ケイタの精神は一体どうなってるんダ?』
と呆れた目を向けられた。
怪我は中級回復薬のリジェネ効果でじわじわ回復していっているのだが、正論すぎて言葉もない。確かにそうだ。なんで休むって発想が無かったんだろう。
夏休みに入ってずっとダンジョンにこもりっきりだけど、これからは鬼月もいるんだし休日を入れた方がいいよな…と反省するきっかけとなった一幕なのだった。
さて、しかし何もしないというのももったいない気がした俺は、出張買取に来てもらうことにした。時刻は午前11時。予約は14時に入れることができたので、それまでゆったりとした時間を過ごす。
綾さんが来てから、早速アイテム類を換金してもらった。
さて、今回は78万稼ぐことができた。一気に額が上がってビビったが、鬼月と二人で中層メインで周回をしたのと、強化種を何体も倒したのもあって額が上がったのだ。
そして鑑定もしてもらい、呪いの無かったアイテムは一部取っておくことになった。
一番の目玉は《迷宮ココナッツの果汁》だ。効果は《疲労回復》、《再生力上昇》。これは夕食にでも皆で飲みたいと思う。
綾さんも流石に誘ったが、「そんな貴重なものいただけないよ、ご家族と楽しんで!それに、私もまだシフト入ってるし!」と笑顔で断られた。
ワイバーンが落とした《飛行竜の大鱗》、そして《ゴブリンシャーマンの銀メダル》などの鍛冶素材アイテム。
《ゴブリン族長の戦術地図》と言った便利アイテムは鬼月の鞄に収まる事となった。
また、鬼月は壊れた盾の代わりに《ゴブリン防衛団長の大盾》を装備することにした。レベルアップして筋力が伸びた結果、装備できるようになったのだ。
鬼月のステータスはこのようになった。
――――――――――――――――――
鬼月 (ゴブリン)
Lv.4
近接:13
防衛:26
遠距離:6
魔法:4
技巧:23
敏捷:8
《スキル》
【防衛術Lv2】
――――――――――――――――――
全体的に上がったが、やはり防衛の伸びが素晴らしい。また近接も非常に良い伸びをしており、今後に期待だろう。
さて、そんなこんなで足並みがそろってきた…と思っていたら、俺もレベルアップしていたらしい。
――――――――――――――――――
神野圭太
Lv.5
近接:28
遠距離:13
魔法:16
技巧:23+1
敏捷:19
《スキル》
【塞翁が馬】
【刀剣術Lv3】
【風刃】
【強化】
【契約:鬼月Lv4】
――――――――――――――――――
近接の伸びが良い。敏捷も大きく伸びたし、この調子で成長していきたいものだ。
さて、今回でレベル5になったので、レベルスキルを一つ手に入れる事となった。
【強化】
・無属性付与魔法
・魔力のラインを走らせることで、対象の存在力を強化する
というのが俺が手に入れた新しいスキルだった。
存在力を強化する、というのは、付与魔法の説明によく出てくる文言で、簡単に言えば足に使えば足が速くなるし、刃に使えば切れ味が増す、というような感じだ。
俺のスキルはあらゆるものを強化することができるらしい。剣はもちろん、自分の身体や、鬼月にも強化を施すことができた。
しかもその強化は手から離れた後も一分間続くらしい。中々に使い勝手がいい。
短所と言えば、強化量が少ない事だ。使い勝手の良さと引き換えに強化量を無くした、と考えれば辻褄は合うか。
当然重ね掛けすればその分強化量を増やすことができるのだが、そうすると魔力の消費が大きく跳ね上がる。あっちが立つとこっちが立たず、と言ったところか。
で、最後に大目玉だ。《スキルの宝玉》がまた出た。
流石にこれを綾さんに見せる訳にはいかなかったので見せてはいない。当然、これは鬼月に使ってもらうことにした。
『僕に使って本当にいいのカ?』
「俺は既に一個使ったし、使っていいよ」
ということで、最初は遠慮していた鬼月も納得してくれたようで新たなスキルを得た。
得たスキルは【守護方陣】と呼ばれるスキルだった。
【守護方陣】
・無属性結界魔法
・自身を基準に円柱状の結界を打ち出す。打ち出す瞬間に跳ね飛ばす力がある。また、継続維持が可能
という、中々に強いスキルを得ることになった。
さて、お金も大分溜まったし、そろそろ鬼月の装備を新調することにしよう。明日にでも鬼月を連れてショッピングモールにでも行くことにした。
着実に強くなっていっているのを肌で感じつつ、その日は終わった。
と、思っていたのだが。
夕方に入って、家でゴロゴロしているとチャイムが鳴らされた。
誰だ?と思って玄関の扉を開けると、そこには俺と同い年の少女がいたのだった。
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