14:ダンジョン探索十日目 リザルト
左側の通路は行き止まり、右側もギミックがあって今は先に行けないので実質行き止まりなので、実質進める道は一つしかない。
中央の道は既に奥の部屋が見えていたが、その部屋には特に何もなかった。分岐点だったようで左と右に通路がさらに分かれていたのだ。上層部分とは大違いで、本格的に迷路みたいになってきた。
道標の杖でどちらの通路も確認してみたが、どちらも同じくらいの色合い。それならと直感で右から行くことに決めた。
部屋に子機を置いた後、早速通路を進むと扉があり、そっと開けると上から矢が振ってきたので適当に避ける。その後部屋の中を覗き込むと、そこはどうやら牢屋のような場所だった。
牢屋は左右に分かれていて、鉄格子で区切られている。また、人間サイズの鳥かごの様な牢屋もある。
「どういう部屋だ?」
『さあ…でも全く使われてないみたいダ』
二人で手分けして探索する。牢屋にはカギがかけられておらず、中に入る事が出来た。すると中に足を踏み入れた瞬間に魔素が集まり出し、現れた黒い何かが鋭い鉤爪で攻撃してきた。
「おっと!?」
唐突な奇襲に悲鳴を上げて咄嗟に飛び退き攻撃を紙一重で避けた。が、背が壁につく。もう逃げ場がない。
それは影がのそりと起き上がったかのような見た目をしていた。真っ黒で塗りつぶされており、シルエットしか分からない。手は鋭く鉤爪が付いていて、頭には角の様なものが見える。そして胸の所にのみ、白い光が円を描いてジリジリと燃えるように蠢いていた。
『シャドーデーモン!胸の核が急所ダ!』
そんな声が聞こえてきて、思わずそちらに目を向けると別の牢屋で鬼月が同じモンスターに攻撃され、それを盾で防いでいた。
「分かった!」
俺は気持ちを切り替えて刀を抜き、そして瞬時に連撃を見舞った。鉄格子と石の壁ごとソイツ…シャドーデーモンを切り裂く。壁に刀による三本線がビシッ、と刻まれ、からんころん、と鉄格子の一部が地面に落ちる。
ほぼ抵抗は無く切り裂くことに成功した。奴は見た目通り紙の様な薄い身体をしていたようで、切ったところがぺらぺらとなっていた。そして鬼月の言っていた核…白い円形の光に斬撃は伸びていた。
シャドーデーモンは少し苦しそうにして、地面に溶けるように消えていった。そしてごろんとその場に魔石だけが残る。
「鬼月、無事か?」
『こっちも終わっタ』
目を向けると、鬼月も倒し終わったようで魔石を拾っていた。
「助かったよ。今のモンスターの事良く知ってたな」
『ダンジョンにいた時に見た事のあるモンスターはスマフォで調べておいたんダ。今のはダンジョンボスの眷属、下級のデーモン種ダ』
「そういやスマフォずっと触ってたよな。そんなことしてたとは…後で俺にも共有してくれる?」
『もちろんダ』
鬼月の勤勉さには脱帽の限りだ。こりゃ俺もダンジョン探索に誘った手前うかうかしてられんな。
他の牢屋の中にもシャドーデーモンが隠れていたので、一太刀の元倒しきる。が、珍しい事に宝箱は落ちなかった。
そこは牢屋で行き止まりだったので、今度は左側の通路を進む。曲がり角を曲がったところで『警戒!』と鬼月の声。俺は踏みかけていた一歩を空中で止めてその場にとどまった。
地面、壁、天井。ぐるりと見て回って、首を傾げる。
「…どこだ?」
『道標の杖の色が変わったから、多分何かあると思うんだけド…』
「わ、分からん…どこにもおかしなところは無いぞ?」
『うーん…とりあえず、少しずつ先に進んでみよウ』
「そうするか…警戒態勢」
刀を抜いて、一歩ずつ歩く…と、足元に突如として魔方陣が現れた。俺と鬼月はすぐにバックステップして距離を取る。
魔方陣が回転して輝き、そこにモンスターが転移してきた。宙に浮いた、まるでミイラみたいにやせ細ったゴブリン。手には杖を持っている。
「ゴブリンシャーマンか!?」
『~~|;:えq』
ホブゴブリンと同レベル帯のモンスターだ。奴はむにゃむにゃと訳の分からない言葉をつぶやいて、手の平から火球を生み出してそれを次々に俺と鬼月に飛ばしてくる。
【風刃】を使って火球を両断する。風刃の刃は火球を突き抜けた後、魔力をかき乱されたのかすぐに消滅した。
魔法は避けるか、魔力によって対抗するしか手が無い。
今度は奴は杖を掲げて空中に魔方陣を生み出した。すると通路の石の床や石の壁が、レンガのような感じで白い線で切り取られ浮かび上がり、それがまるでルール無しのテトリスみたいに左右上下に行き交い始めた。当然俺達のいる範囲でもその現象は起き始める。
俺は迫りくるレンガのつぶてを大量生成した【風刃】で切り飛ばす。
『ぐっ』
「鬼月!」
『大丈夫!』
問題は鬼月だった。風刃で鬼月の分までいくらか防いだとはいえ、魔法や付与、魔力を含んだ武器や防具を持たない鬼月にとって対応のしようがない。とはいえ土属性の魔法だったこともあり、盾で何とか防ぐことはできていたが、流石に360度囲まれれば攻撃を受ける。
だが、鬼月は受けた傷を全く気にした様子も無く、突如として斧を振りかざしてそれを投げた。迫りくるレンガのつぶての隙間を縫うようにしてゴブリンシャーマンの肩に突き刺さる。
この機を逃す理由は無く、俺は刀を振り抜き、風刃を飛ばしてシャーマンを一刀両断した。シャーマンが倒れたことで魔法が終わり、通路は元に戻る。
宝箱が出現した。どうやら今のは困難だったらしい。
「…はー、こういうトラップもあるのか…怪我は大丈夫か、鬼月」
『流石にびっくりしたナ…問題ないよ、ケイタ。このくらいなら自然治癒で治ル』
そう言って鬼月は攻撃を受けた頭を俺に見せてきた。確かに擦り傷程度だ。回復薬も無限ではない為、その辺も気遣っての言葉だろう。
「ちょっと待ってろ」
俺はリュックサックから医療キットを取り出した。冒険者保険の回復薬は既に使ってしまったが、他の治療道具ならまだある。とりあえず血を拭いて消毒、ガーゼを張っておく。
「よし、こういうのは大事だからな」
『ありがとう、ケイタ』
礼を言ってくる鬼月に、俺は手を振って気にしないように伝えてリュックを背負い直し、頭を掻いた。
「魔法使ってくるモンスターも出てくるのかよ。正直盲点だったわ…」
『そうだナ。出てくるにしても、もっと先だと思って油断していタ。これは作戦会議で対策を考えなければならないナ』
「そうな。家帰ったらまた色々調べてみますか」
俺は身体を伸ばして調子を確認する。【風刃】の大量使用で魔力を大分消費したが、まだ余裕はある。
「さて、一休みしたし次行くか」
『了解』
宝箱の中身を回収し、通路を進んで部屋に辿り着いた。右と正面に先に続く道があり、中で剣持ちのゴブリン達が遺跡を漁っている姿が見えた。
「モンスターは視認十…数が多いな」
『どうする?』
「試してみたいことがあるから、気を引いてくれるか?後ろから俺が数を減らす」
『分かっタ』
鬼月が出ていき、盾を構えて奴らに戦いを挑んだ。
俺はベルトの効果で気配を遮断。そしてアサシン先生から学んだ身のこなしで音も無く部屋の中に入り跳躍し、後ろから《暗殺者の外套》の効果を発動してみる。
刀にどこか恐ろしい気配のする光が宿り、それを振るうことで三体のゴブリンを一息に殺すことができた。
これは良い。思った以上に殺傷力が上がってくれた。うまく使えばボス級のモンスターにも有効かもしれない。
『ぎいっ!?』
驚く残りの七体のゴブリンに向けて、俺は全体に当たる様に風刃を放った。ゴブリン達は反応出来ずに傷を負ったが、倒れるゴブリンは一体もいなかった。
(マジか)
風刃の威力がいつの間にか敵の強さに追いつけていないことに愕然としつつ、気持ちを切り替える。
とりあえず近くの三体を切り裂き、更に素早く移動してもう一体の首を飛ばす。振り返れば鬼月が既に残ったゴブリンの一体を倒しており、最後の二体のゴブリンの攻撃を盾で綺麗に受け流していた。
鬼月が隙をついて一体を仕留めたのと同時に、背後からもう一体を俺が斬る。
最後の一体が倒れた瞬間に魔素が部屋の中央に集まり出した。いつものボスだ。
今回現れたのは、巨大な斧を持ったゴブリンだった。
『ゴブリンウォーリアダ』
また新顔だ。
『コロ…ズゥゥ…』
「お前が死ね」
俺はとりあえず刀で切りかかるが、斧の腹で受け止められて、凄まじい力で吹き飛ばされる。そして流れるように重たい一撃が頭上から振り下ろされた。
俺は即座に空中で身を捻り、地面に片足が付いた瞬間にその場を跳んで離れた。
『ブルァアアアアア!』
次の瞬間、俺がさっきまでいた場所に大斧が叩き込まれ、凄まじい轟音が響き渡った。おいおい、こりゃ相当だぞ!ホブゴブリンレベルの怪力だ!
俺は【風刃】を放つ。だが奴はそれを瓦礫から引き抜いた斧で掻き消し、跳躍して斧を振り下ろしてきた。くそ、おかしいな。風の刃が見えてるのか…?
『僕が!』
しかしその一撃は前に出てきた鬼月の盾により反らされ、地面に吸い込まれてしまう。俺はその隙をついて奴の側面に回り込み、首に斬撃を入れた。
身体が無くなり魔石がごとりと地面に落ちる。そして宝箱が現れた。
「ふう…耐久は通常のゴブリンレベルで助かったな」
部屋に子機を設置し、一息つく。
『ケイタ、まだ進むカ?』
「いや…魔力が少なくなってきたし、探索はこれくらいにしておこう」
『分かった』
探索はこの辺りで終わって、残りの時間は周回でもしよう。
子機は親機である《魔素払いの結晶》を操作することで、効果のオンオフが設定可能だ。オフにした場所にはモンスターが再出現する為、周回は可能である。
さて、時間にして現在は11時。朝の9時からダンジョンに潜っていた為、あっという間に2時間が経過していたらしい。
とりあえず一先ずダンジョンから脱出して家に戻り、昼飯を食べた後に周回を始めた。
今日は鬼月と二人で、上層から中層の攻略済みの場所まで周回をすることに。鬼月のマジックバッグもある為いくらでもアイテムを入れることができ、迷宮シャトルランはかなり効率化したように思う。
夕方になって、ステータスに変動があった。というのも、俺の【刀剣術】がレベルアップしたのだ。
【刀剣術Lv3】
・刀による攻撃に対し若干の威力補正(Lv1)
・技巧に補正(Lv2)
・刀を用いた『剣技』を設定可能(Lv3)
レベル3で『剣技』を設定可能になった。これはぱっと見どういう効果なのか分かり辛いが、大きな戦力の増強につながる重要な能力だ。
剣術系のスキルではこのように、大体レベル3,そしてレベル6、レベル9で三つの『剣技』が設定可能となる。この『剣技』は特定の型により放たれるいわゆる必殺技の様なもので、それを自由に作ることができるのである。
作るときは他のスキルも組み込んでよい。例えば俺の場合だと、【風刃】を『剣技』に組み込むこともできるのだ。そうした自由度の高さのお陰で、同じ剣術系スキルでも、内容は人によって千差万別となる。
ちなみに、レベル3に至るまでには大体平均一カ月ちょいかかる。俺の場合は大体半月程度でここまで来た、塞翁が馬によりもたらされる経験値上昇効果は二倍程度なのかもしれない。
まあ、それも潜っているダンジョンの難易度が高くなればなるほど分からなくなってくるが。うーん、そう考えるとやっぱり恐ろしいものだ。
『剣技』を作るのは簡単で、この動きを『剣技』に登録するという意思を持ちながら反復練習することで登録を行える。
ただし、一度決めてしまうと作り替えることはできない。こうした特技の、ああすればよかった、こうすればよかった…などの話は、冒険者のよくある失敗談の一つでもあるのだ。
ここは慎重に決めないとな。ある程度構想は練っているが、果たしてこれでいいものかどうか。
シャトルランを終わらせ、家に戻りながら俺は空を仰いで唸ったのだった。
…うん、とりあえず腹減ったな…。
14:ダンジョン探索十日目 リザルト
夕ご飯を食べた後、鬼月と一緒に今日手に入れたアイテムで使えそうなものを選んで売るものと持っておくもので選別してみた
《ゴブリンウォーリアの銅メダル》
・レア度1
・鍛冶素材
・そのモンスターの特性を武器に付与することができる
《ゴブリン騎士団長のミスリルの足鎧》
・レア度1
・魔力がこもっている。大地の力を借りることで体幹を強化する
《ゴブリン族長の戦術地図》
・レア度1
・魔力がこもっている。周囲の地形を瞬時に書き写す魔法の地図。
気に入ったのはこの辺りだった。また綾に買取に来てもらった時に鑑定を頼もう。問題が無ければ、メダルはいつか装備をオーダーメイドする時の為にとっておき、足鎧は鬼月が装備、地図も運用してみたい。
食材アイテムは代り映えはしなかった。ただどんなものでも持って帰れば爺ちゃんが飛んで喜ぶので孝行するつもりで家に寄付している。
アイテムの整理も終わり、今日は解散となった。鬼月は俺の部屋で漫画を読みに行った。アイツ、不思議な事に日本語普通に読めるんだよな。
「なあ、ちょっといいか?」
「ん…どうしたの、爺ちゃん」
倉庫を軽く掃除して出ていくと、爺ちゃんが待ち構えていた。
「実は折り入って聞いてほしい頼みがあってな」
「頼み?爺ちゃんが俺に頼ってくるなんて珍しいな」
「まあ、断ってくれてもかまわない。むしろ、こういう話題はデリケートだろうから、俺も持て余してる所なんだが…」
「はあ…」
要領を得ない言葉に俺は首を傾げる。
「…実は、古い知り合いの孫が冒険者やってるみたいでな。ソイツがお前とパーティーを組みたいと言っとるらしいんだ」
「あー、なるほど…悪い、それ無理」
「お、おお…返答早いな。理由だけ聞いてもいいか?」
「俺のスキルの関係。パーティー組むのは向いてないんだよ…」
何せ塞翁が馬は俺だけでなく周囲の人も危険に巻き込む恐れがある。鬼月は例外として、おいそれとパーティーは組めない。
っていうか、知らない人に急にそんな事言われてもどちらにしろ断るに決まってる。ダンジョンの中では殺人は一発でバレるもののそれ以外の犯罪は証拠が見つかりにくい。それこそ防犯目的でダンジョン内カメラを購入する冒険者もいる位なのだ。冒険者は信頼が大事なのである。
「分かった。そういう事なら俺の方から断っとくわ。悪いな、急に」
「いやいいよ。力になれず申し訳ないと伝えておいて」
そういう訳で仲間が増えるフラグは完全に折れたのだった。
きっと暫くは、俺は鬼月と二人で潜ってるんだろうな。むしろ今は人と協力してアレコレやる、みたいなのも面倒臭く感じてるので、そういう点で言えば【塞翁が馬】のデメリットは俺にとってはあまりデメリットに感じない。
本格的に冒険者をやるんだったらいずれ問題になるんだろうが…その時はその時考えよう。
そういう訳で、爺ちゃんの話は風呂に入って歯磨きした時点ですっかり忘れてしまい、俺は早々に眠りについたのだった。
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