13:ダンジョン探索十日目
さて、ダンジョン…に行く前に、今日は書類を出しにいかなきゃいけない。ダンジョンの近況報告は月に一回する義務がある。二カ月出さなかったり、数カ月にわたって結果が芳しくなかったりしたら管理能力が低いとみなされて国からサポートの打診が来ることになってしまう。
まあ、サポートの打診って言うか、月に冒険者1人50万以上払って冒険者を雇うか、その土地を手放なすかしろ、という事実上の命令に近い。もちろん土地を手放す場合は補助金など便宜を図ってくれはするが、ここは爺ちゃんが購入した爺ちゃんの家で、俺の大切な家でもある。そんなの願い下げだ。
結果と言っても上層で五つ目の部屋を攻略した時点でノルマは達成してる。今は中層の探索も進めてるし、文句は言われないだろう。
そういう訳で取り合えず最寄りの郵便に行って書類を提出した。
そうだ、ついでに税金についてだ。昨日鈴野さん…綾さんと雑談していた時にちょっと相談してみたら、なんと冒険者の税金は他の業種と比べて多くが免除されており、最も多く払う事になる探索税とやらはアイテムの換金時に自動的に引かれていたらしい。その額なんと10%だ。つまり俺のこれまでの稼ぎも本来は10%上乗せされていたものだったということだ。
阿漕な商売やってますなぁ、と一瞬思ったが、そのお金で超高難易度ダンジョンや氾濫性ダンジョン等の管理や封じ込めが行われるのだと考えると文句は言えない。
日本にはその二つのダンジョンが一か所ずつ存在し、過去に大災害を引き起こした。周辺の地域では、十数年が経過した今でもまだ野生化した低級モンスターが生息していて、生態系にダメージを与えたり人を殺したりしているのだ。
今では強い冒険者が増えたことで殲滅作戦が一年に数回行われるようになり、被害は激減したが、それも税金あっての事だろう。ま、平和が欲しけりゃ黙って払い続けろということだ。
まあそんなこんなで様々な憂いが無くなった今、ダンジョン探索にもっと集中できるようになった。
鬼月も仕上がってきたし、そろそろ中層の探索に乗り出すとしよう。
13:ダンジョン探索十日目
さて、レベルが3にアップしたことで、鬼月の技量が武器持ちゴブリンの剛腕を上回り、敵の攻撃に軽々と対処できるようになった。
カウンターも上達し、鎧の隙間を的確に縫って斧で攻撃したりして一方的に倒せるようにもなったし、そろそろ中層に連れて行ってもいいだろう。
(…よし、話し合った通りに行くぞ)
(分かっタ)
そういう訳で鬼月と一緒に中層にやってきた。五つ目の部屋を超えて中層に入り、鬼月とアイコンタクトを交わして中に入る。
剣持ちゴブリンが3体。まず俺が突貫し剣持ちゴブリンを倒し、その後ろから鬼月も続いて周囲の偵察に入る。
『増援はないゾ!』
三方向に続く通路の先を確認した鬼月がそう報告してきたので、俺はそのまま最後のゴブリンも倒してしまい、ボスモンスターを出現させる。
するとその場にゴブリンアサシンが現れた。鬼月は一歩下がり、俺が戦闘を仕掛ける。何度も倒した相手なので攻撃は全て見切っている。素早い連撃を難なく避けて、刀を振り下ろして敵を後退させて距離を取る。
「行くぞ鬼月!『召喚』!」
俺は鬼月を召喚し直した。すると鬼月が俺の目の前に現れて、こちらに攻撃を仕掛けてきたアサシンの刃を受け止めた。不意打ち気味に攻撃を封じ込められたアサシンの動きが鈍る中、俺はアサシンの首を落したのだった。
「まあ、最初からこれなら十分じゃないか?」
『召喚された時の視界のズレに一瞬戸惑ってしまったナ…』
今のは連携の練習だ。確かにこの辺は俺一人でも大丈夫だが、この先に進むことになると敵の急な増援や不意打ちを警戒しなければならない。そこの警戒を鬼月に担ってもらおうと思ったのだが、これに関してはうまくできた。鬼月も俺よりもダンジョンの地形に詳しい為、警戒役としてはもってこいだろう。
更に、召喚モンスターとの連携技である再召喚も試してみた。召喚していた鬼月を呼び戻し、即座に召喚することで実質的なワープを行うと言った技だ。俺の状況判断と、鬼月のすぐに召喚に答える反射能力が必要な技。
鬼月は現時点で俺よりもずっと硬いので、即座に呼び出して敵の攻撃を防いでもらうと言った使い方になるのだろう。
使いこなせれば戦況を変える鍵になるはずなので、少しでも練習しておいて損はない。
通路を進む練習もした。既に俺が行ったことのある左の通路だ。俺が前に出て、鬼月が殿を勤めるフォーメーション。俺は前方を警戒し、鬼月は後方をメインに、俺の死角全般を警戒する。
『ちょっと待ってテ』
そう言って、鬼月が鞄から杖を取り出す。《道標の杖》だ。マジックアイテムで、使うと杖の先端に小さな光の玉が現れ、それの色によって危険度を教えてくれる。
「よし、直進」
通路を歩き始める。
暫く歩いていると、ふと鬼月から『警戒!』という声が聞こえてきたので、即座に鬼月に近寄り周囲を警戒する。見てみると、道標の杖の光が赤くなっていた。
白が異常無し、黄色がこの先危険、赤がここが危険。綾さんは確かそう言っていた。つまり既に危険がすぐそばにやってきてるってことだ。
前後を見てみて敵影は無かったので、だったらもう一つしかない。上を見てみると、こちらに向かってナイフを構えて落下してくるアサシンがいた。俺はソレに反応して一息にジャンプ、不意打ちを仕掛けようとしてきたアサシンの首を逆に急襲を仕掛けて落とした。
「ふう、良い感じだな」
1人だった時はどれだけ気を張り詰めてても不意打ちを食らって、すんでのところで避けたり防いだりしていた。それが事前に防げるとなると、俺の精神的な負担はかなり減るだろう。
行き当たった部屋でも同じように連携練習をして殲滅すると、ボスモンスターにホブゴブリンが現れた。
これには鬼月も参戦して、鬼月が技量でホブゴブリンの攻撃を受け止めた隙に俺が一太刀で倒すことで最小限の消耗で倒すことができた。
これならもっと奥でも行けそうだな。そういう訳で、そろそろアレを使ってみるとしよう。
最初の部屋に戻って、鬼月の鞄から水晶を取り出してもらう。《魔素払いの水晶》だ。そいつを部屋の中央に置くと、明らかに空気の色が変わった。
『魔素が一瞬で消えていったナ』
「ちゃんと効果が出てて良かったよ」
まあ、実際には払ってるわけじゃなくて吸収しているのだが、細かい所は置いておこう。
俺は魔素払いの水晶に触れた。すると、俺の手のひらに小さめの杭の様な形の水晶が現れた。
これは子機という存在だ。一部のアイテムには子機と親機で別れ、二つで一つのアイテムとして登録されるものがある。
魔素払いの水晶の場合は、一定範囲内の敵を倒したことで溢れ出た余分な魔素を使って子機を生み出しており、この子機を別の場所に持って生き、モンスターを倒した後に設置することで、同じように魔素を払ってくれる。
つまり魔素払いの水晶の主な使い方は、まず階層の入り口付近に設置し、その後子機を増やして徐々に魔素払いの範囲を増やしていく、というもの。
水晶が生み出した子機数本をカバンの中に収めて、同じように左側の通路にも子機を設置する。
これで後ろでリスポーンした敵に襲われる、みたいな危険も無くなる為、探索するうえで冒険者の負担が減る。
当然共有の狩場にされているダンジョンで勝手に魔素払いの水晶を使うのはテロに近い行為だが、個人所有のダンジョンでは使い放題だ。むしろ使わないと管理しきれないからな。
最後に右側の通路のトラップ部屋の攻略だ。一度起動したトラップは復活はしない為、アスレチックとそこにいる弓矢ゴブリンだけが脅威だったが、鬼月の盾で矢を防いで一体一体処理することで殲滅し、子機を置いた。
こうして右側の攻略も終えて、最後は前方に進む通路。現れたのはホブゴブリンだったので同じ戦法で完封し勝利。
「さて、こっから先は未探索領域だ。準備は良いか?」
『ああ、いつでも大丈夫ダ』
ここから先が本番だ。俺は鬼月を連れてさらに奥へと足を運んだのだった。
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