12:ダンジョン探索九日目 リザルト

「鬼月、これもうまいぞ!どんどん食え!」

『う、うン…』

「あらあら、孫がもう一人増えたみたいでにぎやかですねえ」


 鬼月の挨拶は滞りなく終わった。むしろ爺ちゃんと婆ちゃんが、予想以上に可愛らしい見た目をした鬼月を気に入ってしまいそれはもう初孫のようにかわいがっている。


 そして鬼月が加わって初めての食卓。鬼月は爺ちゃんと婆ちゃんに構われて忙しそうにしつつも嬉しそうだ。


「それで、どうだ?圭太は優しいか?」

「ダンジョンではどういう感じなの?」

『ケイタは僕の恩人ダ。虐められていた所を助けてくれタ。今日も、付きっ切りで色々教えてくれたし、とてもいい人間だと思ウ』

「あら、聞きましたかお爺さん」

「流石は圭太だな!」

「おいこら、やめてよそう言うの」


 普通にむず痒いし恥ずかしい。


 鬼月と騒ぐ爺ちゃんと婆ちゃんを後目に、イノシシ肉と野菜炒めと白米を一緒に口の中に放り込みつつふとテレビに視線を移すと、そこに見知った顔が映って思わずむせた。


『ケイタ、大丈夫カ?』

「だ、大丈夫…」


 何とか回復してテレビの内容に耳を傾ける。


 そこに映っていたのは、俺の幼馴染、愛原加奈子と、悪友の篠藤裕二の姿だった。


『地元の今熱い人に聞いてみた!のお時間です!今回のゲストはこの二人!冒険者の愛原加奈子さんと篠藤裕二さんです!』

『ど、どうも!』

『どうも』

『なんと愛原加奈子さんは、有名冒険者ギルド【鉄潔の女旅団】に所属する傘下パーティー【小唄】のリーダーを務めており、冒険者になって半年で、準二級冒険者になった天才でもあります!』

『よろしくお願いします!』

『そして篠藤裕二さんは、冒険者パーティー【白亜の冒険団】の、同じくリーダーを務めており、その類まれなる戦闘センスとあまりのイケメンぶりから、冒険者の人気チャートを一気に駆け上がっている新生ルーキーとして今冒険者業界を賑わせているんです!裕二さんもまた、冒険者になって半年で準二級まで上がっております!』

『ははは、よろしくお願いします』


 お、おー…知り合いがテレビに出てるってのは、なんかこう不思議な感覚だな。それに二人とも随分と雰囲気が変わった気がする。なんというか、有名人っぽくなった?


 ちなみに準二級とかは冒険者の階級の話だ。ある程度の実力をつけ、実戦テストと常識テスト、安全知識テストなどに合格することで級を上げることができる。上げたらそれだけ注目されるようになる。


 俺は一番初期の四級冒険者だ。夏休みが終わる頃には三級に上がってみようかなと考えている。


『お二人は中学生の頃から一緒の学校に通っていたそうですが、出会ったきっかけなどはあるのでしょうか?』


 二人が出会ったきっかけ、ってのはあれか。二人同時で俺に『土曜日買い物に行くから荷物持ってくれない?』と頼みに来て、初対面で俺を取り合って喧嘩した日のことだ。


 結局どちらも譲らず、土曜日は三人で出かけ、俺が両方の荷物を持つことになった。一日中荷物持ちと喧嘩の仲裁をしてた気がする。あの日はただただ疲れたししんどかった。


 俺を荷物持ちに選んだ理由が、加奈子が男避け、裕二がナンパ避けと似た者同士だったのもあり、いつの間にか二人でも会話するようになっていったんだよな。


 うーん…俺、良くこの二人の友人なんてやれてたよな。今でも不思議だ。


『きっかけという程でもありませんね。お互い性別は違えど同じようなスペックを持っていたので、自然と二人になる事が多く、会話も増えていったってだけの事ですから』

『そ、そうね。本格的に知り合ったのは、文化祭の時だったかしら?二人とも実行委員だったから、そこで仕事をしてるうちにやっと友人になったって感じでした!』

『そうなんですね!』


 おや、俺の中の認識と食い違ったか。まあテレビだし、本当の事を言う必要もないとは思うが…いや、むしろ俺の知らない所で二人に接点があってもおかしくないか。


 っていうか文化祭の実行委員って、二人から無理難題出されまくってほぼ俺が全部こなしたアレの事を言っているのだろうか。俺が忙しそうにしている裏でそんな友情物語があったとは、知らなかったな。


『文化祭ではどのような事を?』

『大したことはしてませんよ。ちょっとした喫茶店を開いてみたんです。レシピも僕らで考案してね』

『あ、あの時は本当に大変だったわね!うん!』

『なるほど、やはり成功する人は、冒険者になる前からそれ相応の結果を出しているという事なのですね!』


 レシピは俺の婆ちゃんにアイデアを貰って作ったんだっけな。…うーん、なんかこっちの功績全部自分のものにしてないか、コイツら。まあいいけどさ、普通の人だったら気分悪くなってると思うけど。


『では、お二人はもしかすると恋仲だったり…』

『は、絶対しませんね』

『こちらから願い下げです、こんな人』

『ははは…まあ、腐れ縁ですから。既に異性の対象からも外れてしまってるんですよね』

『なぁんだ、そうなんですね~。美男美女カップルと巷で噂になっていましたが、それはこちら側の誤解だったという訳なんですね?』

『ええ。もちろん』


 で、ここからは戦績の話に映っていった。二人は配信用のアイテムを揃えており、配信もしているから戦闘シーンがメインだ。


 当然俺も冒険者になった日から参考になるかと思って冒険者の配信は良く覗きに行く。が、二人の動画は中々参考にしづらい為あまり見ていない。


 加奈子も裕二も、非常に珍しい強力なスキルを持っていて、それを前提に戦っているから吸収できるところが少ないんだよな。


「へえ~、あの二人、こんなに有名になってたんか」

「気に食わないですね。彼らよりも圭太の方がよっぽどいい男ですよ」

『動く絵の板に映ってるの、知り合いなのカ?』

「ああ、まあな」


 あと婆ちゃん、いいおのこってどういう意味?


『スキルだよりの戦闘だけど、他のパーティーメンバーが上手くサポートしていル。とても盤石だと思ウ』


 そして鬼月は戦闘シーンを見て冷静に分析していた。気になったので俺は鬼月に尋ねてみた。


「学べそうな所はあるか?」

『いや無イ。二つのパーティーは二人のユニークスキルありきの立ち回りで、独特すぎル。似たような能力を持ってない限りは参考にすべき所は無い…と、思ウ』

「むう、やっぱりそうか」


 俺と同じ意見だ。俺一人だけだと見る目が無い可能性もあったが、戦闘センスのある鬼月でも同じ意見なのだから、俺達にとっては参考にするべき点は無いのだろう。


『そもそも、単体で見ればケイタの方がよっぽどうまく立ち回っているように見えル。そういう意味でも参考にはならないだろウ』

「え?いやいや、半年も早く冒険者やってるんだぞ?レベルだって、俺よりも1,2個上だろうぜ。それは無いだろ」

『そうかナ?まあ、ケイタがそういうならそうかもしれないガ』


 レベルの差は大きいからな。それはステータスに差が出来るという事も勿論あるし、それ以上にレベルが5増える度に手に入れることができる、レベルスキルの存在もあるからだ。


 スキルは手札の多さでもあるから、多ければ多い程強いし万能性が上がる。ダンジョンにおいて手札が多いというのは非常に大切な事だ。


「そうだ、他にも冒険者の戦闘配信があるんだけど、盾メインの冒険者がいたような気がする。鬼月も見てみるか?」

『見たイ!』

「じゃあ、飯食い終わったら早速見に行くか」


 その後、二人で戦闘配信を見て興奮したり、分析してみたり、二人でできる連携を考えてみたりと、ゆったりな時間が続いていったのだった。




12:ダンジョン探索九日目




 次の日のダンジョン探索では、鬼月は上層で、そして俺は中層でシャトルランを継続した。


 もはやシャトルランは日常の事になっている。お陰で俺もアサシンゴブリン先生から身軽で俊敏な身体の動かし方や、気配を消す身のこなしのやり方を勉強中だ。


 そして夕方は早めに切り上げ、鈴野さんに出張買取に来てもらって鑑定をしてもらった。


「鬼月君っていうんだ!よろしくね!」

『うん、よろしク、アヤ』

「きゃ~、可愛い!」

『ぐえ』


 などという鈴野さんらしい一幕もあったが、それは置いておいて今日の結果は以下の通りとなった。


 まず買取金額は58万円にもなった。狩場が中層になったのと、鬼月が頑張ってくれたのもあって、収入が一気に上がった。暫くは貯金に専念するつもりだし、この調子でどんどん稼いでいきたいものだ。


 そして次に有用なアイテムの紹介。まず食材アイテムの《迷宮蜜柑》。レア度1で、効果は聴力が良くなる。これは爺ちゃんと婆ちゃんに食べてもらった。


 もう一つ食材アイテムで《迷宮蜂蜜》も手に入れた。レア度1で、免疫力が向上する効果。これはパンにでも塗ればうまいだろうし、カレーに混ぜてもいいだろう。婆ちゃんがどう使うのかが今から楽しみだ。


 次に武器アイテム。


《ゴブリン騎士団長の魔法剣》

・レア度1

・魔力がこもっている。地面に叩きつける事で地面に罅を入れ、そこから岩属性の衝撃波を放つ


《ゴブリン暗殺団長の仕込みナイフ》

・レア度1

・魔力がこもっている。暗殺する際に気配を消し、暗殺に成功した場合生命力を吸い取る


 後は、鬼月が手に入れた《ゴブリン族長のナイフ》や《ゴブリン突撃班長の槍》など、既知のアイテムもいくらか手に入れた。


 次に防具・補助アイテム。


《ゴブリン防衛団長の大盾》

・レア度1

・魔力がこもっている。この盾で攻撃を受け止めた時、魔力を消費し反撃の衝撃波を放つ


《暗殺者の外套》

・レア度1

・魔力がこもっている。敵に感知されていない状況に限り、魔力を消費し武器に威力アップの強化を施す


《道標の杖》

・レア度1

・魔力がこもっている。地面に突き立てることで杖の先端が光り、道の先の危険を色で教えてくれる


《ホブゴブリンの皮》

・レア度1

・鍛冶素材

・魔力がこもっている。非常に頑丈


 それから、《回復の宝玉》や《中級回復薬》などの回復アイテムがいくつか、《下級毒消し薬》、《解呪のスクロール》などの状態異常を打ち消すアイテムがいくつか手に入った。鬼月も増えた事で消費が増えることも考え、これらは取っておくことにする。


 鬼月の方は回復薬や宝玉系のアイテムなど、既知のアイテムをいくつか。そして他にも見たことの無いアイテムも入手した。


《ゴブリン略奪班長のバッグパック》

・レア度1

・魔力がこもっている。見た目以上に物を入れることができる


 つまりマジックバックだった。見た目はボロボロなリュックサックだが、見た目以上に頑丈で見た目以上に物が入る。これには鈴野さんも驚いていた。むしろ俺も驚いた。何せマジックバックの需要は非常に高く、その癖中々でないものだから非常に価格が高騰しているのだ。


 鬼月が手に入れたバックは最低級のマジックバックらしいが、それでも恐らく売れば500万は下らないだろう。


 どうするか聞くと、鬼月は『便利そうだから使っていイ?』とのことだったので、そのまま鬼月が使う事となった。


 アイテムに関してはこれで以上だ。


 取扱いとしては、俺はとりあえず剣とナイフだけ予備で持っておき、他は売ることにした。鬼月も同じように槍を予備で持っておき、他のアイテムは売ることにしたらしい。


 また、大盾に関しては鬼月にピッタリだと思っていたのだが、重すぎてまだ使えそうになかった為倉庫に入れておくことになった。とりあえず大盾を装備できるようになるまで強くなるのが鬼月の一先ずの目標になりそうだ。


 次はステータスだ。


 鬼月がレベル3にレベルアップした。


――――――――――――――――――

鬼月 (ゴブリン)

Lv.3

近接:9

防衛:20

遠距離:2

魔法:4

技巧:18

敏捷:8

《スキル》

【防衛術Lv2】

――――――――――――――――――


 防衛術のレベルも上がり、順調に成長している。


【防衛術Lv2】

・ステータスに防衛を追加する(Lv1)

・防衛行動を行った瞬間のみ、防衛に関する思考能力が少し上がる(Lv2)


 これもまた単純ながら非常に強そうな効果だ。鬼月がどんどんと硬くなっていって頼もしさが上がっていっている気がする。


 鬼月曰く、防御をする瞬間だけ世界がスローに感じられるらしい。いわゆる一種のゾーン状態ってやつなのだろう。明らかに防御の成功率が上がり、倒しやすくなったとのこと。


 しかしいい事ばかりではないようで、『振り回されそうダ。集中を欠くと一気に解除されるらしく、逆にピンチに陥る事になるかもしれなイ』と分析していた。


 俺の場合はステータスは今日は成長しなかった。まあ、レベル5に上がるまで平均3カ月はかかるって言うし、【塞翁が馬】のスキルの所為…いや、お陰で十分早いペースでレベルアップできている為、来週くらいにはレベル5になってくれるだろう。


 ついでに鈴野さんも、新しいアイテムがてんこ盛りでウハウハ状態だった。


 鑑定が終わった後、鈴野さんと雑談に興じた。


「ちなみに圭太君は下の名前で呼んでくれないのかな?」

「呼んでほしいならそうするけど」

「かもん」

「えー…綾さん、これでいい?」

「あ~、照れてる~」

「うっさいわ」


 と、鈴野さんに笑われて、こんな感じで今日は終わっていった。


 さて、今日で夏休みも折り返しが近づいてきた。封印やボスなど謎も多いし、出来れば夏休み中に攻略できればいいんだが。

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