11:ダンジョン探索八日目

 今日は朝からショッピングモールに行ってきた。目的は当然換金と、今後必要となるアイテムを入手する為。


 一先ず最初に鑑定所に行って、手に入れたアイテム達を換金することに。そこで偶然シフトに入っていた鈴野さんと出くわして、鑑定も諸々してもらい店を出た。


 昨日一日の探索の合計収入は、なんと28万。ゴブリンリーダーの部屋でのアイテムが大体18万だと予想していたので、中層に一日潜ると10万円も稼ぐことができるらしい。


 こうして自分の頑張りというか、結果が数字として出てくるのは快感ではあるが、同時に額の大きさに戦々恐々と思うのは俺の器が小さいからだろうか?税金の事もあるし、もう半端な状態では辞められなさそうだ。


 その後、《魔素払いの結晶》を購入。ー10万円。そしてゴブリン用に魔素の漏出を抑える《封印の腕輪》を購入。これもー10万円。ステータスも封印され、見た目通りの力しか出せなくなるが、ダンジョンの外で活動できるようになるアイテムだ。


 そして、残ったお金で、ゴブリン用の装備を整えることにした。


 まず、ゴブリンのステータスがこれだ。


――――――――――――――――――

ゴブリン

Lv.1

近接:4

防衛:12

遠距離:2

魔法:4

技巧:8

敏捷:5

《スキル》

【防衛術Lv1】

――――――――――――――――――


 ステータスは俺がレベル1だったころと比べても低いが、スキルによって非常に頑丈となっている。


 本人が言うには生まれた頃から殴られる機会が多かったかららしいが、俺はうまく言葉が見つからず、「…隠れて爪を研いでたんだとも考えられるよな」と分かるような分からないようなコメントしかかけてやれなかった。


 『そうかナ…』と照れ臭そうに笑ってたし、悪いようには聞こえてないっぽいので問題は無いと思いたい。


 さて、スキルの内容としては以下となる。


【防衛術Lv1】

・ステータスに防衛を追加する(Lv1)


 成長するタイプのスキルか。これは中々悪くないスキルではないだろうか。それに、スキルは才能が無い分野では絶対に発現しない。逆に言えば、スキルがあるということは最低でも並み程度には才能があるという事だ。


 この長所を伸ばさない理由は無い。ということで、ゴブリン用の盾を購入。更に、使いやすい武器として手斧も購入。そしてインナーとライトアーマーを購入。しめて15万円也。


 おかしいな、凄まじい稼ぎだった筈なのにいつの間にか足が出てしまったぞ。


 また俺の財布はすっからかんになってしまった。稼がなきゃ不味い。今すぐダンジョンに行きたくなって手が震える…訳ではないが、ちょっと不味い気もするので帰ってから早速ダンジョンに行こうと思う。




11:ダンジョン探索八日目




 家に帰り、俺は早速準備を済ませてからダンジョンに向かった。


 まず、ゴブリンを呼び出して装備を整えさせた。盾や斧を渡すと、ゴブリンは大喜びでそれを装備し、キラキラした目で眺めては布できゅっきゅっと拭いたり、実際に装備してみて使い心地を確認したりとテンションマックスだ。


 その上、ここで驚いたのは、昨日の夜に見たゴブリンと、今日のゴブリンの見た目が変わっていた事だ。


 普通のゴブリンは華奢で猫背、その上目が黄色く澱んでいるのがデフォルトなのだが、今日呼び出したゴブリンは背筋はピンと伸びていて肉付きも良く、目にも光が宿っていた。


 飾らない言い方をすると、見た目が人間に近くなったという感じだ。


『昨日食べた焼き肉のお陰だヨ』


 と言われ、そう言えばジビエに健康状態にする効果があったなと思い出した。そう言えば食材アイテムって最初の効き目だけ凄かったな。爺ちゃんと婆ちゃん、最近ずっと元気なのが基本だし忘れてた。


 ここまで変わると逆に体調が心配だったが、本人曰く『魔力が迸ってる!身体が羽のように軽イ!』とのこと。元気よく飛び跳ねてるし無用な心配だった。


「そうだ、名前なんだけど『鬼月』ってのはどうだ?」

『キヅキ?』

「ゴブリンは小鬼とも言うからそこからもじって。月の方は、昨日が満月だったからだな」

『良いと思う!じゃあ僕は今日から鬼月ダ!』


 嬉しそうにうなずき、承諾を得ることができた。結構悩んだから不安だったんだよな。ネームセンスが絶望的だったので、ネットであれこれ調べまくって数時間悩んだ挙句、結局安直な名前に落ち着いてしまった。


 まあ、とりあえず喜んでくれたようで良かった。


 さて、そろそろダンジョン探索に行こう。鬼月がどれだけやれるかもまず知りたい。


 鬼月と一緒に二つ目の部屋に来た。いつも通りゴブリンが二体いたので、俺は部屋に入らずそっと鬼月に話しかけた。


「相手は同じゴブリンだけど…大丈夫そうか?」

『大丈夫。ケイタと話して、僕とアイツらは違う存在だってやっと気づいたんダ。ダンジョンや上位存在の命令を聞くだけの人形なんて、怖くなイ』


 頼もしい言葉だ。そこまで言うなら遠慮なく戦闘に入ろう。


 とりあえず、俺がゴブリンを一体倒して、残った一体を鬼月が相手することになった。


 我武者羅に突っ込んできたゴブリンを、鬼月は盾で真正面から受け止めて、そしてそのまま相手の体勢を崩し、隙だらけになった頭を斧でかち割って勝利した。


「うん、余裕そうだな」


 鬼月は思った以上に戦闘センスがあるように見えた。ステータスが補助しているとはいえ、最初はステータスの力で戦闘用に切り替わった意識に戸惑う人間も多いというのに、鬼月はそれに当たり前のように適応した。当然日本人とゴブリンとでは下地が違うのだろうが、これは素晴らしい結果だ。


 俺だって最初はかっこ悪い戦闘を繰り広げたというのに。


 そのまま三つ目の部屋、四つ目の部屋と攻略を続けた。ゴブリンライダー相手だと、ゴブイノシシによる突進には流石にステータスが低い事もあり力負けしてしまっていたが、【防衛術】の効果か、二度目の突進では盾に角度をつけ、器用に当てて攻撃を反らすことで対応していた。


 五つ目の部屋では剣持ちゴブリンが相手になったが、流石に勝てなかった。盾を弾き飛ばされ腕に切り傷を付けられたところで、俺が合間に入って攻撃を防ぎ事なきを得た。


 切り傷に回復薬をかけて傷を癒す。


「やっぱり武器持ちは地力が違うな」

『スピードもパワーも負けていタ』

「レベル1であそこまで持ちこたえただけで十分だと思うけどな」

『スキルありきダ。これではケイタの役に立てない』

「焦るなって。俺もまだレベル4だし、足並みなんてあっという間に揃うさ。そうだな…一つ目の部屋から、問題がなさそうだった四つ目の部屋までシャトルランしてみるか」

『むっ、そのシャトルラン?をすれば強くなれるのカ?だったら、是非やりたイ!』


 そういう訳で、鬼月には上層でシャトルランをしてもらうことになった。


 1回目、2回目では俺も付き添いでシャトルランに付き合ったが、3回目からは別行動を取る。鬼月が上層でレベル上げをしている間、俺も中層でレベル上げ兼金稼ぎだ。


 お金を稼ぐのが目的だったので、魔素払いの水晶は今日は使わずに取って置くことにした。


 とはいえ、回り始めたのが既に14時だったので、結局周回できたのは2回だけだった。


 終わった後に鬼月のステータスを支援デバイスで確認してみると、レベルが2に上がっていた。


――――――――――――――――――

鬼月 (ゴブリン)

Lv.2

近接:8

防衛:16

遠距離:2

魔法:4

技巧:12

敏捷:6

《スキル》

【防衛術Lv.1】

――――――――――――――――――


 最初の内はレベルが上がるのが早いので、あと二日もすれば俺と一緒に中層に行ける程度にはなるだろう。


 そして、俺のスキル【塞翁が馬】の新たな力が判明した。


 というのも、鬼月は俺のステータスに格納された召喚モンスターであり、ステータスの根本の部分で繋がっている。つまり、召喚モンスターにも【塞翁が馬】の効果が少しだけ発動することが判明したのだ。


 鬼月が一人で回っていた時は俺と一緒にいた時よりも宝箱が出る確率は低くなったが、それでも3回に1回は出たという話だった。普通宝箱はそんな簡単にぽんぽん出るものではない為、多少確率が低くなったとはいえそれでも異常と言える。


 スキルの持ち主である俺ほどではないだろうが、今後は鬼月にも困難が降りかかる事になるのだろう。


 ちなみに、鬼月と一緒に周回していた1、2回目までは通常通りの出現率だった為、恐らく鬼月と一緒に探索したとしても、俺の困難と鬼月の困難が合わさって最強の困難が…とか、そういうことにはならないらしい。


 これ、今まで考えたことなかったけど、冒険者同士でパーティーを組んだ場合どうなるんだろう…ちょっと怖いな。パーティーを組むつもりも予定も元々ないけど、どっちにしろ暫く鬼月と二人だけで潜る事にするか。


 さて、鬼月が《ゴブイノシシのジビエ》を取ってきてくれたから、ダンジョン探索が終わったらそれを手土産に爺ちゃんと婆ちゃんに鬼月を紹介しにいかなきゃな。


 鬼月がガチガチに緊張してしまっているが、爺ちゃんと婆ちゃんの器の広さは俺が知る中でも一番だ。問題は無いだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る