7:命がヤバいみたい
ボクの方は雅が来るまでどうなっているのかわからないまま、1日過ごしていた。5日後に試験と言われたのだから、訓練できるのは残り3日しかない。
夜になってねぐらで休む騎龍隊のドラゴンと少しだけ話ができたけど、役に立つような情報はなかった。翼が開かないとか羽ばたけないという経験をしたドラゴンがそもそもいないので、参考にもならない。
考えてみれば簡単なことだ。飛べないドラゴンはただの屍だ。ワイバーンも。そんなヤツは大人になる前に死んでしまう。ボクが兄弟や親に殺されそうになったのと同じだ。穀潰しになる前に始末されてしまう。
逆にボクが例外なだけだ。運がよかった。何度も死んでいてもおかしくなかった。
それもここまでかな。うん、雅と会えるなんて特大の幸運が降ってきたんだし、これが運の打ち止めだとしてもおかしくない。
「おい、話を聞いたぞ。あの小娘がおまえが欲しいと言ったそうだな」
そう話しかけてきたのは《青白き爪》だった。
「あの小娘って雅のこと?」
「デカイ方じゃねぇ。小娘だ」
「ああ、王女だったかな」
「いいか? 死ぬ気で飛べ」
「そのつもりだよ」
「いいや、わかってねぇな。飛べなかったらマジで死ぬぞ」
「どういうこと?」
「あの小娘が選んだ仲間は俺が知ってるだけでも2頭だ。他にもう1頭の話も聞いてる」
「あんなに若いのに3頭も?」
「数の問題じゃねぇ。ここから出ていってその後の話は誰も聞いてねぇし、見てもいねぇ。行方知らずなんだよ」
「そんなホラーな……」
「ホラじゃねぇ! マジなんだよ! てめぇも帰ってこられねぇぞ!」
確かに、あの生意気な様子は気に入らない。あんなのにまたがられると思うとゾッとしない。操縦も無茶苦茶やりそうだ。
「それにな、あの小娘から嫌な臭いがするんだよ」
「嫌な臭いってどんなの?」
「死臭だ。死んだ仲間の臭いだ」
すると話を聞いていた《翠の広き翼》が加わってきた。
「かなり薄くなってるし、臭ぇ臭いがまとわりついてるからごまかされるけどな」
ああ、香水か。確かに妙に濃い臭いがしたっけ。
「つまり、あの勇者って女を乗せて飛べねぇと、小娘に殺されるかなんかひでぇ目にあわせられるってことだ」
「マジか……」
飛ぶか、さもなくば死か。
シャイクスピアなんかいないんだけどな、この世界には。
真剣に運が尽きた感じがしてきた。
そんな話を聞いた後、雅が来た。昼休みを速攻で終わらせて、飛んで来たという。
パンをくわえて走る光景を想像して、思わず笑いそうになった。ぶつかって恋に落ちる展開はなかったけど。
雅が考えるには、国王はボクを雅に与える気はないようだ。邪魔をしているようにしか見えないと。
ボクはますます飛んで死ぬか、王女になぶり殺しか、どっちかしかないのを感じた。
死ぬ気で飛ぶのが一番マシな選択だ。まあ、転生した時点で一回死んでるんだから、この人生、いや龍生はおまけみたいなものだ。
それでも……。雅と一緒に生きる可能性が少しでもあるなら、もうちょっと頑張ろうと思ったところだったのに。
なんだか、やっぱりついてないなぁ。
しかし、これは雅に言うわけにはいかない。責任を感じてしまいそうだし、雅の居場所がなくなってしまうかも知れない。国王と王女なんて権力者ににらまれてもろくなことにならない。そうでなくても、2人の王子から言い寄られているみたいだし。
とにかく、今のボクにできるのは少しでも飛べるように翼の訓練をすることくらいしかない。
それもなかなか進まないんだけど。
ああ、元人間という意識がなければ、もう少し簡単だったんだろうな。
それにしても、雅に喉をなでられて気持ちよかったから、つい大声を上げてしまったら、他の連中が笑い出して困ったよ。ううっ、恥ずかしかった……。おまえらなんか絶対に雅がなでたりしないからな。
それにしても、雅の手、優しかったな。ペットの犬でもなでてるつもりだったんだろうか。まあそうだよな。ドラゴンになっててよかった。人間のままだったら、ありえないしな。
それはそうと、真剣に飛ぶ訓練をしなきゃいけない。
残るは3日。
ボクはとりあえず翼を広げる訓練を続けるしかなかった。
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