第2話 新しい悪役!?

 俺がいつまで経ってもちゃんと超序盤の悪役を演じようとしないから、その代償として、ただただいい奴なだけの主人公の親友が悪役になろうとしていると聞いて愕然がくぜんとした。


 俺、すげー迷惑かけてるやん!


「爺や、爺やっ! 女性を誰でもいいので今すぐこの屋敷に呼んでくださいっ!」


「坊っちゃま、どうされたのですか! そんなにお慌てになって!」


「僕は今日女性の血を吸おうと思います。考えてみれば、吸血貴族が女性の血を吸わないなんて変ですからね」


「坊っちゃま! ・・・・・・あたくしが、チェンバート・ワッツ様のことをお伝えしたからですか? あれは坊っちゃまのせいではありませんよ!」


「いや、僕のせいなのです! 僕にはそれがはっきりわかるのですよ!」


 なぜなら俺は原作のラノベのすじを全て記憶しているのだから。

 主人公の親友、チェンバート・ワッツ男爵だんしゃくは最終章まで主人公を支える超重要なキャラなのだ!

 その彼が悪役になってしまったら、一体誰があの優柔不断な男前のことを支えるのだ!

 このままでは取るに足らない悪役キャラの俺の我がままでこの物語が崩壊してしまう!


 それに、ただただ優しいだけのあの男がずっと悪役など演じきれるわけがない。


 聞けば、すでに親友であるチェンバート・ワッツに裏切られて、主人公のサーベ・ヌチョルクは失意のどん底にいるという。


 そんなマジなやつは超序盤に発生するイベントとしては重すぎる。

 

 超序盤はわかりやすい女の敵であるこの俺を叩きのめすくらいが丁度いいのだ。


 今からでもこの物語を正規のルートに戻さなければ!


 だが、その夜、俺の屋敷を訪れた女はそれを許してはくれなかった。




「ミーシャに手を出さずに追い返したあなたに惚れました! 7大聖女の1人であるこのナータ・キーユが今すぐあなたを吸血鬼から人間に変えてあげますらかね!」


 おそらくミーシャとはあの純朴そうだった娘のことだろう。

 そのナータ・キーユという名の聖女様(原作にはこんな登場人物は絶対にいなかった!)はあの純朴そうだった娘よりもずっと豊かでとんでもなく柔らかそうな胸を持った超絶美女だった。


 俺はその超ハイスペックな聖女様に向かってこう言った。


「ちょっと待ってください! そんなことをされては困ります!」


「ああ、寿命のことですね! 大丈夫ですよ! 7大聖女の1人であるこのナータ・キーユと一緒になれば吸血鬼の時よりも、うんと長生きすることができますから! 毎日わたくしと愛し合いましょうね!」


 そう言って、ナータ・キーユという名の聖女様はその豊かな胸を自分の両腕で押し潰し深い深い谷間を作って俺を誘惑してきた。


 だが、俺はその誘惑に負けずにこう言った。


「いや、そうじゃなくて、吸血鬼から人間になるのが嫌なのです! これでも僕には吸血鬼としての誇りがありますから!」


 吸血鬼の誇りなんてそんな高尚こうしょうなものは俺にはない。

 ただ吸血鬼から人間にされてしまったらちゃんと悪役を演じきれる自信がなかっただけだ。


 しかし、そうとは知らない聖女様は、


「なんと! せっかく人間になれるチャンスなのにそれを断るだなんて、あたくし益々あなたに興味が湧いてきました! ・・・・・・決めました! あたくし当分ここであなたと一緒に生活します! 聖女と吸血鬼! とってもスリリングな関係だと思いません? いっそ7大聖女の1人であるあたくしを思いっきり堕落させてください! あなたとの愛に溺れてあたくしは破滅しても構いません! いいえ、あなたと破滅したいのです! というか、破滅したくてしたくて今すごいウズウズしてるんです! 変態なんです、聖女なのに! キャー! 恥ずかしい!」


 と言って、ぶるんぶるんとスライムのようにおそろしく柔らかそうなおっぱいを揺らしまくって、しばらくの間、身悶えしていた。


 とにかくその夜は、その聖女様の相手をするのに忙しくて俺は悪役の片鱗へんりんすら見せることができなかった。


 そして、次の日の朝、俺は主人公の親友であるが自責の念にられて自殺を図ったと爺やに聞かされたのである。



※※※

第2話も最後までお読みくださりありがとうございます!


ここまでで、俺(ダッカス・ユアンク子爵)のことを応援してやろう、もう少し見守ってやろうと思われたら、作品フォローや★評価をしてもらえるとすごくうれしいです!


【次回予告】

第3話 主役交代!?


ついに原作物語の主役登場!

しかし、何やら妙な展開に? なってる第3話っ!


どうぞ続けてお読みくださいませ

m(__)m

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