クリスマスは大昔の冬至だからその日に祝うのは計算出来ない馬鹿だけだと主張する男、リア充を爆破する

 



 戦場では常に命の危機が隣り合わせ。

 劣勢であれば尚更。


 どこにでもピンチの女性は転がっている。


 それは正しかった。


 しかし俺は大きな計算ミスをしていた。


「きゃっ!」

「危ないっ! 気をつけろ! 俺にはお前が必要なんだ」

「ダロン…私もよ」


 事例その1:元々パーティーメンバー的な仲で、ピンチの中で絆を深めてしまう。


「“リア充、爆発しろ”」


 対処法:爆破。


「流石リスタ、頼りになる!」

「任せろ! リィーチェには傷一つ付けやしねえ!」

「私もリスタの背中を守ってみせる!」


 事例その2:既に付き合っている。


「“リア充、爆発しろ”!」


 対処法:爆破。


「エバン、カッコいい〜!」

「ジェシカも可愛いよ!」

「昼の槍さばきも凄いのね!」

「夜の方が得意だけどね!」


 事例その3:バカップル。


「“リア充、爆発しろ”ぉぉーー!!」


 対処法:爆破。


「ありがとう、助かる!」

「全く、手間がかかるんだから。家の中だけにしてよね!」

「お前を信じているから情けない姿も晒せるんだ」

「もう、仕方が無いんだから…」


 事例その4:若夫婦。


「“リア爆”」


 対処法:爆破。


「何処かに命の尊さを理解している奴は居ないのかぁーー!!」

「人を爆破しまくっているあなたが言うんですか?」

「ここは命がけの戦いの場、自分が崩れれば仲間までも危うい! それなのに異性にうつつを抜かして、なんて連中なんだ!! 断じて許さん!!」

「確かに、そう言う事ならどんどん爆破しなさい。それこそが正義です」


 意見が一致した女神様と堅い握手を交わす。


「いやいやいや! どう考えても人をポンポン爆破して命を軽視しているのはお前だし、正義じゃ無いだろ! 完全に爆弾魔の思想だぞ!?」

「お前はあれを見てもそれが言えるのか?」


 事例その5:


「キャ~、ジェエル様カッコいい〜!」

「武器を振るう姿も素敵〜!」

「やっぱり他の男とは違うわ〜!」

「ははは、ハニー達の可愛い顔には傷一つ付けさせないよ。泣き顔は、ベットの上でしか見たくは無いからね」

「「「キャ~!」」」


 ハーレムクソ野郎。


「司祭様、俺が間違っていました。正義とは命を軽視する気狂いを屠る事でのみ成せます。どうか正義をお見せください」


 一瞬で敬虔なる信者に早変わりするベルク。

 どうやら正義を理解したようだ。


 対処法:


「“リア充、爆発しろ”ぉぉーーー!!」


 清々しい青色の爆炎にクソ野郎共は呑み込まれる。

 その爆音に悲鳴の一つも聞こえない。


 良い事をした後は、やはり気持ちの良いものだ。


 しかし残念な事に、正義の味方には中々休みは訪れない。

 この街には、命の尊さを理解しない不届き者共が蔓延していたらしい。


 それでも俺は清く正しき正義の味方。

 それが苦難の道だとしても、俺は常に正義の為に戦い続ける。


 ただ、その正義の活動故にもう一つ誤算が生じていた。


 それはパリピ害獣の減少。

 リア充共の爆発に巻き込まれて、結構な数が召されてしまった。


 一応、更生する可能性も考慮し爆発したリア充達は生かしてある。

 その方法としてリア爆によく効く聖属性の回復魔法を混ぜていた。

 それがパリピ害獣にとってはクリティカルヒットしたらしく、結構な数のパリピ害獣が既にこの世にはいない。


 惜しい獣材をなくしてしまった。


 おかげで、女性がピンチになる頻度まで減少してしまったのだ。


 場を弁えないリア充共のせいで、俺のハーレム計画まで破綻してしまいそうだ。

 リア充、許すまじ。


 しかし、流石にパリピ害獣が増える手段なんぞ持っていない。

 それに、わざと女性をピンチに追い込むのは俺の主義に反する。そんなもの、気狂い鬼畜の所業だ。紳士たる俺は決してそんな事はしない。


「すぐさま助けられるにも関わらずピンチを待つのは良いんですか?」

「女神様、人の自由を縛ってはいけない。地球では何千年も戦い続け、つい最近人類は手にした。そして自由は人の権利を認め、互いに尊重し合うからこそ保証される。自由を守る為に助けたくても、命が奪われる瞬間まで手を出せないんだ」


 とても心苦しいが、人権の尊重の観点から助ける事は出来ないのだ。


「……まあ、そういう事にしておきましょう。ピンチを出逢いのチャンスにする、良いアイデアです。最低限の大義名分は有るようですし、私も試してみましょう」

「何を言ってるんですか女神様!? 眼の前に俺がいるじゃないですか!?」

「世迷い言は世界が滅びてから言ってください」


 何故か、摩訶鉢特摩な視線を頂戴した。

 ハァハァ。


 おっといけない。

 女神様が他の男の元へ行ってしまう!


「何故!?」

「当たり前だろう…。仮に相思相愛だったとしても、目の前で他の女を手に入れようと画策している奴を良い気持ちを抱く奴なんかいないだろう」

「なっ……!」


 俺は浮気男の様な事をしてしまっていたということか!?


「そんな! 相思相愛だったのに!!」

「記憶を捏造するな! “雷霆”!」

「あばばばばばっ!!」


 照れ隠しなのか、女神様から激しすぎる雷を頂戴した。

 何故か、回復魔法が欠片も混ぜれていない純粋に強い一撃だ。

 まるで殺す気の様な超絶な一撃。実際、俺じゃなければこの場の誰もが一撃で蒸発していただろう。

 しかし、俺には分かる。これも信頼の証。俺はこの程度ではビクともしないと知っているからこの威力にしたのだ。


 しかし怒っているのも確か。

 行動自体は止められないとしても、恋に発展してしまいそうな介入は何としてでも阻止しなければ!!



 新しい出逢いも大切だが、今はそんな事よりも女神様との関係が大切だ。


 女性のみならず、女神様が介入しそうな男のピンチも気を研ぎ澄まして感知する。


 さっそく一人の冒険者のおっさんがピンチ。

 ガタのきていた剣が折れてしまったのだ。

 黒い禍々しい騎士の様なパリピ害獣の剣がおっさんに迫る。


 はたして女神様は?

 うん? 全く気にしてもいない。


「ぐぁあぁぁーー!」


 おっさん、斬られてるよ?

 あっ、婆さんが害獣を斬り伏せ回復魔法をかけた。

 婆さんが何とかしなければかなり危なかっただろう。


「お前達、ナチュラルに酷いな」


 ベルクが見当違いも甚だしい事を言っているが、今は気にしている暇はない。

 大切なのは女神様の動向。

 おっさんは何故か助けなかったが、まだまだ油断は出来ない。


「ピンチのイケメン、中々いないものですね」


 なる程、まず好みじゃないと動かないようだ。

 女神様のお眼鏡にかなう男はそうそういない筈。なんと言っても女神様は紛うこと無き女神、その恋愛対象は当然本来は神。

 俺のような神をも超える超絶パーフェクト人間で無ければ、女神様の相手にはなれない。


 これなら安心して良さそうだ。


 完璧に気を抜く訳にはいかないが、イケメンだけ監視していれば問題ない。


 そう思っていたが、さっそく一人のイケメンにピンチが訪れた。


「“パワーアロー”! 背中がガラ空きだ! 気をつけろ!」

「助かった!」


 がセーフ。

 仲間の弓使いが助けに入った。


 弓使いは男だし、俺の未来の彼女を奪う事も無い。

 こう言うのが一番助かる。


「約束したばかりだろう。死が別つまで、一緒に居ようって。だからってこんなところじゃ早すぎる」

「ケルナー…」


 ……はい?


 事例その6:同性カップル?


 いや、それとも吊り橋効果が同性同士にまで作用したのか!?

 まさかこんな事もあるとは。


 いや待て、これはこれで大チャンス。


 俺のライバルになり得る男同士が結ばれれば、俺のライバルが減る。

 ライバルが減ればここでの恋人作りが失敗したとしても、女性陣の恋愛対象が恒久的に減るのだから、俺のアドバンテージは圧倒的に高いまま。

 最高のシチュエーションでは無いか。


 女神様が取られる事も無いし、最高のシチュエーションと言う他ない。


 くっくく、こうなれば男同士を結びつけてやると言うのも一つの手かも知れない。


 ついでに本来ならこの作戦の妨害に回りそうな女神様はこんな状況にご満悦だ。

 顔を上気させて息を荒くしながら結ばれた男達をガン見している。

 そう言えば女神様、薄い本を持っていたっけ。

 この手のものが大好物らしい。


 上手く行けば女神様の協力すらも得られるだろう。


 さて、行動に移すとしよう。

 と言っても、実のところ何もする事が無い。

 今の所、勝手にピンチに陥って、勝手に結ばれただけだ。


 原理上、ピンチを人為的に作り出せばよく、麗しき女性相手では無く、俺の未来の彼女になる可能性のある女性を奪うかも知れないライバルたる男なら躊躇いなくピンチに陥れる事ができる。

 しかし、問題となるのはその方法。


 パリピ害獣の増やし方など知らない。


 だからといって直接手を下しては、女性からの評判が下がってしまう。

 それは避けなければならない。


 つまり、打てる手は今の所ない。

 やれる事と言えば、パリピ害獣をあまり減らさない様にする事ぐらい。


「リサーナ、危ないから僕の胸元に!」

「いいえ、私も戦うわ! 二人でなら切り抜けられるわ! 今も、そしてこれからも!」

「リサーナ…」

「カイゼル…」


 二人の顔が近付き、影が重な……


「“リア充、爆発しろ”ぉぉーー!!」


 駄目だ。

 ライバルを減らす為とはいえ、我慢できん。

 奴らをのさばらせてはいけない。

 今の内、早い内に更生させなければならない。


 風紀の乱れ、軍規の乱れはやがて社会の乱れへと繋がり、人類をやがては衰退させる。

 人類の為にも、人前でイチャイチャする輩は片付けなければいけないのだ。


「好きだイマンダ!」

「私もよカイン!」


「君は僕が一生守る!」

「何を言ってるのよ、それは私のセリフよ!」

「じゃあ、それじゃあ!」

「もう、言わせないで、恥ずかしいんだから…」


「今回の討伐報酬が手に入ったら、アクセサリーを買ってあげるよ」

「私も行くわ。あんたのセンスは最悪だから」


「マルコ、あそこは何か買ってくれるみたいよ!」

「分かった、避妊具を箱ごと買ってやる」

「何言ってんのよ!」


「じゃあ、俺は新しい玩具を買ってやるよ」

「もう変態!」

「可愛がってくださいね!」


 …………。


「“リア充、爆発しろ”ぉぉぉぉーーーーー!!」


 戦場中に色とりどりの爆炎が咲き誇る。


 ついでに、パリピ害獣も殆ど駆除してしまった。

 俺とした事が。

 リア充共め、俺の気を散らすばかりか俺の恋人作りまで邪魔するとは。


 結局、パリピ害獣の大部分を駆除したのは俺。

 後は女神様と婆さん。

 それにだいぶ遅れて信者達。


 しかし結ばれイチャイチャしているのは役立たず共。


 本来報われるべき功労者、色恋から遠い女神様や信者達とパーフェクトな俺は、何故か助けた筈の人々から化け物を見るような視線を頂戴している。 


 理不尽だ。


 いっその事この世界、滅ぼしてくれようか?



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