クリスマスは大昔の冬至だからその日に祝うのは計算出来ない馬鹿だけだと主張する男、吊り橋効果を狙う

 


 ハロウィン集団を率いていた黒騎士を討伐しても、まだまだパリピ害獣集団は減る気配を見せない。

 変わらずこちらに敵意を向け、襲いかかって来る。


 逃げ散ってくれれば楽だったが、パリピ害獣に勝てそうに無いから逃げると言う発想、脳は無いらしい。

 もしくは未だ勝てると舐められているのだろう。


 俺は一番強いであろうリーダーを容易く倒したが、雑魚共の相手をしている信者達は常に優勢と言う訳ではない。

 舐められているとしたらこいつ等のせいだ。


 しかし、信者達も武器以外はろくな装備をしていない全裸、あまり責める訳にもいかない。

 パーフェクトな俺は武器も装備も無しにパリピ害獣を駆除出来たが、下々の信者に同じ事が出来なくても当然だ。


 仕方が無い。

 もう少し手を貸してやろう。


「「「うおぉぉぉぉあぁ!!」」」


 そう思っていると、新たに関の声が轟いて来た。

 その鎧や盾にはいつしかの偽冒険者ギルド、勇者軍で使われていたマーク。

 おそらくは勇者軍だ。


 勇者軍も迷惑なパリピ害獣の被害を聞き付け討伐しに来たのだろう。

 一番良いところ、パリピリーダーの討伐は俺がして手柄はゲットした事だし、後は勇者軍に任せるとしよう。


 直接恐れ多くも俺を狙ってくるパリピ害獣だけを適当に爆砕してのんびりと戦況を眺める。

 倒したパリピ害獣の山を作りそこに座れば眺めもそこそこ良い。

 女戦士がピンチになったら颯爽と登場して救うとしよう。助ければ彼女ゲット間違いなしだ。


 援軍は勇者軍だけでは無かった。

 街から次々と武装した人が出て来る。


 最前線の城塞都市とか言っていたが、それは本当だったらしい。

 いつまで出て来るんだとツッコミたくなる程、援軍は止まらなかった。


 その顔ぶれも、見覚えのある人々。道具屋のお姉さんに花を渡したお姉さん、更にはホテルの婆さんに服屋のバニーちゃんまでいる。

 そして何故か女神様も。


 女神様の元まで凱旋パレードをしようと思っていたが、まさかここに来てしまうとは、どうしたものか?


 いや、これは一つの計画が狂ったピンチでは無く、新たなビックチャンス。

 女神様がこの場にいるのなら、この場を活かしてアピールが出来る。

 大チャンスに他ならない。


 百聞は一見にしかず。

 凱旋パレードでも伝わりきらない俺の魅力、それを直接見せられるのは即ち百倍のアピール効果がある。


 百見は一考に如かず。

 加えて今回は害獣駆除と言うボランティア活動、意味が分かりやすく明確なアピールポイントだ。

 ただカッコいいと言うようなあやふやな事よりも、考えさせる事ができる。自分も含めたこの人と一緒なら、その未来図をより浮かべさせ易い。

 ただ見せるよりも、百倍の効果がある。


 百考は一行に如かず。

 そして女神様も害獣駆除にやって来た。共に行動し体験すればより俺の魅力が伝わる筈だ。

 真っ先にボランティア活動をし、最も厄介なパリピ害獣を駆除した。それがアピールポイントとしてよく伝わる。

 ただ考えさせるよりも百倍の効果がある。


 百行は一効に如かず。

 ボランティア活動と言う人から感謝される行動を体験した女神様は、人助けの大切さを実感する筈。

 確かな経験は女神様の今後を左右すらする様な出来事だ。

 ただ行動させるよりも、百倍の効果がある。


 百効は一幸に如かず。

 人助けから得た感謝は女神様自身の幸福へも繋がる。

 俺は共有できる幸福をより多く受ける魅力的な異性。

 ただ意味のある体験をさせるよりも、百倍の効果がある。


 百幸は一皇に如かず。

 そして俺は人助けをし、他者に多くの幸福を振りまく存在。

 ワンフォーオールな俺は更に百倍魅力的なスーパーパーフェクトヒューマン。


 俺の魅力は凱旋パレードをするよりも一兆倍になって伝わるのだ。

 この魅力は女神様のみならず、この場の全員に伝わる。


 はははっ!! 男性諸君! 全ての女性の心を独り占めして済まないな!!


「がははははっっ!! なぁはっはっはっは!!」


 最初は迷惑なパリピ害獣だと思っていたが、もはや感謝したい気持ちでいっぱいだ。

 凱旋パレードの邪魔をしたのを許してやろう。


「急にどうした!? 更に気が触れたのか!?」

「更にとはなんだ更にとは! まるで俺が元から気が触れているみたいじゃないか!」

「元から触れまくってるだろ?」

「どうやらパリピ害獣共と一緒に駆除してほしいようだな」


 掌に雷を収束させ、火の苛烈さと風の鋭さを混ぜ、光と聖と神のエネルギーも混ぜながら収束させる。


「な、何だそれは!?」

「お前へのプレゼントだ。安心しろ、回復魔法も調合したからかなり痛いだけで済む」


 告げるや否や、ベルクは猛ダッシュ。

 パリピ害獣の合間を抜けながら、害獣が壁になる遠方へと逃げてゆく。


 初めて使う魔法と言う事もあり手惑い、結構な距離を逃げられる。

 ならば害獣ごと薙ぎ払うまで。


「ふんっ!」


 思いっ切り白い雷を投げつける。

 巻き込まれたパリピ害獣は弾ける様に消失し、元々害獣は存在しなかったかのように一直線にベルクへと迫る。


「「「あばばばばばっっ!!」」」


 何人か信者を巻き込んでしまったが、まあ問題ない。

 寧ろ混ぜた回復魔法のおかげで悲鳴をあげているが傷は回復している。

 周りのパリピ害獣も一掃されているし、問題ないどころか感謝されても良い程だ。


 それにしても、なんで回復魔法を込めて人間は回復したのにパリピ害獣は消失したんだ?

 不思議な事もあるものだ。

 無いとは思うが、害獣を回復させる必要がある時は別の方法を使うとしよう。



 さて、途中失礼な事を言う奴のせいで余計な時間を取られたが、俺の完璧な計画は変わらない。


 このままでもこの場全ての女性のハートをキャッチする事間違いなしだが、より効果的にするにはピンチのところを助けるのが一番。

 大昔から決まっている王道だ。


 となれば俺のすべきはピンチの女性を探し助ける事。


 つまり、まずやるべきは観察だ。

 ポロリも有るかも知れないし見逃せない。


 そもそもピンチに成りうる強さを持つ害獣かどうかと言う問題もあったが、派手な見た目のパリピ害獣なのに意外と強いらしい。

 信者以外は皆強そうな完全武装なのに、一対一では大半が苦戦している。


 それに加えて害獣の数は人間側を上回っており、どちらかと言うと劣勢だ。

 人間側は数人で組んで連携しているので、直ちに危ないと言う状況でも無いが、女性のピンチはいずれ訪れるだろう。


 ならば俺はそれを見逃さず透かさず介入出来るよう注視しつつ待つだけだ。


 それにしても、獅子奮迅、最も活躍しているのは意外な人物だった。

 何とホテルの婆さんだ。


 純白の細いどこか神秘的な剣で踊る様に軽やかに害獣を斬ってゆく。

 剣の素人の俺でも惚れてしまうような剣さばきだ。神聖な儀式の如く清く婆さんらしく熟練した剣技はもはや芸能としても通用しそうなほど魅せるものがあった。


 返り血も一切浴びず、何故か剣にすら血は残っていない。

 美しく精錬された剣技でありつつめちゃくちゃ強い。


 加えてこれだけの剣技を持つのだから、剣術道場の師範もしているのかと思ったが、剣以外も格が違う。

 範囲攻撃には光の壁を瞬時に出して味方を守り、負傷者が出たら振り向きもせずに的確な回復魔法、強化魔法らしきものまで使っている。

 それも剣に乱れなく見かけ上は時々婆さんから光が発せられるだけで、呪文も唱えなければ手をかざす事すらしていない。


 婆さんが負ける姿が想像できない。

 確実に天からのお迎えの方が早そうだ。


 他に目立つのはやはりうちの女神様。


 戦いと言う事で、クリスマスツリーの如く金銀財宝を纏うのは止めているが、それでもかなり目立っていた。


 その動きはある種婆さんの真逆。

 力任せに全てを吹き飛ばしている。

 と言うよりも技よりも遥かに力そのものが強過ぎて、技が有ったとしても意味をなしていない。


 手の一振りで暴風が吹き荒れ、女神様の手が魔獣に触れる前に圧縮された空気の壁に殴り飛ばされ、ミンチになり血の吹雪として跡形も無く散ってゆく。

 動体視力によっては急にパリピ害獣が破裂したようにしか見えないかも知れない。


 その惨状故か、巻き込まれるのを恐れたのか、女神様の周りには誰もいない。

 地形だってそろそろ危ない。


 女神様は血飛沫ごと吹き飛ばす為に一切汚れていないが、辺りは真っ赤に染められている。

 血の海に一切の汚れを許さない美女、異様な雰囲気を醸し出している。


 そんな女神様も素敵だ!


 だが、この二人が強いところで劣勢なのは変わらない。

 危機感も抱いていないのは女神様くらいだろう。


 強い婆さんも、味方を守ったり回復するので焦りは見せないが余裕も無い様子だ。

 流石の婆さんもこの場のパリピ害獣を一人で殲滅し切る事は難しいようだ。

 簡単に出来るのなら、その他の戦力を撤退させれば守る余力を残さなくて済むが、それをしないという事は援護してでも居た方が良い戦況と言う事だろう。


 だからといって思いの外、援軍は活躍していない。

 劣勢なのがマシな劣勢になった程度。

 特に勇者軍は如何にも兵士や騎士、戦士のフル装備をしているのに、数に勝るパリピ害獣と一対一で競り合っている。


 何故か、全裸の信者共の方が強い始末だ。

 勇者軍が何故か窶れている事を考慮しても、これは酷い。

 信者にした俺が言うのも何だか、世も末かも知れない。


 全裸野郎に負けるフル装備専業戦士、この世界の未来は危うい。

 婆さんが寿命的に天に召されたら、この街の守りは全裸野郎任せ、とんでもない地獄が待っている。


 ただ、劣勢なのは俺にとって好都合。


 さて、俺もそろそろハーレム計画を始動させるか。


 ピンチの女性はどこだ?


「きゃー!?」


 いたいた。

 遠距離攻撃が得意な魔法使いなのに、後ろからパリピ害獣の接近を許してしまい大ピンチな女性だ。


「危ないっ! “フォースシールド”! ぐっ!」


 しかし俺がピンチから救う前に盾を持った男が乱入。


「クレインっ!」

「ロザリー! 無事かっ!?」

「ええ、無事よ! ありがとう!」

「いや、ここまで接近を許したのは俺のせいだ! 済まない!」

「でも、血が!」

「かすり傷だ! このくらい何とも無い! お前の為なら、この命、捧げてやる!」

「クレイン…」


 命がけで皆戦っている中、不謹慎な雰囲気になる二人。


 ……その立ち位置は、俺のものだった筈なのに。


 目を潤ませ、顔の位置が近付く。

 やがて影が重なり……。


 そうはさせるか。


「“リア充、爆発しろ”ぉーーー!!」


 深い緑色の雷に二人に当たり、黄色いオレンジ色の爆発に呑み込まれる。


「「ぎゃあああーー!!」」


 正義はここにあり、俺は軍規の守護者、またつまらぬものを爆破してしまった。


「安心しろ、峰打ちだ」


 軍規を守護しつつ、周りのパリピ害獣まで駆除してやった。

 軍規違反者にもこの心配り、俺は何て寛大で素晴らしい男なのだろう。


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