職場のみならず学校での贈り物は贈賄収賄を助長する行為であり即刻取り締まるべきだとこの日に限って主張する自称善良な市民、派手に凱旋パレードを行う

 


 完成した神輿に乗り込み冒険者ギルドを出る。


 担ぎ手は勿論信者達。


 しかしいざ乗ってみると、何か物足りない気がする。

 いや、逆だ。

 裸の男達に担がれて非常に暑苦しいのだ。


 俺の求める爽やかで派手な凱旋とはイメージが大きく異なる。

 漢の祭り感は一欠片も求めていない。


 こうなればいっその事、全身を覆い隠す布でも被せてやりたいところだが、露出教の縛りで衣服を着せる事など不可能。

 ただの布でもおそらくは弾かれてしまうだろう。


 暑苦しさ抜きにしても色合いが純白と肌色で最悪。

 担ぎ手の事を全く考えていなかった。


 どうにか緩和する手立ては無いものか?


 暑苦しさと真逆、こいつ等と逆の存在を考えろ。


「そうだ花だ!」

「急にどうした? 頭がお花畑になったか? いや元からか」

「お前、列の先頭な」

「なっ!?」


 全く失礼な信者1号だ。

 廊下に立つ感覚で先頭を行ってもらおう。


「おいお前ら、花を買って来い」

「花って、本当にあの花か?」

「その花以外に何がある。花で少しでもお前らの暑苦しさを緩和するんだよ」


 小銭を適当に投げ渡すと、しっしと追い払う様に買いに行かせる。


 ベルクのように先頭に行かされては堪らないと思ったのか、駆けて買い出しに出掛けて行く。


 そして徐々に花が届く。


 薄いが色とりどりの大きな菊に、ゴージャスなケイトウ、スーパーでも見かける地味な色でも綺麗な花々、変わり種では鬼灯などが次々に届く。

 真っ赤な薔薇とかも欲しかったが、綺麗だしまあ良いだろう。


 極めつけは新しい店や某グラサン司会者のお昼の番組でお馴染みだった大輪の花で作った花火のようなヤツ。


 それらを信者達に持たせたり、神輿に取り付けることで目論見通り、ほんの少しは暑苦しさが緩和した。


 だがまだまだ足りない。


「花はもう無いのか?」

「付近の花は買い占めました。これ以上は時間がかかります」

「そうか、だったら魔法で花を出せたりしないのか?」

「木属性魔法はかなり使い手が限られる魔法だ。この街全体で見ても使い手は居ない」


 となると、他の魔法演出でも増やしてみるか。

 そちらに目が行き、俺にさらなる注目が集まれば、暑苦しい奴らへの視線が減る。結果的に暑苦しさも印象上軽減されるかも知れない。


「花が無いなら花火だ。魔法で花火を打ち上げるぞ。火ならさっきも使ってたし問題無いよな?」

「いや、実用的な攻撃魔法しか使えない奴が多い」

「あんなの火の形を変えてるだけじゃないのか?」

「一つ一つ術を覚えなければ魔法は使えません」


 良いアイデアだと思ったが、魔法を使ってきた信者にも却下された。

 思った以上に不便らしい。

 言い方からしてこの世界の魔法はゲームの技みたいに覚えていくシステムのようだ。


 まずは俺も使ってみよう。


 当てられた感覚からして、こんな感じか?


 空に向かって特大の炎が吹き荒れた。

 なるほどなるほど、何度か繰り返し感覚を掴む。


 派手そうな雷や光も同様にぶっ放し、魔法そのものの感覚を掴んでゆく。


 色々試し、形を整え混ぜてゆく、思い描く通りの大輪の花火が空を彩った。


「簡単に魔法素人の俺でも出来たぞ?」

「……お前、魔術師だったのか?」

「だから素人だって言ってんだろ。本当にお前ら出来ないのか?」


 心底不思議に思い再び問う。

 対して信者達は屈辱にでも塗れたかのように表情を歪めた。


「……少し時間をくれ。おいお前ら! こんな奴に負けたままで悔しくないのか!? 意地を見せるぞ!」

「「「おおぉーーー!!」」」


 おい、こんな奴って聞こえてるぞ?

 まあやる気が出て花火を打ち上げてくれるのならそれで良いが。


 信者達は各々練習を始める。


 あっと言う間に取り残されてしまった。


 こうなれば俺もさらなる演出を身に着けるとするか。


 花火はもう良いとして、あと必要なのはやはり花だ。

 魔法で出せない的な事を言っていたが、花火だって簡単に出来たしやってみる価値は十分以上にある。

 炎や光と違い直に触れた訳ではないので再現は出来ないが同じようなものだろう。


 魔法で創られたものではないが信者達の買ってきた花を手に取る。

 見かけは普通の菊だが異世界の花だ。参考になる何かしらの違いがあるかも知れない。


 少し魔力が宿っているのか。


 試しに魔力を流したり動かしたり、色々とやってみる。


「こんな感じか」


 そして感でイメージを固め魔力を流すと、菊の花は成長し伸びながら次々と花を咲かせた。

 成功だ。花の成長させ方は大体分かった。


「……お前、実は天才か?」

「今更気が付いたか」


 文句ばかり言うベルクも珍しく俺を讃える。

 反応からして花を出す魔法は使い手が居ないと言う話は本当だったようだ。

 それも使い手が居ないと言うのは、珍しいだけでなく難しいと言う意味でもあったらしく、珍しいものを見たというよりも、素直に凄いものを見たと驚いている。


 野郎から褒められる為にしている事ではないが、悪い気はしない。

 しかしそんな事よりも大切なのは神輿での凱旋を成功させ、女神様の心を掴むこと。

 珍しく難しい魔法でも意味が無い。必要なのは華やかな凱旋にする為の花だ。


 魔力の制御で伸びる茎よりも花の密度を大幅に増やしたり大輪にしたり出来るようになったが、どこまで変えても菊は菊。

 綺麗な花だが他の彩りが欲しい。

 特に花吹雪として信者達の買ってきた花はどれもぱっとしない。


 全く違う花に変えたかったが、それは中々成功しなかった。

 何となく魔法はイメージが大切という事が分かってきたが、そのイメージが大きく違うのかも知れない。

 今俺がやっているのはおそらく品種改良の延長線。

 しかしやるべきは品種どころか種そのものの転換。


 新たに生み出すイメージで魔力を操作する。

 色々な魔力を織り交ぜ、強度を変え、流れる様に試行錯誤を重ねてゆく。


 すると遂に薔薇が無から生成された。

 一度感覚を掴むと後は容易い。

 薔薇でもラフレシアでも好きな数だけ生み出せる。

 青い薔薇だって自由自在だ。


「まさか魔力以外にも神力が必要だったとは、試してみるものだな」

「…………」


 後はライトアップ方法も極めて行こう。

 やはり聖者の行進は神々しく飾るに限る。



 《熟練度が条件を満たしました。

 ステータスを更新します。

 魔法〈雷属性魔法〉〈木属性魔法〉〈聖属性魔法〉を獲得しました。

 魔法〈全属性魔法〉〈神属性魔法〉〈雷属性魔法〉〈木属性魔法〉〈聖属性魔法〉のレベルが1から6に上昇しました。

 スキル〈指揮〉〈指導〉〈教育〉のレベルが5から6に上昇しました。

 スキル〈直感〉のレベルが5から10に上昇しました。

 スキル〈火属性魔術〉〈風属性魔術〉〈光属性魔術〉〈雷属性魔術〉〈木属性魔術〉〈神属性魔術〉〈聖属性魔術〉〈花魔法〉〈創造魔法〉〈神術〉〈花火魔法〉〈花火術〉を獲得しました。

 〈火属性魔術〉〈風属性魔術〉〈光属性魔術〉〈雷属性魔術〉〈木属性魔術〉〈神属性魔術〉〈聖属性魔術〉〈花魔法〉〈創造魔法〉〈神術〉〈花火魔法〉〈花火術〉のレベルが1から6に上昇しました》



 色々と試す事しばらく、遂に準備は整った。

 純白の神輿にそれを飾る菊やケイトウと言った花々、そして開店祝いでよく見かける花火みたいな大輪の花飾り。

 そこに俺が生み出した薔薇の花弁が絶えることなく降り注ぎ、空には花火が打ち上がる。


 残念ながら花火を使えるようになった信者は少ないが、俺が使えるから問題ない。


 最後の仕上げは俺自身のライトアップ。

 神々しい聖なる光に包まれ、聖者を通り越して神の域の仕上がりだ。


 準備万端憂い無し。


「いざ出陣!」


 俺の号令に従い、誰も居ない大通りのど真ん中をゆっくり堂々と神輿は進む。

 人は居てもこちらに気付くと見事な程の素早さで物陰に隠れてしまうが、誰もがチラチラとこちらを伺っている。


 あまりの神々しさに恐れをなしてしまったのかも知れないが、それはつまり俺の凱旋の威光が伝わっているのと同義。

 成功し過ぎただけであるから大した問題ではない。

 慣れれば自ずと凱旋の道を埋め尽くして俺を讃えるだろう。


 しかしだからと言って民衆が居ないのは味気無い。


 フレンドリーさを出して早く道に出て来る様に促すか。

 ただ偉大なだけでは無いところを見せれば、緊張も解けやすくなってすぐに道を囲む筈だ。


 取り敢えず手を振ろう。


「きゃぁーーーっっ!?」


 アイドルファンどころかサスペンスの被害者役女優並の叫びをあげる手を振った先の女性。

 早くも熱狂的なファンが生まれたようだ。


 そんな彼女にはウインクのプレゼント。

 後で個人的にお宅へ伺おう。


 女性は嬉しさのあまりぐるんと白目を剥いてぶっ倒れた。


 その反応を見てか、民衆はますます物陰や家の奥に隠れてゆく。

 俺が偉大すぎて萎縮し過ぎてしまっているのは分かるが、子供を必死に隠そうとする親の姿と親に抱かれ震える子供の姿は心に突き刺さるものがある。


 もっと気楽にしてくれて構わないのだが、俺のオーラがそうさせないらしい。

 もっとファンサービスをして和らげなくては。


 菊の花束のプレゼントでもしてみよう。


 まずは震えている家族へ一束。

 風の魔法も駆使して確実にお届け。


 これで緊張は完全に解れ―――白目剥いて泡吹きながら気絶した……。

 逆に緊張が途切れて気絶するあれか?


 まあ、このファミリーが特殊なだけか。


「キィャアァーーーッッ!?」

「イヤぁーーーー!!」

「ああぁーーーー!!」


 おかしい。

 誰も彼も似たような反応だ。


 ここの住民達は極度にスターへの耐性が無かったりするのか?


「おい、何故人が出てこない?」

「そんな事どうでもいいじゃないか」

「そうだ、このくらいがちょうど良い」


 信者達は見られたくないからと、この状況を良しとしているらしい。


「まさか、お前等が仕組んだんじゃないだろうな?」

「いや、避けられてるだけだろう」


 避けられてる発言に頷く信者共。


「なっ、嬉しくて気絶までしているぞ?」

「悪名高い変な奴に目をつけられた恐怖から気絶したんだろう。可哀想に」


 そんな馬鹿な。


 風魔法を駆使して直接民衆の風評を聞く。


「歩く墓標だ」

「迫りくる死だ」

「露出教か死かを選べと言う事か」

「いや、社会的な死のお出迎えと言う意味だろう」

「どちらにしろ死じゃないか!?」


 ……想像していた以上にとんでもない風評被害だ。

 単純に露出教どうこうの問題だけでは無い。

 何故か死と言うワードが途轍もなく多い。


「おい、何か歩く墓標とか言われてるぞ。本当に何もしていないのか?」

「してねぇよ。お前の神輿を担いでるんだぞ? お前の同類だと思われてんだ。これ以上評判落としてたまるか!」


 確かにそれもそうか。


「だったら何故?」


 全く分からない。

 これはもう少し反応を伺う必要が有りそうだ。


 民衆の反応に気付かない振りをしながら手を振り、菊の花束を投げ渡す。


「イヤぁーーーーっっ!!」


 相変わらずの叫びからの気絶。


 やはり謎だ。

 気絶の原因は分からない。


 しかし違う民衆の声が聞けた。


「何て恐ろしい事を」

「死者に供える花を聖者に、露出教を信仰しないと死者するって脅しか」

「いや、既にお前は社会的に死んだって先に宣言しているのかも知れない」

「どちらにしろ、まともな意味じゃないのは確かだ」


 それはついさっき聞いたのに似た内容。

 しかし、花に意味があるらしい。


「おい、菊に何か花言葉があったりするか?」

「知らん」

「俺も知らない」

「菊を避けたりしてるか?」

「いや、寧ろよく買う」

「花と言えば、菊ですね」


 謎だ。

 特に信者達は菊に問題は無いと言う。

 それなのに民衆は過剰反応。


 試しに会話が聞こえた場所にも菊の花束。

 そして漏れなく気絶。


 どちらも嘘は言っていない様に思える。

 特に民衆は身をもって証明。


 やはり謎だ。


 こうなれば、もう気にせず凱旋を続けよう。

 最悪、女神様にさえアピールできれば問題ない。


 そう思っていると正面から、街の端の方から大きな光が発せられ、轟音が轟いた。

 離れているが、民衆の騒ぎ立てる声も聞こえて来る。

 そして光と轟音は続き、空に炎や雷が炸裂。空にひびが入り、所々剥がれ落ち光となって消えてゆく。


 同業者か?


「許せん! 全速前進!」

「「「おう!!」」」


 やけに一致団結した信者達に命じ、俺は凱旋を邪魔する同業者に文句を言うため現場に急行するのであった。


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