この日限定な自粛警察、服屋を目指す

 


 途中、予期せぬ人助けを行ったが、俺の目的は変わらない。

 服屋に行く事だ。


 何故か、人助けを行ったのに、周囲からはより腫れ物を扱うように、それどころか逃げも隠れもされる様になってしまったが、俺は意気揚々と道を行く。


 何故ならば、後ろには慈善活動を行い改心させた信徒。

 俺達を馬鹿にしてきたリア充共。


 それが露出教に入信し、前屈みになりながら後を着いて来る。

 見下した侮蔑の視線を向けてきた奴らが、今は腫れ物扱いの視線を浴びている。


 信者1号の言う通り、露出教の入信には不思議パワーが働くようで、奴らが入信に頷いた直後、服がスルリと弾かれ一瞬で全裸になったのだ。

 異世界とは言え、流石に宗教までファンタジーとは驚いた。


 そしてつまり、女性信者を獲得すれば!


「クアッハッハッハッ!」


 笑いが込み上げてくる。


 気分が良い。


 夢能力、全裸化が使えると分かった事に加え、リア充の改心、これは笑わずにはいられまい。


 リア充を改心させた俺には、腫れ物を見るような視線は向けられていないし、世間が俺を称賛しているような気すらもする。

 何故か腫れ物扱いの視線どころか、視線の一つも向けられない、と言うよりも明確に目を逸らされるが、些細な問題だ。

 きっと聖人オーラ溢れる俺に話し掛けられず、照れているのだろう。町中で一番好きな有名人を急に見つけてしまったようなものだ。


 ならば他人の態度が変わったのは所謂有名税の一種。

 そのくらい必要経費と思って甘んじるべきだろう。


 取り敢えず、気前良く麗しき女性や美少女には手を振りながら笑顔のサービスを。


「きゃーーーっ!?」


 とバタンキュー。

 早くも俺のファンになった女性は俺のサービスに気絶してしまった。

 某叫びの絵みたいに壮絶なお化け屋敷級の気絶顔だが、よほど嬉しかったのだろう。


 気絶顔は見て見ぬ振り。

 好意を寄せる俺にそんなところを見せたくは無いだろう。

 俺は女心の分かる男であるから気遣いが出来るのだ。


 さて、次の女性にサービスを。


 そう思っていると、急にバタバタとした音が大通りを包み始めた。


 見れば窓が、扉が、カーテンが、次々と閉まる音だ。

 さっきまで普通に営業していたのに、シャッター的な板で閉じられた屋台も数知れない。

 商店は短時間で閉めれない為か、開いたままだったが、そこに店員の姿は無い。チラホラと見え隠れする頭部などから察するに、隠れているらしい。


「何だ? 唐突的な休憩タイムか?」

「違う、お前のせいだ」


 信者1号は俺のせいでこうなったと言う。


「つまり、俺のスターオーラが強過ぎる剰り直視出来ないと言う訳か! そんな照れなくても良いのにな! ハハハハハッ!」


 どうやら、俺の溢れ出る魅力に耐えきれなかったようだ。


 うんうん、分かるぞその気持ち!


「なに馬鹿な事を言ってるんだ? どう見ても露出教に目をつけられない様に隠れているだろうが」

「なるほど! つまり俺の聖人オーラに当てられたと!」

「どこまでもご都合解釈だなおい……」


 だったら聖人方面でサービスをプレゼントしよう。


「よし! 素直に慣れないで隠れているシャイ信者達には訪問説法のプレゼントだ!」


 ん? 今度はガラガラとした音が大通りを包み始めた。


 見れば窓が、扉が、カーテンが、次々と開く音だ。

 さっきの真反対。


 そうかそう言う事か!


「皆、俺の手を煩わせたくないと気を使っているのだな! ファッハハッハッハッハ!」


 良し! その心意気、有り難く頂戴しよう!


「本当に、どこまでもご都合解釈だな……」


 その後は軽く手を振り、笑顔を振りまくだけで済ませた。


 しかしそれでも気絶者が続出。

 罪な男だぜ。




 さて、聖人活動を続けつつも、大通りを物色してゆく。


 国どころか世界も変わると、大通りの様相も大きく違う。


 当然、車なんか走っていないし、だからと言って馬車も走っていなかった。

 大体リアカーや大きな籠、もしくは木箱そのままで大荷物を運んでいる。

 馬車が普及していないのではなく、ただ坂の多い迷路みたいな街だからそうしているのかも知れないが、特段不便では無さそうだ。


 俺の身体能力が爆上がりしたように、この世界の住人達は高い身体能力を持つのだろう。

 形状が持ち難く苦労していても、重さで困ったような様子は無い。


 店は日本では飲食店が群を抜いて多く、次いで商店の多く集まる場所では服屋が軒を連ねているイメージだが、ここは食料品店が多いように思える。

 それも品揃えが少ない。

 店ごとに売っているものが違う。

 だからと言って、専門店が多いと言う雰囲気でも無い。店はあるのにフリマに来ているような不思議な雰囲気がある。


 と言うよりもゴザを敷いているだけの店舗も多く、屋台が数多く出店していた。

 その分だけ、店舗持ちの店が少ないようにも感じる。


 そして流石は異世界と言うべきか、武器屋がそこらかしこにあった。

 服屋よりも圧倒的に多い。

 それに重く危なく動かし難いからか、下手したら食料品店よりも店舗持ちの店が多かった。


 この世界、ショッピングデート出来る場所は無いのか?


 服屋巡り何かすぐ終わるし、物騒な武器屋が多過ぎる。

 女子受けしそうな要素が見当たらない。


 アクセサリーを売っている露店は多いが、宝石らしきものを使ったアクセサリーはセキュリティーの弱い露店に準じたものだけ。

 なんならウチの女神様の方が何倍も宝飾店らしい風貌だ。


 少なくとも、この程度のアクセサリーでは女神様は満足しないだろう。

 まあ、女神様は某空島の大鐘楼くらい持って行かないと振り向きもしなさそうだが…………どっかに眠っているだろうか?

 兎も角、女神様向けのデートスポットでない事は確かだ。


 いや日本でなら、この街並みだけで立派なテーマパークだ。

 それどころかヨーロッパでもここまでの伝統建築な街は少ない筈。なんせそれっぽい外見でも再建でも無く現役の本物だ。

 割と女神様に対してのデートスポットしては良いかも知れない。


 そう考えると十分デートスポットに出来きそうだが、この世界の人々はこの景色に感動するのだろうか?

 この街しか見ていないから立ち位置が今一分からない。

 別に伝統とか無くても良い場所は良い。と言うよりも大多数は伝統の無い場所だ。

 それでも平凡な場所はデートスポットには向かない。

 地元だったりお互いにある程度知り合っていれば寧ろそれは進んだデートとも言えるかも知れないが、初めましてからの付き合いたてではハードルが高い。下手をすればいきなり家に連れ込もうとする奴扱いだ。


 流行が全く分からない。

 ここは最先端なのか、伝統的なのか、斬新なのか、平凡なのか、さっぱりだ。


 そうだ。

 直接聞いてみよう。


 ちょうど舎弟……じゃ無くて信者がいる。

 男の意見だが、別にセンスを求めている訳ではないから問題あるまい。


 それに三人揃えばもんじゃの知恵と言う。

 何故ことわざにもんじゃ焼きが出て来るのかは知らないが、兎に角、三人揃えば素晴らしい知恵が出て来ると昔から言われている。

 誰かが変な感性を持っていても、五人もいればズレた情報にはならない筈だ。


「おい、この街の観光地ってどんな所だ?」

「観光地? この街は最前線の城塞都市だから、軍人や冒険者ぐらいしか滅多に来ないぞ? 商人すら元軍人や冒険者だ。優秀な護衛を雇っていてもこの街に来たいと思う奴は少数だと思うぞ? と言うかそんな事も知らないで来たのか?」

「はぁ? 最先端なのに軍人や冒険者しか近寄らない?」

「最先端じゃ無い、最前線、戦場の最前線だ。本当に知らないで来たのか? 一体どこの出身だ?」


 信者1号の言い方からすると、知っていて当たり前の情報だったらしい。

 妙に高い壁で囲まれていたり、中まで城壁に囲まれた迷路のようになっていたのは現役バリバリの砦だったかららしい。

 ファンタジー世界の標準装備では無いようだ。


「と言うかどうやって来た? ここの百キロ圏内には砦しか無いぞ? この場所の異常さに気付かなかったのか?」

「空から来たからな。そんなにヤバい場所なのか?」

「ああ、この街のすぐ近くのダンジョンに、魔王軍四天王、その中でも別格の邪龍が巣食っている。そいつが定期的にダンジョンから魔物を氾濫させているから、ここら辺は魔物だらけだ。それをこの街と百キロ圏内にある無数の砦が食い止めている。ここはそんな場所だ。その分、手柄をあげようとする新人冒険者や勇者軍志願者排除多いが、一般人は殆ど来ない」


 なるほど。

 武器屋が多いと思ったら、それもファンタジー世界特有のものではなく、この街の特徴であったらしい。

 軍人に冒険者と、戦士だらけだから武器屋だらけになっているようだ。


 と言うことは、とことんデートスポットに向いていなさそうだな。

 いや、ちょっと待てよ。


「と言う事はだ、ここの住人は殆どが軍人か冒険者なのか?」

「ああ、まあ商店をやっているのは元だが、大部分が現役か経験者だ。それもこの街に居住している者は少ない。数カ月から一年稼いだら地元に帰る。家に住んでいるのも勇者軍関係者、各国から派遣され交代制だ。実質家じゃなくて宿舎だな。後は冒険者用の宿屋。定住しているのは極少数だ」


 つまり、ここに居る女性は戦闘に携わっている。

 ならば、割と武器屋デートもいけるのでは無いだろうか?

 一応良さげな武器屋を探しておこう。


 それにしても軍事や冒険者なのに、俺と女神様から話も聞かずに逃げも隠れもしていたのか。

 そんな度胸で戦闘なんてやってられるのか?


 そう言えば信者1号がその最たる例だ。


「信者1号も軍人なんだろう? 人の話も聞かずに怯えまくっていたが、そんなんでやってられるのか?」


 思わず心配になり、口に出して言う。


「軍人だって露出教は怖いんだよ!」


 最前線の激戦地よりも露出教が怖いって、この世界の軍人、本当に大丈夫か?



 そんなこんなのやり取りをしつつ、俺達は服屋に到着した。


 曰く、街一番の服屋らしい。


 ここまで来る途中にも服屋はあったが、そこと比べて一番と言うのは納得の店屋だ。

 まず外観からして華やかな服で飾られている。

 他の服屋は非常に地味だった。軍人や冒険者が相手だからか、頑丈で動きやすそうな、それしか考えていなさそうな服しかなかった。

 色合いも目立たない色ばかり。魔物から隠れやすい色にしていたのだろう。

 どこまでも実用性重視だった。


 だがここは色も形も様々。

 見せる服が多い。

 日本でも商店街では無くショッピングモールで通用しそうな品揃えだ。


 俺に相応しい店と言えるだろう。


 そう思っていると店の中から化け物が現れた。


「いらっしゃ〜い」


 身長は約2メートル。

 筋骨隆々。

 なのにはち切れそうな服には可憐なフリル。

 スカートからは女性の胴体ほどの太い脚。


 太い首に骨付き肉の骨も容易にに砕くジョリジョリブルーな顎。

 唇には真っ赤な太いルージュ。

 付けまつ毛は機密基地の忍び返しのように凶悪で、瞼はカラスも逃げるギラギラ紫。


「……間違えました」


 俺は軍人のお手本になれるくらい見事な回れ右を決める。

 が、その後前に進めなかった。


 いつの間にかジェットコースターのバーの如き外れないホールド。

 俺は捕獲されていた。

 もう片方の腕には信者1号。

 2〜5号はこの隙に猛ダッシュを決めていた。

 この薄情者共がぁ!


「“リア爆”ッ!」


 辛うじて逃走を食い止める。

 しかしそれで魔の手は防げない。


「あんらぁ〜、誰かと思ったらベルクちゃんじゃないのぉ〜。も〜、お久し振りじゃなぁ〜い。かれこれ5年ぶりくら〜い? 良いカ・ラ・ダ。大っきく立派になっちゃって〜、食べごろねぇ〜」

「ひぃっ!?」


 信者1号の全身を撫で繰回しながら、ねっとりとした口調でゴアイサツ。

 何故か俺までオマケにさわさわ。


「きょっ、今日はコイツの服を買いにっ!」

「ちょっ!? こっちに話題を振るな! ヒィっ!」

「まぁ素敵な子! 全裸で来るなんて準備万端ね! ベルクちゃんと一緒にアソビましょう」

「お、俺はただの案内で!」

「俺、俺は露出教の聖職者だから服は!?」


 服を買いに来たのに、俺は咄嗟に服は要らないと嘘を付く。


 しかし抵抗も虚しく、店内に連れ込まれるのだった。



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