ホワイトデーと母の日は同じと主張する男、曰く慈善活動の果に美の女神の獲得を決意する

 


「迷える小汚い羊達よ!」 


 俺は今、聖職者をしている。


「おい、小汚いは余計だぞ」


 おっと失礼。

 初心者聖職者だからまだ拙い部分もある。


「迷える子豚達よ!」


 だが大丈夫。

 俺は根っからの聖者。生まれながらの大聖人。


「それも間違ってるぞ」

「迷える小汚い豚達よ!」

「……もういい」


 そんな俺が語り掛けるのは、黒焦げになって倒れている怪我人。

 日頃の行いのせいか偶然、そう偶然緑の雷と言う天罰を食らって爆発した身も心も純粋さを失い穢れた野郎だ。

 いや〜、リア充が勝手に爆発する粋な天罰もあるんだなぁ〜。


 そしてそんな怪我人を前にして、聖職者たる俺が成すべきことはただ一つ。


「身ぐるみ全部置いてって貰おうか!」


 勿論布教である。


 天罰を避けるには清い心を持つ必要があるのだ。

 つまりこれは露出教の信者とすることで俺の有り難い説法を授けて、奴らを天罰を受ける運命から遠ざけてやろうと言う俺の親切心。


 いや〜、自分のできた人間性に惚れ惚れしてしまう。


「……完全に山賊じゃねぇか。言ってることもヤッてることも」


 何やら信者がほざけているが、そのような事実は無い。

 彼は修行が足りないようだ。


 俺のやっている事は慈善活動である。


 怪我人を治療する対価を求めているだけだ。

 しかもその対価は爆発しボロい布切れとなった服。

 そうで無くとも野郎使用済みの需要の欠片も無い下着まで引き取ってやろうとこっちは言っているのだ。


 慈善活動でなくて何だ。


「ほ〜ら、痛いだろ〜、苦しいだろう〜? ここにクスリがあるぞ〜? 欲しくは無いのか〜?」


 俺は親切に買ってきた回復薬とやらを持っているのを分かりやすくアピールしながら同情の言葉を送る。


「悪党の鑑だな。もはや関心してしまう程だ」


 失敬な。


 俺は純然たる聖職者だ。

 しかも有り難いお言葉や教えを学ばなくとも始めから知っている、俺の言ったことこそが正しい天性の聖人なのだ。

 こいつは俺の有り難いお言葉や行為を理解できないのだろう。


 嘆かわしい事だ。


 しかしそれとは関係無しに相手方からの反応は無い。

 ぼんやりとコチラを見上げて呻くのみだ。


「おい聞いてのか? オラ」


 揺さぶってみるも、反応はあまり変わらない。


「怪我人を足蹴にするとは、どこまでも悪党の鑑だな」

「煩い。回復薬を売ってる店に案内しただけで何もしない奴がとやかく言うな」

「じゃあ俺が助けても良いのか?」

「あぁン? 邪魔したらどうなるか分かってんだよな? リア充なんかの味方になんのか?」

「清々しい程の悪党の鑑だな」


 煩わしい外野を無視して、俺は善意の救護活動を続ける。

 しかしつま先で突いても、足裏で揺すっても、頬を足でペチンペチンしても呻き声を上げるだけだ。


 全く、世話が焼ける。


 こうなれば仕方が無い。


 回復薬、下級ポーションとやらを少しだけ飲ませる。


 すると変化は目に見えて起きた。

 煤けた火傷が少しづつ引いていく。


 そしてそれだけで変化は終わった。

 目論見通り、ポーションの量と回復量は比例するようだ。


 俺は慎重にポーションを飲ませる。


「おっ、やっと善意が芽生えてきたか?」

「静かに! 繊細な作業中だ!」

「は? それは飲ませりゃ良いだけの代物だぞ?」

「それだと間違って完全回復しちまうかも知れないだろが!」

「……お前の善意を少しでも信じた俺が馬鹿だった」


 二階から目薬をさすが如く、慎重にポーションを垂らしてゆくと怪我人達の様子が変わりだす。

 呻き声が引き、険し目の表情が忌々しい事に落ち着いてゆく。

 これも目的の為。我慢我慢。



 根気強く絶妙な匙加減で飲ませてゆくと、怪我人達は目覚め出した。


「…た、玉ぶ…? ヒッ! ろっ、露出教徒!?」

「…イ、イチモ…? なっ! 露出教徒!?」


 目覚め方が色々と酷い。

 まず気絶から目覚めたら気絶直前の状況を思い出してその後を気にするとか、自分の状況を確認しようとするものでは無いだろうか?


 まあ服を着ないまま看護しているから下から見たら色々とアレかも知れないが、第一声がそれとは酷過ぎると思う。


「…ほ、包け――フガァああぁッ!?」

「…た、短し――おぐぅあぁッ!?」

「違げぇぇえわぁっ!!」


 断じて違う!

 俺のは…その…何と言うか、くっ、仮とも認めたくは無いが、どっちも仮だ! 仮! 仮仮!

 大きさはただの角度の問題だ! そうに違い無い! あとは、その、周りがモサっとして分かりにくいとかそんな理由の筈だ!


「俺はまだ成長期なんだよ!!」


 それに俺はまだ成長期なのだ!

 俺はまだまだこれから。

 同年代は皆これくらいの筈だ!


「プフッ」


 クスリとした嫌らしい吹き出し笑い。

 その先には変態露出野郎な信者。


 その視線の先には俺のが有り、コチラの視線に気がつくと自分のを目で指した。


 自然とソコに視線が行く。


「…………」


 今度は自分の視線が自分のへ行く。


「…………」

「お〜い、どーした? 成長期さんよ〜」


 ナニがとは言わないがプランプランとしたモノが目につく。

 ついさっきまでは隠していたのに。

 触れ幅広いなこのやろぉ……グスン。


 成長期でも見せつけられる壁がソコにはあった。


「嗚呼神よ、人種差別だぁーーー!!」


 俺は神を呪う。

 まさか人より絶対的高位存在である筈の神までもが低等な人種差別を行うなんて!


 現代になっても遺る旧時代、戦前から引き継がれた悪しき時限爆弾、それが人種差別。人が人だから持つ人の生み出す醜き悪習だ。

 普通に考えて神が持っていいものでは無い。


 繁殖分野の識者たる俺から言わせると、人間は本来動物として自分から離れた人間を好きになる。

 近親婚を忌々しいと思うなんちゃらの法則、あれ? なんちゃら効果だっけか? なんにしろそれだ。

 幼少から親しく付き合っていればいるほど、その相手を本能として恋愛対象としては見れないと言う。

 最も知っているのは付き合いの長さから幼馴染である筈なのに、付き合って数年、下手したらそれ以下のカップルが結婚したりする意味付けだ。


 許嫁やお見合いで結婚した夫婦の離婚率は低いのに、それ以外の夫婦の離婚率は高い。

 これも同じく説明出来る。

 長い付き合いが結婚前からあるのなら相手の欠点など結婚の時点で知っている。結婚する時点で欠点も受け容れた状態だ。対して数年付き合ったカップルでは欠点を受け容れた上で結婚出来ない。

 勿論お見合いなどでは世話になった人への義理建てで離婚出来ないと言う事情もあるだろうが、最も大きな違いはそこだと思う。


 つまりとっとと結婚するリア充共は一生を一時の感情に流す度し難い馬鹿共なのだ!!


 おっと話が逸れてしまった。

 リア充爆発しろ!!


 利点は遺伝子だけのように思えるが、他の合理性を捨てて早々に知り合ったばかりの人間が結婚する。

 これはまさしく遠くの人間を好きになる法則が働いているからとしか思えない。


 つまりそれ等も説明出来る以上、そのなんたらの法則やら効果とやらは正しいだろう。

 リア充は爆発すべきだから間違いない!!


 と言う事はだ。


 逆に言えば遠くの人間を好きになる訳だ。

 それこそ夫婦生活云々より何よりも遺伝子が優先される。


 つまり動物として、生物として、寧ろ他人種を好きになる事の方が自然と言える。

 現に俺もボンキュボンの外国美人が大好きだ!


 だから人種差別とは、人が生物だからでは無く、人だからこそ生み出した悪だ。


 それも人種差別が批判されるように悪だと理性で思ってみても尚、生物の本能を押し退けて出て来ているのだから相当に業が深い。

 それだけの何かで刻み込まれていると言う事だ。


 そしてその何かとは、単純に他人種への悪意を向ける事になった何かである事は確かだ。

 その時点でまともなものである筈が無い。

 シンプルに考えてその何かは人の争いの歴史に関係するものだ。他人種が敵であった時代は確かにあるのだから。


 と言うよりも逆に何かしら争って国境で別れたのが人種なのだろう。

 実際、黒人白人くらいの違いなら分かるが、日本人が海外で中国人と間違えられるように、俺も白人がアメリカ人なのかフランス人なのかイタリア人なのか分からない。そこにある違いは個人差と変わらない。美女は美女である。


 つまりは人種と言う区切りは、人種として別れた業を背負っているのだ。

 普通、争いならろくに関わらない相手よりも隣人、何なら家族相手の喧嘩の方が多いだろうが、人種はその別れた段階で封鎖する程の破綻した何かがある。少なくともただの隣人同士なら別れる必要は無い。


 国を観光地の区分としてしか見ていない人間も多くなったであろう現代でも、人種差別があるのはそれ程に深く過去の争いの記憶が染み付いているからだと思う。

 そうで無くては説明出来ない悪意がある。


 例えば移民を防ぐ為に壁まで造る人間もいるが、都会に移住してくる地方の人間に対しては壁を造って防ごうとはしない。

 今住んでいる所よりもいい場所があるから移住しよう、これに対してする差別はおそらく、この場所よりも悪い場所を築いた人間は信用出来ないと言ったものだろう。この条件を生むだけでいいのなら、上の条件二つで十分だ。しかし都会地方ではこうはならない。

 よってそこに理論は存在しない。真にあそこの人間はなになにだからと考えていないからだ。


 だから人種差別とは、人類の凄惨な歴史を集めたようなものだ。

 逆にこの過去の呪いが新たな争いを生み出す事もある。


 つまり人の悪の塊のようなものだ。

 現在の悪を増殖させる悪としては勿論のこと、過去の悪までもが詰まっている。負のスパイラルだ。

 争い自体を正当化する者もいるが、そうした場合でも、いやそうした場合はもっと酷い意味合いになる。過去と今は違い、生存には関係なく、逆に避ける目的であった筈の死の可能性を呼び込むのだから。


 だから絶対に神が人種差別をしてはいけない。

 普通に考えて、人の作り出した悪の濃縮液に染まるのはあり得ないと言っても良い事だろう。

 人が猿の糞尿に浸るのと同じだ。


 と言うか創る時点で人種差別をするとはどう言う事だ!!

 それこそ始めから大きな違いが無ければ、まとまっていたら今よりは争いが少なかった筈だ!!


「人間を創った享楽の神めがぁーーー!! どうしてイチモ●ぐらい平等に出来なかったんだーーーー!! 人種差別だぁーーーーー!!」


 例え人間を創ったのが女神様だとしても……うちの女神様はどうせ創るんなら皆イケメンとかビッグにしそうだな…………違うな……。


 兎に角、この大義の為ならば近頃よく耳にする神殺しの勇者とやらになってもいい覚悟である。

 フフフ、神話にあるように神のイチモ●切り取って海に捨てて美の女神に変えてやる!


 大義は我にあり!!


「なんか理不尽が過ぎないか!?」

「理不尽な目に遭ってるのはこっちだ!! 神のイチモ●、待っていろ!! お前は俺の女神だぁーーー!!」

「お前の中で一体何があったッ!?」


 思えば俺も人種差別をされ続けたものだ。

 アメリカに行けばCIAやらFBIとか言うハリウッドの役者共に絡まれ玩具を発砲される始末。仲間の軍隊コスプレした連中にはミサイルの玩具までも撃ち込まれた。

 イギリスに行けばMI6とか言うこれまた役者集団にしつこく絡まれ、しまいには何だっけ? 確か自由メーソンとかイルミネーション的な名前の怪しい連中にまで絡まれた。

 そしてこれまた、何故か最後は退屈な表彰まで付き合わされてと、兎に角差別されまくりだ。

 まあ時にはテレビで見た事がある首相やら大統領と呼ばれる芸能人にも会えたから悪い方向ばかりでは無かったが。


 まあこれは、違う理由での人種差別だろうがな!


 単純に、自分の権益を奪われないように、人種と言う別のあやふやな点に逸して批判する事があるが、俺の場合されたのはそれだ。


 これは相手の実力が上だと理解しているから起きるものだ。

 実力が下のものに既に築いている者が負ける要素など無いのだから。寧ろ実力が下だったら権益的に大勢いた方が好ましい。大した事が無くとも自動的に名店に繰り上がる可能性がある。

 スポーツに例えると分かり易いが、競技人口が増えるのは得でしかない。反対から言うと観客の居ないスポーツはどう主張したところで趣味と片付けられる。

 競争率は上がったとしても実力が下がる訳では無いのだから、その者が得るものは増える一方だ。小山の大将から山の大将にはなれる。


 だが実力が上の者が増えては自分の立場はなくなる。

 つまり利益の絡まる人種差別とは、実力が上、少なくとも同等以上の相手に対してなされるものである。


 まあ、だから、言ってしまえば俺が差別されてしまうのは仕方の無い事でもある。

 なんてったって、俺は最も優れた存在だからな!


「クアッハッハッハッッ!!」


 思えば神々すらも俺の登場を予見して、その才能に恐れを為して人種差別をしたのかも知れない。

 そうに違い無い!!


「今度は急に笑い出して一体どうしたッ!?」


 まあ、人間を創った神々の人種差別を許す気は無いがな!

 待っていろ! 俺のヴィーナス!


 だがそれは後だ。


 今は信者を増やすとき。

 しっかりと心の汚れきった連中に入信し、悔い改めてもらおう!!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る