貰っていない物を貰ったと言い張る男、本当に冒険者登録をする

 

 無事冒険者ギルドに登録することに成功した俺達は、ホテルを探すことにした。

 まずは落ち着く場所が欲しい。

 家と言えばダンジョンも同じような気がするが、流石に遠いしまた迷うのは嫌だから却下だ。


 そして探しているのだが、またもやあの問題が浮上した。


 文字が読めない!

 なんて書いてあるかさっぱりだ。


 皆俺達を見ると隠れるし、ホテルが見付からない。

 女神様によると冒険者のいるところ、ホテルは沢山あるとの事だが、未だ一つも発見出来ていない。


 下手したらダンジョンに戻って家らしくリフォームした方が早いかも知れないと思えてきたところだ。


 そんなこんなで大通りを進むうちに、幾つもの門を超え、この街の中心、頂上付近までやって来た。

 何重もの城壁に囲まれた街だったが、流石に中心を遮る壁はないらしい。


 中心にあるのは無骨な城、城砦と評した方がしっくりくる戦闘特化の城。

 その回りを堀が囲み、水が各方面に流れている。

 実用性重視が伺えるが、観光する場所としても中々良い。

 ネズミーランド好きの女子なんかは好きそうだ。


 だが城下町がそこらにある世界では、城に観光に行くのだろうか?

 この世界の女子が喜ぶ場所をリサーチしておかなければ。


 堀の回りは見通しの良い大通りで、堀を囲うように大きな建物、おそらく商店が並ぶ。

 どれも下で見たのよりも立派な建物だ。

 造りも若干実用性が薄れ、デザイン性が見られる。

 高級商店と行ったところか?


 ここならばホテルはあるだろう。

 何せこの街で最も景観が良い。

 ここに無くてどこにあるんだと言う話だ。


 建物の外観からしたらどれがホテルでもおかしくない。


 ダメ元でどれがホテルか近くで掃き掃除をしていた婆さんに聞いてみる。


「すいません! ホテルってどこですか?」

「……っ!!」


 やはりこの婆さんも答えてくれない。

 化け物を見るかのような視線を俺達に向けてくる。

 だが、この婆さんは逃げなかった。

 ただ足腰が悪いとか、そんな理由かも知れないが、この世界で初めて真面目に応えてくれた。

 微妙に感動する。だがそれ以上に泣きたくなる。


「ホテル? 宿屋の事か?」

「はいそうです」

「幾ら払う?」


 だがやはりと言うべきか、この婆さんもまともな礼儀正しい奴じゃなかった。

 情報料を請求してくる。


 だが致し方ない。

 俺達から逃げないのはこの婆さんが初めてだ。

 このチャンスを逃す訳にはいかない。

 俺は魔物を倒したときに素材と一緒にドロップした金色の小銭を数枚差し出す。

 色合い的に多分五円玉と同じような価値だと思うが、十数枚渡したから問題あるまい。


「宿はここだ。私の孫夫婦が経営している。来るがいい」


 どうやらこの婆さんはホテルの関係者だったらしい。

 じゃあ今のは情報料と言うよりはホテルのチップだったのか?

 やっとまともな人間に出会えたらしい。

 道は長かった……。


 ホテルの中は清潔な石造りの落ち着いた空間だった。

 行ったことは無いが、高級なホテルの雰囲気がする。西洋版の高級旅館と言った感じか?


 受付には背の高く恰幅の良いおっさんがいる。

 ビシッとした強そうなおっさんだ。丁寧なホテルマンらしい雰囲気と言うよりも、騎士のような雰囲気を感じる。

 看板娘的な存在はいないのか? まあ今は良い。後で探してみよう。


「……婆ちゃん、客か?」

「客だ。代金は既に貰った。最高級の部屋に案内しなさい」

「……正気か婆ちゃん?」

「正気だ。宿屋はもてなす商売だ。とっとと動け」


 なにやら言い合っているが、一つ気になる事がある。

 と言うかそれが気になって話の内容が入ってこない。


 あのおっさん、婆さんの事を婆ちゃんって言っていたよな?

 と言うか婆さんは孫の経営する宿屋って言っていたよな?

 おっさんどう少なく見ても四十は超えているぞ? 婆さんいったい何歳だ!?

 婆さん腰が真っ直ぐだし、総白髪だけどシワは少ないし、見ようによっては夫婦に見えるし!


 変なところで美魔女を発見してしまった。

 と言うか異世界だから本当に魔女かも知れない。

 余計な藪はつつかないようにしよう。

 よく考えれば女神様なんて理解の及ばない年齢だし。


「身分証はあるか?」


 そんな事を思っていたら話がついたらしい。

 婆さんが身分証の提示を求めてくる。


「さっき冒険者ギルドに登録しました」

「じゃあギルドカードを見せてくれ」

「ギルドカード?」

「そう言えば貰っていませんね」


 あいつら、一番大切なものを寄越さなかったのか……。


「貰っていないのか? 変だな。まあ冒険者ギルドはすぐ目の前だ。貰ってきなさい」

「ん? 冒険者ギルド? ここにもあったのか」

「何を言っているんだ? この街にはそこにしか冒険者ギルドはない。本当に登録したのか?」

「えっ? さっき城壁の門をくぐって登録した筈ですけど?」

「城壁の門? 大通りを進んで一番初めに見えるところか?」

「そこです」

「……そこは勇者軍の兵舎だ。冒険者ギルドじゃない」


「「「…………」」」


 どうやら俺達は、冒険者ギルドじゃないところで登録してきたらしい。

 一体何を登録したんだ?

 あの全裸になった連中は一体?


 〈聖職者〉スキルが上がったのって……。


 女神様は冷や汗を流し始めている。

 そりゃ正面からあんな説教じみた事を言っていたからな。


 うん、悪いのは冒険者ギルドの場所を教えなかった奴等だ。

 兵舎の連中も同罪。

 初めから俺達にまともな応対をしていればこんな事にはならなかったのだ。


 それに俺は露出教の聖職者。

 布教したことに何の問題もない。

 そう言う事にしておこう。


 俺達は逃げるように冒険者ギルドに向かった。



 冒険者ギルドはそれらしいところだった。

 壁のボードに張られた依頼の数々、バラバラの装備を身に纏う冒険者達。

 そして長いカウンターに横に併設された酒場。

 何かのゲームで見たような光景だ。


 だがやはりここも他と同じ。

 冒険者達はそそくさと端に避け、職員達も然り気無く奥に引っ込む。

 全く、俺達をなんだと思っているのだか。

 こっちから望んで布教したりしねぇわ!


 逃げられない位置、受付にいる可愛い受付嬢のお姉さんも涙目で震えている始末。

 本当に俺達をなんだと思っているのだか。

 何もしないのに。


「君、露出教って興味ない?」

「ヒィッ!?」


 これはセクハラとか口説いているのとかではない。

 真面目に聖職者として布教活動をしているだけだ。

 別に悪い事などしていないのだ。


「フンッ!」

「ドゥベッバッ!!」


 そう思っていたら女神様に後ろから殴られた。

 顔からカウンターに突っ込みそのまま石の床にめり込んだ。


「うっ、痛いです、女神様」

「当然の報いです。そんな事をしたら余計に避けられるでしょうが。生きているだけ感謝してください」

「ヒィッ!」

「ほら、彼女も怯えています。謝りなさい」


 女神様は俺の後頭部に手を添えると、思いっきり頭を下げさせた。


「ドゥワァッ!!」


 また俺は顔面から石の床にめり込んだ。

 深い。起き上がるのが大変だ。


「キィャァァーーーッッ!!」

「ほら、被害者の傷跡は残るんです。反省しなさい」


 その悲鳴、そしてさっきの悲鳴、女神様の行為に対してだと思う。

 あと俺の場合はマジで物理的に傷跡が残りそうだからやめて欲しい。

 だが、布教で恐がらせたのも事実。ここは謝っておこう。


「すいません。あまりに可愛いかったもので。謝罪したいので良ければ後でホテルに」

「あなた……」


 おっと女神様の手が再び挙がる。

 だがヤらせない。


「女神様、回りを見てください。女神様の暴力に皆怯えています」

「なっ」

「そんな事をするから人から避けられるんです。注意してくださいね」


 女神様にも反省してもらわなければ。

 それに恋愛は万人の絶対なる自由なのだ。

 本当に人から避けられる原因にもなるし。


「そ、それでご用件は?」


 受付嬢のお姉さんは声を震わせながらこちらを伺う。

 見たところ怯えが凄い事になっている。

 ヤバい。普通に対応していたつもりだが、彼女の精神を激しく削ってしまっていたらしい。

 今回に限っては心当たりもあるし。


 早いところ本題に入ろう。


「冒険者ギルドに登録したいんですが?」

「と、登録ですね。こ、この水晶球に、手を触れて、ください」


 タッチ。

 すると俺の全身を何かの力が駆け巡った。

 水晶球は発行。

 気が付くと金属のカードがそこにはあった。


「これで冒険者登録は完了ですっ! そ、そちら御方も、お願いしますっ!」


 やはり受付嬢のお姉さんは暴力女神様に苦手意識を持ってしまったらしい。

 明らかに対応が違う。

 本当に限界に近い震え方だ。今にもお漏らしをしてしまいそうな状態に近い。


 そして女神様も普通に水晶球に触れ登録は終わった。


「ご、ご利用、ありがとうございました!!」


 それを見届けるとお姉さんはアスリート、いや獣顔負けの速さで速やかに去って行った。

 初めは受付嬢としての責任感で最後まで残っていたが、本当に限界だったらしい。


 俺達は誰もいないカウンターに取り残される。


 説明も何もないらしい。

 登録してギルドカードを渡されただけだ。


「どうします?」

「どうしましょう?」


 見ればギルド内には誰も居なかった。

 同業者や他の職員に聞くと言う手段もとれない。

 毎回思うが失礼な連中だ。

 と言うかこんなんで大丈夫なのか? 俺が泥棒だったら盗み放題だぞ? 身分証になるカードもあっさりと渡されるし?


 なんだか俺は被害者なのに心配になってくる。


「ホテルに戻りましょうか?」

「戻りましょう」


 こうして俺達はあっさりと冒険者になり、誰に知られる事もなく冒険者ギルドをあとにするのだった。



 ホテルに戻ると婆さんにギルドカードを見せた。


「確かに、これが部屋の鍵だ。階は最上階。宿泊期限は一週間。延ばしたければ後で孫に言ってくれ。朝食時、夕食時には鐘がなるから降りてくると良い。用意する」


 金はチップだと思って渡した金色の小銭で足りたらしい。

 余分は返してくれた。

 親切な婆さんだ。


「朝食は今からでも食べれるが、どうするかい?」


 そう言えばまだまだ朝の時間帯だ。

 目覚めてない奴も多い時間帯。


「女神様、どうします?」

「折角だから食べましょう。思えば昨日から食べていませんからね」


 確かにそうだ。

 今世では身体能力が上がっただけでなく、燃費も良くなったらしい。食べてない事に気が付かなかった程だ。


 俺達はそのまま食堂に移動した。

 と言ってもこの階全体が食堂のようなものだが。


 上の階から降りてくる連中全員にギョッとさせれたが、一日でもう慣れた。

 気にせず女神様と一緒に食事をする。

 メニューは朝らしく優しい料理の数々。


 長居は流石に悪い気がしたので、さっさと食事を済ませる。


 そして部屋に向かった。


 エレベーター代りだと思われる浮く円盤で最上階まで移動し、そこに一つだけある部屋の鍵を開ける。


 目に飛び込むのはこの街の景色。

 高い城壁に囲まれた街の全景が、ここで初めて見えた。

 何処まで広がる一つの城。

 それがこの街全景の感想だ。


 だがそんな光景お構い無しに、俺達はベッドに飛び込んだ。

 体力的には全く問題ないのだが、精神の消耗が激しい。


 濃すぎる一日だった。

 リア充に殺され転生させられ殲滅し、女神様に蹴られ殴られ吹き飛ばされ、全裸で駆け巡り聖職者となり避けられる。

 訳の分からなすぎる一日だ。


 落ち着いて思い出すと何処までも精神を削られて行く。


 この想いを受け止めてくれるのはふかふかのベッドだけ。

 疲れと意識が全て吸い込まれて行く……。



 俺はこの日、異世界人生の初日を朝からの深い眠りで終えるのだった。

 だがこの時の俺はまだ、世界中の人々の精神消耗の方が激しい事を知らなかった。




 《転生一日目終了時のステータス》


 名前:イタル=ゴトウ

 称号:【勇者】【嫉妬の王】【全裸の勇者】【セントニコラの使徒】【セントニコラの代行者】【露出教名誉司教】【 →邪龍の天空砦の攻略者】【 →ダンジョンマスター→恋人募集中のダンジョンマスター】

 職業ジョブ:〈異世界勇者Lv66〉〈勇者Lv0〉〈〉〈〉〈〉

 種族:異世界人(ダンジョンマスター)

 年齢:16

 能力値アビリティ

 生命力 90000000/90000000

 魔力 900000/900000

 体力 900000/900000

 力 90000

 頑丈 900000

 俊敏 90000

 器用 90000

 知力 90000

 精神力 90000

 運 90000

 スキルポイント:310

 勇者武装:未登録

 討伐ポイント:10000→7900

 魔法:〈全属性魔法Lv1〉

 加護:〈セントニコラの加護〉〈マリアンネの祝福〉

 固有スキル:〈リア充爆発Lv10〉〈不屈Lv3〉〈勇者直感Lv1〉

 大罪スキル:〈嫉妬Lv10〉

 スキル:〈鑑定Lv3〉〈アイテムボックスLv3〉〈高速走行Lv2〉〈再生Lv3〉〈全裸強化Lv5〉〈聖職者Lv1→Lv2〉〈 →脅迫Lv1〉


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