自称チョコ嫌いは異世界に飛び出す

 

 さて、暇を潰した所で女神様を見る。

 ……うん、まだ駄目だ。

 引き続き金銀財宝に魅了されている。


 女神様って本当に女神だよな?

 よくよく考えたら女神っぽいところは外見しかない。

 他に女神っぽいところは……。

 深くは考えないようにしておこう。


 さて、女神様が正気に戻るまで二階層のリフォームでもしているか。

 それにしてもここ、何階層あるんだ?

 どれ、初めの階層で50階層。

 随分と広いな。ここを合わせれば52階層だ。


 今日中の全リフォームは諦めよう。


 とりあえず今は二階層のリフォームだ。


 まず二階層のコンセプトから考える。

 一階層が玄関、応接間兼寝室みたいなものだから、次は彼女を喜ばせる系が良いか。


 となると浮かぶのは遊園地、水族館、動物園とかレジャー施設。

 つまりデートスポットだな。


 ダンジョンだし、お化け屋敷にしてみるか。


 内装全体はまた城。

 色合いだけ暗めにする。

 これだけで十分怖い雰囲気だ。

 古城って感じか。これでお値段は同じ、何だかお得な気分である。


 続いてはインテリア。

 拷問道具っぽいものを探す。

 流石に血の付いたものは無いが流石はダンジョン。それっぽいものがカタログにところ狭しとある。


 活かす為にまず幾つかの小部屋を地下牢風に改装。

 入り口の戸を黒い鋼鉄製のものに変換する。

 このセットは100ポイントと少し高い気がするが、本当に牢獄の役割も果たすらしい。

 使う予定は無いがクオリティも大切だ。

 成金やカッコつけと思われない為には必要な処置である。


 部屋の中央には長テーブルのような手錠足枷つきの寝台を設置。

 雰囲気を崩さず特殊なプレイも出来ると言うお得な組み合わせだ。

 後はギロチンやアイアンメイデンを設置して、適当な所に手枷や鎖をぶら下げておく。

 後は忘れず避妊具の宝箱を設置してと。

 これで一部屋完成だ。


 総額3000ポイントもいかずに作れた。

 まずまずだ。


 拷問道具には種類が多くあるからインテリアは一部屋ずつ変えて行く。

 簡単な操作で出来るが時間がある程度消費できて暇潰しにちょうど良い。



 リフォームに集中していたらいつの間にか最後の部屋のインテリア配置が終わった。


 三角の木馬に、壁にかけられた幾種類もの鞭、拘束椅子、拘束寝台。

 そして幾つもの宝箱。

 こだわりは灯りになっている赤いろうそく達。


 うん、完全に迷走した。

 何故か総額100万ポイントを超えたし。

 女子どころか同性に見せてもドン引きされるタイプの部屋だ。


 いや、俺の趣味ではない。

 ただ日頃から何故か女子に殺されかけてきた俺の自己防衛本能である。

 誰だって痛いのよりも快感の方が良いじゃないか!

 断じて趣味等では無いのだ!

 ただの本能、自然現象である!

 ちょっと、ほんのちょっと興味が有るだけなのだ!


 どちらにしろ最後に作った関係上、正解から外れた一番奥の方にあるし、見付からないからセーフである。

 バレなければ犯罪でないのと同じだ。


 と言うことでインテリアはこれで良しとして、次は魔物の配置だ。


 お化け屋敷かつ城、この状況に似合うのはやはり鎧甲冑だろう。

 しかし同じリビングアーマーだと若干雰囲気が似合わない。

 と言うことでカタログを捲って行くと、色々なリビングアーマーを見つける事ができた。


 そして俺の目に叶うリビングアーマーを見つけた。

 黒くて刺々しいデザインのリビングアーマーだ。名前はダークリビングアーマー。

 お値段は高めで一体150ポイント。

 武器のオプションでモーニングスターに変更で10ポイント。

 これのスポット設置で16000ポイントだ。

 実用性の無いインテリアモンスターの癖に糞高い。


 ここはスポット一つだけの設置に留めておこう。


 だが流石にダンジョンなのにモンスターが少なすぎても問題だろう。

 ここは寝室兼お化け屋敷兼ダンジョンなのだ。手抜かりがあると思われれると困る。


 代わりに脅かす役のモンスターを多めに設置するとしよう。


 まず定番はゴースト。

 怖さ控え目のコミカルなゴースト、袋をひっくり返したような奴だが、一体につき5ポイント、スポット一つで500ポイントとお得なので多めに設置する。


 続いては動く骸骨スケルトン。

 これはなんと一体1ポイントと超お得。

 スポットでも100ポイントだったので大量に設置した。

 尚、簡単な武装付きのスケルトンソルジャーは2ポイントと脅かし役としては武器が付いただけだし、それで二倍は高いと思ったので配置しなかった。


 ふぅー、もうこんなところか。

 これで完成かな。


「うぉっ!」


 しかしふと、カタログのとあるページに目が付いた。


 そこには素晴らしきモンスター、サキュバスが!

 男のロマンを体現する夢のモンスター!

 世界から童貞を卒業させる神よりも神の如き悪魔だ!


 是非とも配置しなくては!

 お化け屋敷と悪魔も合わないことも無いし、これはやると言う選択肢以外存在しない。


 サキュバス一体は10000ポイント。

 安っ!

 スポット、つまりハーレムでも100万ポイント。

 激安だ。

 十個くらい設置しよう!


「ははははは!! 出でよサキュバス!!」


 ダンジョン内に現れるサキュバススポット、そしてそこから召喚されるサキュバス。

 その姿が俺の脳裏に浮かぶ。


 …………。


 何か凄い悪魔っぽいのが出てきた。

 想像していたのと大分違う。


 俺は肉感的なお姉さんに蝙蝠の羽と三角付きの尻尾が生えているような姿を想像していた。


 しかし実際に現れたのは、蝙蝠の羽に三角付きの尻尾こそあるが、赤紫の皮膚に黒い眼球に青の瞳、尖った鼻に牙の生え揃った大きな口、後ろに反り返った山羊の角、を持った異形だった。

 人型にも見えにくい、胴体部分が骨が浮き出て曲がり手足の異様に長く猿にすら見えない異形だ。


 所謂普通の悪魔と評すしかない。

 女性要素は皆無だ。

 骨のように痩せた身体で肋骨が強調されて見えるが、胸には到底見えない。

 唯一違和感を覚えるのは股間部分にある牙の生えた口だが、結果的にどうみても怪物だ。


 注文を間違えたのかと俺はメニューのカタログを見直す。


 名前、確かにサキュバスと書かれている。

 写真は付いていない。

 正しい? いやそんな筈は。


 説明を読む。


 男に美女の夢を見せて精気を喰らい同族を増やす悪魔。

 本体も美女の幻覚に包まれていて、見破ることは非常に困難であり、本来の姿を見たものはいないと言われる。

 この為、対処するには幻覚を破るのではなく、誘惑に惑わされないようにするしか無いとされる。

 幻術能力に特化されているために本体は脆いが、討伐には誘惑に惑わされない強い心と、美女を迷わず殺せる精神力が必要である。

 尚、サキュバスの子孫で人であり魔物である性質を持つ種族がいるが、これは本来の姿がサキュバスが見せる幻術のような姿である。


 …………。


 つまり俺には何故か幻覚が通じないから、誰も見たことが無いとか言う本体が見えた、と言うかそれしか見えないってことか。


 男のロマン、ここに敗れたり。


 1000万ポイントも無駄にした。

 寧ろ彼女を連れてきたときに美女を大勢侍らせてるとか勘違いされて逆効果にしかなりそうに無い。


 その幻術で心霊的な姿に成れないか?


『ダンジョンポイント100万を消費すれば当ダンジョンに出現するサキュバスに追加能力を与えられますが、実行しますか?』


 あっ、出来るんだ。

 しょうがない。彼女に引かれない為の必要経費だ。

 100万ポイント支払おう。


『実行します。

 変更が完了しました』



 さて、色々と起きたが二階層のリフォームは完了だ。

 女神様は正気に戻ったか?


 女神様の方に視線を向けると、俺に冷たい視線を向ける女神様がいた。

 正気そうだが、俺のサキュバスのくだり辺りをしっかり見られていたらしい。


 だが俺はただダンジョンマスターとしてのお仕事と家のリフォームと言う家事を両立させていただけの、ただの完璧人間。

 何もやましい事など無い。失敗したし。


 そんな心構えで真っ直ぐ堂々と女神様に対応する。


「女神様、そろそろダンジョンを出て町でも探します?」


 俺は然り気無く金銀財宝に視線をやりながら語りかける。

 別に逆に非難している訳でも釘を刺している訳でも無い。偶々視線がいっているだけである。

 こう言う脅、ゲフンゲフン、交渉術は冤罪をこれでもかとでっち上げてくる輩とやり合うの必要な紳士の技。

 俺がやっているのは断固として正々堂々としたお話である。


「……そうですね。休憩・・も終わりましたし、町を探しましょう」


 流石は女神様、お話がよく進む。


「じゃあ行きましょうか? 幸い俺がダンジョンマスターになったので出口が分かりますし」


 この最終階層には実は直通のダンジョンマスター専用出口がある。

 ダンジョンマップによれば入って来た入り口のすぐ正面だ。

 分かりやすく窓付きの大きな扉がある。


 かなり近く簡単な出口だが、随分と時間を消費したものだ。


 俺は扉を開ける。


 そこに広がるは絶景。

 大高山の頂きから見下ろす新世界だ。


 実はこのダンジョンは上がって攻略したように上に十分なスペースのある土地、山の一角に広がっている。


 山の名は【城壁山脈】。

 大陸を東西に両断する一枚岩を中心とし高い山がそれを囲う、それこそ一つの城壁のような山脈だそうだ。

 高さは平均5000メートル。


 そこから一望する景色は絶景と言う他無い。


 ステータスが上がったせいか強化された視力では、カメラでも双眼鏡でもあり得ない範囲でくっきりと見えた。


 テーマパークでも見たことがない素晴らしき城にそれを囲う西洋風の街並み、それらをぐるりと囲う外壁。

 空に浮かぶ島とそこに建てられた神殿。

 山にすら見える大木とそれを囲う木々の街並み。

 石造りなのに異様に高い塔と古い街並みにそれを囲う結界。


 それらを地平線から昇る太陽が照らす。

 赤く染まりやがて白く染まり行く世界。


 正直、デートスポットの夜景にしか興味の無い俺でも思わず時間を忘れ見とれてしまうほどの絶景だ。


 ただ扉を開いただけだが実に素晴らしい光景を見れた。


「女神様、行きましょう」


 俺は景色を見ている女神様に静かにそう語りかける。


「ええ、行きましょう」


 さっきまでの女神の片鱗も見せなかった女神様は、この時だけは粗雑さと欲望を振り落とし、俺に答えた。

 その姿は女神としか言いようが無い。

 特別写真の綺麗な顔を作っている訳でも、笑っている訳でも無いのに、そう思えた。


 不思議と俺もこの時ばかりは女神様に欲望を持てなかった。

 純粋に、吸い込まれたような気分だ。


 不思議と恥ずかしくなる。

 変な気分だ。


 俺達は今まで見せなかった面を隠すように、一歩大きく前に踏み込んだ。

 鳥の飛躍のような大きな一歩を。


 そして俺達は空に飛び出した。


 空に――――


 ん?


 空?


「「イィィ―――ヤァァァ―――――ッッ!!!!」」


 こうして、前方がほぼ直下の崖だと失念していた俺達は、盛大に異世界の空を舞った。


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