自称チョコ嫌いはダンジョンをリフォームする

 

 階段を登ると今度は迷路だった。

 煉瓦のような石が組み立てられた迷宮である。


「女神様、ここなら壁伝いで進めそうですね」


 俺は壁に手をかけながら言う。


 好感度が殺意に置き換わっているが、人は必ず分かり合えるもの。

 諦めず色々とできるところをアピールすればきっと分かり合える。


 バコッ!


 そう思っていたら体重をかけていた壁がずれた。

 扉のようにきれいに開く。


 そして勢いのまま転がると階段があった。


「女神様、階段、ありました……」

「あなた、運が本当に良いみたいですね……」


 ここに来るまでの苦労(?)が何だったのかと思う程簡単に見つかった。

 俺の運は、数値通りに良いらしい。


「上、上がりましょうか?」

「そうですね」


 何にしろ、目的は達成したのだ。

 世の中、結果さえあれば良いのだ。

 告白の方法なんか関係ない。付き合えればそれで良いのだ。



 上に上がるとまたもや同じような空間だった。

 違う箇所は一点だけ、豪華で重そうな扉が真っ直ぐな道を進んだ所にあった。


 だがそんな扉は無視して、二人で念入りに壁をチェックする。

 ここに階段があって壁伝いに一周したのに戻ってきた、なんて事になったらくたびれ儲けだからだ。


「ありませんね」

「とりあえず、あの扉を開けてみましょう」


 そもそもここは下の階と違って一本道、先には扉しかない。


 扉は重そうな割に、触れるだけで自動に軽やかに開いた。


 そこに有ったのは宙に浮く真球の水晶玉。

 何か光っている。


「これは、ダンジョンコアですね。どうやら、出口に向かうつもりがダンジョンを攻略してしまったようです」

「えっ、一番奥に来ちゃったって事ですか?」

「そのようです」


 とりあえずダンジョンコアに触れてみる。

 するとレベルアップしたときのような声が頭に響いてきた。


 《ダンジョン【邪龍の天空砦】の攻略に成功しました。

 称号【邪龍の天空砦の攻略者】を獲得しました。

 討伐ポイントを1000消費して“ダンジョンマスター”の資格を獲得しますか?

 YES or NO》


 何か選択肢が出てきた。

 良く分からんがYESだ。


 《討伐ポイントを1000消費して“ダンジョンマスター”の資格を獲得しました。

 ダンジョン【邪龍の天空砦】のダンジョンマスター不在を確認。ダンジョンマスター権の空きを確認。

 討伐ポイント100消費してダンジョン【邪龍の天空砦】を支配しますか?

 YES or NO》


 えっとYES。


 《ダンジョン【邪龍の天空砦】の支配に成功しました。

 称号【ダンジョンマスター】を獲得しました》



「あの女神様、俺、ダンジョンマスターとやらになったみたい何ですけど?」


 そう言って女神様を振り返るが、そこには女神様はいなかった。

 しかし別方向から声がした。


「私、あなたに加護まであげちゃいましたから、知ってますよ」


 そう言うのは全身宝石で着飾って、ポケット中から金銀財宝を溢れさせている女神様。


 指には例外なく一つ以上の重そうな黄金や銀の指輪。どれも親指の爪ほどはある大粒の宝石が填まっている。

 首には幾つものベルト程に太い黄金のネックレスや宝石を編んだようなネックレス。こちらも大小様々な宝石が埋め込まれている。

 頭には全てダイヤで出来たような宝冠。何故か同じくダイヤで出来たティアラやサークレットまで戴いている。


 クリスマスツリーの数倍のギラギラ感だ。

 そして顔が怖い。ニッタリと笑みを浮かべている


「……一体何があったんですか?」

「多くのダンジョンの最奥には財宝が設置されているんですよ。攻略したのでそれを戴いているところです」


 微笑んでいるが、その目は言外に一つもやらんと言っている。

 その圧力は凄まじい。これが神かと本気で思える程だ。


 どんだけ欲張りなんだと思うが俺は心の広いジェントルな男。

 頑張って作った笑顔で応える。


「は、ははは、よ、良かったですね! 俺、宝石なんか興味ないから全部プレゼントしますよ!」


 決して怖いからこう言っているのではない!

 心の底から女神様に捧げたいからこう言っているのだ!

 大切な事だからもう一度言う。

 決して怖いからではない!


「えー、そうですか? 悪いですよ。本当に要りませんか?」


 そう女神様が言うがその目は、その笑顔は俺に選択を求めていない。完全なる社交辞令だ。

 寧ろ釘を刺されている錯覚まで見える。


「も、勿論ですよ。そ、それにほら、俺、なんかダンジョン貰っちゃいましたし! ほ、宝石! 似合ってますよ!」


 声が上擦りつつも最後まで言い切った自分を誉めたい。


 そう思いホッと緊張が切れかかった時、また脳裏に言葉が響いてきた。今度はステータスよりも無機質な音声だ。


『緊急通告。

 ダンジョン最終層に大罪スキル〈強欲〉の存在を確認。

 緊急防衛モードに移行しますか?

 YES or NO』


 ゆっくりと室内を見渡す。

 この部屋には俺と女神様だけ。


 間違いない。

 女神様の強欲さはスキルまで呼び寄せたらしい。


 とりあえずNOを選択しておく。


 女神様は宝石に夢中だから、それが覚めるまでは他のことでもしておこう。

 暫く距離を置きたい。

 本当はYESを選択してみたかったぐらいだ。



 さて、何をしているべきか。

 手に入れたダンジョンでもみてみよう。


 そう考えると再びステータスの声が聞こえてきた。


 《討伐ポイントを1000消費して種族に“ダンジョンマスター”を追加しますか?

 YES or NO》


 何だか知らんがYES。


 《種族に“ダンジョンマスター”が追加されました。“ダンジョンコア”を吸収しますか?

 YES or NO》


 YES。


 その途端、真球の水晶玉が俺に吸い込まれていった。

 そして無機質な音声で語りかけられる。


『ようこそ、ダンジョンマスター。私はダンジョンコアのサポート機能です。

 まず最初にダンジョンの名称を変更しますか?』


 YESにしておこう。


『新しい名称は?』


 パソコンみたいなキーボードと入力欄が現れた。

 ここに書けってことか。


 ダンジョンの名前、今まで考えた事も無かったな。

 何にしようか? 例えるなら山に名前を付けるようなものか?


 だったら宣伝したいことでも名前にするか。

 ふふふ、特大の看板。今まで誰も考えた事が無さそうだ。

 やはり俺は天才かも知れない。


 えーと、【恋人募集中】と。


『入力が完了しました。

 これよりダンジョンの名称を【恋人募集中】に変更します。

 続けて内装等の変更をしますか?』


 暇だからYESと。

 俺を象徴するような、趣味の良いダンジョンを異世界の人々に見せつけてやろう。

 完成すれば本当に恋人が来るかも知れないし。


『保有ダンジョンポイントは3003104301です』


 その言葉と共に色々なメニューが出てきた。


 とりあえず一階層と書かれたメニューを押す。

 まずはダンジョンタイプ。

 現在は人工迷路というタイプらしい。ついでに言うと転生してきた草原だけが特殊で他は登ってきた部屋と同じ構造みたいだ。

 ダンジョンタイプとはダンジョンの壁紙みたいなものか。


 変更出来る選択肢はまず自然、人工。


 ここは人工にしておく。

 自然よりもレパートリーが多そうだし、俺のセンスが光る所だ。

 ここは女子がわんさかと押し寄せるようなものが良い。


 やっぱり無難に城か?

 そして俺はお城の王子様。

『俺の家に招待するよ、キラン』『キャーお城、素敵ー!』

 これで決まりだ。


 他のタイプと違ってダンジョンポイントの値が張るが致し方あるまい。

 100ポイントでショボい洞窟を造るよりも、100000ポイントで豪華な城にする方が100倍も良い。つまり等価だ!

 100倍だよな? まあ何でも良い! 何か少し目を放した隙にダンジョンポイントが増えてるし何の問題もない!


 変更を決定する。


 瞬間、変更後の光景が脳裏に浮かぶ。


 道の中央には赤布黄縁のレッドカーペット。

 壁は白の大理石のような材質で、タペストリーと絵画が立て掛けられている。

 明かりはクリスタルが煌めくシャンデリア。

 シャンデリアは高い天井に描かれた絵画からぶら下がる。


 一階層にも関わらず階段等も豊富でダンスホールも完備。

 幾つもの部屋が連なる構造で、正解の部屋を開け続けないと進めない仕組みだ。


 100000ポイントの価値は十分ある城の完成である。


 続いて備品と魔物の配置をする。


 行き止まり部屋には例外なくダブルベッドを配置。

 いつでも何人でも家に呼べる仕様だ。一人一人専用の部屋に出来る。目指せ全部屋満室!

 尚、ダブルベッドは一つ1000ポイントもするが必要経費である。


 因みにゴブリンが時間経過で無限に出てくるゴブリンスポット設置には100ポイント必要らしい。

 ゴブリン無限×10とダブルベッド、やはり等価だ。


 それにしてもまさかこういう物と交換も出来るとは、ダンジョンポイント恐るべし。


 あとは部屋に宝箱を設置して中には避妊具をセットする。

 避妊具は一つ10ポイント。

 説明によると時間経過で中身が何度も出てくると言う宝箱の設置には一つ1000ポイントもするが必要経費である。


 無差別に出てくる宝箱と言うものも有ったから、これには大人の玩具をと。

 これも一箱1000ポイント。

 安い安い、でもこれは消耗品じゃないし少数で良いか。

 電池式とかは無理らしいが全然問題無しだ。


 あとは魔物を。

 流石に行き止まり部屋は入られるのが嫌だから配置せずに、通路と続いている所だけにしておこう。


 城の雰囲気を崩さない魔物が良いが何にしようか?


 カタログを捲って行く。


 そして目についたのはリビングアーマー。

 騎士の甲冑みたいな魔物だ。

 城のインテリアみたいでちょうどいい。


 ポイントは一体100ポイント。

 大量に設置するとしたら高いな。

 だが景観の為、お洒落度をアピールするために致し方あるまい。

 リビングアーマースポット、一つ10000ポイントもする高級品を数個設置しておく。


 後、必要なのは部屋の清潔さ。

 掃除でもしてくれる魔物はいないか?


 そう思っているとページが独りでにスライムのものに変わった。


 なになに、スライムはダンジョン内のゴミを食べてくれるのか。

 スライム、結構種類があるな。

 一番安いので良いか?


 そう思っていると素晴らしいスライムを発見した。


 テンタクルスライム。

 触手で装備を溶かしてイヤらしい事をする魔物らしい。

 一体なんと1000ポイント。

 スポットはよって100000ポイント。


 安い!


 設置だ設置!

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