自称チョコ嫌いは全裸を認められる

 

「……女神様、何か俺、【全裸の勇者】になったみたいなんですけど?」

「全裸の変質者? そのままじゃないですか?」


 心底解らないように首を傾げる女神様。

 可愛いと言うよりも綺麗な女神様だがこの仕草は可愛い。

 しかし今、重要なのはそこじゃない。


「勇者ですよ勇者! どうやったら勇者と変質者を聞き間違えるんですか!?」

「強烈過ぎるビジュアルとあなたの日頃の行いで」


 女神様が酷い……。


「あとなんか露出教とか言う変な宗教の名誉司教なっちゃったんですけど? と言うか露出教って何ですかね!?」

「露出教ですか? これはまた厄介なところに目を付けられましたね……。まあ、これからは別行動と言うことで」


 さっきよりも俺と離れたそうな女神様。

 本当に何? 露出教って!?


「いや教えてくださいよ!? 何ですか露出って!? あと逃がしませんからね!? もし俺を見捨てたら女神様に服とられたって町中で叫んでやりますからね!」

「っ! 何て卑劣な!」

「いや事実でしょう! 全裸でここに転生させたの、女神様ですからね!」


 よくよく考えたら【全裸の勇者】にされたのも、変な宗教に目を付けられたのも、女神様のせいである。

 どう責任をとってもらおうか?


 ふふふ、いい手があるじゃないか。


「もし別行動したいなら、身体で支払ってもらいますよ?」

「イィヤァァァァーーーーーっっっ!! そんな事しようとしたら貴方を殺して森に遺棄しますよ!!」


 と何処からかナイフを取り出し、自分の首に当てて脅してくる女神様。

 その状況で言うなら『貴方を殺して私も死ぬ』だと思う。

 それでも自分第一に俺を殺そうとするのが女神様らしい。隠し通そうともしているし。


 だがいくら脅されても平気である。


「はははっ! 忘れましたか女神様? 俺の頑丈さを?」


 ドラゴンに皹を入れ、空をも割っても無傷な男、それが今の俺だ。

 今なら銃弾を浴びせられながら大声で女神様を糾弾し、全裸で町を何周もする自信がある。


「くっ、最低ですねっ!」

 尚も女神様は騒ぐが、首に当てていたナイフを虚空にしまった。

 どうやら俺を見捨てる事は出来ないと観念したようだ。


「それで、露出教って結局何ですか?」

「簡単に言えば、宗教の領域にまで逝った全裸至上主義です。何故かあらゆる世界に存在する謎の宗教で、信者があちこちで服を脱げと布教しています」


 予想していたものより若干酷い。

 ただの露出狂の集まりではなく、確固たる意思をもち他者にも強要しようとするヤバい連中のようだ。

 そんな狂信者どもの名誉司教に任命されたって、ヤバくない!?


「女神様! それってヤバくないですか!? 俺、名誉司教ですよ!? バレたら一瞬で魔女狩られたりしませんよね!?」


 どう考えても狂った迷惑集団。

 野放しにしたらヤバい連中だ。

 そんな連中を導く司教。

 確実にバレるとヤバい。


 そもそも人は簡単に偏見、思い込みで他者を徹底的に害悪扱いして排除しようとする。

 俺も証拠を残した訳でも無いのに、下着を盗んだ盗撮しただのなんだで、何度もキャンプファイアの薪にされかけたことがある。

 と言うか何度か燃やされて黒焦げアフロになった。


 実際に害を振り撒いている露出教の司祭に対する偏見でどうなるか何て分かったもんじゃない。

 俺以外の司祭は多分偏見でも何でもなく弾圧される対象だろうし、俺が違うと訴えたところで信じてくれないだろう。


「残念ながらバレても、迫害まではされないかも知れません」


 あれ?

 どう考えてもヤバい宗教なのに大丈夫のようだ。


「何故に?」

「一応、善良な宗教だからです。服を脱がせようとする以外に、生け贄だの異教徒の弾圧だの害を与える事もなければ、彼らの力が強い地域では服さえ脱げば難民でも快く受け入れるそうです。そして兼宗教もありだとか。

 ……まあ、避けられはするでしょうが」


 どうやら露出教は、自分が脱いで相手も脱いでいれば何でもいい宗教らしい。

 信仰対象すらもあやふやで良いようだ。


「って! 迫害されないからって、避けられたら駄目でしょう! 結果的に露出の司祭なんて称号有ったらマズいって事ですよねっ!?」

「そうなります。だから別行動したいんじゃないですか……」


 女神様はやれやれと溜息をつく。

 他人事だと思って! この加害者がっ!


「て言うか称号ってすぐにバレるものなんですか!?」

「称号は大勢がそうだと認めるもう一つの名、簡単に言うと会社で言う役職や芸能界での芸名みたいなもの、一発で称号の持ち主の素性を知らせるものです。

 あなたも校長を名前では呼ばないし、知らなくても支障をきたしませんよね? そんな最低限で伝える名のようなものが称号です。

 つまり称号の在り方からして知らせる事を前提としているので、名前よりも容易に知られてしまいます」


 名前よりも称号の方がバレるらしい……。

 て言うことは何だ? 校長みたいに、俺はこれからも名前よりも露出教の司教って呼ばれるようになるってか?

 服を着ていようが一発アウトじゃねぇかっ!


「畜生! 唯でさえ今まで女子から名前よりもクズキモい死ねって渾名で呼ばれてきたのに!」

「……それが渾名になっていたなら、これは天罰に違いありませんね」


 なんか女神様が言っているが無視だ無視。

 俺は変な渾名を付けられたただの被害者である。


 そんなことよりも今は何とか対策を講じなければ!

 せっかくの新たな人生、人を見つけられてもリア充への道が絶望的に遠ざかる!

 それどころか一生全裸の変態、いや司教だから全裸の変態筆頭扱いを受けてしまう!


「女神様! 称号って消せないんですか!?」

「消せるものと消せないものがあります。資格が必要な称号は資格を失うと消えます。それこそ校長みたいなものです。逆にドラゴンスレイヤーのような称号はまず消えません。一度ドラゴンさえ殺したらそこで完結していますからね。

【全裸の勇者】はこの消せない類いでしょう」

「【露出教名誉司教】は!?」

「多分、露出教に嫌われれば消えるのでは?」

「服を着ればいいと?」

「はい、ただし長い時間が必要だと思います。功績によって与えられたのではなく、見込みありとして与えられたのでしょうから。

 まあ、称号自体は珍しく獲得するのに苦労するらしいので、いっそのこと何かに使えば良いんじゃないですか?」


 と説明はしてくれるが完全に他人事だと思っている女神様。

 面倒になってきたのかもう諦めて使えと言ってくる。


「一体何に使えって言うんですか!? 不利益被るだけですよね!? こんな称号!!」



 何時までも騒いでいてもしょうがないと、ふざけた10頭25尾のクリスマス爬虫類をアイテムボックスに収納しつつ、再び爆走で移動を始める。


 何故か今回は道を塞ぐ敵がいない。

 クリスマス爬虫類を倒したところで逃げたらしい。


 レベルが上がって速度が上がった事も幸いして、すぐにダンジョンの端まで到着した。

 空の壁だ。俺が女神様に蹴り飛ばされぶつかった天井と同じものが壁にもあった。

 不自然に世界が途切れているような、不思議な光景である。


「女神様、端まで来ましたけど、次はどうします?」

「とりあえず壁沿いを歩いてみましょう。

 ダンジョンは特殊な空間です。半異空間にある場合が多いですが、それでも相当高度な力が使われていない限り、元々の空間を利用して作られるか、少なくとも一つの別空間として作られます。

 つまり、仮に階層上に積み重なって出来ているダンジョンの場合、南の階段を使って北の階段から出る事も、下がったのに上がっている事もありません。

 なのでここが塔のようなダンジョンの最上階や第一階層目でない限り、上に昇る階段がある筈です」


 よく分からないが、出口への道は昇り階段らしい。

 そしてそれは今まで見掛けなかった。

 もしあったのなら上へ、つまり空に向かって伸びていた筈だから目立って気が付くに決まっている。

 それが無かったと言うことは壁沿いにあると言う事なのだろう。


 俺達は一気に壁沿いを駆け抜ける。

 俺を引き殺したオープンカーも弾き飛ばせそうな速さとパワーだ。

 途中、調子に乗ったせいで避けきれなかった木々を吹き飛ばしながら進む。


 そして一周し、戻ってきてしまった。


「階段、ありませんね」

「この様子だと、下り階段の可能性があります。隈無く探して行くしか無いでしょう。迷路よりも厄介ですね。似たような風景が続く草原と森のフロア、地図を書きながら進むしか無いですね。

 とりあえず一旦休憩にしましょう」


 手頃な岩に腰をかける。

 尚、休憩とは言うがほとんど疲れは感じていない。

 女神様も同じように見える。


 だが精神的な疲れはやはり有り、休憩することによってそれが癒えてくる。

 それによって重大な事にも気が付いた。


「そう言えば女神様、地図と言っても紙と書くものはあるんですか?」

「そうでした、有りませんね。そもそも役に立ちそうな道具はこのナイフぐらいしか持っていませんし……これであなたの背中に地図でも刻みますか?」


 割りと本気で言い切る女神様。

 人を人だと思っていない。それ以前に生き物とも思っていないような扱いだ。


「駄目に決まっているでしょう!!」

「確かに、あなたでは再生して地図が残りそうに無いですね」

「そう言う事じゃ無いです!!」


 酷い。着眼点が究極的にずれている。

 女神様の中に俺の人権は欠片も無いようだ。

 休憩で回復した精神の疲れが急速に倍増し増えて行くのを感じる。


 だが女神様にこの想いは伝わらない。

 淡々とこの後の方針を述べてゆく。


「とりあえず手に入れた魔物の皮に刻むか、道中の木や岩にマークを刻んで進みましょう。旨く行けばスキル〈地図〉や〈測量〉みたいなスキルも手に入るでしょうし」

「そう言えばスキルって何なんですか?」

「簡単に言えばできる事ですね」

「成る程」


 鑑定も出来たしこの説明だけで何となく分かった。


「それでどうやったらスキルは手に入るんですか?」

「それらしい行動をしていればその内手に入るそうです。後はあなたの〈鑑定〉や〈アイテムボックス〉のように転生時に与えるとかですね」

「じゃあ、その地図を作るスキルは今貰ったり出来ないんですか?」

「無理です。スキルを与えるにも元の世界でなければ女神本来の力は使えませんから。

 そうだ、ちょうど良いので一旦ステータスのチェックをしましょう。もしかしたら地上に出る手段が見つかるかも知れません」


 と言うことで、自分のステータスを鑑定してみる。

 するとアナウンスであったような項目が色々と出てきた。



 名前:イタル=ゴトウ

 称号:【勇者】【嫉妬の王】【全裸の勇者】【セントニコラの使徒】【セントニコラの代行者】【露出教名誉司教】

 職業ジョブ:〈異世界勇者Lv66〉〈勇者Lv0〉〈〉〈〉〈〉

 種族:異世界人

 年齢:16

 能力値アビリティ

 生命力 90000000/90000000

 魔力 900000/900000

 体力 900000/900000

 力 90000

 頑丈 900000

 俊敏 90000

 器用 90000

 知力 90000

 精神力 90000

 運 90000

 スキルポイント:310

 勇者武装:未登録

 討伐ポイント:10000

 魔法:〈全属性魔法Lv1〉

 加護:〈セントニコラの加護〉〈マリアンネの祝福〉

 固有スキル:〈リア充爆発Lv10〉〈不屈Lv3〉〈勇者直感Lv1〉

 大罪スキル:〈嫉妬Lv10〉

 スキル:〈鑑定Lv3〉〈アイテムボックスLv3〉〈高速走行Lv2〉〈再生Lv3〉〈全裸強化Lv5〉〈聖職者Lv1〉


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