第174話 リスキンド、やっと合流


 祐奈はラング准将から意外な事実を知らされることとなった。


 王都での祐奈の評判が回復したらしいのだ。


 これにはラング准将が手紙を書いて働きかけをしたり、ショーが改心して(!)『自分のとんでもない早とちりで、祐奈の悪評を広めてしまった』と証言したりして、『醜悪な聖女がセクハラをした』という誤解そのものが解けたらしい。


 そして王都に戻ったオズボーンは、(なぜか)ショーに意地悪しているらしく、『祐奈は死んでしまった』という初期の誤報を、そのまま彼に信じ込ませて、誤解が解けないように画策しているらしいのだ。これはオズボーンから(これまたなぜか)手紙が届き、知ることとなった内容である。


 ……一体オズボーンは何がしたいのか……と祐奈は呆れたものの、ショーに生きていることがバレたら『お詫びに伺いたい!』とか言い出しかねないし、本当に訪ねてきかねないので、それはそれでいいかという考えに落ち着いた。


 そして実は、リベカ教会のハリントン神父も、一周遅れくらいで、祐奈がとんでもない汚名を着せられていたと知ったらしく、怒り心頭で抗議してくれたということである。


 ……ありがとう、ハリントン神父……。


 あなたに親切にしてもらった恩は、忘れていないよ……。優しいおじいちゃんだったな……。また会いたいな。


 祐奈は神父のことを思い出し、懐かしい気持ちになった。


 ――と、そんなこんなで国から祐奈に対し、お詫びの意も込めて、平和勲章的な何かが贈られるらしい。別にそんなものはいらないのだけれど、祐奈としては、ラング准将と夫婦になってしまったことだし、彼の立場もあるので、冤罪が晴れたことは本当に良かったと考えていた。


 これで後ろ暗い思いもせず、彼のご両親にも会える。



***




 ある日、リスキンドがふらりと屋敷を訪れ、珍しく目を赤くして、再会を喜んでくれた。


 彼のあんな邪気のないピュアな笑顔は初めて見たかもしれない。


 けれど可愛げのあるリスキンドなど、真実のリスキンドではないので、ものの二分ほどで平常運転に戻った。


 ……カップラーメンができ上がるまでの時間すら、ピュアモードがもたないのか……と祐奈は感心してしまった。それから可笑しくなって、噴き出してしまった。


 祐奈は質問責めにされた。『ラング准将と結婚した心境は?』だとか『ラング准将の嫌いなところって何かないの?』だとか『そうはいってもそろそろ一つくらい、だめなところ、見つかったでしょ?』だとか『夫婦喧嘩って、もうした?』だとか『ビンタしたくなったことは本当にないの?』だとか……。


 そして祐奈からロクな情報を引き出せないとなると、嫌がらせの方法をちょっと変えてきた。


 ――噂で聞いたんだけど、ショーが記憶を頼りに、君の肖像画を自ら描き、寝室に飾っているらしいよ。それに毎夜、うっとりしながら『愛してる、祐奈』って囁きかけてからベッドに入るらしい。肖像画の中の君は、清楚でありながら露出高めの寝衣を纏っているらしいのだが、彼は夢の中でそれを脱がしているのだろうな。


 祐奈は『リスキンドはなんて絶妙に嫌な作り話をしてくるのだろうか』と眉根を寄せていた。


 ――そして肖像画のくだりを聞いてから、ラング准将がちょっと洒落にならないくらいご機嫌斜めになったものだから、リスキンドは子ウサギのように震え出し、そそくさと逃げ帰ることにしたようだ。


 去り際、『また来るよー』と言っていたので、しばらくティアニーに滞在するつもりではあるらしい。


 彼も今回の旅の報奨金を受け取っていないようで、『王都に戻る時は一緒に行くよ』と言っていた。


 そういえばルークは久しぶりにリスキンドと会ったわけだが、人見知りな性分でもないくせに、『初めて会う人間だな』感を醸し出していた。


 ルークは頭が良いので、あれはわざとかもしれない。リスキンドはこれに結構なショックを受けていた。


 リスキンドが「俺の泊まっている宿に来ないか? 相棒」と声をかけていたのだが、ルークはツンとして振り返りもしなかった。……実はルーク、ティアニーに置いてきぼりにされたことを、まだ恨みに思っているのかもしれなかった。


 あの状況ではルークなりの親切心で、カルメリータのそばに留まったようなのだが、リスキンドが行ってしまったことには、納得できていなかったのかも。


 リスキンドは女の子にフラれた時よりもしょんぼりしていたのだが、玄関口でカルメリータから、


「リスキンドさん。あなたに相応しいお土産です」


 と肖像画の話をした罰として『ジャッフェ鍋』を持たされ、散々なていで引き上げて行った。


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