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書影発表記念SS・武国ビーストバック。



 これは、プリムラ・フラワーロードが勇者になる前の物語。


「ここが武国ぶこくビーストバックか」


 大陸の半島に位置するその場所は、陸続きで唯一の国境を半ば閉鎖してる国であり、プリムラが聞いた噂によると「武」が何よりも尊ばれる場所であるとか。


 そして、島国では無いが半島である事から日本のような文化を築き上げた国であり、プリムラがどうしても訪れたかった国の一つである。


 そも、ほぼ鎖国しているにも関わらず入国出来るのか。その問題もやはり武国の性質に起因した風習を利用すると問題無く入れる。


 その風習とは────


「次!」


 ────もちろん「武」である。


 武国と隣国を隔てる国境には、闘技場を備えた関所がある。


 そこで門番と決闘し、勝てば入国出来る。武士もののふが何よりも尊ばれる国だからこそまかり通る滅茶苦茶。


 プリムラは、その制度を利用して入国するつもりだった。


 関所に並ぶのは腕利きの用心棒を連れた商人や、腕自慢の傭兵達。入国するにあたって、その一団の誰かが門番に勝てば入国が認められる。だから鎖国であり、完全に鎖国とは言えない状況なのだ。


 プリムラはその列に並び、今やっと順番が回ってきた所だった。


「若いな! しかし手加減などは望むな! 我らは常に全力である故に!」


「ああ、そりゃ良いな。俺が勝っても言い訳しないでくれるんだろ?」


「ふんっ! 強気もまた良し!」


 手続きをし、趣のある闘技場に連れられて武者鎧のような装備に身を包んだ門番と対峙したプリムラは内心でテンションが上がる。武者鎧なんて使ってる国なのだから、国に入ればきっと味噌汁や刺身なんかも楽しめるはずだと、気負いなくハルニレを抜く。


 審判役が手を挙げ、そして「はじめッ!」と気合のこもった宣言と共に振り下ろす。


 そうしてプリムラの武国観光が始まった。


 ◆


「…………思ったよりも強かったな」


 四頭引きの乗り合い牛車に揺られながら、入国審査という名の決闘を乗り越えたプリムラの感想がそれだった。


 武国は武を尊ぶ国故に、プリムラが得意とする毒はあまり歓迎されない。もちろん戦争などでは綺麗事など言えないのでむしろ推奨されるくらいだが、決闘という場に於いては毒の使用は悪手だ。


 まだブイズと出会う前のプリムラは剣術も拙く、そのままでは大きな魔法をぶっぱなす事でしか勝ちを拾えない。だがそこは元地球人のプリムラだ。技術で勝てないなら圧倒的なパワーでねじ伏せれば良いと、木製のパワードスーツを使って門番をぶっ飛ばして入国を果たす。


 門番も国の玄関を任されるだけあってかなりの手練で、プリムラの予想とは違ってかなり善戦された事に内心驚いている。


「世界って広いな。まさか技術だけで迫られるとは思ってなかったわ。…………武術も良いなぁ。どっかで学ぶか?」


 牛車の座席を見渡すと、閑散としている。


 まだ勇者では無いと言っても、プリムラはプリムラだ。そんな化け物に武術だけで迫るような門番を超えなければならない入国審査は、相応の難易度となってる。


 具体的に言うと、入国希望者ちょうせんしゃの勝率は一割以下。プリムラが牛車に乗るまで、前後合わせて三十組以上が挑戦したが、勝ったのはたったの三組だ。もちろんプリムラも合わせて。


 牛車の中には用心棒を連れた商人が一組と、単独で入国したらしい傭兵が一人。今は商人がその傭兵をその場でスカウトしてるところだった。


(なるほど、武国では商材の他に人材も見つかるってことか)


 ほぼ鎖国してる武国の品は、外へと持ち出せれば相当な金になる。それと同時に、武を尊ぶ国では腕利きの用心棒だって選り取りみどりなのだ。商人が高い金を出して腕利きを雇ってこの国へ来たがる理由の一端を、プリムラは理解した。


 傭兵へのスカウトが失敗に終わったのか、今度はプリムラの方へと擦り寄ってくる商人。プリムラは苦笑しながらキッパリと断る。


「どうしてもダメですか〜?」


「悪いね。俺は一応、勇者目指してるもんで」


「おお、それはそれは……!」


 相当な金額を提示されたが、プリムラにとっては魔物をちょっと狩れば稼げる金額でしか無い。そして目的もあるので、自由の身で居たかった。


 ともあれ、いくつかの宿場町を超えて数日。プリムラはやっと武国の首都、リワールドに到着した。


「ひゅぅ〜! マジで和風の国じゃん! テンション上がるわぁ〜!」


 瓦葺きの屋根が陽光を照り返す平屋の街並み。道行く人々が着る和装。そのどれもが前世に置いてきた遠い思い出。


 プリムラは早速、適当な茶屋に入って団子を食べてみた。雰囲気のある茶屋で出されるのはコッテコテの三色団子。プリムラのテンションはうなぎ登りだ。


「港もあるんだよな。刺身はそっちで食えるのか? 団子があるってことは、米は間違いなくあるはずだし」


 他にも、味噌や醤油も欲しい。味噌も醤油も植物性の調味料なので樹法で再現可能だが、加工された物なので実物が無いと術式に取り込めないのだ。


 果樹などは結局、どうあっても植物でしかないので問題無い。だが加工された調味料はその過程に樹法が干渉出来ない部分がどうしても出て来るのだ。そのため、プリムラは今後の活動でも食へ妥協しない為にどうしても味噌と醤油を手に入れたかった。


「武国、控えめに言って最高だな」


 そうして、プリムラは武国で数日を過ごす。その中で、出会ってしまう。


 最強のに。




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 書影記念SS。続きは発売記念で。

 どちらも合わせて一つのSSになります。


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