第15話 報告会2

 そのあと、あれこれと話し合った結果、茶々藤から次の拡張対応の話が行われた。


 ひとつは、街を増やしてプレイヤーの拠点を分散すること。

 これは少数精鋭のパーティーを好むプレイヤーと、単独でも楽しめるプレイヤーとで拠点を変えることができるようにするものだ。


 次に初心者のプレイヤーでもパーティーを組めるようにするため、NPCをメンバーに加えることができるようにすること。それとプレイヤーには、ある一定のレベルまでを条件としてNPCとのパーティーが解散する仕組みを作り、ゆくゆくはプレイヤー同士でパーティーを組めるように推進したいという。


 そこでプレイヤーとパーティーを組むことになるNPCの人数についてだが、何人くらいにするかで意見が分かれ、検証してから決めることになり、仮として最低2名までとすることが決まった。


 次に、皆からの自由意見として。

 始めに紺色の髪をした男性である犬養が、席を立ち上がり新たな意見を述べた。


「皆、どうせなら、NPCを大勢集めて徒党を組んだプレイをできるようにして、そのプレイ方法を選択したプレイヤーには『盗賊』の称号を与えて、GvGができるモードとか欲しくないでしょうか?」


 茶々藤が渋い表情を見せる。

「しかし、犬養くん。それをするとねぇ。このゲームの世界観とかと、違ったりしないかなぁ」


「茶々藤さん。シナリオ担当の僕から言いますけど、プレイヤーはメインシナリオについてはちゃんと楽しんでくれると思います。ですが、サブイベントとして、たまには違ったイベントでも楽しめるようにするのが良いかと思います」


「確かになぁ……」

 茶々藤が少し天井を見上げて考え込む。


 そこでマコ先生が、犬養を顔を見上げて質問した。

「犬養くん。それなら生産系のイベントを増やして畑を作るとか。羊を飼うとかでは、ダメでしょうか?」


 犬養は少し歩きながら皆にも聞こえるように説明する。

「マコさん。それも他のゲームではよく見ますよね。でも、こちらのゲーム環境を活かせて、色々なイベントが行えるのにもったいない感じがしませんか? それに僕としては最低でも4つ以上は変わったことが楽しめるようにしたいと思ってます」


「おいおい。犬養くん。4つもあるのかい?」

 茶々藤が驚いた。


「えぇ。まずは、プレイヤーが共闘することで団体行動を取ることが予想できます。前作では、剣を中心にしていたためプレイヤーは個々にプレイをしていましたが、新作では魔法のみに限定したことから戦闘はより近代戦へシフトしたことがデータでも分かります。そうなると……。プレイヤーたちが勢力を作りだして、GvGの要素が大きくなると思いませんか? さらにプレイヤーたちは、一緒にプレイする体験のほかにも、そのプレイを観戦する楽しさがあり、さらにはプレイヤーが所属するチームなどもブランド化していき、よりアカウント数を増やして行きたいと、僕は思いますが、皆さんはどうでしょうか?」


「犬養くん。大いに語ることは良いが、まずは――その戦略ゲームになるなら、他所でやってもらった方が良いよねぇ。それと、GvGまでならOKとしようかぁ」

 犬養の意見について、茶々藤が一部の案を認めた。


 GvG(ギルド対ギルド戦)をすると言うが……。そういえば、ベータテスト期間中に拠点が欲しいとプレイヤーから問い合わせがあった。


 僕も、その件ついてマコ先生から対象となるプレイヤーたちを監視するようにと言われていたが、連中はベータテスト中に本編のシナリオなど行なわず、仲間を募集していたことを確認している。その結果からして、多分、本番リリースでは自分たちのギルドを立ち上げることも予想できる。


 それはプレイヤーとして、新しいプレイスタイルを探す姿勢は良いのかも知れないが、行き過ぎた行為であれば、ゲームマスターとして対応が求められる。


 僕もちゃんとした対策を聞きたいところだったが、この話については、茶々藤から次の最終調整テストで検証すると意見があり、犬養が設定条件などの資料を用意することに決まった。


 それと……。犬養が提案したNPC徒党の盗賊団のアイディアは却下された。

 理由は、運営チームのカルロスとアンダーソンからNPCを雑に扱いすぎると意見があったからだ。


 また、現地ではNPCに混じり一部のリリィたちもプレイヤーやゲームキャラクターに扮して潜伏している。彼らも生贄となって戦うようなエキストラなどはしたくないということだ。


 しかし、どうしてもやりたいと思う犬養は、何点か理由を示すが、参加している皆の意見は思わしくない。そこで、長い黒髪の清楚な感じの印象を持つ女性の末吉が、犬養に質問した。


「犬養さん。考えていることは、大体予想できかも知れないですけど……。実際に実行できたとして、どこまでテストできるのでしょうか?」


「それ? だって、このゲーム環境はバグとかでないから、色々と試して見て無理なら中止でも良いんじゃないかなぁ」


 茶々藤も犬養に聞いた。

「犬養くん。そうはいうけどねぇ。別の問題はどうするんだい?」


 さらにマコ先生も犬養に聞いた。

「そうよ。もともとはゲームぽく、誤魔化さないといけない苦労があるを忘れていませんか?」


 僕の印象からして……。犬養はアイディアが豊富な人で色々と実験したいと考えている。しかし、マコ先生たちの方は、ひとつひとつをじっくりと検証して導入したいと考えている感じがした。


「犬養さん。このアイディアは、もう少し色々とシュミレーションしてからを活かそうとしませんか?」

「はい。分かりました」


 結局、末吉から提案を受けて犬養が素直に諦めところで、茶々藤が次の説明を始めた。


「――それと、僕からだけど。追加する街のひとつにダンジョンを設置したいと思うが皆はどうだろうか?」


 末吉からため息が漏れた。

「はぁ――……」


 僕も何となく言いたいことは分かる。末吉が担当するのは、アイテムとモンスターのキャラクターデザインである。これからダンジョンを用意するということは、地上と同じ数だけモンスターのデザインをしなければならない。


「そこでだ。街とダンジョンのデザインなどを高槻くんが行なって、マコちゃんが監修するってどうだろうか?」

「……ぼ、僕ですかぁ?」


「そうだ。高槻くんが早くノウハウを掴むにはそれくらいした方が良い」

 随分と厳しいようです。


「はい。それであれば、私は問題ないと思います。それに各デザインはゼロベースでないので、私が用意したコンセプトに合わせてもらえるなら助かります」

 と、末吉はいうが、僕は心の中で雄叫びを上げた。


 やってみたい気持ちが3割で、苦労しそうが6割、残り1割りは不安な気持ちだ!


 僕の表情を見て犬養が言う。

「まぁ。高槻くん。大変だけど。やってみれば?」


「マコちゃん。そこは、どうかなぁ……」

 と、茶々藤に促されて、マコ先生はこう言った。


「皆さんに協力を頼めるなら――監修は引き受けます」


 でも、これは僕が本番を担当するゲームマスターとして、試練ということなのか。

 それに現在サービス中のゲームの方は終了しているわけでなく、そちらは末吉が担当している。


 始めのころは、マコ先生が担当していたが、今は末吉に引継ぎを終えてマコ先生は補佐をすることになった。それに僕がいなかったため、もともとはマコ先生が、こちらの新作ゲームを担当することになっていたが、僕が現れたことで、マコ先生が2つのゲームで補佐をする立場に変わり、シナリオ担当の犬養の方は、どちらのゲームでもシナリオを担当する。


 よって、建築デザインが得意なマコ先生と、シナリオ担当の犬養が両方のゲームを見る体制が出来て、茶々藤は喜んでいる。


 そんなに人手不足で大丈夫だろうかと。僕も思うところだが『グリモア』を使用できるのは、僕を入れて、ここにいる5人しかいない。リリィたちは使用できない。


 だから、今後も僕のような人物が現れるのを待つか、それとも社長がどこからか採用するからによる感じで、それと細かい作業については、リリィたちが人海戦術で対応してくれるから負担は少ないようにも見える。


 だから、ようはやり方次第であると茶々藤は皆に言ったが、皆の反応はなかった。

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