第14話 報告会1

 それから数日後――

 ベータテストも無事に終わり、関係者が集まって報告会が開かれることになった。


 参加者は技術部長である茶々藤をはじめとして、ベータテスト責任者の阿比留坂。シナリオ担当の犬養。アイテムとキャラクターデザインを担当する末吉と運営チームの各リーダーであるサミーア、カルロス、アンダーソンの3人に最後は僕である。


 場所は僕が住む屋敷の会議室で行われ、報告会は紅茶と軽食を摘みながら和やかに始まる。

 最初に金色の長い髪を持つリリィの女性であるサミーアが席を立ち、ベータテストの総括を説明する。お手元の資料を見ながらサミーアの説明を聞くと。


 ベータテストに参加したプレイヤーは総勢3021人であり、そのうちイベントをすべて消化したプレイヤーが512名いる。すべてのボス戦を制覇したプレイヤーは214名で途中で退場したプレイヤーが151名だった。


 その他にも途中までプレイして終了したプレイヤーとか、初めからイベントなどせずに街の中だけで遊んでいたプレイヤーがいる。後者のプレイヤーたちは街での行動についてデータ収集に役立っていた。


 ――次に今回のベータテストでは、前作のゲームと異なる点として仕様条件が説明される。

 茶髪で髭の濃い男性のリリィであるアンダーソンが席から立ち上がり説明を始めた。


 ベータテストを行なった新作ゲームではプレイヤーの攻撃方法がすべて魔法だけを使用するという仕様になる。そのためプレイヤーはゲーム開始から始めに行なう行動として、触媒となる素材アイテムを集める必要があった。

 また、素材アイテムは少し高いが街で購入することもできるそうだ。


 プレイヤーは素材アイテムを入手してから魔道具屋に持ち込み調合したアイテムに変換してもらい、その変換したアイテムをゲーム上では『強化アイテム』と呼び、この強化アイテムはプレイヤーが装備する指輪や腕輪などにある『アイテムスロット』と呼ばれる項目のところにセットする。これによりプレイヤーは攻撃魔法の種類を増やすことができ、また多様な攻撃魔法が使用できる仕組みとなる。


 そして、今回のベータテストでは、この『強化アイテム』の仕様について、プレイヤーには好評だった。攻撃魔法の組合せがベータテストだけでは、すべてのパターンを試せないようにしてあることが、その要因だったようで変更点などはなく、正式に採用することが決まった。


 次に攻撃魔法の問題点として、茶々藤から報告があり皆が注目する。

 それは広範囲魔法の使い方について改善が必要だという。


 理由は、ほとんどのゲームであれば、味方の攻撃にプレイヤーは巻き込まれことはなく、ほぼ無敵だ。例えば、背後から銃弾を受けようがロケット弾を受けようが仲間と認識されたプレイヤーからはダメージを受けないのが当たり前なんだとか。


 しかし、こちらのゲーム環境では、プレイヤーが攻撃を行なった場合、範囲内にいるすべての対象プレイヤーは巻き込まれてしまう。そこでベータテストの仕様では、普通のゲームと同じように何らかの方法で偽装はしているというが、周辺への衝撃などの影響は発生していた。


 よって、今後リリース時に改善が求めれる内容として、落下物系の魔法を使う場合に限り、周囲に仲間のプレイヤーがいる場合は、失敗するようにと仕様を変更することが決まる。


 また、そうすることにより、これまで強引にプレイヤーを移動させる手間も減るというが、別の方法として落下した物体にプレイヤーが、のめり込む方法もあるので、そちらを採用してみてはどうかという意見もあった。

 しかし、リアリティーが低い印象を与えるため却下された。


 それに、今回のベータテストで問題になった理由としては、怪我をしたプレイヤーがいたからである。そのプレイヤーは落下物を回避しようとして、反射的に行動したがアバターが連動せず、デバイスとの通信が途切れて現実世界で、そのプレイヤーは怪我をした。


 そう、誰だって避けられるかもと無意識に反応してしまう。

 その行動が不幸にも運悪く怪我に繋がった。


 原因としては、デバイス側に問題があったのだが、こちらが責められることはない。

 だが、こちら側としても対策は必要であり、VRデバイスとゲームの連動性は長い年月を要して改善されていることから、双方の担当者エンジニアが連携して修正していかなければ、良いゲームにはならないと茶々藤はいう。


 それにVRデバイスが駄目だと他メーカーのデバイスに変えてゲームを継続するプレイヤーは少なく、ゲーム自体に問題があると思われてしまう。さらに言えば、ユーザーもデバイスが壊れた場合にスペアに変えてプレイを継続することが無いので、結果的にはゲーム自体を辞めてしまうケースがあり、そうなると、いかにVRデバイスの性能に合わせて激しいアクションをどこまで求めるのか、その境界線となる性能をどこまで引き上げ、どのように対策するかは。「日々の改善で進めるしかないのよ」と、マコ先生は言った。


 次にプレイヤーの行動パターンについて確認が行われた。新作ゲームのベータテストでは魔法を使うことを前提しているのでプレイヤーたちはパーティーを組むことが多く、それにパーティーを組んだ場合に限り、連携魔法と範囲魔法に拡張性があることをプレイヤーにも伝えている。


 これが原因だったのか分からないが、プレイヤーたちが集団行動を取ったことによりプレイ環境のフィールド全体で、予想よりも下級モンスターのリポップ不足が発生したため、状況に連動してリポップを変更する仕組みが必要になった。


 それとベータテストの結果から見て、今後はワイワイガヤガヤと楽しんでもらえるイベントを増やした方が良いのか。それとも少数精鋭で達成感あるプレイに特化した方が良いかなど、皆の意見が割れたのと。それにシングルプレイを好むプレイヤーは、どう楽しむべきかなど諸々と改善点の意見も複数あって、今後の課題として検証を進めることになった。

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