第33話 検証終了
「ハァ……、ハァ……、ハァ……」
僕は深く呼吸しながらテーブル上に滴り落ちる汗をじっと見つめていた。
アンダーソンたちが全力で戦った1体目の検証作業が終わり、結局、時間ぎりぎりのところで4セット目の攻撃が終わった。
しかし、メガドロラナトル改を倒したはずなのに爆発が起きた。
黒の砂漠は地面をえぐるように消滅して、アンダーソンたちがいた場所は、えぐれた大地に海水が津波のように流れ込み、今は海水が引いて僅かに浸かっている。
だが、僕はアンダーソンたちを無事に守り抜いていた。
それは、あるものを『グリモア』を使って作りだしていた。
僕はこの検証作業の始めにマコ先生が説明してくれたことが気になっていた。
現在、僕たちがいるこの区画エリアは通常の遮蔽空間より10倍分厚くしてある。
だったら、同じものを作ればよい。今、目の前にそれが見えるなら。
この世界にそれが存在するなら。そう、僕にだって作れるはずだ。
僕はアンダーソンたちがいる場所を囲むように『遮蔽空間』をドーム状に作り出した。
彼らを爆発から防いだことで、結果としてメガドロラナトル改から勝利している。
また、念のため僕とマコ先生がいる監視施設も『遮蔽空間』で覆っているが。
ここで、僕は初めて『グリモア』を使い、『遮蔽空間』を生み出すことに成功した。
これまでも何度か試して出来なかったが、あの『遮蔽空間』を。
僕は、なぜか出来るようになっていた。甘い思い込みが偶然にも現実のものになった奇跡だ。
「ミヤトくん。おめでとう! これでひとつレベルアップしたんだね」
「えッ!? マコ先生。それって、どういうことでしょうか?」
「いやぁ……。遮蔽空間ってね。茶々藤さんしか作れなかったのよ。ミヤトくんが本当にオリジナルの『グリモア』を持っているなら、きっと出来るだろうと少し試したんだよね……」
「えっ、えぇぇぇぇぇぇ――――っ! マコ先生。それなら、アンダーソンさんたちと関係ないんじゃないですか?」
「ミヤトくん。これもちょっとした試みだよ。フフフッ。これなら、この先はもっと強力な攻撃を検証できるね」
「……そ、そうなんですか?」
「そうだ! ミヤトくん。ちなみに黒の砂漠の修復もお願い。それにそろそろアンダーソンたちを出してあげないと怒られるからね!」
「うッ。分かりました。やっときます。マコ先生は、その間休憩していて下さい!」
最近のマコ先生は段々と無茶ぶりをしてくる。色々と変わったものを『グリモア』を使って作れるかどうか教えてもらっているが、もう少し順序というか、段階というか優しさがあってもいいような感じがする。
……これもゲームマスターとしての試練なんだろうか。
そのあと、海水を抜き取るまでの手順をマコ先生から教えてもらい、黒の砂漠を復元した。
アンダーソンたちには、酸欠にならないように『グリモア』を使って、『遮蔽空間』の中に、酸素を供給する魔法アイテムを設置して置いた。
しかし、アンダーソンたちは何が起こったのか、全然わからないうちに大爆発が起こり、海水が津波のように押し寄せる恐怖を体験したことになる。
始めからこういうアトラクションだと思えば、楽しめるかも知れないが、突然、起こると誰でもパニックになる。なるらしい……。それになぜがマコ先生ではなく、僕がアンダーソンたちに怒られた。「それを知っていたなら連絡は必要だ」と、散々愚痴を言われる。
そして、この状況から本日のボスキャラの検証作業は中止となった。さすがにアンダーソンたちも今回の検証作業には不満があるらしく、マコ先生と話し合ったうえで決まった。
次回に検証作業をする場合は「注意深く、確認事項を明確にして行なうことが大事だ」と、なぜか僕に言われる。そもそも、アンダーソンが、マコ先生の連絡内容を事前に確認しておかなかったのが悪いような気がするが、とんだとばっちりもらったような気がする。
そういう状況もあって、ここでまたひとつ、マコ先生の悪いところを見たような気がした。
そのあとは、マコ先生とアンダーソンたちに手伝ってもらい、試験区画がちゃんと復元できているか確認を行なう。後日、改めて今回の続きの検証作業を実施するが、それはアンダーソンたちだけで行なうそうだ。
そして、僕はマコ先生より先に屋敷に帰った。
屋敷の会議室に行くと。イベント準備の作業を続けていた犬養が僕に声を掛けた。
「よう。高槻くん。どうだった?」
「犬養さん。聞いて下さいよ」
僕はボスキャラの検証作業で起こったことを犬養に説明した。
その説明を聞いた犬養は、なぜか爆笑していた。
「クククッ。苦しい……。や、やっぱり、マコさんらしいや……」
「犬養さん。そんなに面白いですか?」
「いや、マコさんってさ。爆発マニアだからね。彼女はストレスが溜まると担当している建物とか地形をぶっ壊すような検証とかを試したくなるらしいんだ」
「えッ!? 犬養さん。それって以外と大変なことのような気がしますけど?」
「あぁ。それなら大丈夫さ。マコさんだったら安全面はしっかりしているからね。それにもともとプレイヤーは爆発だろうと、津波が来ても死ぬことはないし、高槻くんたちは監視施設の中にいたんだよね。だったら何の影響も無かったはずさ」
「犬養さん。そういうもの何でしょうか?」
「ここでは、たまにそういうことがあるっていうことだけさ。それと、高槻くん。おめでとう! これで遮蔽空間が作れるようになったんだよね」
「はい、偶然作れるようになりました。あとでちゃんと確認して見ます」
「まぁ。2つも同時に作れたなら、それはまぐれじゃないと思うけど。それと……。遮蔽空間が作れるようになったということは、これからマップの拡張が可能になったということだよね?」
「マップの拡張ですか? ここって、かなり大きいですけど……。島なんですよね」
「そうだね。島なんだけど、かなり広いよね。だが、高槻くん。飛び地で別のところに遮蔽空間が作れるんだよ。例えば、空の一部とか。別の島とか色々とね」
「そういうことをすると、この星にいる人たちに迷惑が掛からないですか?」
「まあ。そこは調査しだいになるかな? それに、この惑星以外の他の惑星にも作れるはずだよ」
「いえ、僕は、そこまではしたくないです。どちらかと言うと、ひっそりと暮らしたいと願っていますから」
「そうか。残念だなぁ……。高槻くん。あと、これからだけど。末吉さんに実験に誘われるかもしれないから、誘われたなるべく断った方がいいよ。彼女は高槻くんが遮蔽空間を作れることを知れば、きっと魔法の実験を色々と始めるだろうからさ」
「……そうですか。気を付けます」
僕は今日起こったことが良かったのか。それとも悪かったのか分らないような感じがしていた。
『グリモア』を使って、新しいものを作る出せるのことは、凄いことなんだろうけど。作りだせるもの自体が、何なのか分らないものだから実感が沸かない。
それに遮蔽空間そのものが、どういったことに活用できるのか、よく考え見ないと駄目かも知れないよな……。と、考えならが僕は会議室の天井を見つめた。
また、僕の知らないところでは、とんでもない歓喜に満ちていた。特にリリィたちの間では新たな救世主とさえ、喜んでいる者がいたことを……。
そう、このときの僕はまだ知らない。
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