第31話 テストすること
次に僕とマコ先生は管制室を訪れた。最近はサミーアが管制室の指揮を取ってくれているので、僕が常時張り付くことはない。
サミーアが僕とマコ先生の姿を見つけて、声を掛けた。
「お疲れ様です。マスターミヤト。マスターマコ」
「お疲れッ!! サミーア!」
「お疲れ様です。サミーアさん、お聞きしますが、現在の状況はどうですか?」
「はい。マスターミヤト。現在の監視状況では、プレイヤーのログイン数はそれほどありません。それもプレイヤー側の時間帯が、まだ午前中になりますので想定通りです。本日も予測通りなら午後からは忙しくなると思います」
「ありがとうございます。それと現時点で障害はありますか?」
「そちらも、ございません。とても正常です」
「分かりました。引き続き、よろしくお願いいたします」
「かしこまりました」
そのあと、僕とマコ先生は管制室の端の方に向かい、アンダーソンを見つけて声を掛けた。
「アンダーソンさん。お疲れ様です」
「いや。マコさん。坊ちゃんも、どうしました?」
「アンダーソン。事前に連絡を送ったけど。見たのかな?」
「あッ。いや……。今すぐに見ます!」
「いいえ、アンダーソンさん。見なくても大丈夫ですよ。もともと予定していた件ですから、それで今からテストをするのは、大丈夫でしょうか?」
「あぁ……。その件なら、すでに準備が終わっていますぜ! あとは地下にいるニコラス待ちです」
「そうですか。分かりました。僕たちは現地に移動しますね。アンダーソンさんは、どうしますか?」
「マコさん。俺も行った方が良いのか? ジェイコブとレアンデルがいれば、要らないよな?」
「体がなまっているなら参加してちょうだい!!」
「そうですか。分かりやした!」
アンダーソンは、机の上に乗せていた足を退かして、その場から立ち上がる。
「では、一緒に行きましょうか」
と、苦笑いして見せた。
僕とマコ先生はアンダーソンを連れて管制室をあとにする。エレベーターを使って屋敷に戻り、そこから外に出て屋敷の裏にある謎の洞窟へと向かった。
この洞窟は中が転移通路になっている。この先には非公開エリアがあり、そこはマコ先生がベータテストのときに、あまりの悔しさから作りだしたと言われる試験区画があるらしい……。
僕は洞窟を出ると……。
そこは、どこまでも広がる溶岩砂で覆われた黒い砂漠に目を奪われた。
ここはクエストイベントのひとつでもあるリベンジマッチを検証する場所。
かなり広く、どこまでも黒く平らな台地だけが続き、その先には黒い海がある。
マコ先生曰く、末吉も連れてきたかったが、彼女も別件で忙しいので代わりにアンダーソンを連れてきた。と、こっそり教えてくれた。
僕はマコ先生に聞いてみた。
「マコ先生。これからどうしますか?」
「それは決まってるじゃない! 戦闘モードの確認よ!!」
ということは、すべて準備が出来ている。よって、すぐにでもリベンジマッチで登場するボスキャラの戦闘状況が確認できるということだ。そうなると、誰がボスキャラを相手するかは、すでに決まっていた。
僕たちの到着を誰もいない黒い砂漠で待っていた2人になる。彼らはアンダーソンが率いるエキストラチームの中でもエース級のリリィたち。その容姿はスキンヘッドにガッチリとした体躯の男で名はジェイコブという。また、もうひとり。隣にいる青色の長髪に細身の男がレアンデルだ。
「ジェイコブ。レアンデル。こっちに来い!」
アンダーソンが2人を呼び寄せた。彼らはプレイヤーと同じ恰好をしている。
「さあ、マコさん。これからどうしますか?」
「少し待って、今から呼び出すから」
と、マコ先生は『グリモア』を取り出して詠唱を始めた。
すると、僕たちの目の前に現れたボスキャラとは、ドラゴンだった。
そいつは少し紫かかった鱗で覆われていて、全身がトゲだらけの姿をしている。
マコ先生を除いて、僕とアンダーソンたちは驚いた。
マコ先生が『グリモア』を片づけて、目の前にいるドラゴンを紹介した。
「始めに検証するのは、この『闘技竜メガドロラナトル改』になるわよ!」
「おい、おい。しょっぱなからコレかよ! 冗談きついぜ!!」
レアンデルが顔をしかめて愚痴る。
「オ、オレもそう思うぞ!」
ジェイコブも少し言葉を詰まらせて、そう言った。
アンダーソンがマコ先生の方を見て、ドラゴンを指差しながら聞いてみる。
「あの……。マコさん。オレも参加するんだけどさぁ。本当に、これなのか?」
すると。マコ先生は腰に手を当てて言い放つ。
「そうよ。さあ! アンダーソン! あなたも戦いなさい!! それに最初は設定どおり動いてもらうからね!」
レアンデルが呆れた表情を見せ肩をすくめる。
「マジで……。あれとやんの?」
マコ先生は、アンダーソンに言った。
「それに失敗したら何回でもやり直しさせます。だから、誤って死んでもいいようにアンダーソンもアバターにチェンジしてね!」
僕はマコ先生の言葉を聞いて驚いた。
「えッ!? そうなんですか? ジェイコブさんもレアンデルさんも素のままだと思ってました!」
アンダーソンが笑いそうな表情を見せ、僕に教えてくれた。
「おいおい。坊ちゃん。こいつらが日ごろからこんなヤバそうなかっこしているわけがないだろ。それに素のまま、アレと戦えば、マジで死ぬぜ!」
「それもそうですよねぇ……。失礼しました!」
「では、ミヤトくん。私たちは監視施設から様子を見ましょう!」
僕はマコ先生に続いて、崖の近くにひとつだけあるコンクリート施設に向かった。
これから核実験場さながらの準備が始まるのだろうかと、思わせる施設の建物。
そのあと、アンダーソンがアバターの姿になって戻ってくるのを皆で待ちながら、僕は監視施設にあるディスプレイから、ジェイコブたちの様子を覗いていた。
そこにアンダーソンが現れた。
だが、その恰好がかなり変わっているのを見て、僕はマコ先生に聞いてみる。
「マコ先生。なんか、アンダーソンさんって、アバターとしてやっちゃいけないような姿をしてませんかね」
アンダーソンの姿は、上半身が真っ裸で短パンだけ履いている。
「ふッ。どうせ、やられるだけだし、きっと、ニコラスにでも気を使ったのよ。装備が壊れると怒られるからね」
「そうなんですね。なんとなく分かりました」
施設の外では『闘技竜メガドロラナトル改』と対峙するアンダーソンたちの準備が整ったようで、その状況をディスプレイ映像で見ていたマコ先生は、監視施設にある放送マイクを使って、屋外に聞こえるように声を発した。
『では、ドカーン! っと、行ってみようぉ――っ!!』
「マコ先生、その、ドカーンですか?」
「そうよ。アンダーソンたちには、始めから最大火力でテストしてもらうからね。私が用意した『闘技竜メガドロラナトル改』なら、きっと彼らの攻撃に耐えて見せるはず」
一方、何もないただっぴろい黒の砂漠の場所では、ドラゴンこと『闘技竜メガドロラナトル改』と対峙するアンダーソンたちがいる。
「……だってさ」
レアンデルが不貞腐れたようにジェイコブにいう。
「ふむ。マスターマコは、俺たちがレベルアップした姿を見ていないようだな」
ジェイコブは自身溢れたような笑みを見せた。
少し呆れていた様子のアンダーソンは、うしろの方から人に声を掛けた。
「――おいおい、気をつけろよ! あれでもリベンジマッチ用のボスキャラになるらしいからな。それにちゃんと戦わないとやり直しになるぞ!」
「レアンデル。そうらしいぜ!」
「マジかよ!? ジェイコブ!」
レアンデルが驚いてジェイコブの方を見る。
隣にいるジェイコブの方は、静かにうなずく。
アンダーソンが声を掛けた。
「2人とも、これから10体ほど、相手にするからな。気を抜くなよ!」
「やっぱり引き受けるんじゃなかったぜ。アンダーソンさんよぉ……」
と、レアンデルはつぶやきながら、天を仰ぐ。
アンダーソンが呆れて、レアンデルに文句を言った。
「たくッ! お前が、やれなくて誰がするんだよ!!」
そこでジェイコブが、何かを思い出したかのようにレアンデルに話しかけた。
「そういえば、レアンデル。GvGのところにいるNPC連中どうした?」
「あぁ……。連中か。それなら最近、プレイヤー集団に負けているらしいぜ!」
「そうか。だったら、アレと戦わせた方がいいんじゃないのか?」
「それが駄目なんだとさ。何でもカルロスの命令以外は聞かないらしいぜ!」
「レアンデル。何があった?」
「それが、何でも、例のお貴族さま連中のところで嫌な記憶を植え付けられたらしいとかだな。他の連中が近づくと拒絶するとかという噂だ」
「ゲッ。何か使えねぇ――連中になっちまったなぁ……」
「おい、2人とも、そろそろヤるぞ!! じゃないとマコさんに怒られちまう!」
「「へーい!」」
ジェイコブが拳を手のひらに押し当てながら得意げに前に出て行く。
「では、俺が始めに盾になる。2人は詠唱を頼むぜ!!」
「分かった。ジェイコブ。任せろ!」
「よろしくな。ジェイコブ」
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