第30話 不思議な部屋

 末吉に案内してもらい奥の部屋へと向かう。そこは「アイテムクリエイティブルーム」と命名された部屋で、以前ダンジョンを作成したときに使用した部屋とは別になる。


 この部屋は摩訶不思議な代物が雑多に陳列していて、左の壁際には干からびた鳥の死骸や角のある頭蓋骨などがぶら下がっていた。また、反対側の方には、ガラス扉がついた展示棚が並び、そこには何か生物のようなものが入った瓶が置かれている。


 さらに奥の部屋へと進む。左右の壁に棚があり様々な石や岩が並んでいた。この部屋は通路として使われているようで、末吉は僕を連れて、その先にある少し広い部屋へと移動した。


 そこは作業場のような部屋になっている。また、部屋のいたるところには色彩豊かな縞模様の変わった岩が並んでいた。


「……なんか変わった部屋ですよね」

 僕がつぶやくと、隣にいた末吉が声を掛けた。


「高槻くん。この部屋は私が作業に使っている作業場になるけど。この部屋に置かれている岩はすべて『魔岩石』と呼ばれるものになるのよ」


 末吉の説明によれば、『魔岩石』とは、大気中の魔素が土壌に侵食し積層化した古い地層から採取した鉱物になる。


「ところで、高槻くん。今回見学してもらう工程だけど。この『魔岩石』を加工から『アイテムコア』を作るところまでなるけど。それで、いいかな?」


「末吉さん。その、『アイテムコア』って、こちらの世界に実在するものなら『グリモア』を使って作れませんか?」


「高槻くん。それが残念なことに『グリモア』では『アイテムコア』を作るのことができなかったのよ。色々と実験してみたけど、無理でしたね」

「……そうなんですね。では、よろしくお願いします」


 また末吉が言うには『アイテムコア』には様々な種類があり、魔力の弱いものなら量産できると少しは作業的にも楽になるかも知れないが、そのあとの工程となる魔法アイテムを作る作業で、プレイヤーのレベルに合わせて微調整が必要になり、結局のところ大量に作れても無駄になる。また、魔力の高い『アイテムコア』を作る場合、すべて特注品になるそうだ。


「それとね。高槻くん。完成品である魔法アイテムは、こちらの世界にも存在するけど。ゲームで使用する場合、能力的に劣るので使えないのよ。だから、新しくゲーム用に作ってから『グリモア』に登録することになるわ」


「へぇ――。そうなんですね。末吉さんは何でも知ってますよね」

「あら? そうかしら……。それならマコさんの方が、私より長く関わっているから詳しいはずよ」


 僕は末吉から先に完成した『アイテムコア』を見せてもらい、そのあと『アイテムコア』の作成について説明を受けながら作業を始める。


 最初に拳くらいの大きさがある魔岩石をひとつ用意する。それを麻布で包みハンマーを使って布の上から破けないように注意しながら叩いて中の魔岩石を砕く。


 次にあらかじめ用意していた特殊な鍋を使用して、さきほど砕いた魔岩石の粉末を高温で煮込む。すると『魔岩汁』と呼ばれる液体へと変わり、ここで『魔岩汁』をある溶液などで薄めることで『魔岩水』と呼ばれる液体になる。


 だが、ここでは属性が異なる『魔岩汁』を加えて配合する。その属性とは、四元素である火・風・水・土に加え、闇・聖などがあり、魔素が土壌に侵食する段階で不純物を取り込むことで出来るのではという。


 また、配合が終わると『魔岩汁』は、染料液のような見た目の『魔力溶液』と呼ばれる液体に変わり、ここに『魔力溶液』を吸い込む方珪石クリストバライトの塊を浸けると、方珪石クリストバライトの塊は、浸漬しんし時間によって、魔力の特性が変るそうだ。


 こうして、最後に出来上がったものを見れば、方珪石クリストバライトの塊は凝縮して、碧玉へきぎょくと呼ばれる少し小さな石に変り、これを最後に形を整えるため研磨することで、貴石として装飾品にも利用できる『魔力石』と呼ばれるものになる。


 ちなみに末吉の話によれば、この世界にある大陸の方では身分が高い人ほど、強力な魔力を持つ『魔力石』を身に着けているそうだ。


 次に、この『魔力石』に特殊な加工をほどこすと、最終的に『アイテムコア』と呼ばれるものに変わり、これは魔法アイテムとの相互性を高めるために必要な刻印をいれているが、この加工方法が、こちらの世界では失われた技術になるらしい。


「――凄いです!! 末吉さんは博識な人なんですね!」


「フフッ。いいえ。この作り方については、マコさんが今は亡きリリィの大婆様から教えてもらったそうですよ。私でもこればかりは無理です。それに、こちらの世界の魔術について研究すると時間がいくらあっても足りませんし、それに私も今はアイテム製作担当になっているので、説明しましたが、本当なら私よりもマコさんの方がもっと詳しいはずです」


「そうなんですか?」

「そうですよ。……高槻くん。そろそろ実技はここまでにして、マコさんが帰ってくるころだと思います」


「あ、はい。末吉さん。今日は教えて頂きまして、ありがとうございます!」

「どういたしまして、近々アイテム担当も高槻くんに引き継げるようになると、私としても助かりますね」

「分かりました。そのときは努力します」


 タイミングを見計らったかのようにマコ先生が戻って来た。

「どう? 終わったの?」


「はい。マコさん。私からの説明については、ひと通り終わりました」

 と、末吉がマコ先生にいう。


「僕も末吉さんから教えてもらい、魔法アイテムに必要な『アイテムコア』が、こんな風に作っていたなんて、少し驚きでしかないです」


「そうそう、それは良かったね。それじゃ。ミヤトくん。管制室に向かうわよ!」

 部屋から再び出て行こうしたマコ先生を末吉が呼び止める。


「……マコさん。ちょっと、お聞きして良いですか?」

「知那美ちゃん。何か困ったことでもあるの?」

 マコ先生は振り向いて首をかしげた。


「いいえ。こちらは大丈夫です。今、マコさんが、ニコラスさんに会って来たということは、これからテストに入りますか?」

「そうよ。そのために調整を終えてきたから、向こうにも用意してもらうようにお願いしてきたわ」


「では、こちらもアイテムの配置を始めた方がよろしいでしょうか?」

「今日は要らないから大丈夫だね。知那美ちゃんの方は予定通りでお願いします」

「分かりました。ちゃんと予定に合わせて準備します」


「よろしくね。では、ミヤトくん。行こうか!」

「はい。末吉さん。本日はありがとうございます。大変勉強になりました」


 僕は去り際に末吉に深くお辞儀する。

「うん。高槻くんも頑張ってね」

 と、末吉は笑顔で手を振って見送った。


 そのあと、僕とはマコ先生は「アイテムクリエイティブルーム」を離れて、エレベーターに乗った。

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