第29話 クエストイベントの準備
今週行われた定例会議のあと、僕は犬養と一緒に屋敷にある会議室で追加イベントの準備をしていた。
「犬養さん。少しは休憩したらどうですか?」
「高槻くん。僕は徹夜が続いているけど、高槻くんがこうして手伝ってくれるなら大丈夫さ」
「ですが、中々、お互いにいいアイデアが出ていないと思いますけど……」
「まあ、茶々藤さんから言われた宿題だし、イベントの数には問題がないからあとは、設定をどうするかだよね」
「そうですね」
ちなみに、この追加イベントでは、ルーレット式のサブクエストを採用している。ひとつはミニゲームぽいものを用意して、パズルゲーム系とタイムアタックなどの競技系などをプレイしてもらう予定だ。その他にはマコ先生と末吉の方で準備を進めているボス戦を追加する。こちらは過去に倒したボスキャラを少し強化して、プレイヤーとのリベンジマッチを行なう。
ところで、サブクエストで行われるミニゲームだが、ゲームの中といえど、こちらの世界が現実世界ということもあり、それを利点として用意している。例えば、球技大会でありそうなポートボールとか、キンボール、スリーバイスリー、セパタクロー、ビーチバレー、バトミントンなどで実技としては他社がゲームとして作りたがらない競技になる。
また、少人数でプレイできるものであれば、輪投げ、的当て、ボウリング、トランプゲーム、オセロ、チェス、2階から目薬などが思いつく。さらに陸上競技もので言えば、100m走から始まり、円盤投げ、砲丸投げ、やり投げ、などの放てき競技でなく、投てき競技ものがあり、少し変わったものとして、射撃やスタンドアップパドルボードやエクストリームスポーツなども予定している。
これらを実際にプレイするプレイヤーから見ると、何となく、つまらなそうに感じるかも知れないが、しかし、これがクエストイベントであれば、真剣に取り組むと思う。それに一定の条件をクリアーするだけで簡単に特殊アイテムを入手できると知れば、きっと頑張ってくれるだ。
と、僕は、そう願いたい。
とはいえ、通常のゲームではこれほどゲームの本編からズレたミニゲームはない。
また、数だけなら無駄な機能をゲームに追加していると思われるかも知れない。
だが、プレイヤーもルーレット方式で選択するイベントなら、息抜き的なゲームの方がルールも簡単だし、どんなプレイヤーでも参加できるので喜んでもらえるはずだ。
僕がテーブルの上に置かれた資料と自分のメモを見ながら悩んでいると、マコ先生が会議室に、ふらりと現れた。
「お疲れッ! ミヤトくん。犬養くん。どう? 順調にできた?」
「あ、マコ先生。お疲れ様です」
「マコさん。来たかぁ!」
どうやら、マコ先生は僕たちの作業状況を見に来た感じだ。
マコ先生はテーブルの上に置かれいる資料を眺めながら一周する。
すると、ある資料が置かれた場所に移動して立ち止まり、その資料を手にして、こう言った。
「なんか、この内容って、会社の
マコ先生が見ている資料は、ミニゲームの概要が書かれた一覧表になる。
犬養がマコ先生の言葉を聞いて、ぼそぼそと解説を始めた。
「レクリエーション……。あぁ……。それは終戦と共に人生を楽しく、さらに創造的にという名目として、占領下の人々に押し付けられた娯楽であり……」
「犬養くん。そういうのいらないから! あと、余計な説明も不要で!!」
「あ、そう」
犬養は、つまらなそうな顔をした。
その様子を見ていた僕は、犬養に聞いてみる。
「……犬養さんも、お疲れのようですね。残りは僕のほうで何かできることはありますか?」
犬養は右手で頭を掻きながら言った。
「そうだね……。高槻くん。マコさんが来たから、2人でクエストイベントのテストについて、アンダーソンと相談してくれないかな?」
「マコ先生。どうしますか?」
僕はマコ先生に聞いてみた。
すると、マコ先生はテーブルに資料を戻して、少し笑みを見せて犬養にいう。
「はい。そのつもりで会議室に来てますけど。犬養くん。こっちも調整でなく、テストに入るけど、いいよね?」
犬養は慌てて自分の手帳を開いてスケジュールを確認する。
「あっ。あれ!? 今日って、リベンジマッチのテストする日だった?」
「そうよ。知那美ちゃんから連絡が入っていたわ」
マコ先生はしたり顔を見せる。
「あちゃ――っ。マコさん。とりあえず、僕の方は今のところ予定通りに進んでいるから、マコさんの方で高槻くんを連れて、テストに入ってもらって大丈夫だよ」
「そうね。では、犬養くんが、ちゃんと仕事してくれらしいので、ミヤトくん! 私と一緒に地下に行きましょうか」
「は、はい。分かりました。犬養さん。残りの作業について、よろしくお願いしますね。それと犬養さんも少しは休憩を取って下さいね」
「あぁ……。高槻くん。それほど心配しなくてもいいさ。適当に休憩するから問題ないよ。そうだ。アンダーソンたちに会ったら意見を聞いてきてくれると助かるよ」
「はい。聞いてきます」
「それとは別に、マコさんもミニゲームの一覧表を見たなら、そこからさらにどうやったら楽しくなるかアイディアをもらえると助かるねぇ……」
と言って、犬養はマコ先生に視線を向ける。
マコ先生は少し吐息してから、こう言った。
「確かに、あれだけだと。クエストとして何がしたいか分らないよね」
犬養は、苦笑いしながらマコ先生が見ていた資料を手に取り確認する。
「まぁ……。高槻くんに用意してもらった資料だし。書いている内容を見ると、少しサブクエストの説明が足りないかな?」
そう言われると、僕としても悩みどころである。ミニゲームの解説だが、このゲームに合わせた内容にしていなかったところが駄目だったのか、そのまま競技の説明を書いたことが悪かったか。自分でも、いたたまれない気持ちになる。
「それに、この資料についてだけど。僕の方でも少し説明内容を見直してみるよ」
「その方が良いわね。では、ミヤトくん!!」
「はい!」
僕はマコ先生と一緒に地下に行くため会議室を後にした。エレベーターがある場所へと向かう。途中、廊下を歩いているとマコ先生が僕に声を掛けた。
「ミヤトくん。管制室に行く前に知那美ちゃんの様子を見に行こう!」
「あれ? 末吉さんって、今日はこっちに来てるんですか?」
「確か……。スケジュール表では、来ていることになってたけど?」
「そうですか。分かりました!」
「それに予定では、クエストイベントのボスキャラが完成していころだねぇ」
「そういえば……。マコ先生。聞きますけど、マコ先生はモンスターデザインとかしないんですか?」
「……普通にするけど? まあ、それでも知那美ちゃんの方が得意だから、ほとんど任せっきりになってるね。それに知那美ちゃんは、ゲームの世界観とか色々とバランス調整とかもしてくれるから、私がいまさらだけど。これから準備すると他のモンスターのデザインとかと合わないから大変なのよねぇ……」
「確かに、そう言われてみると……。末吉さんが作り出すあの独特のモンスターデザインは人気がありますよね。僕も凄いと思います」
そのあと僕とマコ先生はエレベーターに乗って、地下50階に到着する。
この地下フロアに立ち入ると、前まではスカスカだった倉庫もそれなりに物が増えていて、宝箱として使用する予備の空き箱とか、プレイヤーが装備する衣装などが置かれている。
仮にここがいっぱいになっても、いくらでも拡張できるので倉庫が不足することはないが、さらに地下に行けば、もっと物は増える。それらを一括管理しているリリィの担当者もいるらしいが、僕は会ったことはない。いずれプレイヤーのアイテムを担当するようになれば、紹介してもらえると思う。
さらに奥にあるエレベーターで地下に移動する。キャットウォークの上を歩いて末吉がいる作業部屋に到着した。
「あれ? マコさん。高槻くん」
「知那美ちゃん。お疲れッ!!」
「末吉さん。お疲れ様です」
「うん、2人ともお疲れさま。ところで、何かありました?」
「知那美ちゃん。作業状況を見に来ました。あと、少しミヤトくんにも説明してちょうだい」
「あ……。そうでしたね。マコさん。クエストイベントで使用するモンスターについてですよね」
「そうそう。準備の方はできたの?」
「はい、予定のしていた分のモンスターについては、それほど時間が掛からなかったので。確か……。今日からカルロスさんのところでテストするとか言ってました」
「あ、忘れていた。そうだったよ。知那美ちゃん。それならどうしようかなぁ……」
「マコさん。それなら今作業しているアイテム作成について説明しましょうか?」
「そうね。ミヤトくんには、アイテムの方をお願いします。知那美ちゃんからクエストイベントでドロップするアイテムについて軽く教えてもらってね。それと、知那美ちゃん。ニコラスって下にいるの?」
「はい。ニコラスさんならアバタールームにいると思いますよ」
「分かった。ミヤトくん。ちょっと私は下に行ってくるから、それまで知那美ちゃんのところでお願いします」
「はい。分かりました。末吉さん。よろしくお願いします!」
マコ先生が僕を置いて別の部屋と去って行った。
「では、高槻くん。アイテム作成について説明するけど。アイテムと言っても色々と種類が多いので、今作業している『アイテムコア』について簡単に説明するわね」
『アイテムコア』とは、魔法アイテムに必要な触媒となり、主に装備品などに装飾して使用する。この世界にある魔法スクロールと同じような感じで魔法を利用できるが使用回数については魔法スクロールとは違い、ほぼ無限に利用できるそうだ。
僕は『アイテムコア』を実際に見たことがないので、どんなものかとワクワクしながら末吉の後に続いた。
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