第28話 定例会議
僕が暮らしている屋敷の会議室では、『ザベス 魔導の波動』のサービスの開始後に週に1回のペースで定例会議が行われている。
会議室では茶々藤がテーブルの上座に座り、参加したメンバーの顔をゆっくりと見渡してから、こう言った。
「では、始めようか」
「「「はい」」」
定例会議の報告では、いつものように新規アカウント数から始まり、次に退会したアカウント数と、日別の利用者数などの説明がある。そのあとは不具合の発生件数と不正行為の件数など、そして問題を起こしたプレイヤーの事例などがあった。
僕も常に定例会議に参加しているので、始めのころよりは緊張感もなくなり、だいぶ慣れてきたと思う。それにサービスが開始してから発生する問題に対して、僕も常に起こるものとして捉えられるようになり少しは余裕ができた。
それに、すべてを完璧にすることを求めて逆にサービスを疎かにするよりも、発生したら都度、改善し続けることが大事だと、周りの雰囲気から教えられたことが大きい。但し、予想される問題点については、早めに皆で議論して対策することが大事だ。
そんな感じで……。毎週定例会議に参加している僕だが。最近、少し気になっていることがある。それはプレイヤーのメインシナリオの消化状況について完了しつつあることだ。
また、プレイヤーの中には、来月でメインシナリオをクリアする者が現れる。
そこで何らかの対策が必要になり、僕は定例会議に参加したメンバーたちに意見を求めた。
「皆さん。現在のプレイヤーたちの攻略状況からみて何か対策は必要でしょうか?」
末吉が始めに手を上げて意見を述べた。
「それなら、高槻くん。少し手間だけど。サブシナリオを追加しておくのはどうでしょう。アップデート告知が無くても対応できるかと思います」
マコ先生が末吉の意見に賛成した。
「そうね。そこにプレイヤーたちが食いついてくれると、多少は時間が稼げそうね」
「それだったら、もっとレアアイテムとか増やした方が簡単で良いのでは?」
と、犬養が言ったが、末吉が対応が難しいことを説明する。
「ここで、さらにレアアイテムを投入すると、ゲームバランスの調整が難しくなります。それに後半の方になれば、プレイヤーは能力増強などのレアアイテムを持っている方が、プレイにおいて優位性が高くなるため良くないと思います」
「うん。そうなると……。プレイヤーがレアアイテムを持っていないと倒せないモンスターを追加するとかは、どうでしょう?」
と、犬養が少し言葉を詰まらせた。
そこにマコ先生が、犬養に聞いてみる。
「犬養くん。いまさらだけど、特殊モンスターを追加したりしても、メインシナリオと関係ないから素通りしたりしないかな?」
「犬養さん。僕もマコ先生の意見の賛成します。後半のシナリオをプレイしているプレイヤーになると、報告資料の集計結果では、多くのプレイヤーはサブシナリオに手を出していない感じですよね」
「やっぱり、そうよね」
「あらあら、どうしましょうか」
マコ先生と末吉がニヤリと笑う。
少し「ムッ」とした表情の犬養は、この2人に聞いてみた。
「あの……。何か僕に追加コンテンツを用意しろと念じていませんか?」
「いえ、気のせいよ」
「そうそう、気のせいです」
犬養が、いつものように責められそうになっている。
ここは嫌な方向に話が展開しないように、僕は先に自分の意見を述べた。
「あ、あの……。僕の聞き方が駄目でした。始めに僕から提案しますが、プレイヤーが単独でメインシナリオを消化しているように思えます。出来れば、ここは少しプレイヤー同士で協力するような追加イベントを投入できないでしょうか?」
「そうかッ。ナイスだ! 高槻くん。それならすぐに用意できる」
犬養は僕にサムズアップして見せた。
「ミヤトくん。私もその意見には賛成するわ」
と、マコ先生も言う。ここで茶々藤が僕に質問する。
「高槻くん。それで何か思い当たるイベントとかあるのかい?」
「茶々藤さん。具体的には、イメージ出来ていませんが……。何かプレイヤーが修行などができるような、イベントとかないでしょうか?」
マコ先生が首をかしげた。
「それって、道場とか?」
末吉も人差し指を顎に当てながらつぶやく。
「後半のシナリオでPvPとか必要なの?」
「いえ、さすがに、PvPをシナリオに組み込むと、シングルプレイヤーには無理があります」
僕が答えると、茶々藤がさらに質問する。
「なら、高槻くん。どんな感じかな?」
「そうですね。僕がイメージしている感じだと……。以前に犬養さんが提案した盗賊アジトのアイディアを使って、何か別のイベントができたりしないでしょうか?」
マコ先生がつぶやく。
「盗賊アジトねぇ……」
犬養が僕の意見に補足する。
「――そうだね。僕が、考えていたアイディアだと、プレイヤー集団がカチコミを仕掛けてアイテムを根こそぎ略奪するネタだったけど……。今となれば、プレイヤーには遺恨を残すことになっただろうね。それで、高槻くんは、そんな感じのイベントにするのかい?」
「いえ、そこまでプレイヤーたちが争うような戦いはさせたくありません。もっと、こう軽い感じで……。た、例えばですけど。冒険者ギルドから緊急イベントとして他のプレイヤーと一緒に大規模討伐とかどうでしょうか?」
僕の意見に皆が揃って難しい顔をした。
「あれねぇ……」
「うん、それかぁ……」
「大変なのよね……」
僕は恐る恐る聞いてみる。
「皆さん。何かありますか?」
「ミヤトくん。そのイベントをすると後が大変なのよ。参加賞のアイテムがしょぼいと、次から参加者が減るし、それにイベント妨害するプレイヤーの集団が現れたりするからね」
「……妨害するプレイヤーですか?」
「そうそう、いるんですよ」
と、末吉も言う。
「マコ先生。それって、運営側に対する迷惑行為になるのでは?」
「ミヤトくん。それが、連中の手口が結構巧妙でね。手始めに参加者を減らしたり、次にイベント途中で辞退して失敗させたり。そう、確か、あれもあったかな? 時間切れを狙ったイベント失敗とか。そんな感じでね。ひねくれ者が多く参加して見事にぶち壊してくれるのよ」
「……マ、マコ先生。そんなことするんですか?」
「ミヤトくん。するんだよ!」
「高槻くん。だから安易にプレイヤーを集めるだけのイベントは危険だってことさ」
「犬養さん。それなら、どうしたらいいんですか?」
「そうだねぇ……。最近の傾向だと。ひとつのイベントに大勢のプレイヤーを集めるのは避けて、コンテンツルーレットぽい方がリスクは少ないかな? 参加しているプレイヤー数が少ないと妨害行為が発生した場合に被害者となるプレイヤーから報告が上がりやすいし、それにプレイヤー間のコミュニティなどで加害者のプレイヤーはすぐに指名手配になるから加害者側もリスクが高くなるので実行しようとしなくなる」
さらっと、難しいことを言ってくれる。何それ?
「そうよね。どちらかと言えば、そっちの方が親切を装ってウザいプレイヤーがいた場合でも、すぐに通報が上がるわね」
「末吉さん。そうなんですか? その親切を装って、何か迷惑なことをするプレイヤーがいるんですか?」
「高槻くん。どこのゲームでもそうなんだけど。オンラインゲームサービスで衰退期を迎えると、そんなことをして遊ぶプレイヤーが多くなるのよ。さらに、そのころになると、特に駆け出しのプレイヤーを
僕は驚いた。サービスを開始したばかりなのにそんな状態なのか?
それに、そんなことをするプレイヤーたちって暇だったりするのか?
「ミヤトくん。だからね。そうならないためにも追加で何かイベントを用意しないと行けないんだけど、単にワンパターンなシリーズものになると飽きられるのよねぇ」
と、マコ先生の言葉で、話は最初に戻る。
そこで茶々藤が席から立ち上がり、こう言った。
「では、皆、ここでだ。後半シナリオの途中に何か追加イベントを加えるとして、出来れば、ルーレット式のシナリオ用意して、プレイヤーのアイテム強化を行なう。但し、しなくてもメインのシナリオには影響が出ないようにすること。できれば、追加イベントをすることで多少は楽になるようなアイテムが入手できるようにしたいな。それにアイディアはちゃんとまとめてリリースできるように準備できるよね。また今から始めれば、メインシナリオが終了する前に用意できるだろうし、皆は、こんな感じで良いかな?」
最後は、ちゃんと茶々藤が意見をまとめる。皆には宿題を出している。
こんな雰囲気で定例会議の最後に行われるアイディア交換は自由にアイディアを出し合って、トライアンドエラーでイベントを追加する。
プレイヤーからは賛否両論があるけど。ベリタスオンラインゲームズらしく、状況に合わせてブラッシュアップしていく姿勢が大事なんだと、僕は思う。
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