第24話 プレイヤー《日葵の視点》

 ――ついにこの日を迎えた。「ヒャッフゥ――――ッ♪」


 私、奈津野なつの 日葵ひまりは、喜びをインディアンダンスで表現する女。

 リオデジャネイロは超えていない。


 そう、ベリタスオンラインゲームズが満を持して世界に放つ。

 新作VRMMORPG『ザベス 魔導の波動』のサービスが開始する日。


 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチっ!!


 ……さてと、まずは落ち着こう。深呼吸だ!

「ふうぅ――――……」


 でも。そう、待ちに待ったこの日が来た。

 本日は金曜日ということもあり、明日から土日祝日と3連休を迎え、ガッツリと遊べる。


 但し、3日間飲まず食わずで遊ぶ訳でない。睡眠時間を除く、すべての時間を『ザベス』で、溶かす覚悟はできている。それくらい本腰でプレイする。


 というのも、レアアイテムを得るには先着順でもあるからだ。

 それに全てのアイテムにはシリアルナンバーがついている。


 なるべく、1桁台のアイテムを持ちたい気持ちもある。……多分無理だけど。


 私は部屋に置いてある目覚まし時計を見た。

「よし。時間だ!」


 ウェアラブルデバイスを装着して準備完了。ベットに横たわる。

 腕のところに着いているボタンを押して、私はゲームの中へとアクセスした。



 ――本日も真っ青な空の下。どこまでも続く緑の草原が現れる。

 私はいつものようにゲームの中にある仮想空間へとアバターの姿で現れた。

 近くにはクラスの友だちのアバターが待ち構えている。


「ようやく来たか」

 筋肉質な女戦士のナガルンガ〈ミカコ〉が言った。

 私も彼女たちに声を掛ける。


「待った。ナガルンガ。それとネモフィもこんばんは!」

「私たちも来たばかりだよ。テイジー」

 と、最近はハーフリングの姿が定着したネモフィがいう。


 そしてナガルンガ〈ミカコ〉の後ろに新しいアバターの姿を見つけた。


「そういえば、テイジーに紹介するよ」

「ナイルです!」


「あれ? その面影から……もしかして、みずっち?」

「そうですよ。テイジー・・・・。本日からデビューしました!」


 ナイルこと彼女の名は、クラスメイトの竈門かまど 瑞菜みずな

 私の小学校の時からの同級生でもある。


「あれ? ネモフィも知ってたの?」

「うん。私が一緒に機器を買いに行ったからね」


 ついに、ミズナちゃんも参加したのか。ミカコ恐るべし。

 これでクラスの友だちは、すべて一度はミカコによって、ベリタスオンラインゲームズにアクセスしたことになる。すごいよね……。


 それと先月にライザとバトルして、ライザが去って行ったと聞くけど。

 早くも新しいメンバーを追加したのか。


 私たちが、ナイル〈ミズナ〉のアバターの姿について、あれこれとお喋りしている最中。強面のアバター集団が、私たちのところに来て声を掛けた。


「テイジーさん、お元気でしたか?」

「あッ。Gu肉さんと、ガンガン鉄さんも、やっぱり来たんですね」


「そりゃ。来るに決まっているだろ。だが、俺たちは先行組で最速を目指すぜ!」

「そういうわけで、私もガンガン鉄と一緒にプレイするので挨拶だけに来ました」


「よう。2人とも元気にしてた?」

「これはナガルンガさん。お久しぶりですね。ところでラッコさんはどうされましたか?」


 ナガルンガがGu肉の質問に顔を背ける。

「あぁ……。彼女は、まぁあ……。なんだ。別の連中とプレイするそうだ!」

「そうですか。また、トラブルにならないといいですけどね」


 私の知らないところで問題があったらしい……。


「Gu肉。これ以上は迷惑は掛けないようにするから気にすんな」


 それを見ていたガンガン鉄が周りの雰囲気を変えようとナガルンガ〈ミカコ〉に話しかけた。

「ところで、ナガルンガ。お前はどうするんだ?」


「ガンガン。今日は友だちとゆっくりプレイする予定だ。今回は先行しても余りメリットがないと思うからな。それに、こちらは駆け出しも連れて来てるし」


「そうか。なら、いいさ。先にたんまりと、お宝をゲットするぜ!」


 ナガルンガ〈ミカコ〉は、ガンガン鉄にそう言っているけど。

 実のところ私たちは前回のベータテストのときに島全体の地形を調べている。

 多分だが、ガンガン鉄たちとは別ルートを目指していた。


 このゲームのマップルートでは、大陸の中央を目指すルートが狩場になると予想される。

 そのため、私たちは始まりの街『フォーク』とは、反対側にある港街『クイーザ』を目指す予定だ。これは、これまで多くのオンラインゲームをこなしているナガルンガ〈ミカコ〉の予測でもあり、『クイーザ』の港街に何か変わったイベントがあるだろうというもの。


 これまでの行動から多分そうするはずだと思う。

 特にサービス開始である初日は、参加するプレイヤー数も多いので集団移動が発生する。


 そうなると、渋滞することも見込みラグに巻き込まれることも想定して、モンスターを倒しながら『クイーザ』の街に行くことはせず、最速で街を目指すこと検討しているはずだよね。


 それに私たちのレベルが低くて現地で苦戦したとしてもセーブポイントだけは作ってくることはできる。


 仮に『クイーザ』の街でレベリングできる場所を見つけたら、そこでしばらくは稼ぎたいところもあるし、今回のゲームではザコキャラを倒しても体力が上がるだけで技の習得はない。


 新しい魔法などの技を習得するには、レアアイテムをゲットするか。もしくは、サブシナリオをクリアして、アイテムをゲットすることでも新しい技を習得できる。


 そう説明書には書いてあった。普通にメインシナリオを行えば、必要なアイテムはゲットできるが、多くのプレイヤーと行動することになるので、初日は避けたい。


 それにベータテストに参加していないプレイヤーが戦闘でつまづくことも想定している。

 こちらはなるべくプレイヤーがいないところでアイテムを漁る予定だ。


 さらに今日は駆け出しのナイル〈みずっち〉もいるので、どちらかと言えば、観光旅行のような状況にもなるし、そうなると、やっぱり新しい街である『クイーザ』を先に見てみたい。

 と、私が思いを巡らしていると……。


 仮想空間のラウンジでは、ベータテストの時と同じく、上空を覆うようにドーム型の透明な空間シールドが張られて、そこにプロジェクションマッピングが現れた。


 マイクを持った司会の女性が映像に現れて、ペコリとお辞儀する。


「さあ、皆さん! 本日は、待ちに待ったベリタスオンラインゲームズが贈る最新のオンラインゲーム!! 『ザベス 魔導の波動』がついにサービス開始になりました! すでにPVを見て下さった皆さまには恐縮でございますが、これより、当ゲームのプロローグ映像を公開してログインを開始します。つきましては初期設定の適用などがありますので、スキップできませんが、ご了承ください。では、始まります!」


 そして、映像が切り替わり、渋い男性の声でナレーションが始まった。




  ……――――偶然ぐうぜんとは、あらがたびおとずれる。


  ひととは、なにかを目指めざして、怡然いぜんたることまない。


  ――賢者けんじゃユムノスのらよ。


  なんじのままに、そのにしるしいにしえもとめるものなり。


  ななつのちからはいしてみちびとなり、ここにきわめめよ。


  、ナールグロリアの大地だいち芽吹めぶこころき。


  あらたな冒険ぼうけん目指めざものとなり、旅立て。


  わざわいの時代ときわすれてはならない。




「いやぁ……。テンションが、高まるぅぅぅぅ――――っ!!」

 私は感極まる。「ヒャッハー!!」だ!


 だが、隣にいたナガルンガ〈ミカコ〉は、渋い顔を見せた。

「でも、一度しか見ないのに随分と凝ってたねぇ!」

 こういう時のナガルンガ〈ミカコ〉はいつも酷評だ。


「多分、皆、明日には忘れると思うよ」

 ネモフィ〈サエ〉もポツリと毒を吐く。


 その様子を見て驚くナイル〈ミズナ〉が、ナガルンガ〈ミカコ〉に声を掛けた。

「えっ!? みんな。そうなの? でも、テイジーちゃん。涙流しなら喜んでるけど」


「テイジーはファンだから」「うんうん。ファンだから」

 ナガルンガ〈ミカコ〉とネモフィ〈サエ〉がうなずく。


「はぁ……。そうだったんですね」と、ため息を漏らすナイル〈ミズナ〉。

 プロローグ映像が終わり周りにいたプレイヤーたちが転移を始めた。


 すると、ナガルンガ〈ミカコ〉は私たちの前に歩き、くるりと振り向いて、こう言った。


「それじゃ。私たちも行こうかぁ!」

「はい」「うん。そうしよう」「よろしくお願いします」


 その呼び掛けに私たちも応える。皆で声を揃えて転移した。


「「「「ログイン! スタート!!」」」」

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